# 89 訓練のはじまり
「クレー射撃とかどうかな?」シェリーに尋ねる
「私もあんまり詳しくないんだけど飛んでる的って感じで良いかな? って思ったんだけど」
「クレー射撃ですか……調べてみますね」
「新しい訓練施設ですか?」セバスチャンもシェリーが出してくれる資料を興味深げに眺める
「クレー射撃にも色んな種類がある様です」シェリーが種目別に並べてくれる
「へぇ〜こんなに種類があるんだ……トラップ……スキート……フィールドに……ラビットかぁ……ふむふむ」
うん! いいんじゃない? いいとこ取りした訓練場が出来そう!
「ねぇセバスチャン、これ全部入れ込んだクレー射撃場って作れる?」私は期待に満ちた目をセバスチャンに向ける。セバスチャンは少し難しい顔をした後
「申し訳ございません、お嬢様……私の能力は存在する物をそのまま再現する事です。この様な複数の設備をひとつにまとめる事は出来ないのです」そう言って申し訳なさそうな微笑みを浮かべる
「そっか……分かった。どれかひとつだけなら大丈夫?」
「はい。そのままの再現で宜しければ……ですが……」セバスチャンが言い淀む。ん? 何?
「これまで作った訓練施設は的が単純なものでした。なので的の周辺に魔力を張ることで着弾の衝撃を相殺させる事が可能でした。ですがこの施設の場合、的は移動します。飛行する標的……動く物には私の魔力は及びません」
「うーん……じゃあ、壁みたいな感じで周りに魔力を張り巡らせる感じにしたらどうかな?」
「その方法ですと壁に当たった攻撃は相殺されますが標的に当たった攻撃は相殺されません。大きな爆発になった場合とても危険です」攻撃がクレーに当たって爆発……爆風が起こるシーンが脳内再生される……それは……ダメだ……危険すぎる……
「うーどうしたら……」私はピンっと閃く!!
「ねぇセバスチャン、セバスチャンの作った空間に私が創造魔法? 作った物とかアレンジとか入れられないかな?」
「……可能でございます……」セバスチャンが満足そうに頷く。ん? 満足そう……? 何故満足そう……なんて思ったのかなぁ〜。うーん……まっいっか〜……
「じゃあ……このフィールドってタイプがあれこれ出来るからアレンジがしやすいかな? これを作って貰っても良い?」
「はい。承知致しました。その前に……場所を確保する為にもこちらの訓練施設をコンパクトに致しましょう」
セバスチャンが集中していると『訓練施設』が歪んで見えて消えた……えっ?! 消えた?
「こちらのに手を触れれば中に入る事が出来ます」セバスチャンの前に手のひら位の大きさスイッチ? プレートの様な物が浮かんでいた。我が家の入口みたいな感じかな?
「この中に空間を閉じ込めましたので必要な時にこちらに持って来て頂き、この様に空間に設置した後触れる事で中に入る事が可能です」
「凄い……」私はびっくりして固まる
「いくつかの訓練施設を同時に利用出来るようにこれを入口に亜空間を作りました。お嬢様、入ってみて下さい」
「わ、分かった」私はちょっとドキドキしながらプレートに触れた
「わぁ〜さっき消えた射撃訓練場だ〜。凄いね、セバスチャン……あれ?」私はセバスチャンに話し掛けようと振り向いたがそこには誰もいなかった。
射撃訓練場に私一人きり……みんながいた場所にはプレートが浮かんでるだけだった
これは……もしかして? 私はもう一度プレートに触れた。思った通りみんなが居るお庭に戻って来た
「サクラ様! 突然お姿が消えてびっくりしました!」シェリーが安堵の表情を浮かべる
「私もびっくりしたよ。射撃訓練場になったと思ったら誰も居なくなるんだもん。セバスチャン、先に説明してよね」
「申し訳ございません。体験して頂いた方が分かりやすいかと思いまして」申し訳ないとは全く思ってなさそうな顔でセバスチャンが言った
「うーん……これって一度に何個も使う事って出来るの? 1人ずつ訓練施設を使うって言うか……」
「可能でございます。複数の設備を使える様にこの様に空間を別にしましたので」セバスチャンがにっこり言う
「凄いねセバスチャン、ありがとう。これなら沢山並んだ訓練施設のお目当てに向かって移動しなくても良いね」私はセバスチャンにサムズアップしながらにっこり笑顔を返した
「じゃあ、フィールドタイプのクレー射撃場をお願い」
「少々お待ち下さい」……セバスチャンがクレー射撃場を作ってくれる
「さてと……どっから手を付けるかな……」まずは的となる『クレー』に魔力を込めて改良……かな?
