捕捉話 彼女の闘い シュレンⅡ
巨大な影はセナたちの頭を飛び越えて魔獣の死体を検分してた隊員に襲い掛かる。
鰐牙獣 ディアガルヴであった。
「ぐああああぁぁぁぁ」
魔獣は一気に飛びかかり隊員に食らいつき噛み砕く。
叫び声を上げた隊員は即死だったのか振り回されるまま手足が力なくブラブラとしていた。
シュレンもセナも意表をつかれて動きが止まる。
「2体目ですって・・・・」
セナが目を見開き呟く。
「全員気をつけろ!!セナ、魔法を!!」
シュレンはすぐに立て直し、剣を手に取り駆けだす。セナもそれを見てハッとして詠唱に入る。
他の隊員も立て直し剣を構え攻撃に移ろうとする。
その瞬間
「グオオオオオオォォォォォ」
咆哮とともに先ほどの魔獣と逆側の木々の間からもう一匹飛び出してきて近くにいた隊員2人を体当たりで吹き飛ばし宙に舞わす。3匹目のディアガルヴであった。
「なっ!!!」
詠唱を唱えていたセナが絶句する、
ここにいたすべての隊員が絶望を感じる。
中型が2匹。
いままでありえない状況に全員の動きが止まる。
その瞬間隊員を咥えてた魔獣が突進して動きの止まった隊員を前足で殴り飛ばす。そのまま周りにいる隊員を片っ端から暴れ回り吹き飛ばす。
シュレンが飛び出し魔獣を斬りつける。そして魔獣の周りを舞うように連続して攻撃をする。
魔獣は一瞬ひるむ。その隙にいったん離れて
「全員撤退!!撤退だ!!」
シュレンが大声で叫ぶ。そしてすぐさままた魔獣に斬りかかっていく。
全員が我に返り素早く動く、大男のドレンがサッと詠唱を唱え
「フラッシュライト!!」
そう叫び持っていた珠を突進してきたもう一体の魔獣の前に投げる。すると珠は弾けたようにまばゆい光で魔獣を飲み込む。魔獣は意表をつかれて眼を焼かれまっすぐ突進して木にぶつかる。
セナが鍛錬場で揉めたケルヴィン・スナトルフに指示を出す。
「ケルヴィン!!撤退の指揮を頼むわっ」
「言われなくともわかっている!!全員すぐ後退しろ。負傷者の手助けを。急げ!!」
隊員たちは吹っ飛ばされて負傷した者たちに肩を貸しながら急いで撤退を始める。
セナは止まっていた詠唱を再開し完了するとシュレンが相手をしている魔獣に向けて
「ドライアドバインドッ!!」
そう叫ぶと倒した魔獣を最初に拘束したようにツタが絡まり枝が槍のように拘束する。
「グオオオオオオォォォォォゥ」
拘束を振り切ろうと暴れる。シュレンは振り切られないように魔獣の気を逸らす。
もう一匹は視界が回復せず無差別に暴れ回っている。
ある程度時間を稼ぐと
「シュレン!!一回引くわよ」
セナはそう叫びながら駆けだす。
シュレンも素早くセナの後に続く。
木々をすり抜けながら2人はなんとか魔獣に見つからずに逃走し集合場所へ向かう。
セナは所々に印を残し魔力を込めながら後退する。探知の魔法で魔獣が近づくと反応するものだ。
なんとかシュレンもセナも隊に合流できた。
隊員たちは昨日からの強行軍と先ほどの戦闘で疲労がみられる。重軽症者もだけでも半数を数えた。2体いる魔獣に対応することは不可能な状況だった。
セナは動ける隊員に
「至急狼煙矢を上げて。増援要請。紫を3つ。」
「3つですか?2つではなく?」
「そうよ。3つはいたのだから増援は多い方がいいわ」
そう指示をだしシュレンの元へ行く。
「シュレン、身体は大丈夫?」
セナはシュレンの心配をする。シュレンは疲労は色濃くでていたがニコリと笑って
「ああ、ありがとう。だが大丈夫です。状況は最悪です。アレを聖都に近づけるわけにはいかないでしょう。私が引きつけて奴らを遠ざけます。セナは隊を率いて後退を」
シュレンはすくりと立ち上がり装備を確認する。
セナは激怒して
「なにいってんの!?ここで迎え撃つか聖都の途中まで後退する方がいいに決まってるじゃない。そこで迎え撃ては2体いたところで問題はないでしょう?」
