# 43 フォレストグランへ帰国
王都での数日……
名残惜しさと早く帰りたい気持ち……
相反する気持ちを抱いて帰国する日が来た
私たちは馬車に乗り込み、荷馬車には沢山の荷物
そして共に村……フォレストグランへ戻る大勢の人達
大所帯での移動となった
ユーラシアン王国のそびえ立つ壁が小さくなって来た所で本格的的な旅の始まりだ
天ちゃんに飛行船をいくつも出してもらう
旅立つ前に皆んなには説明をしてはいたが、実際に見るとやはり驚きで不安な顔をしている人も居た
安全性に快適さをアレクやアレス、ジャックさん達騎士の方々が力説して下さり、全員が飛行船に乗り込んだ
出発前に皆んなを集めて、もしどうしても乗りたくない……って思ったら普通に荷馬車で移動しても構わないから。と付け加えていたのだが、全員が乗ってくれて良かった
こまめに休憩を取りながらの旅が続いた
驚いた事に、顔なじみになった飲食店のご夫婦も飛行船に乗っていた
私は「ナタリーさ〜ん」と声を張りながらご夫婦の元へ走った
「おぉ〜サクラ様!」とナタリーさんが私をハグしてくれる
「ナタリーさん、もうしばらくは会えないと思ってたから嬉しいです!」
「ナタリー、どうして? しばらくは王都で商売するんじゃ……」私を追ってきたダイアナが息を切らしながらナタリーに尋ねる
「あぁ、最後に荒稼ぎしてから……って思ってたんだけどね、ジョージが帰りたいって言い張るから……まぁ、一緒に帰ると飛行船? 凄く早く村に戻れるらしいからそれも良いかなと思ってね」ナタリーさんがそう説明する
「ご主人! またおふたりのお料理が食べられるなんてすっごい嬉しいです〜」私はご主人ジョージさんの手を取ってブンブンと握手した
「おいジョージ! なにボーッとしてんだよ!」とご主人は背中をバシッと叩かれている
「え〜皆さんも!」
いつの間にか周りには王都の城下町で店を構えていた人達の笑顔があった
「皆んな村には戻るつもりだったからね」ナタリーさんが代表してそう言うと皆んな頷いていた
「そうなんですね、私もまた皆さんと一緒に居られて嬉しいです!」
「あっ……でもこんなに沢山凄腕の皆さんが町から居なくなって町は大打撃なんじゃ……」
「んっ? サクラ様は心配症だね。ユーラシアン王国は大きな国だ、そんな心配は要らないよ」ナタリーさんはそう言って私の背中を叩いた
「……いえ、サクラ様の仰る通り、これだけの人間が一気に抜けたんです……結構な痛手だと思いますよ……」ダイアナが私に耳打ちした
「ダイアナ! ちょっと来なぁ」
「はっはいっ〜」ダイアナがナタリーさんの元へ向かう
ナタリーさんってきっぷのいい『姐さん』って感じの頼り甲斐のある人だなぁって改めて思った
「ダイアナ、お前って奴は〜……余計な事……」ナタリーさんの潜めた声がちょっとだけ聞こえた……
フォレストグラン王国への旅路は問題なく進んだ
『迷いの森』が見えて来て旅の終わりももうすぐだ
森の上空を抜けると、何やら沢山の人が遠くに見える
「何だか人が集まってるわね」そう言うとアレクが
「もしかして俺たちの出迎えですかね?!」とはしゃいだ
「んな訳ないだろうよ」ジャックさんに小突かれるアレク
ふふっ、こんな和気あいあいの雰囲気って良いな〜
自然に笑みがこぼれる
飛行船を着陸させ皆でフォレストグラン王国へ向かう
私たちに気付いた村の人達が手を振っている
その中に神官殿の姿もあった
「サクラ様、お帰りなさいませ。長旅お疲れ様でした」
神官殿が笑顔で出迎えてくれた
「ただいま戻りました」そう笑顔で応える
一緒に戻って来た人達も沢山の人に囲まれて挨拶を交わしている
誰も彼も満面の笑顔で村の人達達の仲の良さが垣間見えて嬉しくなった
「ペターソンさん、ここで何をされているのですか?」
ひとしきり「ただいまの挨拶」を終えて尋ねた
「はい。ここに国への入国検問所を作ろうと思います」
神官殿が振り返り両手を広げた
「こちらが図面です」と大きな紙を広げてくれる
アレクやアレス、ジャックさん達と皆も集まって来た
ユーラシアン王国の城壁を思い出す
