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糾す剱

「それを威圧と呼ぶのだろう…!」

『白騎士』は大兜越しにあすかと目を合わせた。

自ずと生じた緊張感をひしひしと感じ、図らずも二人は階段を駆けた。

急げば急ぐほど、その白裂の天上へ続く階段が長く感じる。

白裂王家の紋章が刻まれた甲冑が、いつも以上に彼ら二人の心身に重圧を加えた。

王の間を隔てる扉の前に立つと、二人は息を整えながら、中の様子を窺うように耳を澄ました。

すると、恭しくも妖しき声が二人の鼓膜に響いた。

「では、殿下、紅穂への行軍に関して、手始めに地理的な優勢を得る必要がございます。そこで、私がこの国の宰相になり、科兎山を制するというのは如何でしょう?」

一瞬にして『白騎士』の眉間に皺が寄る。

妖しき問いに、まるで無理矢理言わされているかのように白裂王が答える。

「…ぬ、累陰、汝を白裂の宰相に、くっ…。任命する…!」

『白騎士』が震える手で扉に手を掛けた。

「…総て、汝の良きように計らえ。」

『白騎士』は怒りに震えながら、しかし、冷静さを必死に保ちながら、あすかに耳打ちした。

「刺客は予想以上に強敵らしい。我が陛下を保護し、説得する。天剱殿は刺客が陛下に危害を加えぬよう対峙したまえ。ただし、決して汝から奴に剣戟を加えてはならない。…できるか?」

「お任せください。」

「宜しい。陛下を説得したら、陛下のご許可をいただいた上で我が刺客を捕縛する。それまで持ち堪えたまえ。」

あすかは覚悟を決めて小さく頷いた。

扉を隔てて二つの会話が並行に進行する。

「では、白裂王殿下、科兎山の所有権についても私どもに委任いただけるということで宜しいですね?」

「ああ、汝に委ねる。紅穂国へ行軍する際は、白裂軍を指揮すると良い。」

白裂王はまるで累陰に操られているかのように、驚愕の返答を繰り返した。

しかし、『白騎士』はその呪われた宣言を斬り裂くために毅然として王の間の扉を開いた。

「陛下、無謀な愚策はお控えください。」

重々しい金属音を具足から立てながら、二つの甲冑が並行する世界を繋ぎ合わせた。

『白騎士』は迷いなく累陰に背中を向け、白裂王の御前に膝ついた。

あすかは白裂王に背中を向け、妖しき気を放つ累陰に盾突いた。

「黒忍の諜報員よ。陛下を誑かすのをやめ、速やかに投降しなさい。」

背中合わせとなった二人の『騎士』はその本懐を果たさんと、剣を抜いた。

大きな剣はその主君の仁政を取り戻すために。

小さな剱はその宿敵の陰謀を打ち壊すために。

しかし、その姿を見て怒号を上げたのは、かつて聡明であった白裂王であった。

「失望したぞ!『騎士』どもよ!汝らは今し方我が国の宰相となった者に剣を向けるというのか?」

その錯乱へ『白騎士』が斬り返す。

「陛下、お言葉ですが、彼奴は黒忍の刺客。我ら白裂の安寧を崩す諜報員ですぞ。耳を傾けてはなりませぬ。」

「ほう。『白騎士』よ。遂に我を愚弄するようになったか。宜しい!累陰殿、紅穂を攻め落とすという汝の御力を魅せてみよ。」

白裂王の眼は今までにない邪悪を放ちながら、玉座から立ち上がり叫んだ。

すると、累陰もまた、その邪眼に妖しき気を溜め始めた。

「白裂王殿下の仰せのままに…!」

累陰は(おもむろ)に胸元から短剣を取り出すと、自らに剣を向けるあすかに返すように短剣を向けた。

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