新しい部屋をチェック
さて。
そんなこんなでしばらく走り、休憩となった。
ああ。
ちなみに休憩だけど、だいたい一時間半ごとに小休止を取ってる。休みすぎだって言われそうだけど、一応はそれにも理由がある。
いやま、ひとことで言うとですな。
メンツが増えたことで、お花摘みタイムが増えたんだよね、うん。
それにだ。
人間には「ちょっとがまんしてね」って言うけど、子犬にそれは言いづらいんだよ。
え?なんだって?
まあちょっと考えてくれ。
彼らは今、左肩のところの空間ポケットに入ってるだろ?
するとね。
何か要望があると、そこから3つの顔を出してこっちに頭をすり寄せて鳴くんだよ。
「くぅ~ん、くぅ~ん(ぱぱ、ぱぱ、おしっこ~!)」
おまえ、これを三部合唱で左の耳元でやられてみろよ。しかも、ヌクヌクのモフモフの頭を3つすり寄せて。
ばかやろう。
そんなん、耐えられるわけねーだろが。
な、あんたもそう思うだろ?
俺だけが変なわけじゃないよな、な?
それにさあ。
そこで勝手にしないで、ちゃんと要望出してくるあたりが賢くて素晴らしいじゃないか!
さすがうちの子!(おい)。
あーコホン、それで話は戻るんだが。
「それでオルガ、どんな部屋作ったんだ?」
ドライバーである俺は走行中は検分できない。アイリスは先に見に行ってしまったから俺だけ見てないわけで。
どれどれと後部座席に回ったんだけど。
「……なんだこれ?」
いきなり後部座席で上、つまりサンルーフのところを開いた俺、その向こうに青空が見えないのに驚いた。
いや、ないわけじゃないか。
つまりサンルーフの向こうに部屋がひとつあって、さらにその上にもうひとつサンルーフがあるんだな。
で、そっちも開いてアイリスが上に顔を出してるのが真下から見えてて……ってオイ。
「アイリス」
「なあに?」
「パンツをはきなさいと言ったろ?」
「はいてるよぅ」
「それはパンツじゃない、ただのヒモだ!」
「せくしー?」
「はいはい、セクシーセクシー」
というか。
履いてるのに隠せてない下着って、少なくとも子供用としてはありえないだろ。
いやそれより。
「そもそも、そんな下着どこにあった?」
俺は知らんぞ。
そしたら。
「実はわたしのなんだねえ」
「え、なんで?」
「うむ。実は異世界の下着研究で作った試作品なのだねえ」
「……オルガ。研究熱心なのはいいけど、あまりアイリスに教育上悪そうなものは」
「いや、それなんだがねハチ。
彼女は自分で透け下着や紐パンツを試作しようとしていたんだが、あまりにとんでもない作りなもので、これはまだわたしの試作品の方がマシだろうと」
「……」
「あはは」
思わずアイリスを見たら、笑ってごまかされた。
「アイリス、下着のサイズが合わなかったのなら言いなさい」
「ううん合ってるよ。ただセクシーなのがないから」
「ンなもん出すわけないだろーが」
子供にエロ下着とか、俺は変態かっつーの。
まったく困ったもんだ。
話を戻そう。
で、肝心の部屋の方なんだけど。
「……いいじゃないか」
「うむ、そうか?それは良かった」
あれだ。
空間魔法なんて使えるオルガの仕様だから、車の中なんて思えない魔空間と化しているのかと思ったんだけど。
すごく普通に地球のキャンピングカーの中だった。
さすがにちょっと広いけど、ハイエースを元にベッドをすえつけてもらった、といえば違和感がない程度の空間の使い方だよな。
「寝室みたいだな。研究設備はいいのか?」
「そっちに切り替える事もできるが、やはり基本は寝床だろう」
そういうとオルガは笑った。
「この車の小ささは、もともとハチひとりで運用してきたからなんだろう?」
「そうだけど?」
「アイリス嬢が小さいからギリギリふたりで運用できていたのかもしれないが、もともと限界だったわけだ。
