013 魔法の力が込められた特殊なアイテム
「……ねえ。浅海くん」
突然立ち止まった絵理に遅れる形で透夜も足を止める。少し前の巨大虫に遭遇した時は透夜が絵理を制止したが、今回は逆の形となった。
「どうしたの?」
透夜が絵理の方を窺うと、彼女は壁の一点をじっと見つめていた。
「この壁、なんだかへんなボタンみたいなものがあるよ?」
「えっ?」
透夜も絵理が見ているところをまじまじと見つめてみる。すると、確かに壁の模様に隠れて少し色合いの違う部分があることに気付いた。
「これは……あれだね」
「うん……あれに違いないよね」
長く単独行動をしていた透夜も、クラスメイトたちと一緒に行動をしていた絵理も、このようなボタンには見覚えがあった。
「何かアイテムが隠れてるのかな?」
「罠……じゃないといいけど……」
透夜は決まってそういうボタンは押していたし、絵理も仲間の誰かがボタンを押すのを何度も経験している。
すると必ずといっていいほど変化が起きていたのだが、宝のように隠されているアイテムが出てきたり、別の場所の扉が開いたり、突然罠が作動したりと色々なバリエーションがあった。壁に穴が開いてそこからモンスターが出てきたこともある。
「どうしよう。押してみる?」
「うん。僕は押してみたい。念のため、霧島さんは少し離れていたほうがいいかも」
「分かった」
絵理が距離を取ったのを確認し、透夜はボタンと思しき場所に手を添えた。
「じゃあ押すよ……えい!」
透夜がボタンを押すと、ゴゴゴ……という音がしてボタンがあるすぐ隣の壁に変化が生まれた。壁面の一部がまるで小さな扉のように開いたのである。開いた面積は縦横ともに小さく、壁にくぼみが出来た形となった。
「浅海くん、何かアイテムがあるみたいだよ!」
はしゃぐような絵理の声。
彼女の言葉の通り、くぼみの中には道具がいくつか入っていた。
透夜と絵理は近づいて中を覗き込む。
まずは二人にとってもおなじみのガラス瓶。中身こそは空だったが、新たなポーションや飲み水を入れるのに役立ちそうだ。数は2つある。
その隣にあったのは小ぶりの棒。デザインはいわゆる魔法の杖を想起させる。
そして残りのひとつ。それは透夜が持っているような、表紙に複雑な装飾がされている本だった。中身を確認してみたところ、やはり同じように魔法について解説してある書物のようだ。ただ、透夜の本に比べるとページ数はかなり少ない。
「……うーん。どの文字も見たことあるな……」
透夜が少しがっかりした様子でつぶやく。
魔法書の中に書かれていたのは、残念ながらすでに透夜が知っている文字と魔法ばかりであった。書かれている魔法の文字の種類から、おそらくこれは初歩の魔法を選んで書き記したものなのではないかと思われる。
すくなくともこれに書かれている文字だけなら、いきなり壁に向かってファイアーボールを撃って自爆することもなさそうだ。それでもヒーリングポーションの作り方を始めとした、有用な魔法が揃っていた。
本をぱたんと閉じた透夜が絵理に向き直る。
「そういえば、僕以外に魔法を使ってる人はいなかったんだよね?」
「うん。少なくともあたしは知らなかったよ」
「そうか……このあたりの階までこないと魔法の本も見つからないってことなのかな?」
「浅海くんはどのあたりで手に入れたの?」
「初めて魔法書を手に入れたのは僕もたぶん地下四階あたりだと思う。これよりは中身が充実してたけどね。今持っている二冊目の本はもっと下で拾ったものだけど」
透夜が最初に手に入れた本には、彼がファイアーボールと呼ぶ魔法の使い方も書かれていた。おかげで、壁に火弾をぶつけて死にかけるという事態にも直面したわけだが。
透夜は少し考えた後、自分の考えを口にする。
「この本とビンひとつは置いていこうか。特に本はもう僕たちには必要なさそうだし、置いておいたほうがまだ魔法のことを知らない人が役立ててくれそうだから」
「うん。そうだね。もっとも、魔法の力のことを信じられる人ならいいんだけど……」
「きっと信じられるよ。だって、もう魔法があってもおかしくないような出来事が連続してるんだからね」
「ふふ、確かにね」
透夜はふたつ置いてあるビンのうちのひとつを手に取り、絵理へと差し出した。
「はい、じゃあこのビンは霧島さんが使うといいよ。僕はもう6本も持ってるし」
「ありがとう。じゃあそうさせてもらうね」
「問題はこの杖みたいなものなんだけど……」
透夜は小さな杖を手にとり、しげしげと見つめる。絵理も透夜に並んで同じように見てみた。敵を直接殴ったりするには明らかに不向きなものに思える。
「杖ってゲームとかだと、知力が上がったり魔法の力が込められてたりするよね」
「確かにね……そうだ、実は似たようなしかけで指輪を手に入れたことがあるんだけど」
「うん」
「指輪の金属部分には魔法の文字が刻まれててさ、しかもそれファイアーボールの魔法の組み合わせだったんだ」
「それ、ひょっとして……」
絵理はその言葉からある推測をし、透夜もそれを肯定するかのように頷いた。
「うん。僕もそう思って指にはめて、その指輪に意識を集中して魔法の言葉をつぶやいてみたんだよ。すると期待通りに指輪からファイアーボールが飛び出したんだ」
「すごいね! もしかするとこの杖にもそんな効果があるのかも!」
「まあうっかり壁の前で使ったもんでやっぱり爆発に巻き込まれて死にかけたんだけど」
「なんでそんな大事なことをうっかり忘れちゃうの!?」
「いや、もちろん僕も威力は弱めで使ったつもりだったんだよ。でもそういったアイテムに込められている魔法って威力が決まってるみたいでさ。あの時はちょっとやばかった。ひょっとすると高等な罠だったのかもしれない……」
「ぜったいに違うよ! その指輪を作った人も泣いてるよ!」




