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熱血パーサー乗務録  作者: 田中元一


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12/13

VOL 12.パイロットの間で噂になった(T機長のケース)

入社5年目にスチュワードから昇格試験に合格し、アシスタント・パーサーになり、5種類の機材、国際線の主要路線にも乗務して仕事にも慣れてきました。

そうなると、それまでは自分の乗務の仕事だけに集中していたのが、周囲の仲間の言動にも注意がいくようになりました。


特に、日頃から偉そうな態度で我々乗務員に接している機長の数名にはカチンと頭に来ることもありました。

その最初が、DC-10機材の悪名高いT機長でした。

クアラルンプールの1泊便の帰りに、初めて私はその機長と一緒になったのです。

宿泊先のホテルから専用のクルーバスに全員が乗り込んで、副操縦士と航空機関士は機長を玄関先で待っていました。

所定の出発時刻を5分過ぎた頃、その機長が現れました。

そして、なにやら副操縦士に言っているのを私は車内から眺めていたのです。

直ぐに副操縦士がバスに乗り込んできて「全員降りてくれ」と言ったのです。

我々は何事だろうかと思いつつ、一旦バスから降りたのでした。

そして、全員でT機長に挨拶をしたのですが、彼は不機嫌な顔で無言でバスに乗り込んだのでした。

私は副操縦士に、「どうしたのですか?」と尋ねると、彼はT機長が最初に乗るようになってるからと答えたのです。


どういう意味かわからなかったので、再度それを聞いたところ、T機長の場合の慣例だと答えたのでした。

納得がいかなかったのですが、時間は過ぎているので、そのままバスに乗り込み、パーサーに「どういうことですか?」と問いかけたのです。

彼は小さな声で「君は知らなかったのか? 今日のT機長は最初にバスに乗って最初にバスから降りないと気がすまないので、有名だ。飛行機に乗る時もな」 と教えてくれたのでした。

だったら、遅れて来ないで早目に来て乗ればいいじゃないか、何もそのために先に乗ってる我々全員を降ろす必要はないじゃないか、それにコチラは挨拶をしたのに、挨拶も返さずに失礼だと思ったのでした。


しかし、仕事前に文句を言って、感情を害されると操縦にも影響が出るとマズイので、そのままにしたのです。

機内での打ち合わせの際も、傲慢な言動が気になっていました。

食事の時も、彼の肉の焼き方が悪いから、お客さん用の肉を焼き直して来いとか我がまま放題で、操縦席を担当したスチュワーデスも愚痴っていました。

私と同様、初めてT機長と会ったスチュワーデスは「噂には聞いていたけど、本当に偉そうで、嫌な性格ね!」と口を揃えて非難していました。


そして、極めつけは、成田に到着してお客さんが全員降りた後に、我々は客室で忘れ物チエックをしていた時に、副操縦士の「お疲れさん、我々コックピットは先に降ります」との機内アナウンスがあったので、後部客室の乗務員を代表して私が「お疲れ様でした、ありがとうございました」と機内アナウンスをした直後、パーサーから「全員前に集まるように」との連絡があったのです。

降りる準備作業の途中だったのですが、急ぎ前方に行くと、くだんのT機長が「何故、私に直接挨拶をしないのか!」と文句をつけたのです。


パーサーが代表して謝ったのですが、私は「この野郎!」と喉まで出かかった言葉を飲み込んだのでした。

飛行機を降りるまでは、機長が最高責任者であり、指揮系列も上位なので、ここで彼ともめるのはマズイし、パーサーにも迷惑がかかると判断したからです。

そこで、T機長が会社から出るところ、つまり送迎のハイヤーを待つ配車室で彼を待つことにしました。

ほどなく彼が現れたので、「今日はお疲れ様でした」と声を掛けたのです。

彼は「ああ」と相変わらず無愛想な表情でした。


「すみませんが、ちょっとお話があるのですが」

「何だ?」


私は彼の耳元に近づき、「いいから、ちょっとこっちに来いよ!」と彼の腕を取って、エレベータに強制的に乗り込み、誰もいない屋上に誘ったのです。

そこで、さんざん脅しつけて、お腹にチョット軽く突きを食らわしたのです。

虚勢を張る人間ほど、自分のぶざまな醜態は恥になるので、口外しないものです。


仮に、この事実が公になっても、彼はパイロットの仲間内でも顰蹙を買っており、我々同僚の間では悪名高い機長だったので、左程私の処分は重くはないだろうと踏んでいたのです。

結果的に、このケースに関し、その後何も会社からのお咎めはありませんでした。


噂では、T機長の言動が大人しくなったということでしたが、私が再会することはありませんでした。



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