信頼、出会い
黎兎「おぉ、盛り上がってるねぇ!」
ショウ「どうしたの、黎兎さん?」
黎兎「いやぁ、かえってきたら一緒にMoon見ような!」
ショウ「え、えぇ…。」
黎兎「なんだよ、いいじゃねぇかよおー?」ダダコネ
ショウ「子供かよ!(笑)」
瓶の中身を拳に数滴つけたエージとキドラが龍のエンディアと戦闘を繰り広げる。
エンディアが放った青紫色の光の線がエージめがけて一直線に進む。彼の拳が青色の光に包まれると、手でその光線を弾き飛ばす。
光線の勢いにバランスを崩したが、なんとか立て直し、そして走ってエンディアとの距離を縮める。
キドラが後方援護として青い光の弾を数発分相手に撃つ。
「すっげ! お前もできんのかよ!」
「言ってる場合か! 走れ!」
見事に全部的中させ、怯んだところをエージが渾身のパンチを食らわせる。
「オラァアア!!」
左手でも拳を握ると、右手と同じように青色に包まれ、パンチを連打する。
「オラオラオラオラオラオラァア!! どうだぁあ!!」
相手の肩を掴み、右手を三周回転させて力を溜め、
「オォラァァァァァアア!!」
大声を上げながら最後の一撃をお見まいすると、キドラの瓶の効果もあって上半身からそいつが吹っ飛んでいく。
ビルにぶち当たって瓦礫が飛び散る。キドラの全身を青と黄色の光で包むと、それが右手に集中して大きな球状の塊になる。エージがエンディアをぶっ飛ばしたところを見計らって右手にあったそれごと前につきだすと、龍のような形をした光線を放つ。
「すっげ…!」
目を丸くしたエージがそれに見とれている間に、ビルの壁にめり込んでいるエンディアにそれが直撃して大爆発を起こす。
黒い煙が上がってはいるが、相手の反応がないことから仕留めたと確信した。
「やったな、キドラ!」
エージが笑顔でキドラの肩をたたく
「…あ、あぁ…。」
初めて敵を撃破したことが信じられない様子でエージを見る。
「僕たちが…やった…のか…?」
「こういうときは、よっしゃあ! って喜べ!」
彼女の手を握って高く挙げる。
すると彼女が嬉しそうな笑顔で
「よ、よっしゃー!」
と、大きな声で言った。
「やるじゃん、あの二人。」
『ショウ。』
「分かってる。あの二人には悪いけど、あの程度じゃエンディアは撃破されない。いつものやるか。」
いつもの必ず殺さないように威力を調整されているキックでエンディアにとどめを刺すために走って近付く。
「おっと、お前の相手は俺だ。」
ショウの行く手をルーグが遮る。
「嘘だろこんなときにかよ…!」
「こんなときだからこそだ、ジクティア…。」
銃口をショウたちに向けて発砲するが、それを避ける。
『ショウ、修復機能なんて使って大丈夫なんですか?』
「一時的に体力を全快させてから使ったから大丈夫のはず…。ラータの機能が完全に消える前に回復させたし、多分大丈夫。」
『……うしろ、きます。』
イスパードがマチェットで斬りかかって来たが、それを避けてパンチをおみまいする。しかしそれは手で受け止められてしまった。
「邪魔するなよ、イスパード!」
ルーグがそう言って持っていた銃で攻撃する。銃口から放たれた数発分の弾がイスパードを襲うが、そのほとんどをマチェットではね飛ばす。しかし一発だけ被弾して火花が散る。
「ルーグ…!」
「そいつは俺の獲物だ。邪魔する奴はお前でも許さない。」
「図に乗るのもいい加減にしろ。 お前にコア・システムの使用権利を与えたのは俺だぞ…! 恩を仇で返す気か!」
「そういえばそうだったか。忘れていたよ。だがその恩も、“忘れる程度のもの”だったってことだろ?」
恩…?
