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012 戦いが始まったと感じる前に終わっていた

 朝目覚めたあと、まずはクレンジングの魔法でボサボサになった髪や汚れた肌、制服を綺麗にする絵理。


 昨日の訓練の最中、クレンジングの文字の形と発音を覚えた絵理は、それを朝の日課にすると決めていた。


 透夜も以前は汚れが酷くなった時に使っていただけだったが、今日から絵理にならい、自分にクレンジングを使うのを朝の習慣にしようと考えている。


 必要なポーションも昨夜のうちに作っておいたし、それで失った魔力も一晩ぐっすりと眠ったおかげで回復していた。


「それじゃ、行こうか」


「うん」


 身も心もスッキリとした二人は、今日も探索を進めるべく小さな部屋を後にした。


    ◇◆◇◆◇


「……霧島さん、ちょっと止まって」


「う、うん」


 通路を歩いている最中に急に立ち止まり、同時に絵理にも停止を呼びかける透夜。


 どうしたのか尋ねようとした絵理だったが、透夜の顔が真剣なものになっていることに気付いて声をあげることはしなかった。透夜は通路の先をじっと見つめている。


 ブブブブブ……。


 やがて、絵理の耳にもかすかな異音が聞こえるようになった。おそらく透夜もこの音を聞きつけて立ち止まったのだろう。


 透夜は自分に巻きつけてあるベルトから一本のナイフを引き抜いた。モンスターの解体に使っていた大振りのナイフとは違うものだ。


 やがて、その異音の主が少し先の曲がり角から姿を表した。


 形状はクワガタ虫のようなハサミが頭部についており、胴体にはねと複数の足を備えた生き物といったところだ。その翅を動かして空を飛んでいる。


 昆虫と呼ぶにはあまりにサイズが大きかった。さすがにファンガスと比べると小さいものの。


 絵理はそのモンスターを見た時、鳥肌がたった。虫系の生き物に対する生理的な嫌悪感である。


 モンスターの強弱はともかく、なるべく関わりたくないと思わせる相手であった。


 絵理がそんなことを考えている間に、透夜の腕が動いた。霞んで見えるかというような速さとともに振られた腕の先から白刃が閃く。透夜が、先ほどまで手にもっていたナイフを投げつけたのである。


 その刃は見事、空を飛ぶ虫型モンスターの頭部に突き刺さる。耳障りな音と共に体液を巻き散らす。


 やがて貫かれたナイフと一緒に巨大な虫は床に落ち、しばらく体をびくつかせたあと動きを停止した。


 透夜はそれを見て満足げにうなずく。


「終わったよ。霧島さん」


「うん……っていやいや何今の!?」


 少し思考停止をしていたあと、いつの間にか戦いが終わっていたことに気付いた絵理は、透夜に向かって大声で疑問をぶつけた。


 しかし絵理とは真逆に、透夜は大したことでもないという表情をしている。今は投げたナイフを回収しようと虫の側にかがんでいるところだ。


「何と言われても……スローイングナイフを投げて敵を倒した、としか言いようがないんだけど……」


「いやいや普通あんなことできないよ! ひょっとして浅海くんは忍者の末裔か何かなの!?」


「うーん……これもこのダンジョン内でひたすらやってた鍛錬のおかげかなあ……」


「ええええ?」


 魔法や剣技に続き、またもありえない光景を見せられたのにそれを鍛錬の一言で済まされた絵理は、もはや毎度のことのように驚きの声をあげるしかないのであった。

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