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夜明けを告げる魔法使い  作者: 雲居瑞香
第2章 踊る人形
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11.人形が動く?

また言いますが、タイトルを変更します。


現タイトル『魔術師たちの黙示録』→『夜明けを告げる魔法使い』に変更予定です。


変更理由は2月7日の活動報告をご覧ください。

ご迷惑をおかけします。










 建国祭の騒ぎと一段落したころ、ラ・ルーナ城を訪れていたルクレツィアはその話をフェデーレから聞いた。


「踊る人形?」


 何それ怖い。と言わんばかりにルクレツィアが言うと、フェデーレが「その通りだ」とうなずいた。


「何でも、夜になると人形が踊りだすらしい」

自動人形オートマタってやつじゃないの?」

「お前、魔女ならまず魔法を疑えよ」

「うるさいわね! 私の勝手でしょ」


 呆れた口調でフェデーレにつっこまれたルクレツィアだが、癇癪はこらえる。まじめな仕事の話だ。


「見つけたのは使用人らしい。最初は建国祭の日。それから毎日、人形が踊っているのを目撃し、ついに耐えられなくなり俺の元に依頼が来たと」

「あー、なるほど」


 一応納得し、ルクレツィアはうなずいた。ちなみに、フェデーレのぎっくり腰の父親は復活していない。今度は胃痛がひどく、現在『夜明けの騎士団アルバ・カヴァレリーア』の魔法医の治療を受けている。ルクレツィアは秘かに胃潰瘍にならないだろうかと心配していた。


「お前も言っていたが、自動人形オートマタではないらしい。普通の人形だそうだ」

「へえ……魔法で動くようになっている人形も、自動人形オートマタに含まれるのよね。と言うことは、本当に、何の仕掛けもない、ただの人形が動いてるってこと?」

「俺には判断がつかん」

「まあ、そりゃそうよね……ところで、依頼者はどちら様?」

「マッツカート侯爵、フォンターナ侯爵、ペルティーニ伯爵、ピエリ子爵にゾルジィ子爵、それから……」

「ちょ、ちょっと待って! まだいるの!?」


 次々と貴族の名をあげていくフェデーレに、ルクレツィアは待ったをかけて叫んだ。フェデーレは落ち着いて告げた。

「現在、似たような依頼を9件受けている」

「……早急に対処しましょうか」

「そうしてもらえると助かるな」

 一気に疲れの増したルクレツィアに、フェデーレは肩を叩こうとして、彼女が男性に触れられるのが苦手だと思いだしたのだろう。あげた手を降ろした。その様子が少しがっかりして見えるが、ルクレツィアは気にしない。


「とにかく、私だけでは判断がつかないわ。ヴェロニカか、他の魔法研究家を呼ばないと」


 たまたまヴェロニカが不在であったため、こちらもたまたま帰ってきていた顔なじみの魔法研究家に考察を頼むことにした。


「おお。姫さん、坊ちゃん久しぶり」


 長身の男性が2人に気付き、愛想よく手を振った。歩いてきて2人の前の席に座る。ちなみに、ここはラ・ルーナ城のオープンな会議室。ルクレツィアたちのように、仕事に関して意見交換をすることが多いところだ。


「久しぶりね、リベラート。建国祭以来かしらね」

「じゃあそんなに経ってないな」


 笑みを浮かべて男性に向かって言ったルクレツィアに対し、フェデーレは少々無愛想だ。冷静なツッコミを入れられて、ルクレツィアは思わずフェデーレを睨んだ。


「おっと。ここで喧嘩をはじめないでくれよ。ルーチェも、フェディは悪気があったわけじゃないだろうし」


 落ち着け、と言われ、ルクレツィアは憮然としながらも「はぁい」と返事をした。


 彼はリベラート・シレア。中級富裕層出身の青年である。年はヴェロニカより一つ年下のはずなので、22歳だろうか。栗毛に淡い瞳をした美形で、『夜明けの騎士団』所属の魔術師にしては比較的常識人である。そして、面倒見もいいため、通称・騎士団のお母さん。

 彼は、ヴェロニカと共にパルヴィス大聖堂で行われた祭典を見に来ていた青年だ。ルクレツィアにヴェロニカと共に手を振ってくれた彼である。面倒見がよく、優しいのでルクレツィアの中で勝手に評価の高い人でもある。


「んで。俺は何しに呼ばれたの?」


 ルクレツィアとフェデーレが眼を見合わせた。そして、詳細を把握しているフェデーレが、ルクレツィアに語ったこととほぼ同じことをリベラートに語った。話を聞いた彼はうーん、とうなる。


「一応、本当に魔法的仕組みが組み込まれていないか調べる必要があるでしょうけど、そうじゃなかったら、何が要因で動いているのかしら」

「なぁ、フェディ。その踊る人形ってのは、どの家もすべて同じ時間帯に動くのか?」


 ルクレツィアの問いには答えず、リベラートがフェデーレに尋ねた。フェデーレはメモを見て、「ほぼ同じ時間帯だな。まったく同じかはわからない」と答える。

「なら、時間帯も調べたほうがいいな。夜らしいけど……ただ、全く同じ時間に動き出すんなら、外から操られている可能性が高いな」

「なるほど」

 時間帯と言うのはルクレツィアでは思いつかなかったかもしれない。もしも、1人の魔術師が一気に大量の人形を動かしているのなら、動き出す時間は同じはずだ。


「なんにせよ、一度その人形が動くところが見たい。そうしないと、何もわからん」

「だよな……うちの屋敷で似たような例がないか探してみたが、特になかったしな……」


 どうやら、フェデーレは自分の屋敷も調査していたらしい。結果、不審なことは何もなかったと。彼の考えたように、フェデーレの(と言うかメリディアーニ公爵の)屋敷で起こったのなら、彼の屋敷に連れて行けばいいから楽なのだ。