「うっ……くっ……」これは結構難しいな……魔力が上手く流れない?
「ふぅ……セバスチャンは凄いね。こんな大きな物を簡単に作っちゃうなんて。魔力を込めるって結構大変なんだね」少し休憩がてらセバスチャンに声を掛ける
「ここは私の領域……と言うより私そのものですから。この空間自体が私の体内の様なものなのです」
「この空間そのものがセバスチャンなの?」なるほど……
なんかちょっと分かった気がした……これまで作って来た物も私は自分の中でイメージして作って取り出した……そんな感じだ……って事は……私は自身のうちにイメージを広げて魔力を練る……
的……発射口……操作パネルに……詳細あれこれ……ありったけをイメージして魔力を練る……
「よし! 」最後に……両手を地面につけて……周りの壁を……
「出来た! 」
「説明しながら試してみるね」固唾を呑む様に私を見守ってくれてた仲間に声を掛ける
「これが操作パネルだよ。ここに設定を打ち込むの」
私は発射されるクレーの数・スピード・場所の設定の仕方を説明する
「まずは1番から」クレーの発射口に表示されている『1』を指し示す
「場所は1番、数は1、間隔は最大、スピードは最小。そしてスタート!」私はスタートボタンを押した。程なくして1番の発射口からクレーが発射される
「うん。ちゃんと作動してるね」私は銃を構えて狙いを定めて引き金を引く。風魔法……ウインドカッター? 的な魔法が的に吸い込まれるように消える
「大丈夫そうだね。的に当たると魔力が吸収されて消えるの。もし外しても大丈夫だよ。周りの壁も魔力を吸収するから」私はそう言いながらファイヤーボールを発動する。火の玉は壁にめり込む様にして消えた
「ねっ。こんな感じ」
セバスチャンはフムフムっとちょっと楽しそうだけどシェリーは……不安の方が大きいのかな? 天ちゃんは楽しそうにクルクルとはしゃいでる。レイは真剣な眼差しで私の説明を聞いてくれてる。うん。なんかヤル気だね!
「サクラ様、またクレーが出てきました」
「あっ、ここのストップを押さないと止まらないの」スタートの隣にあるストップを指差す
「的に攻撃が当たらなかった場合も見てて」クレーは壁の手前で消失する
「消えました……」シェリーが呟く様な小さな声で言う
「うん。障害物を検知して消失する様にしたの。50センチ手前で消える様に設定したけど変更も可能だから」
「お嬢様、複数の発射口を同時に使う事は可能でしょうか?」
「うん、もちろん。例えば……さっきの1番の設定でスタート。4番で同じ様に設定してスタート。これで2箇所から出るよ。セバスチャン撃ってみて」
銃を構えるセバスチャン1番からのクレーはど真ん中を射抜いた。しばらくして4番からもクレーが出てくる。こっちはど真ん中ではなかったけどヒット
「流石だね。セバスチャン」
「集中力が必要ですね」
《凄い凄い! 僕もやりたい〜》天ちゃんが私に頬ずりしてくる
「うん。ちょっと待ってね。セバスチャン、これと同じものを人数分作れる?」
「可能です……それぞれ専用の訓練場という事ですか?」
「まずはそれぞれで練習してみるのも良いかなって思って。上達とか試したい事とかもそれぞれだろうし、それなりに慣れて来たら連携とかの練習も出来るんじゃないかなって思ってる」
「……承知致しました……少しお待ち下さい」
「サクラ、あたしは天と一緒に入るわ」
「レイっ……うん、ありがとう。天ちゃんの事よろしくね」
それぞれの訓練が始まった
――つづく――




