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アンドロイド  作者: 中川 はじめ
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擬音と不穏と理解不能

ショウ「…。」

ラータ「早く起きてくださいよ…。」ペチペチ

ショウ「…。」

エージ「こいつあとでタコがトラウマになったりしねぇよな?」ペチペチ

ラータ「どうでしょう…。今後また特殊な液体で弱体化してくる敵に備えないと…ですね…。」ペチペチ

目を覚ましたショウが第一に目に入ったのは心配するラータの顔だった。

ソファーで横になっていたから覗き込むような形だろう。

「大丈夫ですか!?」

ショウは自分の手をボーッと見つめる。まるで一体自分に何が起こったのか分かっていないかのように。

「ラータ、泣いてたぞ。」

湯気のたつカップヌードルを持って現れたエージがさらっと言い出した。

「な…なにを…!?」

バレたくなかったのか、下手に誤魔化し出したラータを可愛く思ったショウはラータの頭を撫でてやった。

「心配かけてごめん。無茶なこともさせて悪かった。」

整えたはずの髪の毛をボサボサにされながらラータは涙を堪えていた。

「戻ってきてありがとう…ショウ…。」

「あぁ…。」

気が付くと、ラータがショウの手を強く握っていた。


「もう大丈夫なのかよ?」

筋トレをするエージが、コンピュータをいじくるショウを見て調子を問う。

「お前は?」

「このとおり。…グッ…! ぜ、ぜぇえんぜん、だいじょーぶ……。」

マッスルポーズを見せるが傷口の場所を、手でかばう。

「怪我が完治してるわけでもないのに筋トレ何てしてたら傷口悪化するぞ。」

「俺は大丈夫だって…。 それより、なにしてんだよ。」

「新しいアーマーロイドを作る。水の能力を使えるようなやつ。しかも攻撃力が高くて一人でも充分なやつ。あ…念のため火の能力もつけておくか。」

「エキスを政府に送んなきゃダメなんだろ?」

「あぁ。ある程度の能力の基盤を作ってそれを送るんだよ。そしたら時短だろ。こいつはお前の本当の相棒になる。大事にしろよ。」

言ったあとにすぐさま再びコンピュータのキーボードに指をかけてカタカタと音をたてる。

よく見たら奥に、大人が一人入れるほどの大きな装置があった。なにかを表す円形のメーターが3つほどついており、それぞれが何を指している針なのか分からないが、それが小刻みに震えている。機械自体がコインランドリーの乾燥機のような音をたてている。

「これなんだよ…?」

「能力の基盤を作るためのやつ。考えを政府の人に伝えたら特別にもらった。」

エージの問いに対してショウはコンピュータの画面から一切視線を離さずに答えた。

「電気代とんでもねぇぞ……。」

「特殊な電池で動いてるから大丈夫。あ、触んなよ?」


数時間も休まずに作業を続けていたショウだが、さすがに疲れたのか一旦作業をやめた。

時計を見ると長い針と短い針がそれぞれ1と6を指していた。そして皆が静まっていることを考えると今は深夜だと分かった。いや、別に皆が騒がしいわけではないが、第一にあのゴリラが筋トレをしていない。