ショウがその言葉にひっかかっていたが、ラータが先にエンディアにとどめを刺すことを優先するよう提案すると、エンディアの方へ走る。
今のショウには、オーラを纏って高速移動するにはあまりにも体力が少ないために走っているのだが、ルーグが彼を狙って銃を撃つものだからハラハラする。
『攻撃の射程内です。最後の攻撃状態に移行します。』
「外せない、外さない…! 魅せるぜ“勝利”…! 見えたぜ活路!」
『帰ったらもっといい決め台詞を考えましょうか…。』
「生きて帰れたらなッ!」
高くジャンプして空中で一回転し、右足を前につきだす。
足が赤色のオーラを纏いはじめ、体は青いオーラによるブーストでエンディアの方へ一直線に向かっていく。
「セイーッ!!」
見事に命中させた。
ビルの反対側の壁からエンディアが出てきた。
「よし…!」
それを確認したショウは、上手く着地してから小さくガッツポーズをした。はっとしてエージらがいる方に目をやる。
「ゴリラ! 政府に連絡入れておいてくれ!」
大声で電話するジェスチャーを交えながら言うと、
「あぁ! わかった!」
と拳を高々に挙げてそう答えた。
「さて…次は…お前か…。」
立ち上がってルーグを睨む。
「フフッ…。」
奴は持っていた銃を彼に突きつけながら迫ってくる。
ショウの体はとっくに限界を迎えている。ここで戦えば確実にやられるだろうが、彼はそれを承知の上でルーグと戦おうとする。
「…やめだ。」
「…は?」
前に突き出していた銃を下げて耳をほじる素振りをする。
「お前に死なれちゃ困るからな。お前、さっきは俺を利用しようとしたろ。」
「…な、なにを__」
ルーグが片足体重で立って人差し指で自分の頭をつつく。
「エージを囮に、自分をある程度回復させる作戦で『死ぬと思ったら大声で叫べ』ってそいつに言ってたの、そういうことだったんだろ?」
「…そうだ。あんたはあいつを死なせたくないって言ってたからな。けど予定より早めに回復させられたから俺が助けにいった。」
「…フフフ… そいつぁあ面白い…! また会える日を楽しみにしてるぞ、ジクティア!」
「俺は勘弁だ。」
ルーグが背中を見せると、歩いて疲弊しているイスパードに近付き、煙を出して二人は姿を消した。
『ショウ…』
「…だよなぁ…。」
ルーグに攻撃されたダメージと、鎧の修復と体力を一時的に回復させるために削られた分の負担が大きすぎた。最後にルーグと戦闘をしなかったから消滅はしないかもしれないが、それでも解除した瞬間に昏倒するだろう。
アームド中の回復は、あくまでも戦闘を長引かせるためのものであって、本当に回復させているわけではない。
つまり、回復機能はデメリットでしかないのだ。それゆえに乱用すれば装着者の体力が尽き、倒れるようになる。体力の消費も限界になるとアーマーロイドの全ての機能に狂いが生じて強制解除され、両者共消滅する。
だがショウが先程行った強制アームドの前にラータの“能力”によって回復したショウであれば、倒れるくらいで済む。
「死ぬわけでもなし。」
『ショウ…!』
ショウとアームドしていたラータの鎧が赤い光の粒子となって散り、ショウの目の前に集合して彼女の姿が出来上がった。
膝から崩れ落ちるショウを抱いて受け止める。
「ショウ…。はぁ…。」
意識を失った彼を、ラータは横抱きにして運んだ。
1週間もすればショウも完全に復活して黎兎のコーヒーを飲んでいた。
「あー実家のような安心感。」
コーヒーを一口飲んだ後に一息着くと、カップを受け皿に置いてスマートフォンを覗く。
「ははは、そうかそうか! じゃあたくさん飲め!」
「遠慮しとく。不味いし。」
画面を見つめながら無愛想に即答した。ショウのスマホから女性の声とBGMが鳴る。
「お、Moonか?」
「そ。あんたに教えられてからしばらく見てやってるけど…。」
Moonとは、ネットで活動している二人組のアイドルである。
毎日決められた時間に生配信をしており、ショウは黎兎に教えられてから見るようにしている。しかし、なにがいいのかイマイチ分かっていない。
「やほーみんなー、ミユだよー。」
銀髪で黄色の瞳でちょっと派手めな服を着ている(恐らく衣装だ。)小柄な女の子が画面の向こうで手を振っている。
「こんにちわー! ミドリんだよー!」
名前の通り緑色の髪と瞳で、こちらも似たような服を着ている女の子が指でピースサインをしている。
画面の左端には生配信を見ているであろうファンたちが一斉にコメントしていた。
「みゆたーん!」「みどりん!」「可愛いよー!」といった具合のコメントが多い。
ただひとつ、金色の枠に囲まれたコメントがあった。それのユーザー名は「カズ@みゆたん推し」で、金色の枠に推し名が書かれていることから、Moonのいわゆるガチ勢というものだろうか。
「あ、カズさん。チーッス。いつもありがとうございまーす。」
流れ続けるコメントにミユも目に止まる。
「あぁミユたんはいいぞ? お前も推したらどうだ?」
黎兎がコーヒーを飲みながらショウのスマホを覗き見る。
それに気付いて黎兎の顔を見ると、彼もショウの顔を見た。
「いやよくわからねーわ。」
「可愛いとかっては思わないのか?」
「思うけどさー。」
アイドルの楽しみかたを知らないショウが目線を黎兎からスマホに戻すと、コメント欄からファンの名前を読み上げていた。
「…『こんにちわー、初見です。』っと…」
ショウが初めてコメントを打って送信した。
結局名前は読まれなかった。
Android #12 信頼、出会い
ショウ「なぁ黎兎さん。」
黎兎「どうした?」
ショウ「いや、メタ発言なんだけどさ、なんで黎兎さんだけ漢字表記なの?」
黎兎「カタカナの方がいい?」
ショウ「俺は“翔”でショウ、エージだって“影次”、黎兎さんだけだよ。」
黎兎「いいじゃねーかよー。結構気に入ってんだぞこの漢字!」
ショウ「ふ、ふーん。まぁいいか。」




