# 83 鍛錬の森
「鍛錬の森へ入る為には資格やルール等はあったのですか?」
「昔のものですが……資格はノーム様が鍛錬が必要だとお認めになった者、ルールは……時間制限や戦い方についての決まり事がありました」
「時間制限? そっか好きなだけ修行出来るって訳では無いのね」
「制限時間は3日間。複数人で入った場合は人数で割った時間になります。2人だと1日半、3人だと1日という感じです。戦い方は自由ですが、もし負けた場合は強制的に終了となります」
「終了……って?」
「あくまでも鍛錬を目的とした修行になりますので負けたとしても死ぬ事はありません。森から強制的に出され、残り時間はなくなります」
「負けたら死なないけどそこで修行は終わりって事?」
「この修行の目的のひとつは『引く事の重要性』を身をもって体験すると言う事だったのです」
「引く事……逃げるって事?」
「はい。昔は血の気盛んな者が多く『逃げは恥』と言う風潮があったのです。その者達に命の大切さ、引く事も必要な場面もあると分かって貰いたい……とノーム様はお考えになられたそうです」
「……何となく分かる……あ〜逃げるのがダメって事じゃなくて、逃げるなんて許されない。敵に背を向けるのは恥。みたいな考え方……間違ってると思うけど昔はそんな考え方が当たり前だったのよね。戦って死ぬ事は潔いって……」戦争で落としてしまった沢山の命……悲しい歴史を思い出した
「太刀打ち出来ない魔物と対峙した場合、生きて帰る事を優先する事が出来る様に……それがこの修行の意味だったのかな? 引く事は決して恥ではない、無謀な戦いを挑む事こそ恥であり愚策だって考える事も必要だって事を分かって貰いたかったって事かな? うんうん。命あっての物種、死んだらお終いだからね」
「ですが……なかなか上手くは行かなかった様です。勝つ事の難しい魔物相手にも向かって行く者が多かった……」
「……まぁ……『引けない戦い』もあるかもしれない……守るべきものがあると尚更……でもやっぱり生きていて欲しい……生きて帰って来て欲しい……待ってる人達が居る事も忘れないで欲しいよね……その為の修行……か」
「『逃げる』を選択した者はどうなったのでしょうか?」シェリーが尋ねる
「制限時間が来るまで何度でもチャレンジする事が可能でした。『引く』と言う判断の出来る者が隊をまとめる役を任された様です」
「なるほどね〜。戦況に応じた対応が出来る人が隊長になったって事だね」
「そのルールは今も継続されているのでしょうか? だとしたら……」シェリーが考え込む様に目を伏せる
「それは……分かりません。ノーム様に聞いてみない事には……」セバスチャンも何だか深刻な表情をしている
「そのルールだとなんかまずいの? 勝てそうにない敵に遭遇したら逃げれば良いんでしょう?」
「……いえ、そちらのルールではなく『制限時間』の方です。この修行は『1人』で修行する事を前提とされていますよね? もしこの『鍛錬の森』制度を復活させた場合、入れる者が限られて来るのではないでしょうか?」
「そうですね……昔、この修行を行った者は戦士タイプの者が大半だった様です。魔法の使い手も参加していましたが攻撃魔法をメインにする者に限られていました」
「あ〜そっか。僧侶タイプの人は戦いには不向きな場合も多いよね。遠距離攻撃を得意とする人にも不利なのかな? 人数が増えると修行出来る時間が減るんだったら連携の修行をするのも難しいね。昔は違うのかな? 今は騎士団も隊で動くだろうし冒険者もパーティ組む事が多いよね。ソロでの技を磨く為に修行する感じになるのかな」
しばし沈黙の後セバスチャンが口を開く
「ノーム様にルールの改定は可能か確認してみましょう」
「うん、そうだね。ここで考えてても埒が明かない。行こう!」立ち上がり玄関に向かう
「えっ? 今からですか?」シェリーが慌てた様子で後を追って来た
「善は急げよ!」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「ノーム様、お願いがあります」ノーム様を訪ねて単刀直入に切り出す。一瞬の沈黙の後……
《うむ……なるほどのぉ~『鍛練の森』か……懐かしいのぉ〜》
ノーム様のお言葉にシェリーが目を丸くして私を見た
「ノーム様は何でもお見通しって事よ」にっこり微笑む
《何でも。ではないぞぉ〜。興味を惹かれた事だけじゃ。ふぉっふぉっふぉっ》
ん〜……知りたいと思う事を知る事が出来るんだからやっぱり『全てお見通し』で良いんじゃないかな〜
《して、サクラ、『鍛錬の森』の決まり事、お主ならどう定めようぞ?》
「私だったら……ですか?」ノーム様が静かに頷く
「そうですね……時間は3日間のままで良いと思います。長く感じれば早目に切り上げれば良いし、短く感じる人はその時点で修行は足りているのだと思います。ただ……複数人での修行でも各々3日で良いと思います。実践感覚で連携の鍛錬が出来るのは有難いと思いますので。連携技も個人技も磨きを掛けたいです」
《負けた場合の強制終了はどうじゃ?》
「はい。それは必要だと思います。個人でもパーティでも『命』は大事にして欲しいですから。ただ……残り時間が無くなるのは無しで大丈夫だと思います。それから……逃げ癖みたいなのが付かない様に何か考えた方がが良いかもです」
《ほぉ〜逃げ癖のぉ……》
「逃げなければならない敵……危ない目にあったりするとそれがトラウマになる事もあるでしょうから……それを克服するのが難しくなる人もいるかもしれません。強敵に出くわした時に萎縮して実力を発揮出来なくなるとか。そんな状況をフロォー出来れば良いと思います」
「強制終了になった者や逃げる戦いが多くなった人にはしばらくパーティで修行する事を勧めては如何でしょうか?」セバスチャンからの提案に「おぉ〜」と感嘆の声が漏れる
「それ良いね。指導に長けた人が同行してくれたら尚良いかも」
「指導者ですか……でしたら、強制終了になった者はペナルティとして次回から指導者の同行が必須としては如何でしょう?」
「戦い……修行が怖くて辛くなった人にも同行して貰える指導者がいるとトラウマの克服に繋がるかもです。ですが、指導者の選出が大変かもしれませんね……」シェリーが言う
「そっか……そうだね……『鍛錬の森』を復活させる為にも国王はもちろんだけど騎士団の人とか……冒険者ギルドの人とか……鍛錬の森に関わってくれる人に相談したいね」
「いえ、『鍛錬の森』の復活に関しては相談は不要です」セバスチャンが静かに言った……
――つづく――




