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十一日目

十一日目


にゃいぜんさんは相変わらずかわいいなあ、とつい和みつつじっと見てしまう。そろそろあのモフモフを堪能させてもらえないだろうか。あと肉球ぷにぷにしたい。


欲望をダダモレにして見つめていると、ぐりっと振り返ったにゃいぜんさんの目がきらりと光ったような。……気のせいだよね?


「にゃんだにゃ」


「いやいやいや。相変わらずかわいいなあと思って。モフモフしてもいい?」


「ワシが可愛いのは当たり前だにゃ。モフモフは却下にゃ」


「……ええ、まあそうだけど。やっぱり却下ですか」


思わずうなだれてしまう。残念至極。


「それにしてもいつもはもうちょっとこう、ふわふわした感じというか、現実味が薄い感じなにゃいぜんさんだよね?まあ相変わらず幼児体型で可愛いけどさ。、今日はいやにはっきりとしているような」


「それはここが神社だからにゃ」


小さな肩を器用にすくめて答えるにゃいぜんさんは、いたずらが成功した子供のような顔をしてにゃはははと笑ったのだった。





そう、今私たちは神社の境内にいる。


なぜこんなところにいるのかといえば、簡単に言うとハンのせいである。


「ああもう、面倒くさいな」


「そんなこと言わずに、ハン兄貴を助けてあげて欲しいっス」


そういって見上げて?きたのはこの神社を根城にしているコウである。相変わらずもさもさだ。まあ外見はどう見ても木だからね。むしろ枯れてたらだめだよね!


それにしてもハンといいコウといい顔がないのに表情というか感情豊かだな。どういう仕組みなんだろう。


「助ける必要あるのかなあ。むしろ放っておいた方がいいんじゃないかな」


「冷たいっス!冷たすぎるっス!」


正直に言ったらなんかものすごい勢いで非難された。


「さすがにここで見捨てたらワシも引くにゃ」


「わかってるよ」


だからわざわざここまで来たのだよ。この暑い中、外に出るのだっていやなのに。ちょっとした冗談くらいいいじゃない。


ちなみに、今日も神社には宮司さんがお留守です。ここ来たの二回目だけど、いつ来てもお留守。宮司さんには一体いつ会えるのかなあ?いや、別に会えなくても問題はないけどね。何となく気になったのさ。


などと現実逃避をしている場合ではない。


私は仕方なく目をそらし続けていた拝殿に目を向け、そこに鎮座している二匹のお狐さんに向き直るのだった。


「よく来たな娘」


「ようやっと我らと話す気になったか、娘」


私たちが言い合いをしている間も沈黙を守り、辛抱強く待っていてくれたお狐さんたちは、私と目が合うと呆れたような声音でそう言ったのだった。


うん、なんでお狐さん?普通神社って言ったら狛犬とかじゃないのかな。


「我らはここに住んでおるわけではないのでな」


「今日は特別であるな。あとここの狛犬どもははるか昔に役目を終えてしまったでな。あれは飾りじゃ」


そういって、鳥居のところにある、狛犬を見る。その瞳は何やら物悲しそうに見えたのだった。


まあ、それはともかくとして。なぜ私が今神社にいるのかといえば。


事の起こりは今朝早く。


珍しく早起きをしたハンは、昨日私が置いていったことをいまだ根に持っていたらしく、気持ちよく熟睡していた私をたたき起こすと、今日の予定を突き付けてきた。


「お寺?」


「そう、町にあるお寺」


「って確か前行った神社のお向かいにあった?」


「それそれ」


よく覚えてる、と嬉しそうなハン。こんな小さい町で行くところなんて限られてるんだから覚えてるに決まっているのだが。とまあ、そんなことはどうでもいのでひとまず置いておくとして。


「なんで私がそんなところに行かなくちゃならないの?」


この暑い中、わざわざ一駅といえど電車に乗って出かける気にはなれない。しかも駅からそこそこ歩かないといけないし。ないわ~。


「ぶつくさ言わずに用意する!」


妙にご機嫌で、布団を剥いでしまった。糸みたいなあの細い手のどこにこんな力があるんだ?


