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暗雲

薄氷氷織という名前は聞いたことがあった。

苗字が示す通り【王立白裂銀海学園】理事長薄氷氷河の孫で津雲たちの教官である薄氷氷雪の子息、さらには氷柱の兄であった。

『銀氷雨流』の技術も漏れることなく継承しており、その腕前は氷柱と互角らしい。

ただ、氷柱の洗練された繊細な太刀筋と比べるとどこか荒々しく、剣術という型を通して有り余る力を奔流と為しているかのようであった。

彼は理事長の孫ということもあり、上級生の中でも一目置かれている存在であった。

「こちらこそ、理事長のご令孫にお会いできて光栄です。」

津雲は笑顔で答え、握手を求めて右手を差し出した。

氷織も笑顔でそれに応じると、抱き寄せるようにして津雲の耳元で囁いた。

「『原初の銀狐』をご存じですかな?」

それはかつて、紅穂国の科兎山で『火柱』の形成に協力し、さらには津雲を【王立白裂銀海学園】へ導いた重要人物の名だった。

知らぬはずがない。

しかし、『銀狐』と津雲の関係を知られて良い気もしない。

『科兎山戦役』で孕んだ自らの罪をこの青年は咎めにきたのだろうか?

津雲はそう勘繰らざるを得なかった。

そもそも、『特別軍事支援課』に所属していないこの青年が津雲の罪を認識しているのだろうか?

氷柱の兄であればあり得る話か……?

津雲の頭の中に暗雲が立ち込める。

予想通り、氷織は津雲の罪を淡々と挙げ始めた。

「黒忍軍幹部からの洗脳、紅穂軍退役軍人の暗殺、紅穂軍との共謀、そして、『火柱』の形成への協働。他にも何か(やま)しいことをされましたかな?」

津雲は思わず氷織の身体を突き飛ばした。

津雲の心を蝕む暗黒が自然と彼にそうさせた。

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