第六話 骨を戻したら一瞬で完治!? 聖骨院、開業
明日から一話ずつアップになります。
毎日アップは続けていくつもりですので、よろしくお願いします。
【教会付属 聖骨院】
治療を希望する者は訪れよ。
怪我などで不調な体を、根本から治します。
魔法で治せるものは、今まで通り銅貨五枚で対応します。
金額
・軽症:銅貨十五枚から(治療数などで変動あり)
・中症:銀貨一枚から(治療数などで変動あり)
施術内容
・軽症……姿勢・ゆがみを整えます。
※程度によっては中症になることもあります。
・中症……外れた骨をはめ込む・骨折等でずれた骨を元に戻します。
・電気治療……施術前に弱い電気魔法を通し、筋肉をほぐす・血行促進と魔力の流れを良くします。
注意!
治療には一瞬痛みを伴うことがありますが、治っている証拠なのでご安心ください。
また、聖骨院の治療は全て治せるわけではありません。
怪我、病気、体の異変が起きたら、まず回復魔法を受けてください。
「羽澄、寝るならベッドで寝なさい」
「あらあら、きっと整骨院を開けてとっても嬉しいのね」
この数日、異世界と現代を行き来している羽澄は、整骨院のチラシやメモをパソコンでまとめていたが、キーボードに手を置いたまま眠ってしまった。
様子を見に来たミロルと、黒髪ショートカットの美少女――に見えるほど美しい父、翔。
見た目とは裏腹に力強い腕で、パソコンの前から羽澄を抱き上げ、ベッドの上に寝かせてあげる。
そっとドアを閉じて、二人でリビングに戻った。
「羽澄は初めての異世界か……」
「結構すぐ馴染んだわよ、さすが私たちの娘」
「俺は国王への挨拶の、一度しか行ってないから、馴染めるも何もないけど」
「いえ、異世界に行った時、翔さんのモテっぷりには嫉妬したわ」
「全部男からのプロポーズだったけどな」
翔は羽澄より少し背が高い体格で、当然胸はない。
だが、その中性的な容姿と引き締まった体つきは、異世界では“理想的な美少女”として扱われていた。
「あの頃よりはさすがに年取ったから、もう路上プロポーズはないと思うけど……正直異世界に行きたくないな」
夫婦仲良くそんな会話を交わしながら、月日の流れを感じていた。
「レントゲンねー、そんなこと思いつくなんて、羽澄ちゃん、あったまいー」
「色々できる魔法が万能なんだよ」
「電気魔法を使って電気治療もそうだけど、治療に活かす羽澄ちゃんが、すごいとママは思うわー」
開業前日、連日施術環境や魔法を使った診察・電気魔法を使って治療するなど、何度もテストを重ねていた。
「本当に透視魔法って、あるんですね」
「ある、しかも自分では見ずに、念じて羽澄さんに送ることもできるはずだ」
「なるほど、今試すことは出来ますか?」
「ああ、俺の治した足で試してみるか」
無事に商人ギルドの許可も出て、場所は教会の隣にある小さな小屋だ。
コルヴァンの先代の神父が利用していたオレンジ屋根の家。
コルヴァンは神父服のままだが、羽澄は施術着で、胸の大きさは分かるものの、谷間は隠されている。
コルヴァンが羽澄の手を握る、施術中は力強い手だが、今は柔らかい。
(この人は、どこもかしこも柔らかいんだろうか……)
そこまで思って首を振る。
(最近の俺はおかしい、そもそも何であんなに胸が柔らかいんだ……)
「コルヴァンさん?」
「ふぁっ、はいっ」
「私の手、何かありました?」
突然呼ばれて我に返る、どうやら手の柔らかさを堪能するように、手を揉んでいたらしい。
「すっ、すみません、ちょっと考え、事を……」
「私とこうするのは嫌かもしれませんが、ここは仕事と割り切ってお願いします」
困った顔の羽澄になんとも言い表せない気持ちになりつつ。
「失礼、はじめます」
と、誤魔化すしかなかった。
気を取り直して自分の足を透視する。魔力の強弱で透視する厚みを調整できる。
「わぁ、すごい……もっと奥、お願いします」
「ゆっくり進めるので、良い場所教えてください」
「あ、そこっ、そこがいいですっ」
「……」
(たぶん私の耳がおかしいんだよね……年取ったからかな)
いつもは明るくぼけるミロルだが、真剣な二人のやりとりを生暖かく見つめて、耳年増な自分に、少し反省した。
「もう大丈夫です、ありがとうございます」
「羽澄ちゃん、レントゲンの代わりになりそう?」
「うん! ちゃんと太くて立派な骨が見えたよ、ちゃんとくっついてたし」
「よかった、じゃあ俺の足は、完全に治ったってことですね」
「はい、ばっちりです!」
骨の様子に安堵している二人と、苦笑しているミロルは、研究熱心な二人を置いて、店となる家を掃除することにした。
「あとは聖骨院になる前に、必ず回復魔法をかけた方がいいと思います」
「ほう、そうなのか?」
「回復魔法である程度治り、本来私が治せない怪我も治せるようになると思うんです」
「……なるほど」
「コルヴァンさんも怪我してからしばらく経っていますよね」
「ああ、確かに……回復魔法が無駄というわけではないんだな」
「逆に、すごく大事です」
この世界では新しい技術、現代では使えない魔法。
この二つを上手に使えば、この世界の医療技術は進歩するだろう。
次の日、聖骨院オープン当日。
パソコンで打ち出した紙を額縁に入れて、料金表と概要として入り口に飾る。
