# 64 草原の魔物
「シェリーは魔力草の魔力分かる?」
「いえ……魔物の魔力とは違って微量な魔力ですのでワタクシには……申し訳ございません」
「謝らなくて良いよ」苦笑しながら「じゃあ天ちゃんのナビゲートは私の仕事だね。天ちゃんよろしくね!」
《うん! どっちに行けば良い?》
「しばらくこのまま真っ直ぐね」
《はーい》天ちゃんの楽しそうな声になんだか嬉しくなってテンションが上がって来た
しばらく爽やかな風を感じて進んでいたが、ふと違和感を感じた……
「天ちゃん、ストップ……止まって?」
《は〜い》天ちゃんがスピードを落として止まってくれる
……天ちゃんは以前と違って急ブレーキの様に止まる事なく乗っている私たちに負担のない止まり方をしてくれる様になっている
天ちゃんが生まれてから極端な動きにはどうなる事かと不安になったが、天ちゃんは飲み込みが早く教えた事は瞬く間にに吸収して行った感じだった。
ちょっと昔の出来事を思い出しながら天ちゃんの成長を再確認して嬉しくなった
「どうかされましたか?」ダイアナが不安げに私を見つめる。アレスも私の答えを待つ様に視線を向けている
「なんか空気が違うと言うか……結界……そう! ペタの村に入った時の様な結界を抜けた感じがしたの!」
「結界……ですか? 私は何も感じなかったですが……」ダイアナがそう言ってアレスを見る
「俺も何も感じませんでした」アレスも首を振りながらダイアナに同意する
「サクラ様……ここは別の空間なのかもしれません」
シェリーがそう言ってスクリーンを表示させる
「地図?」
「はい。フォレストグランの地図です」
「現在地が表示されてないね?」
「こちらが履歴でございます」そう言って別のスクリーンを立ち上げる
「ご自宅からの移動履歴です」赤い点滅が町から草原へと移動して行く……そして私たちを示す赤いマークが消えた……
「消えた?!」
「はい。サクラ様が天ちゃんにストップを掛けた場所です」
「これは……どう言う事? ここはフォレストグランじゃない別の……亜空間みたいな場所? う〜ん……でも見た感じはここまでの草原と変わらないよね……」
辺りを見回して魔力草の気配を察知する
「あっちに魔力草がある。とりあえず行ってみようか?」
「さ、サクラ様!」ダイアナが歩き出そうとした私の腕を掴んで止める
「戻った方が宜しいのではないですか? ここは……その……どういう場所か分からないのですよね? 危険です!」
「俺もダイアナと同意見です。ここが何処なのか分からないのですから動き回るのは危険だと思います」アレスにも言われてしまった……
「危険な感じは全くしないんだけど……う〜ん……分かった。ちょっと待ってね」私は天ちゃんの雲で『カラーコーン』を作った。工事してる所で見かける赤いコーンだ。確か正式名称は『ロードコーン』だっけ?
「サクラ様、それは?」
「……んっ? 目印? とりあえず引き返そうか。……え〜っと、どっちから来たんだっけ?」魔力草のある場所に移動しようとしたから方向を見失っていた……
「こちらです」アレスが方向を示す。良かった……また違う方向へ歩き出す所だったわ……
「ありがとう。じゃあ戻ろう」
「ここってね、何となく……『招待された』って言うか、ここへ入る許可を貰えた? そんな感じがしたの。危険な感じはしないし……あ〜……なんか居そうな気配はするけど敵意? そんなものが全く感じられないから安全な場所なのかな〜って思ったの」
「なにか居るのですか?!魔物?」ダイアナとアレスが警戒する様に辺りを見回す
「敵意は感じないから大丈夫だよ。逆にそんな風に殺気を放ったら怖がらせちゃうよ」苦笑しつつ2人に警戒心を解いてリラックスしてもらう様にお願いする
「あっ、見えてきた!」
前方にさっき置いたカラーコーンが見える
「えっ?!」ダイアナとアレスが顔を見合わせ走り出す
「何故ですか?!」
「どうしてこれがここに……」
「多分出られないだろうって思ったから置いて見たの」私の言葉に2人が青ざめる……
「……ごめん! 言葉が足りないね。多分なんだけど……
