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アンドロイド  作者: 中川 はじめ
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外来者

ルアフ国のとある町に住む天才プログラマーの水上(ミカミ) (ショウ)。その正体は正体不明の化け物、通称・エンディアから町の人々を救う正義のヒーロー・ジクティアだった。

彼らに迫る謎の秘密結社・テオスの目的を暴き、そして彼と行動する相棒、アーマーロイドのラータと共にエンディアの脅威から平和を守っていたのであった。

そんななか、ついにルアフとサテルが戦争を始めてしまった。

押されていたルアフ軍を助けに来たのは、かつてジクティアと対を成していたイスパードだった。

夕暮れの日射しが窓を通してショウたちを赤く照らす。

皆はボロボロで、ウーペのお陰で手当ては済んでいる。キドラも寝たままで反応がない。エージはそんな彼女の寝顔を撫でて寂しそうにしている。

「俺はお前に言ったな。『平和は幻想だ』と。」

イスパードの変身者だったダイスケが、沈黙を破るようにショウに言った。

「あぁ。はっきり覚えてる。究極の力とやらが欲しいんだろ。」

ムッとした表情で彼を見る。ダイスケは構わずに話を続けた。

「...俺も昔はその平和を目指していた。」

いつからこうなってしまったのか? 記憶をたどればすぐに分かった。ルーグの存在だった。


彼は政治家になり、いつか頂点に立って国を治めることを目指していた。ジクティアと同じ平和のために。だが上手くいかず、失敗が重なっていた。そんなある日、ルアフ官邸で雑務をこなしていた時に彼は現れた。

「お前の望みを言え。」

赤黒のコートを纏った仮面の男はダイスケにそう言って近付いた。彼はそこの警備員を気絶させていったのだ。最高レベルの警備にも関わらず、必要最低限しか倒さなかった。

「この国を治めたいか? 支配下にしたいか?」

「...違う...。俺はそうして、平和を導くんだ...。」

「平和...。フフ...。そいつは幻想だ。無い物ねだりはよせ。」

「幻想だと?」

「平和とかってのは支配されてから初めて成り立つものだろう。」

変声機を使っているが、それでも伝わる悪意にまみれた言動や思考を感じた。

ルーグはダイスケの目の前に立つと、胸部を人差し指でさした。

「平和を導くなら、この国を支配しなくちゃならない。正しい方法でやってもいずれ民衆からかけられる“プレッシャー”によって“不正”という泥に汚れる。そんなやつらじゃ、お前の望む“平和”はいつまでも来やしない。」

立て続けに起きる政治家の不正で民衆の信頼もない。だからこそと思っていた。

「力があれば、お前はこの国を平和にできる...。ならば、答えは分かるな?」

ダイスケは迷った。しかし結果として彼はイスパードとなる道を選んだ。


「だがお前たちのやり方を見て思った。俺がやっていることは、本当に平和への道に繋がるのか、と。気づけば俺は究極の力とやらを求めて戦ってきていた。」

ダイスケはいきなり改心していた。最後に会ったときは酷く悪者だったのに。

「いきなりなんだよ、お前。」

エージが睨みをきかせて言う。

「俺が欲しいのは究極の力じゃない。この国の平和だ。ルーグらに潰されては平和もなにもない。」

「やっぱ支配しようとしてんじゃねぇか...!」

「違う! 信じろ...。」

ダイスケもエージをにらみ返した。

「本当の目的はなんだ?」

「ルーグを倒し、この国を平和にする。」

「テオスがあんだろ。」

「ルアフの部は既に潰した。」

「...やっぱ信用ならねぇよ。」

「...。」

ショウは二人の話を黙って聞いていた。

「まぁとりあえず、どうせ行くところなんてないんだろ。3日だけ泊まらせておいてやる。」

彼はダイスケに言った。

「俺は罪人だ。行くところなら1つあるだろ。」

「許されないことをしたのは確かだ。でもあんたが改心したこと、ちょっとだけ信じてみてやる。」

「はぁ!? お前、冗談だろ!? こいつに何されてきたか覚えてねぇのかよ!?」

エージがショウの胸ぐらを掴み、前後に揺すった。

「覚えてる。ただ、本当に改心したのか、嘘か本当かを見極めるだけだ。言ってることを全部本当だっていう根拠も、嘘だっていう根拠もない。半信半疑だ。だから、本人にそれを作ってもらう。」

