技術と心
タンタンタンタン、と射撃音がする。
動き、現れ、消える的を追いかけ、そして撃つ。
「!」
タンタンタン。
瞬時の判断。刹那の射撃。
たまに見える非戦闘員を避けて、撃つべきものだけを。
神経をすり減らすけど。不安もあるけど。
でも!
タンタンタン。
「はい、おわりー」
アイリスの声が響いて、そして敵の幻も消えた。
「……おう」
やっとのことで俺も答えた。
今やっているのは、いわば射撃訓練。
アイリスが操作して唐突に現れる的を、瞬時に狙い撃つ練習だ。
時間をかけてはいけない、瞬時に対応できなくては。
ときどき「撃っちゃいけないもの」もでてくる。そっちに当たると減点なんだけど、どう見ても戦えないだろうって年寄や子供、つまり非戦闘員を模したもの。
この瞬時の判断が、実に難しい。
え、物騒だって?
いやいやとんでもない、これこそが俺に必要な訓練なんだよ。
のんびり獲物を狙っていたら、先日みたいに気づかれ逃げられる。
非常時に身体がスパッと反応してくれないと、敵対する者からも身を守れない。
即断即決、そして瞬時に身体が動くように。
言葉にすれば簡単だけど、マジ難しいよこれ。
けど。
より安全に生きるには必要だった。
この早撃ち訓練は、俺から相談したことだった。元ネタは昔読んだ物語から。
基本的に俺は戦闘に向かないわけで、自ら戦うというのは非常事態。
でもアイリスは一人しかいないだろ?
で、彼女が戦っているときに反対側から敵がきたらどうする?
そう。
アイリスが来てくれるまではもちこたえるか、さっさと最低限の相手を倒して安全圏に避難するか。
どのみち最低限の接敵能力が必要なんだよ。
で、それじゃ毎朝軽く訓練しましょって話になったわけだけど。
「そうかな、使えそう?」
「んー、無いよりはマシ?」
さすがに厳しいな。
「長い目ではどうかな?」
「少しづつでも効果はありそうだから、じっくりやろ?」
どうやら無意味ではないようだ。
「でも、どうして狙っちゃうの?魔力銃って照準も意志で補正されるはずだから、極論すると見えたら当たると思うんだけど?」
「理屈ではわかるんだけどなあ」
どうしても狙ってしまう。そして判断を誤る。
「ま、慣れてくしかないよ」
「おう」
さて。
「じゃ、続きをやるかな」
フライパンに火を入れて温める。
その横では、炊飯鍋がまだ蒸気を上げている。
材料は仕込み済み。
実は訓練中、アイリスに頼んであったんだ。訓練用の幻を制御してるのも彼女だけど、遠隔でやってるわけで、この程度の並行作業はできるらしい。
火の番もできると言ったのでたのんであったけど、うまくやったようだ。
いやはや、アイリス大明神さまさまだ。
ああ、少し解説しよう。
俺は小さな炊飯鍋を積んでいた。コンロの火とかで炊けるやつね。
米がないもんでまあ、普段はビリーコッヘル代わりというか、要はただの鍋としてつかってたんだけど。
……うん、やっちゃったんだよなあ。ぽんっと。米。わずか5キロだけどな。
で、あるなら炊こうとやってみたわけ。今は蒸らし中。
フライパンの方は、大量にある肉を焼く。
「わう!」
「おう、待ってろ」
焼いたそばからラウラに食わせる。よしよし。
まあ、聞けばケルベロスは犬と違い、生魚平気らしいけどな。対毒性などが強化されていて、地球じゃ犬に禁忌とされているものでも平気で食すという。
でもまあ、無理に悪いもん食わせる必要なないだろ。
めしが良さげなので、カップを並べて盛った。もちろんひとつはアイリスのぶんだ。
肉とごはん。
「いただきまーす」
「いただきます」
うーむ、味噌汁と野菜が欲しいなあ。
「パパ、食べながら聞いてくれる?」
「おう」
アイリスは最初、共に食事をとることを拒んだ。俺の魔力があればいいと。
でも俺は俺の精神衛生をたてに、共に食ってくれと頼んだ。
いや、だってそうだろ?
