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シャーマンと部族

ボクシング4

持てる限りのスポーツ的装いをしました。

玄関の姿見に映します。

「うん、よくやったよ」

私は鏡の中の着膨れした自分を褒めました。

半袖とレギンスだけでは寒いので、その上から、ブレーカーとジャージを履きました。

とりあえず、洋服の前と後ろは間違えていないと頷きました。

そして、約束の四十分前に家を飛び出しました。

ジムの場所が全くわかりません。

市内なら、四十分あれば、大抵はどこでも着きます。

車に乗り、一番最初に、携帯を使い検索しました。

「聞いたことのない地名だなぁ」

その読み方のわからない町の名前をナビに入れ、番地も選びました。

さぁ、いよいよ出発です。

遂に、発作を起こさずに、ここまで来ました。

そう考えると、私は急に緊張してきました。


「あーあー」と、無音のリズムが体の奥で私をせきたてます。

私の体の中に、シャーマンとその部族がいます。

首長が洗濯板を棒でこすり、この独特の拍子を出します。

そして、シャーマンがそのうち、天を仰いで、祈りを捧げ始めるのです。

この祈りになったら、私は苦しみます。

洗濯板と棒の微かなリズムのうちに、部族の皆んなが肩を揺さぶっている段階で、何とかするのです。

私の目が落ち着かなくなりました。

「これは、一錠キメなければ辿り着けないな」

私は自分に言いました。

鞄から、震える指で薬を取り出しました。

それが、また、直径三ミリに満たない錠剤なのです。

口元で落としかけました。

薬用に常備していたボトルから水をゴクゴクと飲みます。

それから、栄養ゼリーのパックをブシュッと潰して、吸い口から喉に流し込みました。

なぜか、ボクシングに行く前から、ワイルドです。

なりきりの気持ちとは、面白いものです。

「ふふっ」と、笑いが込み上げました。

さ、今度こそ、出発です。


本当は、薬を飲むのが苦手です。

どんなふうになるのか、心配なのです。

「あくびばかりして、涙目で運動するかもしれない」

それもかなり困ります。

座って話を聞きながら、いきなり、いびきをかいて寝たらどうするか。

でも、考えないことにしました。

「いいんだ、変でいい。色々な意味で、いいんだ」

独り言を繰り返しました。

ナビに従い、大通りに出ました。

「そして、左、左と」

昼食の時間で、交通量が少なくなっていました。

交差点の信号機を眺めて待ちます。

「赤だねぇ」

薬は、次第に気持ちを楽にしてくれました。

そのうち、見たことのある場所に来ました。

「目的地付近です」

今朝の散歩のところでした。

ナビはかなり遠回りしましたが、ここは歩いて行ける距離でした。

車一台分、引っ込んだ、あの黒いガラス張りの建物です。

「あー、ここか」

私は、足早に過ぎた、蛍光ピンクの掲示板やトレーニングの看板を思い出しました。

車を止めて、シートに背をつけ、一息つきました。

薬を飲むと、私はムーミン村の一家のペースになります。

「うーん、とうちゃくして、とりあえず、よかったヨォ」

私は、運動靴とタオルと水の入った袋を持ち、車から降りました。

黒いガラスの反射に、自分が映っていました。

ジャージから足首が二十センチくらい出ています。

黒い靴下がはっきりと見えました。

しかも裾口だけが横にぴんと張り、浮き上がっています。

漫画で描くズボンのようでした。

「うーん、よい。かなり、へん」

ものすごく、寛大です。

「ここまでくれば、仕方ないでしょう」

笑っています。

薄手の白いブレーカーを羽織った私は、そのジムのドアを押しました。

午後一時の約束に、十五分前のことです。









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