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【電書全二巻発売中】バッドエンド回避のため、婚約者は打算で選んだ…はずでした。【コミカライズ単話有料配信開始】  作者: 心音瑠璃
本編

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20/43

そんな未来は認めない

 そして、運命の最終試験日……魔法実技試験当日。


(な、な……!)


 何てことなの……っ!

 思わずふらつく私を、隣にいるクララとそのまた更に隣にいる殿下がこちらを見つめる。


 神様はどこまでも私に意地悪だと思う。

 バッドエンドを迎える悪役令嬢のアリシアに転生させたことも然り、全く勉強しない悪目立ち公爵令嬢に加え、それに引き換え妹は次期聖女ということも。

 そして、今回は。


「どうして最下位の私の試験の順番が、クララの次、しかも最終番になるの!?」


 そう、よりにもよってくじ引きで決まった試験順番が、まさかの殿下の次がクララ、そして私(最後)になるという悲惨な運命を迎えてしまったのだ……!

 失敗は許されないというのに、それ以上のショックで一気に絶望に陥る私に対し、クララは励ますように声をかけてくれる。


「お、お姉様は最下位ではないでしょう?

 それに大丈夫よ! お姉様はマクレーン様と休み時間も特訓されていたとお聞きしているもの!」

「……え? なぜクララがそれを?」


 思わず尋ねた私に対し、聞いてもいないのにその隣にいた殿下が口を開く。


「知っているも何も有名な話だ。マクレーンとお前が親密そうにしていることなど」

「は!?」


 そんなに私、目立っていたの!? という気持ちでクララの方を向けば、クララに暖かい目をされ、微笑まれた。

 ……クララには何でもお見通しなのね……。

 恥ずかしいと思いつつ、殿下の“親密”という言葉に昨日の出来事を思い出す。

 月明かりの下、カイル様に抱きしめられたあの時のことを。


「〜〜〜あーーーー!!」

「「!?」」


 思わず叫んでしまった私に対し、周りが何事かとこちらを見る。

 それにまた恥ずかしさを覚えつつも、試験を無事に乗り切れるか心配になる。


 ……という心配も、ちょっとずつ薄れていった。

 それは。


「わぁ! クララすごいわ!? 今雷が落ちたわよね!?」

「天候魔法だけど、雷魔法は上級魔法の中でも大変だと聞いているわ!」

「え、今度は火炎魔法!? あんなに大量に火を出せるなんて殿下顔負けでは!?」

「あの程度造作もない。さりげなく俺を落とそうとするな」


 順番待ちをしている間に繰り広げられる皆の試験……、殆どの生徒が上級魔法を発動しているのを見て感嘆の声を漏らす。

 それらを見ていると、私は本当にカイル様と特訓をしてきて良かった、と心の底から思う。

 でないと、本当に悪目立ちも良いところだった。

 そうこうしているうちに、あっという間に100人以上の生徒が終わり、残すは殿下、クララ、私の3人のみとなった。


「殿下、出番ですね」


 クララの言葉に、殿下は頷き口にした。


「あぁ、行ってくる」

「頑張ってください!」


 そう言って微笑み合う二人を見て、良いわ青春だわ〜なんて思いながら、殿下が踵を返した瞬間、不意に頭にキンッと鋭い痛みが走る。


「痛っ……!!」

「お、お姉様!?」


 咄嗟に頭を押さえる私に対し、クララが慌てたように私の肩を支える。


「どうしたの!? 頭が痛いの!?」

「私、何か、大事なことを忘れている気がする……」

「え……?」


 そう呟いた刹那、ある文章が脳裏に浮かぶ。

 “聖女クララ、覚醒の時”……。

 それを思い出した瞬間、私は皆の前に進み出た殿下に向かって叫ぶ。


「殿下! 危ない!! 逃げて!!!」

「え……、!?」


 殿下が振り返ったのと、彼の背後、空を覆うように“何か”が現れたのは、ほぼ同時だった。

 そして私は、その“何か”を見て確信する。


(あれは、火竜!!)


 “たがため”において、夏休み前のこの実技試験は重要な場面となる。

 それが光属性の聖女でありヒロイン・クララが覚醒する理由となるエピソードだ。

 そしてそのエピソードでは。


(突如現れた火竜……、それもただの火竜ではなく魔王の手下という強敵により、殿下が大怪我を、そして生徒からも死傷者が出てしてしまう!)


 このエピソードは、クララが聖女として覚醒する大事な要素となる話。

 だけど、転生した今、それらが多くの犠牲の上に成り立つのは間違っているのではないかと思う。


(いくらクララが光属性を扱い、負傷した生徒を治すとはいえ、中には死んでしまう生徒も少なからずいたと描かれていた。

 ……どうすれば!!)


 そんな私達に、考える暇などなかった。


「生徒は全員、学園の中に避難しなさい!!!」


 先生方が必死に叫び、生徒達に迫る魔の手を封じるよう、すぐさま防御結界を張る。

 けれど、火竜から発せられた熱風と咆哮により、応急処置で張られた防御結界は散り散りとなる。

 そして極め付けは。


(今は私達三人以外に魔法を扱える生徒がいない……!)