ショウは1階に上がってコーヒーでも飲もうかと思った。

黎兎さんが教えてくれたコーヒーの淹れ方を真似て出来上がったコーヒーを一口飲む。

地下にいたから気付かなかったが、雨音が聞こえた。

深夜に一人、雨音を聞きながらコーヒーを飲む。

ショウはあの狂気染みた声やしゃべり方をする男について考えていた。

最初に遭遇したときもそうだったが、何故完全に殺せるタイミングで自分を殺さなかったのかが疑問だった。

《今死なれちゃ困るんだよなぁ…。》

奴が言っていたことでひっかかった言葉だ。今は死なれて困るということは、何かしらに自分を利用するということなのか。

《仕方ない。助けてやるよ。》

後に脅威になるであろう敵をわざわざ助けた目的を知りたい。…いや、違う。正しくは“何に自分を利用しようとしている”のかを知りたい。

《精々後悔させないでくれよ?》

分からない。結局分からず終いだった。

奴の企みが読めなくて不愉快だったショウは、コーヒーを飲み干すとさっさと作業を再開させた。

「利用されてたまるか…。どうせろくなことじゃない…。絶対に目的を吐かせてやるし…阻止して見せる…。」


階段から誰かが降りてくる足音が大きくなってくる。

「おはよ…って…!?」

姿を現したエージが目を真ん丸にして見たものに驚く。

「へへ! すごいでしょ!? やばいでしょ!? 半端ないっしょ!?」

純粋な少年のように笑顔になってるショウが持っていたのは、青色のナックルだった。

竜を思わせるようなペイントが施されているそれには、小さなボタンが付いており…いや、もう全体的になんだこれは。

「ここ押して、これで相手をぶん殴るとすっごいんだよ! もうね! しゅってやってボカっていったら、もう、ズドトドドドォォォオ!! って!」

嬉しそうに満面の笑みで跳び跳ねながら興奮ぎみに話す。

「お、おぉ…なんかよくわかんねぇけどすげぇな。」

「威力を検証したいな…! あ、そうそう! しかももう新しいやつは開発されてるし、近日中に届くぞ!」

興奮も冷めていないようでずっと嬉しそうにしている。

しかしエージにとって後者の報告はあまり嬉しいものではなかった。

楽しそうにナックルを振り回すショウの姿を見て、複雑な心境になる。

「なぁ、ショウ…。キドラの件だけどよ…。」

エージが切り出すとショウが静まった。

「あいつ、解体は決定事項でもうかわんねぇのか?」

「…あぁ。ま、あとはキドラ次第だ。…てかもともと本人も解体を望んでたんだし…。」

「あいつの意思が途中で変わっても?」

「意思が変わるだけじゃダメだ。なにか実績を残して役に立つという保証がないと。」

「…役に立つ…か。」


「ショウ、エンディアです。」

ラータが地下に降りてショウに敵が現れたことを知らせる。

「それと、“ルーグ”を名乗るものから…。」

「ルーグ?」

「“ジクティア、以前の戦闘の傷も癒えた頃だろう。俺と手合わせ願おうか。A地点の23番地にてペットと待っているぞ。PS.今回はドラゴンがペットなんだが、相当強いから何かしら対策しとくといいぞー。方法がないならなくていい。早く来い。”とのことです。」

「…? よく分からんけど行って確かめればいいか。いくぞ、ラータ!」

洋服掛けにあったいつものコートを着てを出ていった。

それを見送ったエージは、キドラを許してもらえるチャンスだと思い込んだ。


ルーグと名乗る謎の者から予告状ととれる手紙を受け取った。

記された場所に向かうと、確かに龍のように荒々しい見た目のエンディアが街で暴れており、町民は逃げることに必死だった。

念のため最初からアームドして登場したショウが“ルーグ”を探る。

「待っていたぞジクティア。俺がルーグだ。」

赤黒いコートを着ながら鉄の鎧を身にまとったスラッとした男がそこにいた。

髪型もチャラついているのか、ショウたちから見て左が黒く、その反対が赤い。そしてなにかのマスク(あれが変声機か? )と仮面を着けている。

「こうして会うのは初めてだったなぁ?」

仮面の目にあたる部分が赤色の光を放つ。

攻撃されてボロボロになっている一軒家の屋根に片足体重で立っていた。

「ルーグ…お前が…」

『ショウ、今の私たちでは到底勝てません。』

「だからってここで退いたらエンディアが…。」

勝てなくても戦うべきか。いや、それがヒーローというものだが、ここで倒れたらもう誰も街を守るものがいない。やはりここは退くべきか。急いでシステムのアップデートをすればもしかしたら…。

