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# 59 ダイアナとの時間

トレーニングは初めは体がついてこないので無理はしない様に、でも日々の積み重ねが大事なのでコツコツとトレーニングに励んで下さい。とダイアナには言われた

正直自分を努力家だなんて思ってはいない。始める前からもう辞めたい……なんて思ってるのが現状だ……

駄菓子菓子! ……だがしかし! 強くなりたい。って願望は変わらずあるのでここは頑張ってみようと思う

体作りが終わったら実技を教えて貰うのだっ!

私は1人決意を固めてまずは基礎トレーニングを頑張ろうと心に決めた




☆☆☆☆☆☆



用意していた文房具をダイアナに渡して説明する

やっぱりこの世界にはない物がほとんどで、ダイアナは目を丸くしながらも興味津々な感じで使い方を理解して行った

「一通り揃えたつもりだけど、こんなのがあったら便利だな〜なんて思う物があったら言ってね。もしかしたらあるかもだから」

「ありがとうございます……これからも精進致します!」

なんだかスイッチが入った様に握り拳を作っているダイアナに不安を感じたのは気のせい……だと思いたい……


「サクラ様、ペターソン様との会合の内容と言うのはなんでしょう?」

「そうだそうだっ! ダイアナに見てもらいたい物があるの」トレーニングの件ですっかり忘れていた『温泉活用あれこれ』を思い出した

可愛く首を傾げているダイアナに一瞬心を奪われかけたが気を取り直す


「大衆浴場の建設が大詰めなのはダイアナも知っているでしょう? そこで販売してもらいたい物があって、それを神官殿に見てもらいたいと思ってるの」

「もしかして『石鹸』ですか?」ダイアナが真剣な瞳をして私を見つめる

「ダイアナ……私が石鹸を出した事知ってるの?」私は驚いてダイアナを見つめ返す

「はい……サクラ様が大衆浴場で石鹸を使う事を提案されたのではないかと思っております」

「内々の話で外部には漏らさない様にお願いしてたつもりなんだけど……な……」

ダイアナがハッとした様に首を横に振う

「すみません……情報漏洩とか悪意があった訳では無いのです……私の……その……なんて言うかスキル? これまで以上に情報が集まって来る様で……この件も昨夜手に入れたものなのです。

高価な物を使えるのかと戸惑っている関係者の様子や、様々な情報を元にサクラ様が石鹸をお持ちなのではないかと言う仮説を立てました。詳細までは分かっておりませんが、石鹸を大衆浴場で使おうとされているのではないかと推測したのですが……すみません……サクラ様の不安要素を作るつもりはなかったのです」と最後は少し辛そうな表情を浮かべた


話を聞きながら、これが『一を聞いて十を知る』ってやつだろうか? なんて事を考えていた

ダイアナの場合『百』を知りそうな感じがするけど……

ダイアナの情報収集能力……分析能力恐るべし……


「サクラ様……私は知り得た情報をサクラ様とシェリー以外に渡すつもりはございません。サクラ様に関してもそれ以外の様々な情報に関しても……」ダイアナは真っ直ぐな瞳を私に向けた

「うん。分かった、ありがとう。私も気を付けなきゃね……不用意な発言はしない様に……

ん〜ってか重要な情報はシェリーに回して?

私は余計な事は知らない方が良い気がする……」

そうよ、知らなきゃついうっかりポロッと喋ったりしないじゃない!


「必要な情報は必要な時に教えて貰えれば良いから! とりあえずシェリーが全て預かってくれると……頼もしいな〜」そう言ってシェリーとダイアナを見る

ダイアナはちょっと驚いた顔をしていたけれど、シェリーは静かに「畏まりました」と返事をしてくれた


ダイアナは納得がいかないって表情が見て取れたので「ほらっ、私って知ってたらうかポロして取り返しがつかなくなる状況が想像出来るから」とポリポリと頬を人差し指で掻く

「ウカ……ポロ……?」ダイアナが首を傾げる

「……あっ、ごめん……うかポロは……」と()()()()ッとの略だと説明した

ダイアナは瞬時に考えを巡らしたんだろう……『腑に落ちた』って顔をしていた

それはそれで……私が簡単に情報漏洩をしでかすって認識された様でちょっと切なかった……


とりあえず今あがった『石鹸』から見てもらおうか!

