# 99 鍛錬の森へ その4
森の入口付近に作って貰った快適なスペースで私達は寛ぎながら明日の為の準備も始めた。と言っても出発前に装備も食料もポーション系も準備は万端なので確認する程度なんだけどね
「セバスチャンたちまだかな? 大丈夫かな? ちょっと様子を……」
「明日になれば森には入れるんだから大人しく待ってれば良いのよ。……ったく……」
「うっ……そうだね……うん」返す言葉もなくうなだれる……
「サクラ、暇そうだからこのパーティをどう思ってるか聞かせて貰える?」レイから突然問いかけられた
「どう……って?」ちょっと困惑して問いに問いで返してしまう
「……セバスチャンは魔法も使えるけど今は剣士で前衛担当。天は中距離遠距離攻撃が主だけど場合によっては近接戦でも戦える。シェリーとあたしは遠距離攻撃も出来るけど補助魔法での援護が主になる。サクラは……全てをこなせる万能型。こんな感じ?」
「うん。そうだね」
「じゃあ不足は? ない?」
「不足? 足りないポジション……ん〜守備の要の戦士とか?」
「確かに……守備を得意とする者はワタクシたちの中にはおりませんね。……ですが……」シェリーに視線を向けられる
「他に必要なのは……僧侶……回復担当?」
「まぁ、強固な守備力を誇れる戦士は居ないけど、あたしたちの守備力は尋常じゃなさそう……でも回復役は必須。でっ! この中でその役割を果たせるのは?」
「……わ、私?……」
「セバスチャンひとりが前衛だと心許ない事もあるかもしれない。今のサクラはまだ圧倒的に経験が足りないからここでは前衛での鍛錬は必要だと思う。いざと言う時は経験に勝るものはないから」
「サクラ様には出来れば後方で控えていて欲しいのですが……。レイの言う通り『経験』は必要です。何事にもおいて。ワタクシも今回の鍛錬においてはサクラ様のお気持ちを最優先したく存じます。鍛錬の森はその為にあるのですから」
「レイ……シェリー……ありがとう。私、頑張る!」
「頑張るのは良いけど……ちゃんと分かってるのか……」レイがため息をつく。んっ?
「今回は口数が多いですね? レイ?」
「言葉にしないと通じない相手も居るって事が分かったからね。今回は時間との勝負って事もあるし」レイがいつもの「ふんっ」って感じで言う
「時間との勝負って?」私の問いに一瞬目を見開いて何故か首を横に振るレイ。何? やれやれ? うーん……レイに肩を竦めて見せるシェリーの姿を視界の端に捉えシェリーの方を向く
「鍛錬の森は時間制限がございます。出来るだけ効率的にレベル上げをする事が肝心だと言う事ではないでしょうか」
「そういう事。……ったく……無自覚と言うか……サクラは自由人だわ……」
「ん? 私が何?」よく聞き取れなくて聞き返す。ムジカクとか自由とか聞こえたんだけど?
「なんでもない。とにかくっ! ちゃっちゃとレベルを上げるにはどう行動するか事前に考えた方が良いって事よ」
「ご、ごめん……」反射的に謝る。なんか怒らせた?
「鍛錬の森には時間制限はあるもののレベルに関しては制限がございません。短時間でレベル上げが出来れば……」シェリーがにっこり微笑む
「最小限の時間でレベル上げを完了させる」
「そうでございますね。残りの時間は連携を試す事や個々の鍛錬に当てる事も可能です」
「わ、分かった。凄いね、ふたり共。なるほど……確かに時間は効率的に使わないとね。タイパね」
「タイ……パ?」レイが訝しげ顔をする
「あ、ごめん。タイムパフォーマンス、時間対効果。短い時間で高い効果を出すのが肝心って事」ついドヤってしまった
「今回はレベル上げと経験の為の鍛錬ですのでサクラ様にも前衛での……ご経験を……積んで頂きたくは存じますが……ワタクシとしてはサクラ様には危険の少ない中後衛でのご指示をお願いしたく……」
「シェリー……ありがとう。分かったよ。私の役割。前衛・後衛、攻撃に回復、臨機応変に頑張るよ。色んな事がちゃんと出来る様に経験を積むからっ! うん! 頑張る!」
「さっき守備担当が居ないって話も出たけど、セバスチャンがガンガン強くなれば攻守共に万能になるんじゃない?」レイの言葉にムキムキマッチョなセバスチャンを想像してしまった……
いや、マッチョがダメなんじゃないけどセバスチャンは執事なのよ〜。物腰の柔らかさと筋骨隆々は相反すると言うか……いや、意外と良いのかも? いやでも……
「サクラ〜戻って来なさい。何浸ってるんだか……」レイの言葉にハッと我に返る
「あはっ、ごめんごめん。マッチョになったセバスチャンを想像しちゃって。でもムキムキは……着痩せする細マッチョに留めて欲しいなぁ〜とか考えてた」
「はっ? ったく……緊張感ないわね、サクラは……」
「細身でも筋骨隆々でもセバスチャンはセバスチャンでございますから」シェリーが微笑む
「うん。ありがとうシェリー。シェリーは優しいね……ごめんね? 私の妄想に付き合わせちゃって」
「戻って来たみたいね」
「ええ」
「えっ? ふたりが森から出て来たの?」意識を森の入口に向ける。うん、確かにふたりの気配が感じられる
「凄いね、ふたり共。常にそうやって意識してるの?」
「はい。索敵は無意識レベルで範囲を広げられる様に日々の積み重ねを心得ております」
「無意識レベルか……私はその前に索敵の練習だね……」意識を集中させて範囲を広げる
「サクラ、それじゃダメよ。相手に気付かれる。まぁ、わざと気付かせて入って来ない様にさせるなら効果的かもだけど」
「ダメ?」
「サクラ様の『索敵』は強力でございますね。魔力を抑えて発動なさってみてくださいませ。相手に索敵能力の発動を気取られない事が効果的かと」
「なるほど……魔力を抑えて……薄く、広く……。うっなかなか難しいね。ふたりはどうやってるの?」
「今サクラがやってる事を繰り返し練習するしかないわね。まぁ、魔力総量の違いも大きいとは思うけど今の感じだとサクラがシェリー並になるのは相当大変だと思うわよ」
「シェリー並に……ん?」
「シェリーの索敵はこっちが全力で感じようとしないと気付かないレベルよ。どうやってるのかあたしも知りたいわ」レイがシェリーを睨む……えっ? なんでそんな挑発的な目を!?
「ワタクシの能力はシステムとして備わっているものが多うございますから」シェリーが不敵な笑みを浮かべる……いや、シェリーも何故レイにそんな態度を……
「えっと……システム? ってどういう事?」
「ワタクシは元々無機質な存在でしたので……。お帰りなさいませ」シェリーが視線を私の後ろに移した
「ただいま戻りました」
《ただいまぁー》
「お帰りなさい。セバスチャン、天ちゃん。お疲れ様」私は駆け寄って来た天ちゃんを抱きしめた
――つづく――