で、そこにわたしが加わったものだから、もともとのハチのコンセプトであった『車内で寝泊まり』ができない状態になってしまった。
だから、まずは寝床の拡充が最優先と考えたんだが……どうだろう?」
「うん、確かに」
そこまで言ったところで、俺はこの『部屋』がゲル風でなく地球のキャンピングカー風である意味にも気づいた。
なるほど、つまり。
彼女は正しく現在のキャリバン号の問題点を考え、最優先で解決すべきところをやってくれたんだ。それも、彼女の側でなく俺の側のデザインで。
「ありがとうな」
自然に感謝の言葉が出た。
わざわざ面倒だったろうに。
それに、これは本来、家主でオーナーの俺がやるべき事なのに。
ごめんなオルガ。
そういうと、
「ふふ、何を水臭い。我々はもう身内なのだろう?」
そういってオルガは笑うのだった。
で、細かいとこを確認していく事にした。
まず、全体が地球のキャンピングカーの室内みたいなのは触れた通り。ただし豪華キャビンみたいなのじゃなくて、むしろ屋根を増築して寝室を作った、アレを想像するほうがいいと思う。
床は柔らかめのカーペットみたいだが、これは地球で見覚えのあるものじゃないな。
「床材は下の倉庫に近いものを使ってみた。ただし食材を食うようなものじゃなくて、ごみを勝手に排除する仕組みなんだが」
「おっと」
まさかの掃除いらずか。
部屋はハイエース程度の広さで妙に細い寝床が2つ。そして奥に小さなサイドテーブル。
窓がたくさんあって外が見やすいんだけど。
「……外の風景が変じゃないか?」
車体の一部が見えるんだけど、いやに巨大だ。
「車が大きいんじゃなくて我々が小さいのさ。曲げた空間から通常空間を直接見るとそうなる」
ああなるほど。
「じゃあ、この部屋って実際にはどこに作られてるんだ?」
「もちろんキャリバン号の天井だが?」
「……あのペラッペラの軽四の屋根に、この部屋を仕込んだと?」
「うむ、ちょっとしたものだろう?」
魔法かよ!……って魔法だったか。
うーむ。すげえなファンタジー、ミリ単位しかない軽四のペラペラ天井に、狭いとはいえ寝室を押し込むとは。
「巨大で豪華な部屋にはしなかったんだ?」
「それはハチが望むものではないだろうと思ったのさ。それに」
そこまで言うと、サイドテーブルに何かちょいちょいとオルガが操作した。
すると。
「おっ!」
「これで調べ物、書き物はできる」
「なるほど」
たちまちサイドテーブルは、そこそこ悪くないデスクスペースになってしまった。
「なんだ、こういう組み込み家具的文化はこっちにもあるのか」
「いや、これはハチの世界からのものを元にしたのさ」
そこまで言うと、オルガはにっこり笑った。
「もっとも当時は、こんな小さな家具にテーブルを仕込む意味がわからなかったがね。なんでここまでするのかと。壊れたものを再生して構造などは理解できたけど、意味不明のものには違いなかった。
ハチのおかげで、これの使い方を改めて想像できたわけさ」
「……それは」
もしかして。
「技術的には再現できたけど、意味が不明だったわけか?」
「そうだ」
「なるほどなぁ」
あれだ。
魔族の魔法文明を海にたとえるとして。
地球の陸地に特化した機械や技術をどれだけ理解してもらえるだろうかって事だよな。
道路も車輪の概念すらもないのに文明が成立している世界で、どうやってガソリン自動車の概念を理解してもらう?それはおそらく、我々が魔法だけで築いた銀河文明を理解するがごとき困難を伴うのかもしれない。
なーんてね。
ま、あれだ。
環境が違えば道具も、生活感覚も違って当然ってことだよな。
「よし、そんじゃまた移動再開するか!」
「うむ。ハチ、次の休憩あたりで昼にするかねえ?」
「いいかも」