 しかし、そう簡単にはいかなかったようなので、依頼者の中の1人の屋敷にお邪魔するしかないだろう。まあ、でも、よくある話ではある。現場に行かないとわからないことが多いため、現場が貴族の所有地だったときは許可をもらって入ることになる。


 ちなみに、『夜明けの騎士団』には特別捜査権が認められており、抵抗された場合は強制調査に入ることもできる。だが、心象が悪くなるのでめったに使わない。


「できるだけ早めに……でも、まず先触れを出さなければならないから、早くても明日、もしくは明後日になるわね。行く屋敷と人員も決めておかないと……」


 ルクレツィアが顎に指を当てつつつぶやくと、リベラートが苦笑し「俺が行くよ」と言った。よし。踊る人形を解析する魔法研究家は彼に決まりだ。

「それと、フェデーレが一緒に行けばいいわね。いくら『騎士団』と言えど、平民が1人で乗りこむには貴族の屋敷は敷居が高いわよね」

「ああ。まったくもってその通りだ」

 リベラートが深くうなずいたので、フェデーレも行くことに決定。彼も、初めから行くつもりだったようで特に反論はなかった。


「後でヴェロニカにも話を通しておきましょう。何かあった時のために、私と彼女で外で待機しているわ」


 2人で行かせてもいいが、何かあった時にこの2人で対応できるとはちょっと考えにくかった。いや、性格はともかくフェデーレの魔法剣士としての腕は信用しているし、リベラートも優れた魔術師である。しかし、2人ともそれほど魔力が強くないのだ。いや、ルクレツィアやヴェロニカの魔力が多すぎるともいうが……。


「あと、お邪魔するお屋敷ね。できれば、『騎士団』に好意的なところがいいわ。フェデーレが選んで」

「俺が?」

「ええ。私にはわからないもの」

「……お前、それでも王族か?」

「うるさいわ。とにかく、あなたが選んだお屋敷に私がアルバ・ローザクローチェの名前で手紙を書く。ちゃんと封蝋ふうろう印璽いんじもつけるわ」


 正式なお伺い状よ、とルクレツィアは微笑んだ。リベラートは微笑んでくれたが、フェデーレは馬鹿にした表情になった。


「お前、仮にも王女でアルバ・ローザクローチェなら貴族たちの思考傾向くらい頭に入れておけよ。……ああ、お前は引きこもり王女だったな」

「いい加減にしなさいよっ!」


 ついにルクレツィアがクッションをフェデーレに投げた。彼がひょいっと避けたので、彼の後ろにいたこの城の職員にあたった。ルクレツィアは「ごめんなさい」と言いながらクッションを回収する。


「なんで避けるのよ」

「自分からあたるやつはいないだろ」

「いや、だけど、今のはフェディが悪いな」


 リベラートにそう言われ、ルクレツィアは勝ち誇った表情になってフェデーレを見た。彼はルクレツィアを睨み付けてくる。


「はいはい。そこまで」


 本日二度目の仲裁である。リベラートの仲裁に、ルクレツィアとフェデーレはとりあえず本題に戻った。


「それで、どの人がいいかしら」

「好意的……かはわからないが、やはりフォンターナ侯爵の所だろうな。公平な人だから、『騎士団』のやり方もよっぽどのことをしない限り認めてくれるだろう」

「フォンターナ侯爵ね、了解。彼の所がダメだったら?」

「一番爵位が低く、若いコルティ男爵」

「なるほど……断れないものね、セレーニ伯爵の頼みだったら」

「そう言うことだ」


 すでに何度も説明しているが、セレーニ伯爵位はメリディアーニ公爵の従属爵位で、現在フェデーレが所持している。従属爵位ではあるが、男爵より身分が高い。


「わかったわ。じゃあ、私は執務室に行って先触れの手紙を書いてくるわ」


 ルクレツィアはさほど執務室を使用していない。必要な書類や道具はすべてイル・ソーレ宮殿の自室に届けられているし、それで間に合うからだ。だが、一応ラ・ルーナ城のアルバ・ローザクローチェの執務室にも必要なものはそろっている。


 立ち上がり、執務室に向かおうとしたところで、フェデーレが「ルクレツィア」と声をかけてきた。


「何よ」


 振り返って尋ねると、「あ、いや……」となんだか歯切れが悪い。珍しいこともあるものだ。


「どうしたのよ。体調でも悪いわけ?」

「いや、違う」

「じゃあ何」

「……いや、なんでもない。引き留めてすまない」

「……あ、そう」


 なんとなく釈然としないものを抱きながらも、ルクレツィアは目下の仕事であるフォンターナ侯爵に先触れの手紙を書くために執務室に向かった。









ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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