なんか別なもん釣れた[1]
何もないはずの村に警戒するケルベロス二匹。
そして、オルガまで警戒をはじめた。
「オルガ」
「ハチ、車をとめろ」
「お、おう」
言われるままにキャリバン号を止めた。
「行ってくる、ちょっと待ってろ」
「おい、大丈夫なのか?」
「わたしの予想通りなら問題ないはずだ」
予想通りなら、か。
「俺も見たいが、ダメか?」
念のために聞いてみたんだが。
そうするとオルガはちょっとだけ渋い顔をした。
「もしかしたら楽しくないものを見るかもしれないが、いいか?」
「というと?」
首をかしげてみせると、オルガは苦笑いした。
「封印魔術の気配がするんだ。このへんの漁師が使うようなものでもない。
たぶんだが……オフシーズンにここが無人なのをいいことに、ろくでもない事に使っている輩がいるはずだ」
「封印……」
たしかに、ろくでもないもののような気がする。
「それを見に行くのか?やばくないか?」
「封印魔術なんて無意味に起動しているわけがない。おそらくは魔法生物かなにかが封印されているはずだ」
「魔法生物?」
「なにか目的があって、人工的に作られた生き物ってことだよパパ」
ほう。
アイリスの指摘に俺はうなった。
「最悪の場合、その魔法生物に取り憑かれる可能性があるぞ。それでもついてくるのか?」
「それ、オルガかアイリスならはがせるんじゃないか?」
「そりゃ剥がすくらいはできると思うが……ああわかったわかった」
俺の物欲しそうな顔に気づいたのか、オルガが手をふってきた。
「だが危険なのは間違いない。本気でまずい時は逃げろと命じるから、その時はわたしなどほっといて即座に逃げろ、いいな?」
「いや、よくないが。それ俺だけ逃げろって事だよな?」
「そうだ。君はまだ自分を守るすべを知らないからな」
「……武器なら覚えたけど」
「それは反撃や抑止力のためのものだろう?守護の力じゃない」
「……」
そういわれると反論できなかった。
「だから、ちょっとだけ待っててくれ。アイリス嬢、ハチを頼む」
「わかってる、それで何があったかも教えてね」
「了解だ。いくぞササヒメ」
「オンッ!」
オルガはそういうとドアをあけて外に出て、そのままササヒメと行ってしまった。
「大丈夫かな」
「パパ、オルガさんはササヒメとたったふたりでもう長いこと世界中飛び回ってるはずだよ。だから大丈夫」
「そうなのか?」
「うん」
ならば、こっちは備えて待つのみか。
しばらく待っていると、突然にアイリスが「あっ」という声を出した。
「どうした?」
「今、近くで魔力のシステムがひとつ止まったよ。あっち」
オルガたちの入っていった建物っぽいな。
「ふたりは?」
「よくわからないけど、生き物を二匹ほど回収したみたい。戻ってくるよ」
「そうか」
さらに少し待つと、オルガとササヒメが戻ってきた。
ササヒメは外でオルガの肩のポケットに収まり、そしてオルガだけになってキャリバン号に乗り込んできた。
「何があった?」
「封印状態だからここじゃ見せられん。先に移動してくれるか?」
「わかった」
そういうと、俺は防波堤にキャリバン号を転がした。
ひとのいない村だが、もとよりこの村に生活臭は薄い。
あちこちに積まれているのは封印状態の漁具たち。おそらく漁期には使われるんだろうが、動物や魔物にいじられないようにするためか、がっちりと固められているものが多かった。
しかし無人ということもあり、小動物や小さな魔物はあちこちで見かけた。そして彼らはキャリバン号を見ても逃げることなく、こちらを興味深く見ているだけだった。
「たくさんいるんだな」
「ここにくる人たちは、いちいちあんなの狩らないからね」
「しかも、おこぼれをくれたりするし、路上に落ちてるオマケ程度なら食べても怒られないってわけだ」
「漁港の猫みたいなもんか」
どこでもいっしょなんだなぁ。
「でもラウラは興味しんしんみたいだな」
「そりゃそうだろ、魔物だからな」
ラウラもササヒメも、興味深そうに外の景色を見ている……正しくはウロウロしている小さな魔物たちを。
こりゃ、休憩に入ったら追い回して走り回るだろうな。
さて。
目的地である防波堤は、思いのほか地球そっくりなものだった。
