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三日目

翌日、シンデレラはベッドに横たわり―いやもういいです、家事と裁縫をしている時以外はたいてい部屋にいて寝転がり、寝ているか本を読んでいるかぼーっとするかしているのがシンデレラでした。

星もあるからぼんやり見ているだけでなければないでいいのです。雨や曇りの日なんかは天井の染みが何に見えるか考えていたりします。


「オラ魔法にかかる心づもりはできたかシンデレラ」

「押し売りのようですね魔法使い様」

「無償で幸せになる魔法をかけてやろうというんだ、ありがたく受け取れよいい加減」

「その言葉はどう聞いてもうさんくささしか感じません」


同じようにキラキラとした光とともに現れた魔法使いの姿を確認して、シンデレラはもぞもぞとベッドから抜け出すとショールを体に巻き付け、扉に手をかけます。


「どこに行くつもりだ、助けを呼ぶつもりなら使用人は眠りの魔法がかかってるから朝まで絶対に起きないぞ」

「助けを呼ぶって言っちゃってるじゃないですか魔法使い様。お茶を淹れてきます、さすがに私も魔法使い様の前で寝過ぎだなと思ったので」

「いい心がけだな。舞踏会で寝こけて朝を迎えるとか冗談にもならんし」

「舞踏会には行きませんからそんなことはありえませんけど」

「あ、12時超えると魔法の効力が切れるからドレスが元のボロ服になるぞ、気をつけろ」

「だから舞踏会には行きません、ていうか12時過ぎまであるんですか…!みんなよくそんな体力ありますねリア充恐ろしいな…!」

「食いつくところはそこか」

「…12時超えたら魔法が消えるとか魔法使い様もしかしてヘボいんですか」

「だからってそこに食いつくのか!違えよ、12時過ぎて帰らないってことはお持ち帰られても文句は言えないからな。いくらテンションが上ってても12時にドレスがボロ服に変わるってなればちゃんと帰ってくる気になるだろ。まああの王子がそんなことするとは思えんが――他の男が襲って来ないとも限らないし」


ほうほう、と納得したようにシンデレラはうなずきます。


「なるほど下世話な思いやりからだったのですね」

「下世話言うな」

「あ、ついつい本音が。すみません、下世話使い様」

「そんなもん使った覚えねえけど!いいから茶を淹れてこい、また寝るだろお前!」


それはそうですね、とシンデレラは今度こそ扉を開けて出てゆきました。




            ***





「おかしい…こんなはずじゃなかったのに…」


ぐったりと魔法使いは椅子に腰掛けひとりごちます。


「どう見ても継母と姉の仕打ちに文句も言わずけなげに耐える少女っていうか、色白で華奢で物静かで今にも倒れそうな儚げ美少女だと思ってたのにあんな引きこもりの変な奴だとは…」


当人がいないと思って結構好き勝手言うのでした。

ちなみに色が白いのは外に出ないからで華奢なのは筋肉のつくようなことをしていないからで物静かなのは一日家の中でとくにべらべら話すことがあるわけでもないからで今にも倒れそうなのは眠いからといった具合です。


「感謝してもらおうと思って来たわけじゃねえけど、さすがにいらねえって言われるとは思いもしなかったっつーか…」

「もっとこう…うるうる目で見つめてきて、馬車にドレスにガラスの靴!これで私も舞踏会に行けます!ありがとう魔法使い様!みたいな…!」

「それはご期待に添えませんで」

「うわ!早いなお前!…ていうかどこから聞いてた!?」

「馬車にドレスに、辺りですけど」

「そうか!ならいいんだよ、なら!まったく!」

「なんでキレてるんですか…」


シンデレラはテーブルの上にティーセットの乗ったお盆を置きました。

ティーポットからカップに紅茶を注ぐとふわりとよい香りが部屋に漂います。


(いちいち手つきが優雅なのはさすが貴族の娘だな…)


流れるような所作をぼうっと見ていた魔法使いは思いもよらず目の前に紅茶を差し出されて驚きました。


「え、俺の?」

「ええ、よろしければ。さすがに目の前に人がいるのに私の分だけ淹れるわけにもいかないじゃないですか。お茶請けのお菓子もあるんですけどどうです?」

「…貰う」

「どうぞ。お口に合えばいいんですけど」

「もしかしてお前の手作り?」

「はい」

「ふーん…」


なんだか嬉しそうな魔法使いが一口お菓子を口に運び、二口目も食べ進めたところでシンデレラも口をつけました。

あまり家族と使用人以外に料理やお菓子を振舞ったことがなかったので実は内心ドキドキしていたのです。

二口目を食べたということはまずくはなかったのだろうと判断して、ほっと胸をなでおろしていたのでした。


「しかし夜に食べるお菓子ってどうしてこう美味しいんですかねえ」

「ああ、それはわかる。俺も研究してるといつの間にか深夜になってたりしてて。んで小腹空いて菓子つまんだりするんだけどさ、昼食うのよりなんかうまく感じるよな」

「背徳感でしょうか、どうあがいても脂肪…みたいな…!」

「ちょっと上手いこと言ったと思ってるだろ」

「実は」


二人は小さく笑い合い、


「って違う、ここで盛り上がってどうする!」


和やかなお茶会の空気に流されるところだった魔法使いは我に返りました。


「こんなことしてる場合じゃねえんだよ、舞踏会だよ舞踏会!」

「そうそう。疑問だったんですが、どうやってお城までいくつもりなんです?うちの馬車はお母様とお姉様方で使っているし」

「お、行く気になったか!」

「いえただの興味というか好奇心です。聞いてみただけ」

「お前な…まあいい、もちろん魔法に決まってるだろ。そこら辺の小動物を馬やら御者やらお付きの人間やらに変身させるのくらい朝飯前だ」

「わぁ、それはすごいですね!小動物の姿形を変えるのはまだしも、思考能力まで人並みにできるってすごく上級の魔法でしたよね…!?魔法使い様ってすごい魔法使いだったんですね」


本気で感心した声を上げるシンデレラに、魔法使いは口元に手を―もちろんにやつく表情隠しです―やって、ぼそぼそと答えます。


「ま、まあそれほどでもねえけど」

「馬車自体はどうするつもりだったんですか?」

「かぼちゃだよ。でっかいのが台所にあったろ」

「あ、あれ今日使っちゃいましたけど」


ていうかこれです、と二人で食べていたお菓子――かぼちゃタルトを指しました。


「…………なんで使う」

「自分ちの台所にある食材を使って何が悪いと」

「悪くはねえけど!」

「…もしかして美味しくないです?」

「うまいよ!すっげーうまいけど!!」

「ならよかったです」


嬉しそうにシンデレラが笑うと、魔法使いはぐ、と息をつまらせ少し頬を赤らめつつ不機嫌そうにかぼちゃタルトを口に運びました。

それから何なら馬車になりうるだろうとかぼちゃ以外の野菜について考えを巡らせ始めたのでした。





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