「うう、あと五分……」


「樹って、そう言いながら三十分は寝て遅刻するタイプだね」


なんでバレた!?目があったら間違いなくジト目で見られる気がする。呆れたような溜め息がココロに刺さるわ~。


仕方なく用意して、朝も早くから町に向かう……ん?


「電車ってこんなに早くからあるの?」


ただでさえ一時間に一本あるかないかなのに。始発って何時だろう。


「……え、どうだろう」


おいコラ、ビー玉。人を早朝から起こすならそれくらい調べとこうよ!


朝からどんよりした気分で、壁に貼ってある時刻表を確認すると、三十分後に始発が来るようだ。うん、これで二時間待ちとかだったら間違いなく割ってたよ、ビー玉を。


私の笑顔から何を感じとったのか、ハンがゴロゴロ物凄い勢いで部屋の隅に転がっていく。


「あっ」


「えっ」


部屋の隅にあった懐剣の上に乗り上げたとたん、ハンの姿が消えてしまったのだ。


「……ってわけなんだけど、どう思う?」


ハンが消えた。一応部屋中探してみたが、見つからない。だからと言って部屋から突然に消えたままにしておくのも気持ちが悪い。すっぱり縁を切って別れるなら歓迎だけどね。


困った時のにゃいぜんさん頼み、ということで取り合えず連絡してみたのだが。


「うーん、そもそもハンはお寺に行って何をしようとしてたにゃ?」


「え、そこ重要?」


「それはそうにゃ。いくらワシらでも懐剣に触れただけで消えるとか意味がわからにゃいにゃ。たぶんお寺に必要ななにかを準備してたに違いないにゃ。それでもってそのなにかに懐剣が反応したにゃ」


そう言えば、今までにも何回か触ってたけど、姿が消えたのは初めてだ。


「で、なんでお寺に行こうとしてたにゃ?」


「さあ」


「さあって」


「だって聞く前に消えたんだもん」


だから聞かれても首をかしげるしかない。しかしそれではどうにもならないにゃ、とにゃいぜんさんもうなる。


「もん、って言われてもにゃ。困ったにゃ」


さてどうしたもんかと思ってみても良い案は浮かばない。と、唐突ににゃいぜんさんが顔を上げた。


「こうなったら行くしかないにゃ」


「お寺に?」


「違うにゃ、神社にゃ」


なぜ、神社。さっきまでお寺の話をしてたよね。


「神社にはコウがいるからにゃ。それにコウは案外顔が広いにゃ」


意味ありげにそう言ってウィンクをするにゃいぜんさん。うん、お持ち帰りしたいくらい可愛い。く、ハンににゃいぜんさんの半分でも可愛さがあればっ!


ともあれ、消えたままにしておくわけにはいかないので、私はにゃいぜんさんの言うように神社に向かうことにしたのだ。そして、冒頭に戻るというわけだ。






神社につくと、早速コウを呼び出しわけを話す。そして、にゃいぜんさんと話をしている間にコウがどこからかお狐さまを呼んできた、というわけだ。


にゃいぜんさんは神社にいる間に何となくふすかった存在感がぐっとリアルになってきた。というわけで、私はにゃいぜんさんを愛でつつも聞いてみたのであった。まあ、つまり神社っていわゆる神域だもんね。不思議減少、あって当たり前だよね。


辛抱強くさらに続いた私とにゃいぜんさんの意味のない会話が終了するのを待っていた狐さんたち。ありがとうございます。


「もういいかの」


「そろそろ話を聞く気になったか、娘」


「はあ、はい」


あいまいにうなずく。というか、結局お狐さんたちはハンとどういう関係が?