私はみかんネットに入ったレモン型石鹸を取り出す

「石鹸をこのネットに入れて使うと泡立てしやすくなるの。これを洗い場に設置しようと思って」

「設置ですか?!販売ではなくて?」ダイアナが目を見張る

「うん。この石鹸は洗い場に設置して自由に使って貰おうと思ってる。入浴料は石鹸使用料込って形でね」


「……触っても良いですか?」ダイアナが真剣な顔で石鹸を見つめる

「もちろん!」そう言って「どうぞ」とダイアナに石鹸を渡す

「香りが良いですね……それに手触りも……」

「ちなみにこっちはユーラシアンの城下町で買った石鹸」

そう言って銀貨3枚もしたこの世界の石鹸を渡す


「これをね、洗い場に設置するんだけど……シェリー」とシェリーを見ると『洗い場』のイラストを渡された

「ありがとう! 流石だね、シェリー」

シェリーも『一を聞いて十(百)を知る』ハイスペックな人だ

「こんな感じだよ、ここにネットを結びつけておくの」


「この絵は……凄いですね……これもサクラ様が描かれたのですか?」

何気に静かだと思ってたらイラストの素晴らしさに感動してた様だった……

そう言えばこの作業をしてた時はまだダイアナはこっちに居なかったね……

「凄いでしょう? 上手いよね〜。これはね、アレスに描いて貰ったの!」ドヤ顔で自慢する私にダイアナが驚く

「アレスが? 」

「そう! アレスだよ。アレスにはホント沢山のイラストを描いてもらったの。他のも見る?」と返事を待たずにシェリーの出してくれたイラストの数々をダイアナの前に並べる


「ダイアナとはもうずっと前から一緒に居る感覚だったけど、これを作ってる時は村には居なかったんだよね……」

しみじみと呟くと「私もサクラ様とは生まれた時からお傍に居た様な気持ちです」と微笑んだ

ダイアナは1枚1枚丁寧にイラストを見ていく。私はそれぞれに説明をしながら『大衆浴場』の完成形を並べた

「凄く分かりやすいですね。『大衆浴場』がどんな物なのか良く分かりました。完成が楽しみです」

「うん、ホント楽しみだよ!」


「そうだっ、石鹸! 試してみて!」とダイアナと洗面所に連れて行く

使い方を説明しながら石鹸を泡立てる

こっちの石鹸はほぼ泡立たないので泡がモコモコになる石鹸に驚いている

「このまま手で泡を体に滑らせる様に洗っても良いし、手ぬぐいに石鹸を付けて泡立てて手ぬぐいで体を擦っても大丈夫だよ」ダイアナの驚きを見ていると、やっぱり石鹸の使い方も説明しないと難しいかもね……そんな事を思った


「ただ、この石鹸も浄水設備とかが必要だから『大衆浴場』でしか使えないんだけどね。お風呂とか設備を整えられる人達には売る事も考えてるけど、まずは『大衆浴場』の良さを分かってもらえる様に石鹸は付加価値として誰でも使える様に提供したいと思ってるの」


「確かに……石鹸は高級品なので馴染みのない人の方が多いです……それを使う事が出来るなら利用してみたいと考えますね」

「本当に?!良かった〜。お風呂に入るって文化がないからどうなのかな……って不安だったのよね」私のウキウキとは反対にダイアナは考え込んで

「でも……管理を徹底しないと盗まれる可能性があります……」

「ぬすまれる?」一瞬言葉の意味を理解出来なかった

あっ……『盗まれる』……って事か……

「そうでございますね……ワタクシも危惧しておりました」

シェリーがダイアナの言葉に同意する様に言う

「そっか……そうだね……自由に使えるから持って帰っても良いって思う人もいるかもね……う〜ん……どうしたら良いかな?」

「サクラ様……」ダイアナが吐息が漏れる様な声を出す

「んっ? 何か良いアイデアある?」とダイアナを見る

「サクラ様、石鹸は貸出としては如何でしょうか?」シェリーから声が掛かる

「受付時に石鹸を貸出し入浴後には必ず返却して頂く事を徹底するのはいかがでしょうか? 洗い場では石鹸をフックに結び付ける様にすると紛失も防げると思います」

「おぉ〜それ良いね! 採用!!」

「紛失した場合は弁償して貰う事も貸出し時に説明すれば皆大切に使ってくれと思います」ダイアナが付け加えてくれた

「うんうん。みんなで使う物だから備品は大切に使ってもらいたいね」何だかちょっと嬉しくなった

「あ〜でも働く人達の負担は増えるね……」

「初めての『温泉活用』ですので……最初は双方戸惑う事も多いと思いますよ……営業して行く内に改善点等も出て来るでしょうから」シェリーの穏やかな声に私は頷いた


「サクラ様、今日はこの辺で……お夕飯の時間でございます」

シェリーの言葉にハッとする

「もうそんな時間? 早いね……じゃあ続きはまた今度って事で! ダイアナ、ごめんね。また時間作ってくれるかな?」

「もちろんでございます」ダイアナが明るく返事をくれた




――つづく――


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