「これやっぱり魔砂岩か?バラサにもあったが」
「うむ、魔砂岩だな。砂の質がバラサとは違うが、このあたりで集めたものだからだな」
この世界版コンクリもどきだ。
「ハチは土木建築にも興味があるのか?」
「それはどうかな?遺跡の類は確かに興味があるが」
隧道、つまりトンネルとかもな。
知ってるか?大地震が起きた時、逃げ込むことが推奨されている建物がいくつかあるが、特に頑丈で避難に向いている建物が2つある。公衆トイレと隧道だ。
あくまで一般論だけど、どちらも経緯や用途の問題で、非常に頑丈に作られている。
トンネルといえば、あちこちで派手に事故報道があるから危険と考えている向きも多いだろうし、実際、大規模天災の後なんかだと別の危険もあるかもしれない。巨大トンネルの中なんかだと強制換気が停止していたり、ひとが来なくなったのをいいことに野生の動物なんかが逃げ込んでいる可能性もあるだろう。
だけど。
逆にいうと、それらに注意さえすれば、やはりセーフティーゾーンになりうる場所ではある。
「アイリス、ここ安全か?危険なものはいるか?」
「いないよー」
「よし、じゃあここにしよう」
キャリバン号を停止した。
「魚とり休憩にするぞーって、うわっ!」
肩のところからラウラが飛び出してきた。外に出たいようだ。
運転席のドアをあけてやると、尻尾をふりつつワンワン鳴きながら飛び出した。
「あんまり遠くに行くなよー」
「わんっ!」
ま、大丈夫だろ。
「ああよしよし、おまえも行けササヒメ」
「オンッ!」
後ろのスライドドアをあける音がした。
振り向くと、オルガが同じようにササヒメをリリースして、ササヒメがラウラを追いかけて走っていくところだった。
あー、仲良しになったなぁ。
「もしかして、もう番になったのかな?」
「いや、まだだな。ラウラが子供すぎる」
なるほど。
「脈はありそうか?」
「ササヒメは逃がさないつもりだろう」
「なるほど」
「ちなみにわたしも逃さないぞ、ハチ」
「お、おう」
そのセリフは男女逆ですオルガ先生。ま、いいけどさ。
「パパ、先に始めてるよー」
「おう」
アイリスは砂浜の時みたいに大物捕りをする気らしい。
「そうだアイリス」
「なあに?」
「悪いが今回は、魔物の魚を狙ってくれ」
「わかったー」
俺もオルガも魔物肉で問題ないし、食べ盛りのケルベロス二匹は魔物がいいだろう。
このメンツでわざわざ通常動物を狙う意義がないと思うんだ。
「ところでオルガ、ちょーっと質問あるんだが」
「なんだい?」
「いや、あれだよあれ」
俺のゆびさした先。
防波堤の突端には、なぜか仏像みたいな大きな建築物があるんだけどさ。
光ってるんだよなぁ。
「なぁ、あれ場所的に灯台だと思うんだが、でもなんでこんなカタチ?」
「妙なことを聞くのだねハチ。
確かにあれは灯台だけど、人間族の灯台なんだから人間族の狩猟の女神をかたどって当然だろう?」
「え?」
「え?」
思わずふたりで顔を見合わせた。
「ふむ……ハチ、もしかしてだが」
「おう」
「異世界の灯台は女神の姿に作らないのかねえ?」
「大仏像じゃねえんだ、そんなことしねえよ」
ちなみに現代日本人としては、アメリカの自由の女神像を想像するかもしれない。
でも自由の女神像は自由と平等の象徴として建立、贈呈されたものであって、灯台的な意味のある存在ではないんだよね。ま、思想的な意味の灯台にはなっているだろうけども。
ああでも、そういう意味ならわかるかな?漁民むけの灯台が女神のカタチというのも。
「しかし、女神ねえ……ちょっぴりふくよかじゃないか?」
ちょっぴりというか、正直にいっていい?オデブさんだって。
「どっしり作らないと壊れてしまうからねえ」
「女神って美人なもんだろ。何とかならなかったのかよ」
「こんな超田舎の灯台に何を求めてるんだ?」
そりゃま、そうなんだが。
衣装は古代ギリシャをちょっと思わせる原始的なものなんだけど……露出度の高さと裏腹に、なんつーか、肝っ玉かあさんみたいな女神様だぜオイ。
なんつーか。
日本のあちこちにたてられてる謎の観音像あるだろ?もしかしてアレ、意外に技術レベル高いってことか?
思わずためいきをついた。