「我らとあの小わっぱに特に関係はない」


「あの小わっぱは寺にある姫の遺品が気になっておったようだがの」


遺品?というか、小わっぱって。ハンってああ見えても結構な歳だよね。


「我らから見れば小わっぱで十分だの」


「まだまだ若いの」


ふふふふ、と笑いあう狐さんたち。一体いくつなんですかね。


「気にするとこはそこなんすか」


大物っすね、とコウに言われて、狐さんたちの言葉でもう一つ引っかかる言葉があったのを思い出した。


「そういえば遺品って?」


「真っ先にそこを気にしてほしいものだにゃ。狐さまたちの歳とかハンの呼び方とかどうでもいいにゃ」


いや、どうでもよくないよ、にゃいぜんさん。歳食ってる割りに二歳児みたいな背丈のにゃいぜんさんと同じくらい狐さんたちの歳も気になるよ。……とはなんとなく言いづらい雰囲気。でもココロの声は駄々漏れだったみたい。にゃいぜんさんにジト目でにらまれたのだった。


とにかく、ハンの目的は明らかにその姫の遺品とやらだろう。それしかない。


「その遺品ってどんなの?今見れる?」


私が聞くと、狐さんたちは顔を見合わせて合わせたように首をふる。


「ムリだの」


「頭悪いの、娘」


何気に右の狐さんは口が悪いとおもうね。ひどくない?


「否定はしないにゃ」


え、にゃいぜんさん。そこは否定しとこうよ。にゃはははは、とか可愛く笑っても誤魔化されないからね!


「少し考えればわかるっす」


あ、コウまで!みんなしてなんなのさ、なんか私に冷たくない?


「当たり前にゃ」


「む?」


断言されたぞ。


「樹こそさっきから気もそぞろのようにゃ。ワシらの話聞いてないにゃ」


はっ、バレてた!?


「いや、聞いてるよ?聞いてるんだけど」


「またにゃ。一体何が気になるにゃ」


「あ~えっと」


私はどう説明したものか悩む。


「なんか、目の前に着物着た女の子がいて」


「にゃにゃ?!」


「そ、それはもしかして姫っすか?」


「おかしいの」


「そんな気配はないのだがの」


狐さんたちが一瞬にして剣呑な空気をまとう。


目の前の女の子は、右の狐さんを指差すと唇に指をたて「しー」と小さく呟いたのだった。






「樹、帰るにゃ」


唐突に言い出したのはにゃいぜんさんだ。


「へ?」


しかし目の前の女の子は「内緒」と呟いて手招きしている。


険しい眼をして、神社の鳥居を指差すにゃいぜんさんと、小さく首を傾げて「静かに」と合図をしつつ、神社の奥を指差し付いてこいとジェスチャーしてくる女の子の幽霊。どちらを選ぶべきか。


「……ねえ、にゃいぜんさん。にゃいぜんさんには私の事、どう見えてるのかな」


「にゃ?」


「ハンとかコウもそう。私はどう見えてる?」


少し前、女の子の影がちらつく度に気になっていた私は、思いきって聞いてみる。


「意味がわからないっす」


「樹は樹にゃ」


戸惑ったように返してきた二人に、私は更に言葉を重ねた。


「……本当に?」


「何が気になるにゃ」


「姉さん、変っすよ。そこに何がいるっすか」


コウの声も険しくなり、私の前に立ちはだかる。まるで、幽霊から私を守るように。だが。


目の前にいる女の子の幽霊とこれはまた別問題である。


「みんなにとって私は誰なのかな」


長いことここにいるような気がするし、ハンたちとはもうずっと一緒にいるような気もしている。けれど。


私はここに来てまだたったの十一日しかたっていないのだ。


ならば、懐かしいと感じるのはなぜなのか。私は……。


「貴女は答えを知っているの?」


問いかけても、幽霊は可愛らしく首を傾げるだけだ。そしてさっと身を翻して奥の方へかけていく、


「待つのだ、娘」


「ソレは姫では……」


狐さんたちはなにか言っていたが、私は反射的に幽霊の後を追いかけたのだった。






おかしい。


私は女の子の幽霊を追いかけながら、冷や汗をかいていた。私がいたのは町中の小さな神社だ。はっきり言って、奥まで一目で見渡せるような小ささであるからして、こんなに奥があるはずもない。