 先程の試験で、生徒は全力を出し切っている。

 そのため、少なくとも上級魔法を扱えるほどの魔力は残っていないのだ。

 だからこそ、多くの犠牲が出たのだと小説では描かれていた。

 現に、皆一目散に逃げている。

 ……私と、殿下と、クララを除いて。


「貴女達、何をやっているのです!」


 生徒達を逃すことを優先している先生方の止める声が聞こえるけれど、私はそれに応えることなくその眼差しを火竜に向けた。


(ここで、逃げてはいけない)


 今の私なら……。


「おい、お前何している!」

「お前呼ばわりはしないでください、殿下!」


 私は火竜に立ち向かおうとしている殿下の隣に立ち、手を翳す。そして。


「風よ、止まれ!!」

「!?」


 そう私が命じた瞬間、火竜の周りの風が止んだことで、翼の効力を失い、そのまま真っ逆さまに落ちてきて火竜が地面に叩きつけられる。

 その反動で地面が揺れたけど、何とか堪えている間に、殿下が尋ねた。


「お前、何してるんだ!」

「殿下こそ! 早くお逃げください! 火竜に対し貴方の魔法では分が悪いです!!」

「何だと!?」


 大怪我を負う未来が見えている私には、殿下には後ろにいるクララを連れて逃げてもらいたい。

 だけど、私の言葉を素直に聞いてくれる人ではないことに苛立ちを隠さず、口にした。


「はっきり言って足手纏いです! 火属性の貴方ではダメなんですよ!!」

「そんなことはない!」


 そういうや否や、彼は魔法を発動させる。


「火よ、彼のものを焼き尽くせ!」

「!!!」


 そう口にした瞬間、竜を覆い尽くすかのように燃え上がる。


「ギェーーーーーー!!!」


 火竜の叫び声を聞き、そしてその殿下の魔法の強さに驚く。

 そんな私に向かって、殿下が言い放った。


「お前に心配される必要はない! ……試験の邪魔をされたんだ、その落とし前はきっちりつけてもらう!」


 そう言うと、次の攻撃を繰り出した。


「出でよ、火剣!」

「……!」


 刹那、彼の手には光り輝く鞘があった。

 その鞘に収められている剣は、代々火属性の王家が継いできた紋章が刻まれた火剣……、その担い手である殿下は、後に“勇者”と呼ばれるのだ。

 そしてその鞘から剣を抜くと、殿下は剣を手に、火竜に向かって突進していく。

 その後ろ姿を見た瞬間、また新たな場面がフラッシュバックした。


 ―――火竜を覆っている殿下の魔法を喰らい、その火を殿下に放つ場面を。


 その瞬間、私の身体から全ての魔力の血が騒ぐ。

 それは、己の限界まで魔法を引き出すことの証。

 そして咄嗟に、紡いだ言葉は。


「風よ!! 火竜を吹き飛ばし、殿下を守りなさい!!!」


 その途端。

 止まっていた風が音を立て、身体ごと飛ばされそうな勢いで火竜のいる方角に向かって吹き荒れる。

 そして、命じた通りに火竜から離れた場所へ殿下は移動し、そして……。


「!!!」


 砂埃から姿を現した火竜の位置は、あれほどの強風を受けたにもかかわらず、少しもその場所から動いてはいなかったのだ。

 そんな火竜は殿下には目をくれず、私を真っ直ぐと見つめている。

 その瞬間、身体が硬直したように動かなくなってしまった。


(魔力は、もうない)


 魔力を使い果たしてしまった私に、もう逃げ場などなかった。


「お姉様、逃げてぇええええ!!!!!」


 クララの叫び声が、遠くに聞こえる。


(貴女こそ、逃げなさい)


 そう心の中で呟きながら、これが最期かと不思議と冷静に思う。


(バッドエンド回避どころか、自ら足を突っ込むなんて)


 私も運が悪いわね、なんて思いながら、浮かんだのは。


「カイル様……」


 せめてもう一度、彼に会いたかった。

 そんな私に、火竜の口から火が放たれるのがスローモーションで視界に映る。

 私はそれを、目を瞑ることもなくぼんやりと他人事のように見つめて……。


「アリシアッーーーーー!!!!!」

「!?」


 見上げたその先には、幻でも何でもない、私が最期に一目見たいと願った彼……、カイル様の姿があった。

 そして。


「っ!!!!」


 そんな彼が、私を庇うように目の前に降り立つ。

 そして。


「闇よ、彼のものを始末しろ……!」


 そう今までに聞いたことのない、低く地を這うようなカイル様の声と共に、カイル様の身体が黒い靄で覆われる。

 何が起きているのか、分からなかった。

 そんな私を振り返り、カイル様は小さく微笑む。

 そしてその後ろにいたはずの火竜は、跡形もなく消え失せていた。

 ……それが闇属性の魔法だと気付いたのは、カイル様の髪が黒く染まり、力無く倒れ込んでから。


「……カイル、様?」


 彼の艶がある紺色の髪は黒く、いつもは見えない前髪に隠されている頬を目にした瞬間、私の視界が真っ暗に染まる。


「……いや」


 そんなこと……、そんなの、認めない。

 私は頭を横に振ると、彼の頭を膝に乗せ……、抱えるようにしたのを最後に、意識を失ってしまったのだった。






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