アイリスがお預けで俺だけ食ってたら……絵的には幼児虐待だろそれって。
それに、見つめながら俺だけメシとか、ねえよ。俺は何様だっての。
っと、いけない。話だったな。
「南大陸に行く方法だけど、一番安全なのは直行することだと思う」
「そのココロは?」
「キャリバン号は街道を走る必要がないでしょ?そして追手は街道中心にくるだろうから」
追手か。
「追手、もう出てるのか?」
「グランドマスターの情報だと、中央大陸の人間族国家の大多数……正確には、聖国とケラナマー古代遺跡国、それに南大陸玄関のシャリアーゼ国を除く全国家が共同で包囲網を作ってるらしいよ。もっとも移動に時間がかかるから、先に飛竜部隊と飛空艇部隊が動いてるそうだけど」
「ほうほう……飛竜?飛空艇?」
うわあ、そんなもんまでいるのか!すげえな異世界!
「どっちもキャリバン号には脅威だよ。スピードが出るからね」
「速いのか?」
そもそもキャリバン号は古いポンコツ軽四だ。いくら地形の影響を受けにくいといっても、そもそも90キロちょっとくらいしかスピードが出ない。
「どっちもキャリバン号ほどは速くないよ。でも」
「飛空艇は戦闘力が危険だし、そもそも交替で操縦して追われたらシャレにならないってところか?
で、飛竜は数で追い込まれる恐れがあると?」
「うん、そうだよ」
……そうか。
つまりこれは。
追い込まれたらその時は、いやでも対人戦闘……いや『殺し合い』になるわけだな。
「パパ」
「ん?」
「確認するけど、徹底抗戦でいいんだね?」
「もちろん。俺は人間族の道具になる気はない」
俺は現時点で知ってる人間族なんて、アイリスに殺されたあいつらくらいだ。その意味では早計な判断かもしれない。
でも。
ボロボロのラウラとあいつらの態度。
世界の一部だというドラゴン氏すらも抱いていた懸念。
その他、いろいろな情報を見るに、ほぼ結論している。
俺はこの世界の人間族と共存できないだろう。
できるとしても、したくない。
今、戦闘を殺し合いと言い直した理由はそれだ。
非殺傷の戦いをする気はないからだ。
「アイリス、ひとつ質問がある」
「なあに?」
「なるべく早期に、人間族以外のコミュニティーと接触を持ちたい。それもギルドとか国家連合とか、なるべくグローバルな話のできる人たちにだ」
「……それはどうして?」
「相手が国家連合で来ている以上、ソーシャルな対応が必要と思うからだよ」
首をかしげるアイリスに、俺は説明した。
「たとえばさ、人間族国家群が俺を悪と断言するとするだろ?これに対応するにはどうすればいい?」
「……わかんない、どうするの?」
「一番いいのは、そいつらと対立する組織、できれば超国家組織と話して、俺は悪じゃないと知ってもらう事さ。俺たちを見てもらい、理解してもらって、人間族国家群の考えはおかしいと確信してもらうんだな。
ソーシャルにはソーシャル。
俺が銃をぶっ放すのはあくまでオマケだ。本当に重要な『力』はそういうものだと思うよ」
「……そうなんだ」
さすがに理解しづらいか。そうだよな、ドラゴンだもんな。
「南大陸に渡る前に、できればそういうところに接触したい。無理か?」
「……んー」
アイリスは少し考えた。
「バラサの町かな。狩人ギルドと商業ギルドの詰所があるから」
「バラサ?」
その名前には憶えがあるような……?
あ。
思いだした、オルガの夢だ!
『真竜王どのの森?……では君がいるのは中央大陸、バラサの近くなのか』
「バラサって、真竜の森に近い町だったか?」
「うん、隣接する砂漠の町だから近いけど……なんで知ってるの?」
「オルガの夢でちょっとな。どういう町なんだ?」
「中央砂漠最大のオアシスの町だよ」
「ほう?」
結局、バラサに向かうと決めて食事に戻った。