細い小道を走りながら、私はいったいどこを走っているのかと、考えてしまう。怖いのに、もう行きたくないのに、足が止まらない。どうしよう、一体どうしたらいいんだろう。


どうしたらいいのかと、何も考えがまとまらないうちに、ようやく少女の足が止まった。


少女の前には一本の大きな木。それはハンと出会った七色に色が変わる木に似ていた。


「私はあなたがきらい」


突然そう言って振り返った少女はいつの間にか大蛇へと姿を変えていた。


「……なっ!」


全身を白いうろこにおおわれた、見たこともないくらい大きなヘビだ。ギョロリと金色の目に睨まれて、足がすくんでしまった私は逃げたいのに動くことができない。


「私はあなたがきらいなの。あの女によく似てる。あの姫もそうだった。あの人の面影なんて……」


「逃げるにゃ!」


ぶつぶつと女の声で呟き続けるヘビの言葉に被さるように、にゃいぜんさんの声が聞こえてきた。


「樹、逃げるにゃ!」


気がつけば目の前にいたにゃいぜんさん。私は反射的に伸ばされたその小さな手をとった。


「逃がすか!」


「引くにゃ!」


にゃいぜんさんが叫ぶとほぼ同時に目眩がして、治まったとおもったら、私は始めにいた神社の境内に立っていたのだった。






小さく、もふもふ癒し要員であっても、にゃいぜんさんはその場にいた誰より素早く私を救出に来てくれた。流石と言うほかないだろう。あのヘビ、本当に怖かったから、にゃいぜんさんが助けてくれて感謝である。


ヘビのせいで、疲れきってしまった私はハンのことは置いといて、一先ず家に帰ることにした。


「それがいいっすよ、姉さん!」


「うむ」


「そうだの」


コウと狐さんたちがそう言うと、なにやら宙を見てぶつぶつ呟いていたにゃいぜんさんも私を見てうなずく。


「急いで帰るにゃ。家まで見つかると面倒にゃ。ハンの代わりにクエを呼んでおいたから安心するにゃ」


って、さっきぶつぶつ呟いていたのはヤツを呼んでいたからか!……正直ウザい。心が疲弊している今はなおさらハンの代わりとかいらないんだけど。特にクエとかあり得なくない?どっちかといえばにゃいぜんさんin抱き枕が希望ですな。


「にゃにゃ、ワシは忙しいにゃ。とはいえ、樹には守りが必要にゃ」


「祭りも近いっすからね」


にゃいぜんさんの言葉にうんうんとうなずくコウ。首もないのに器用だな?!


「他のビー玉でいいじゃない」


少なくとも、あの極彩色かつウザい鳥よりマシだろう。


だが、私の提案は一瞬で却下される。


「ビー玉?ああ、ハンの兄弟のことにゃ?あやつらは役目が違うにゃ」


「役目?」


「気にするにゃ」


にゃはははは、とにゃいぜんさんが笑ってですいると、クエがやってきた。


「呼ばれ~て飛び出~て~」


変な節をつけて、目の前までやって来たと思ったらドヤ顔をむけられた。


うん、置いて帰りたい。こんなの家に連れ帰るかと思うと胃がいたいわ。ハンのほうがまだマシだと思う日がこようとは。やれんわ~。


だが、疲れきっていた私はそろりれ以上抗議することなく、家に帰ったのだった。


その夜は泥のように眠って、夢もみなかったよ。















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