ショウはエージの手を払ってそう言った。

「...どうなっても知らねぇぞ...!」

「その時は...覚悟してもらうだけだ。」

エージはショウが言ったことを聞いたあと、ソファの上で死んだように眠っているキドラに視線を移した。彼女はあれからずっと眠ったままなのである。

エージはそんな彼女を見て不安で胸がいっぱいだ。そのためにいつもより少し荒々しい態度をとるようになっている。

彼は自分でもそれに気付いたため、紛らわそうとして地下室へ降りた。

そんな重い空気を少しでも和らげようと、ラータがテレビの画面をつけた。今放送していたのは、料理番組だった。


夜。

《番組の途中ですが臨時ニュースが入ります。》

テレビのスピーカーから男性アナウンサーの声が聞こえた。さっきまで見ていたドラマの場面が一変し、机の上にある原稿を読むその人の姿が映った。

《本日、本国の各テレビ局に、サテル国の軍の一人と見られる男性から、本国の国民宛の声明文が届けられました。》

サテル国のその人とは、恐らくカズトのことだろう。内容は色々と丁寧に言い回したようなものだった。

荒々しい戦いぶりを見せたあの男とは似合わないようなものだったが、要約してまとめると非常に彼らしいことが分かった。

“外にいる奴は例え一般人でも排除対象だ。そういうのは、問答無用でぶっ殺す。死にたくなければ家にいろ。”

それが彼の言いたいことだ。

発表をし終えると、次はルアフとサテルの戦争の途中結果を発表した。今ところは互角であるとされていたが、戦力的には向こうが優勢だ。

ショウはそれを見て何かしらの対策はないかと考え始めた。


地下室にこもり、ひたすら(大好物のカニクリームコロッケを食べながら)コンピューターの画面を睨む。カタカタとキーボードを指で鳴らす音が質素な部屋に響く。

コロッケは既に10を越える量を食べている。ラータがそんな彼を心配しながら、集中を途切れさせまいとただただ背後から見守っていた。

「あーもうだめだぁ!!」

半分ボサボサしていた頭をかきまくり、机に突っ伏した。

見ていたものは、ラータのプログラムだ。

「ショウ、少し休憩をしてはどうですか? なんの考えも無しにコンピューターをいじっていても__」

「...いや、ないわけじゃない。」

彼女が心配して声をかけたが、彼はそれを遮るように言った。

対策__ それはたった1つだけあった。アクティベーションフォームを新規に作っていた、まさに“その時”に見つけた“裏コード”だ。コードの表記は暗号化されており、それを解くと、“ストロフ”と記されていた。

そしてもう1つ気になる暗号があった。解いてみると、それが“ビビ”と表記されていたことが分かった。

ショウは、自分でも分からないがこの言葉に聞き覚えがあった。

「ストロフ...?」

ラータがきょとんとした表情で首をかしげた。

彼女は彼の肩越しにコンピューターの画面を見つめた。

「よくこんなの解読できましたね?」

「ラータ、忘れてない? 俺、元々プログラマーだよ? しかも、天ッッ才の。」

そういえばそうだった、とラータは頷いた。

ショウは彼女にカフェオレとカニクリームコロッケのおかわりを頼むと__

「コロッケはお持ちできませんが、カフェオレなら。」

「え、もうないの?」

「体に障ります。」

「いやいいって。早くはや__」

「体に、障ります。...ね?」

「はい...。お待ちしております...。」

__ というように、強制的にカフェオレオンリーにさせられた。

ラータが1階に上がったことを確認すると、画面を真剣に見始め、そして別の窓を開いた。

それは、USBメモリを読み取って出てきた画面だ。キドラのポケットに入っていたのだ。

ショウはラータがいないときにこの画面を開いていた。しかし中は見られない。パスワードでロックされているからだ。

アーマーロイドに関連するワードをひたすら入力していたが、いずれも不一致だった。

それでイライラしてカニクリームコロッケを爆食いしていたのだ。

「...『ス・ト・ロ・フ』...っと...。」

__ ERROR

「だー! くそぉお!!」

再び机に突っ伏して考え始めた。

_ そうだ、もう1つある。

「...『ビ・ビ』...。」

__ error

「なんだぁぁぁぁあ!!!!」

机に突っ伏すと、今度は頭を強く打ってしまい、いでっ! っと声を漏らした。

...

「待てよ...?」

マウスを手にし、errorの文字にあわせると、反応した。矢印が変化したのだ。

クリックすると、そこに映った文字は...


「...なにこれ...。俺のプロフィールじゃん...。」





Android #23 外来者

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