コルヴァンも木材をもらい、ペンキで【教会付属 聖骨院】という看板を小屋のドア上に、教会の前に案内板を設置する。
ミロルは二つ並んでいる、コルヴァンが譲ってもらったという、施術用のベッドに白いシーツを着け、穴あき枕をセットする。
「あとは親方が来てからだな、酒場にいた元騎士仲間も誘っておいた、何人かは見に来るそうだ」
その言葉通り、オープンの時間になるとヴォルクスと、酒場に居た元騎士たちが続々と店へやって来た。
他にもコルヴァンが声をかけた農家や、冷やかしに来た一部の貴族もいる。
「こりゃ、いい見せ物だな」
思ったよりも大勢の人数が聖骨院に見に来ている、この中で客なのは声をかけたヴォルクスだけだ。
「親方すみません、約束通り安くするんで……」
コルヴァンが申し訳なさそうにしている中、羽澄はヴォルクスの体に触れて、悪いところをノートにメモしながら調べている。
「……出ました!」
顔を勢いよく挙げた羽澄は、コルヴァンとヴォルクスにノートを見せながら説明する。
「ヴォルクスさんは肩の脱臼を放置したことで、体のバランスが崩れ、腰に負担が集中しています」
中症に肩・腰、軽症が三箇所と書き込まれている。
「神父よ、なにいってっかわかるか?」
「脱臼は骨が外れた状態らしいですね」
「骨って外れるのか」
「外れるんですよ、骨って」
不思議そうに聞くが、ヴォルクスはなんとなく予想がついていたのか、納得したような、ほっとしたような表情になる――しかし。
「あと、鎖骨を一度骨折していますね」
「っ」
言われて眉間に皺を寄せる。羽澄は構わず中症箇所に鎖骨も書き込んでいた。
「鎖骨は首の下あたりですね」
「よく分かったな……そこは治ったはずじゃ」
「いえ、治ってないですし……それに最近急激に魔力が無くなったんじゃないですか?」
「……そんなのまで分かるのかよ」
「血流がかなり悪くなっているので」
「魔力の流れは血流に大きく影響されるからね」
ミロルのフォローも入り、羽澄はコルヴァンに透視魔法を頼む。
「そのへんで止めてください、コルヴァンさん」
(やっぱり、ずれてしばらく経っても骨は変形してない)
レントゲンで骨の形を見れば、思った通り変形せずに、嵌めれば治る状態になっている。
(手術が必要な怪我でも、回復魔法がかかっていれば、施術で治せる状態になる可能性が高いのね)
「コルヴァンさんありがとうございます。
怪我した後すぐ魔法がかかっているので、私の技術で治せます。
ヴォルクスさん、安心してください」
「いや、でも銀貨三枚だろ? そんな金払えねぇよ、いくら安くしてくれるっつっても……」
「銀貨一枚ならどうですか?」
渋るヴォルクスに反して羽澄が提示した金額は破格だった。
「は? いやいや、流石に安すぎねぇ? 三分の一以下だぞ」
「親方、いいんだよ、三人で話して元からこの値段にしようって決めてたんだ」
「はじめてのお客様だし、お世話になっている親方ですもの」
「マジかよ……銀貨一枚なら、すげぇ助かる」
ヴォルクスの言葉に羽澄はにっこり笑って、施術の準備を進めるのだった。
「ねえ、あの子、凄くみっともない」
コルヴァンが電気治療をしている中、コソコソ陰口が聞こえてくる。
「あんな仕事できなさそうな子、本当に治療できるのかしら」
「あんな年増じゃ、嫁のもらい手もないな」
(うるせー、まだ二十五だってーの)
心の中で悪態をつくが、この世界の女性は二十歳までに結婚できないと、生き遅れだというのはミロルから聞いていた。
(ムシムシ、こうなることはわかってたしね)
「それでは施術に入ります、治る瞬間は一瞬激痛が走るので覚悟してください。
また、施術のため密着しますが、こちらも我慢してください」
そういいながらヴォルクスの腕を脇にしっかり挟む。
「まず肩の脱臼、外れた骨を治します……いきますよー」
――ボキッ
「うぁっ」
――パアァ
「大丈夫、すぐ治りますから」
コルヴァンが回復魔法をかけながら励ます、するとあっという間に肩の大きさが変わる。
「左右の肩の位置、大きさが揃いました。
動かしてみてください」
――ブンブン
「……全然痛くねえ」
「よかった」
ヴォルクスの動きと、肩の見た目が変わったことに、それを見ていた全員が感嘆の声を漏らす。
「じゃあ次は、鎖骨」
――ガコッ
「うぐぅ」
「腰」
――ゴキゴキッ
「はあぁっ」
「あと、全身の歪み」
――ポキポキ
「があああぁぁっ」
ヴォルクスの断末魔を聞きながら次々に治していく羽澄、痛そうな声に心配そうに見ているギャラリーが、明らかに変わるヴォルクスの様子に驚いている。
「はいっ、終わりましたー」
「ああ、こ、れは、これはすごいっ!!」
立ち上がったヴォルクスはまるで子供のように飛んだり、小躍りをしている。
「こんなに体が軽くなったのは何年振りか……肩も鎖骨も腰も、どこも痛くないなんて……あんたの技術すげえよ!!」
心から感動したヴォルクスの声に、その場はさまざまな声が聞こえる。
「……奇跡だ」
「え、これ、本当か……?」
「誰か、試してみろよ」
「おい、次は私にしてくれっ」
「いや、俺だっ」
沢山の驚きと期待、少しの疑うような声が湧き上がっていた。




