# 56 ダイアナの生い立ち その1
「私、正式に『サクラ様のお付』に命じられました。今後、町中では常に御一緒させて頂きます」
ダイアナが敬礼でもしそうな勢いでハキハキと宣言した
「私のお付?」なにそれっ?!心の声は抑えてダイアナに疑問符を向ける
「サクラ様はこの国……いえ、この世界にとってとても大切な存在です。出来る事なら王宮で過ごして頂きたい……と国王を始め皆さんが思っていた様です
ですが、サクラ様は早々に『精霊様の森』に居住地を決めてしまわれました
『精霊様の森』では精霊様がいらっしゃるので心配はないので王宮より安全なのだと思います
でも……町に出られた時は護衛が必要と考えたのですがサクラ様には断られるだろうと結論づけた様です
今はサクラ様に気付かれない様に護衛を付けている状況です
ですが遠巻きの護衛だと緊急時の対応が難しくなる……なので、サクラ様と行動を共にしても不自然ではない私たちが護衛として付く事が許されました」
ダイアナの説明に驚きながらうんうんと頷く……
「んっ? 今『私たち』って言ったよね? ダイアナの他にも?」
「はい。アレクとアレスです。彼等は『騎士団見習い』になりました。訓練を受けながら交代でサクラ様の護衛に付きます」ダイアナが嬉しそうに言う
「ペターソン様に直談判してやっと許可が降りたのです。正式な通達は明日になるのではないかと思いますが……」
「神官殿に直談判したの?」私がびっくりして尋ねると、「はい。サクラ様の護衛に関しては行き詰まっているようでしたので提案させて頂きました」ダイアナが得意げに言う
「ダイアナが考えて提案したって事?」
「はい。サクラ様のお付になる為の最善・最速を模索しました」
ダイアナの言葉に胸の奥がザワザワする感じがした。なんだろう……なんか……何かに繋がりそうな気がするんだけど……
「サクラ様〜」アレクの声に現実に戻される
アレクとアレスが走って来る……この2人もダイアナの影響? 私を見つけると走って来る様になったのかも……
「おはよう。アレク・アレス」
「「おはようございます。サクラ様!」」
「ダイアナ、もしかしてもう話したのか?」アレクがダイアナに詰め寄る。ダイアナは大きく頷いた
「アレクとアレスが交代で護衛に付いてくれるんだって? それに……騎士団に入団なんて凄いじゃない!」
2人の肩をバンバンしながら「おめでとう!」と伝える
「入団って言ってもまだ見習いです。おめでとうは早いです」ダイアナが目を細めてフフンって感じて言う
「相変わらず情報、はえーなーダイアナは……」アレクが目を丸くする
情報が……早い? さっきのザワザワがまた生まれる……
「サクラ様、まだ正式に任命された訳ではないので……改めてご挨拶にあがります」そう告げてアレクとアレスはまた駆けて行った
もしかして……? 「ダイアナ、あの建物って何か知ってる?」立派な建物を指して尋ねる
「はい。あれは『ギルド』です。『冒険者ギルド』と『商人ギルド』になります。入口もそれぞれありますが中では繋がっています」
「ギルドかぁ……それは興味深い建物だね〜」そう言いながらも今はダイアナの事で頭がいっぱいだ……
私はノーム様に聞いた『隠密魔法』に関しての話を思い出していた
『隠密魔法』は特殊スキル……固有スキルの『隠密』を持っている者の得意とする魔法の総称なんだそうだ
『隠密スキル』の保有者……私の感覚で言うと『忍者』や『スパイ』の様な人達っぽい
身体能力が高く全てのステータスが平均値よりに高い為、どんな事もそつなくこなせる能力がある
社交性やコミュニケーション能力が高く洞察力に優れて情報収集能力に長ける。なんの違和感も感じさせる事もなくその場に溶け込む事が出来る
ただ、『隠密』と言われる能力だからかこのスキルを知る者は少ないのだそうだ
『一族』の様な括りで密かに存在するとも言われていたらしい
ダイアナの身体能力は高い。同年代の男の子よりも……
アレクとアレスは平均的な男の子より高いと思うのよね……まだまだ伸びるって言われてたし……
でもダイアナの身体能力はその2人さえ上回っている
それに加えて情報収集能力の高さ……
遠巻きに護衛している者がいたとしてもアレクやアレスが護衛対象者の側に付く事が出来るだろうか?
私だったら許可を出さない……ってか出せない
彼等はまだ『見習い』ですらないのだから……
それをどう説得したのかダイアナは許可を得たらしい
……百歩譲って『この町の中限定』だからだろうか?
……まぁ……この国の治安は相当良いとは思うし私も天ちゃんも強いってのもあるのかもしれない
「サクラ様? 」ダイアナに顔を除き込まれる様に声を掛けられてハッとする
「あっ……ごめん! 聞いてなかった」
ダイアナが目を丸くして「えっ? 聞いて……らっしゃらなったのですか?」
「ねぇダイアナ、貴女の『特殊スキル』……『固有スキル』って何?」ストレートに質問をぶつけた
「固有スキル……ですか?」一瞬目を見開き俯くダイアナ
「あっ……ごめん……固有スキルなんて簡単に人に話せないよね……軽率だった……忘れて?」私は両手を合わせてダイアナに謝る
「ごめんね……私って考え無しで……」黙ってしまったダイアナにもう一度謝罪する
「……いえ……違うのです……私は『固有スキル』を持っていないので……お答え出来なかったのです……」ダイアナが悲しげに目を伏せる
「えっ? だってダイアナは……」ダイアナの答えに逡巡する
「ダイアナ? 貴女のご両親は?」そう問い掛けた瞬間シェリーに「サクラ様、お話の続きはご自宅でなさりませんか?」と声を掛けられる
「あっ……そうだね……立ち話でする事じゃないね……」
「ダイアナ? 話したくなかったらこれ以上は聞かないけど……良かったら家に来ない?」静かに微笑んでみせると少し強ばっているダイアナの表情が緩んだ気がした
「あ〜もちろん話を聞く事が目的って訳じゃなくて……話さなくても大丈夫だから!」慌てて付け加える
「はい……サクラ様のご自宅へお招き頂けるなんて……嬉しいです」ダイアナは意を決した様に? 笑顔を向けてくれた
町中で話して良い内容ではなかったけど、シェリーがダイアナを家に招くとは意外だった
ダイアナは私達の家に大興奮だった
リビングでのはしゃぎっぷりに「他の部屋も見る?」と声を掛けると「宜しいのですかっ?!お願いします!」と更にテンションが上がった
大興奮のダイアナと嬉々と案内の先頭に立つ天ちゃんと共に家の中を巡った
庭の遊具にも大興奮の興味津々で、声は聞こえていないはずなのに天ちゃんと楽しそうに遊んでいる
ダイアナの能力恐るべし……
ひとしきり遊んでリビングに戻るとシェリーがお茶を とお菓子を用意してくれる
まるで自動運転の様に移動してくるワゴンにひとりでにテーブルへ移動するティーカップに目を丸くする
「シェリーはね、家の中では自分の思い通りに動ける様になったの」そう説明すると
「なった……という事は以前は出来なかったという事ですか?」と意外な質問を返された
「うん……前はシェリーの意思で物を動かしたりは出来なかったんだけどね」
「なるほど……そしてこのご自宅内限定……」ダイアナは呟く様に言った
――つづく――