「まだ取り掛かったばかりなので少ししか出来ていませんが、この様な壁を両端まで作ろうと思っております」
入国口となる空間を挟んで高い壁が数メートルずつ出来ていた
「これは……土魔法ですか?」
壁に魔力が感じられたのでそう尋ねてみる
「はい。土魔法を使える者で城壁を作る予定です。
ただ、町の中も工事をしているので人材が不足しているのが現状で……思う様には進んでいません」
神官殿が少し悲しそうな顔をする
「そうなのですね……あの、私にも手伝わせて頂けませんか? 私も土魔法を使う事が出来ますので」
神官殿にそう告げると
「それは有難……いえ、サクラ様にその様な事を……」
一瞬瞳が輝いたが慌てて否定する神官殿
ふふっ、凄く大人な感じがしてたけど、『有難い』って言おうとしたよね? 意外と素直なのかしら? そんな事を考えて笑みが漏れる
「『猫の手も借りたい』位お忙しいのでしょう? 私に出来る事があればじゃんじゃん手伝いますよ」そう言って軽く胸を叩く
「猫の手? とは……いや、サクラ様に手伝いなど……」神官殿がオロオロする
……なんかやっぱりちょっと可愛いかも……
《サクラに任せてみてはどうじゃ?》不意にノーム様の声が頭の中に響く
どうやら私と神官殿にしか聞こえて居ないようだ
「精霊様……」神官殿が跪く
《よいよい、楽にするが良いぞ〜 》
「はっ!」と一礼して神官殿が立ち上がる
《サクラよ、力が解放されたお主なら容易いじゃろうて……》ノーム様に促されて私は土魔法を発動させた
ドドドッと土の壁が走る様にそびえ立ちその先端は見えなくなった
「こんな感じで宜しいですか?」
ついでに『強化の魔法』もかけておこうと城壁へ触れる
……あれっ? 神官殿は目を見開いて……ついでに口も開いてる……イケメンが台無しですよ?
……って……またやらかした? やけに静かになった感じがして周りを見渡す……
「あっちゃ〜」思わず声が出て額に手を当てる……
《どうしよう、シェリー! 無かった事には……》
《……出来ませんよ、もちろん》
《サクラ様? 凄いね、これサクラ様が作ったの?》天ちゃんは楽しそうだ……
あ〜もうっ! 私の馬鹿馬鹿〜ちょっと考えれば分かるじゃない!
こんな急激に壁を作るなんて変だって!
う〜……『後悔先に立たず』『覆水盆に返らず』だわ……
「サクラ様〜」アレクが駆け寄って来る
「これ、この壁サクラ様のお力ですよね?
やっぱサクラ様はすげ〜な〜」
「あっ……ありがとう……」
そして、はっと我に返った様に神官殿が私を見る
「サクラ様……サクラ様のお力は正に『神の御力』です」
そう言って包み込む様に私の手を取った
「サクラ様……ありがとうございます……
神よ……感謝致します……」
「これが……サクラ様のお力……」
この場に集まっていた人達は顔を見合わせた後、何だか抱き合ったり雄叫びを上げたりしていた
皆さん笑顔だったから、私の事……バケモノ……とか思って怖がったりは……してない……って思って良い……のかな?
そんな風に考えていると「サクラ様〜」とダイアナに抱きつかれた
「サクラ様、凄いです! いえ、凄いお方だとは存じておりましたが想像以上です!」頬を上気させてダイアナが言う
キラキラした瞳を見て、私は嫌われなくて良かったと安堵した
《儂からも『護り手』を授けようかのぉ〜》
ノーム様……緑の輝く球体が上昇する
と同時に城壁の前、入口の左右に対の石像が出現した
「ご、ゴーレム?!」思わず声が出る
《目を見るが良いぞ、今は青い目をしておるな? この目が赤を示した時は危険を黄は注意を表す。有効に使うが良いぞ〜》
「ありがとうございます。精霊様」
クラーク王が駆け付けノーム様の前に跪く
ちなみに他の人達はノーム様のお声が聞こえた瞬間に跪いていたようです……はい、私を除いた全員が……
「『護り手』……『守護者』ですね……
綺麗な瞳……ゴーレムって怖いイメージでしたが、このゴーレムはとても優しいお顔をされてますね。ノーム様、ありがとうございます」
これからフォレストグラン王国を護ってくれるガーディアンにそっと手を当てた
――つづく――