私たちは『魔力草』を求めたでしょう? で、ここに招待されてこの場所へ入る事が許された。目的の魔力草の場所は分かるから、それを手に入れたら元の場所に戻れるんじゃないかな〜。って考えたの。逆に言うと、まだ魔力草を手に入れてないから出られない。だけど悪意が働いてて出れないとかイヤな場所じゃないんだよ? ここって……なんて言うか……『精霊様の森』みたいな聖域? そんなキレイな場所と同じ様な感じがするから……」
「精霊様の森の別の場所……
子供の頃に聞いた言い伝えがあります。
昔……病に倒れた家族を救う為に薬草を求めた村人が居たそうです。その者は森へ出掛けて……見た事のない薬草を手に戻って来ました。その薬草で家族は助かった……。
同じ様に酷い怪我を負った者を助けたいと森に入って薬草を持ち帰った者も居た。
ですが……その後、薬草のあった場所を探しても同じ場所に行く事が出来なかったと……」
「森で行方不明になった幼子が突然村の端に姿を現した。っていう話もありましたね……」アレスとダイアナが話してくれる
「へぇ〜良いお話だね。その人達もこんな風に招待されたのかもね。幼い子供は迷子になって……ここを守っている精霊さん達……かな? そんな存在に助けられたのかもね」
「……はい。この村は精霊様に護られているからと……ただのお伽噺だと思っていました……」
「昔は……人と精霊様……精霊さん達との距離が近かったみたいだからね……またそんな風に……大事に思い合える様になると良いね……」しんみりとした気持ちになる
「はい。感謝の気持ちとお祈りですね」アレスの明るい声に、私が見たノーム様の記憶……人と精霊が共に笑顔で過ごしていた平和で倖せな時間を……取り戻せる日が来る事を願った……
「よしっ! 魔力草を頂きに行きましょう! こっちだよ」私はみんなを案内する様に歩き出した
しばらく歩くと魔物……ホーンラビットに似たうさぎが姿を現した。ダイアナとアレスが臨戦態勢をとる
「ほらほらー2人共! あの子たち敵意を感じないでしょう? 怖がらせちゃダメだよ」
「ですがっ!」「しかしっ!」
「あっち見て!」別方向に見えるホーンラビットと鹿の様な……ディアーだっけ? 草をはんでいる姿が見える
「ここの魔物は草食なんじゃないかな? 天敵……肉食の魔物が居ないから警戒心がないのかもしれない。だからこんな風に人間にも近ずいて来るんだよ」
「おいで……?」しゃがんでホーンラビットに手を伸ばす
ホーンラビットは興味津々な瞳で私の手をクンクンと匂いい頬を擦り寄せてくれた
「か、可愛い〜〜」脅かさない様にと小声で悶える……
「サッ!」叫びそうな様子のダイアナに、そっと人差し指を口に当てて静かにする様に合図を送る
「良い子だね〜。ふわふわだね〜。可愛いね〜」
ホーンラビットに声を掛けながらそっと頭を撫でる
ホーンラビットは気持ち良さそうに目を細めた
他の子も集まって来た。ホーンラビット以外にもリスやハムスターの大きくなった感じの魔物が擦り寄って来る
ダイアナやアレスの足元にも興味津々って瞳で見上げている魔物が集まっている
「大丈夫だよ。怖くないから。みんな仲良くしたいだけだよ。ほら、普通の魔物とは表情も全然違うでしょう? 瞳の色も毛並みも……ここの子達はフレンドリーだよ」
私は念願だった魔物たちとの触れ合いに感無量……って言うか倖せをかみ締めながら魔物達を撫でた
「天ちゃん? 大丈夫だよ。みんなお友達になりたいって思ってくれてるから」天ちゃんにも声を掛けると天ちゃんは私のすぐ横に降りてきた
「この子は天ちゃんって言うの。仲良くしてね」魔物達に声を掛けると天ちゃんにもスリスリと挨拶の様な仕草をしてくれる
《わ〜ふわふわだね……》ちょっと戸惑いながらも天ちゃんからも魔物達にスリスリと挨拶を返してすぐに打ち解けた様にじゃれ合い始めた
ダイアナとアレスはこの状況をまだ受け入れ難いみたいだから……移動しようかな? と私は立ち上がる
「じゃあ先に進もうか!」
魔物さん達が先導してくれるかの様に前を歩き私達を振り返る
「案内してくれるの? ありがとう」私たちは魔物さん達の後に続いた
――つづく――




