表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

アーモ

着替えのブースには、カーテンがついていました。

でも「カーテンを閉めて、使ってくださいね」と言われていません。

パニック障害になって、変わったのは、指示に350%忠実になったことです。

普通から外れたくないために、その振り幅が大きくなってしまいます。

どのみち、パニックズレになってしまいます。


紺色のカーテンは、半ば閉じた状態でした。

ここで、荷物を置くのに、カーテンを「シャー」と閉めると、怪しい人に思われるような気がしました。

しかも、目を据えて、本田先生の位置を確認してから一気に閉めたりするなら、攻撃的防御です。

中には、荷物を置く籠がありました。

そして、右奥には、確実に隠れて着替える場所がありました。

新たに、薄いクリーム色のカーテンも付いています。

「運動する格好で来てください」

本田先生の電話での言葉を思い出しました。

「なるほど、だから、ここは、荷物を置く場所なのか。つまり、この奥の着替えのブースは、よっぽどお洒落な人が使うのかな」

それで、私は荷物置き場の方で、丈の短い、着古したジャージのウエストを下ろしました。

右脚を抜くと、よろめきました。

私は、その間、奥の着替えブースを見ていました。

タイル二枚分くらいのお洒落な人用スペースです。

トレーニングの後、きっと、お出掛けの洋服と下着に変えるのです。

そこに、その人は、真っ直ぐ立って、カーテンを閉めます。

そしたら、本田先生が部屋の中央で、マニュアル通りに声をかけます。

「よろしいですか?準備OKですかぁ?」

カーテンの内側から、「はい」と返事があります。

「はい、大丈夫ですねぇ。腕は体の横にしたままで。行きますよぉ」

「転送!」

青く光った後、ブースの中には誰もいません。


そんな空想をしてから、私は本田先生の前に立ちました。

薄手のブレーカーとジャージを脱いで、出て来た私は、口元だけ笑った顔をしていました。

本田先生は、私から3メートルほど離れて立っていました。

目を細めて、眉を寄せています。

そりゃ、ウエディングドレスの試着室から出て来たようには行きません。

「何かが違うんだ」と、私は気がつきました。

パニックの繊細アンテナで電波を拾います。

本田先生の目線は、上半身にありました。

私は、「もしかして」と検討をつけました。

「あのー、長袖Tシャツ、持ってなくて」

私は、細い枝のような腕を片方の手で触ります。

本田先生が、子どもに言い聞かせるように言いました。

「あー、寒いかも。羽織っていたほうがいい」

実際、私はいきなりの半袖で、すでに鼻を啜り始めていました。

私は荷物置き場に戻りました。

それは、ねずみがチョロチョロと動く様子に似ていました。


「よし、これで完了だ」

私はブレーカーのチャックを閉じて、本田先生の前に行きます。

「はい、では、鏡の前に真っ直ぐ立ってみてください」

私は、言われたとおりにしました。

「両足をそろえてぇー」

つい、仁王立ちしていました。

新品の運動靴をピッタリそろえます。

本田先生が、何か見つけたような声を出しました。

「あれっ?もしかして、アーモ?」

「へっ?」

両足はきちんと揃えたはずです。

「アーモ?って、なんだろう」

心の中で、膝の形か、それとも、脚の変形の種類かもしれないと予測しました。

本田先生は、顎に指を当てて、私の下半身に「あれれ?あれれぇ?」という視線を向けています。

私は、爆速で考えました。

ここは、「はい、そうなんです。アーモなんですよ」と笑顔を添えて返すところなのだろうか。

しかし、知ったかぶりは悪い結果を招きます。

賢い子ねずみは、素直に聞きました。

「アーモって、何ですか?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