「正義のヒーローは逃げないよな? ほら、やんぞ。」

イスパードと同じ銃を取り出したのを見て確信した。

こいつもアーマーコアシステムの使用者だ。

「It's show time!」

銃口をショウに向けると、すぐに5発ほど撃ち込む。

くることを予感してしたショウは緊急回避した。そして体を赤色のオーラに包んで高くジャンプしてルーグの目前まできてパンチを食らわそうとする。

ショウの拳が空を切る。見切られていた。

「まだまだだねぇ。」

嘲笑してそう言うと、銃のグリップ部分の底で殴る。ショウの肩に当たった。

怯んでしまったところを狙われて蹴飛ばされる。

地面で背中を強打して思わず声が漏れた。

「うーん? 相方はどこだ? あの筋肉質と青い髪の女…。」

そういってルーグが銃を左手に持ち直して右手を目の上に持っていって辺りを見渡す。

「…あいつらに何のようだ?」

「……。 お前が来ればあいつらも付いてくると思ったんだが…そうだなぁ。ジクティア、お前にいいことを教えてやろう。」


「…エージ、行くのか?」

「あぁ、瓶をくんねぇか…?」

ショウが出撃してからしばらく経ち、エージも出撃する覚悟を決める。

「絶対に…?」

「…? あぁ、当たり前だろ。」

いつもならスッと渡すのに、今回はなかなか渡さない。エージが差し伸べた手を払ったキドラは、キューブパズルをいじり始める。

「ふざけてる場合かよ! 早くよこせよ!」

エージがそう言ってもしかとするキドラに対してイラッとしてしまう。それを察したキドラがエージにキューブパズルを渡す。

「5分。」

「…は?」

「5分以内にこれ、色を揃えて完成させて。」

彼女から手渡されたキューブパズルを受け取る。

「…解けばいいんだな?」

「5分以内ね。」

「上等だ…! やってやらぁ!」

カチャカチャという音がなり、2分にもなるとエージがイラつき始めている小言が聞こえる。

5分経ってキドラがキューブパズルを見に来ると、机に突っ伏したエージと全く色が揃ってないそれがあった。

「無理だ…俺には無理だ…。」

ブツブツと机と話しているかのように呟く。

「…。じゃあ残念ながら渡せない。」

彼女がパズルを取り上げる。

「なんでだよ…。なんでそんなに渡したくねぇんだよ…?」

「…いいだろ、そんなこと。僕の気分だよ。」

パズルを置きに部屋へ戻ろうとする。

「…そっか…。じゃあ仕方ねぇ。生身でやってくる。」

「は…!? バカなのかお前…!」

驚いてエージの方に勢いよく振り向く。

机に突っ伏していたエージは体を起こしていた。

「ここで行かなかったらショウが殺られちまうかもしれねぇ。」

「そう言うけど…自分のからだの安全が最優先だろ…!?」

「あいつはそれより他人の安全を優先する。それなのに俺は…。」

寂しそうでも悔しそうでもある表情を浮かべて自分の拳を見つめる。

「とにかくだ。俺は生身でもショウを助けに向かう。後をどうするかはお前が決めろ。」

エージは立ち上がるとそのまま家を出た。

「あいつ…バカだろ…。…僕には関係ない…。」

「だから…なんつーか……お前には感謝してる。命の恩人だからな。」

病室でエージが彼女に言ってきたことを

思い出した。じっとしていられなくなったキドラはエージの後を追った。




Android #10 擬音と不穏と理解不能

ショウ「はー…起きたときに両頬が赤くなってたのお前らのせいか。」

エージ「起きねぇから。」

ラータ「エージさんに同じく…。」

ショウ「起きないからってペチペチするんじゃないよ全く…。」

エージ「あ、たこ焼き食いたくなった。」

ショウ「タコの話するな。トラウマなんだ。」

エージ&ラータ「えぇ…。」

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