そういうとシュレンはセナを見て
「セナ、わかっているでしょう?ここより少し後退したところに村があります。そこを見捨てるわけにはいかない。救援が上がれば早くて半日。私が森向こうまで引き付けれればさらに時間が稼げます。被害は最小で済む」
狼煙矢が上がる。これで早ければ1時間以内に増援が出立するだろう。
セナはシュレンに噛みつく。
「じゃあ、あたしも行く。2人なら1体ずつ誘導すればいいんだから勝率も上がるでしょ?」
シュレンは首を振り
「セナ、あなたはまだ聖都に対して連絡の仕事が残ってます、それが先決です。」
セナが反論しようとした時ビクッとなにかに反応する。
「・・・印に反応があった。こっちに向かってる。隊を編成しなきゃ」
振り返り隊に指示をだそうとしたとき
「セナ、あとは頼みます。できる限り引き付けて・・・そうですね。1体はこちらでなんとかしてください。一体だけ、一体だけ連れてこの森を離れます。それならお互いなんとかなるでしょう。お願いしますね」
シュレンはそれだけ言うと口笛を吹き駆けだす。すぐに彼女の愛馬が駆けつけ、シュレンは素早く愛馬にまたがりあっという間に森の中に消えていった、
「あっ・・・・」
セナは声をかける間もなく行ってしまった友人に怒りを覚えながら自分の仕事をし始める。
「魔獣が来るぞっ!!!全員戦闘準備!!!あたしは少し後方へ下がり聖都に連絡をとる。ケルヴィン、ここは任せる」
「わかった。すぐに装備を整えろ!!負傷者はさらに後退させろ」
セナはそういうと自分の馬にまたがり素早く後方へと走り始める。
シュレンは減速することなく木々を交わしながら森を進み目標を発見する。
もう一体はこっちに来ていないようだ。
先の戦闘でシュレンが斬りつけた傷のある方だった。
シュレンはぽんぽんと馬の頭を叩くと『疾風迅雷』を使って鞍を蹴り魔獣へ向かう。
魔獣もシュレンをターゲットしており迎え撃つように咆哮し、前足を振り上げシュレンめがけてふりおろす。
シュレンは素早く地面を蹴り上げて魔獣の攻撃を紙一重で避けつつ前足を斬り上げる。
そのまま斬った前足を足蹴にして距離を取る。
着地の衝撃を殺すように地面を滑る。
「グオオオオオオオゥゥゥゥゥゥ」
魔獣がまた咆哮上げる。
頃合いを見計らって1匹を連れて森を逃げねばならない。残った1匹なら編成し直した隊で片付けれるはず。ならまだ活路はある。シュレンはヒューっと口笛を吹き
もう一度スキルを発動させる。
今ならもう一匹は森に置き去りにできる。
そう考えてた所に魔獣の攻撃が再び襲い掛かる。
彼女は木の葉のようにひらりとかわし反転しようとしたがかわした攻撃は地面をえぐり石礫となりシュレンに襲いかかってきた。
反転しようとしていたシュレンはこの不慮の事故をかわすことができず背中に受ける。
「ぐはっ」
苦痛が口から飛び出す。『疾風迅雷』というスキルの性質を活かすためシュレンは基本軽装である。装備が重いと高速で動いた後の停止の時の反動を支えきれなくなるからだ。
痛みで一瞬動きが鈍る。崩れそうになる態勢をなんとか立て直し『疾風迅雷』を発動して一気に距離を離す。その際、もう一匹が視界の隅に入る。
シュレンの中に絶望がちらつく。
ああ、ダメだ。これは引き離せない。
だが、止まることはできない。シュレンはもう1、2度地面を蹴り加速する。
森をきってシュレンの愛馬が踊りでる。
ずっと共にやってきた相棒だ。魔獣にすらひるまず共に走ってきた。
彼女と馬、共に呼吸を合わせ人馬一体となり魔獣との距離を離しにかかる。
だが、魔獣も彼女を見失うことなく素早く追撃に入る。
もう一匹もこちらに気づき少し遅れて追い始める。
速度の差は歴然だった。すぐ追いつかれるだろう。
シュレンは後方を駆ける魔獣の足音を聞きながら馬につるしてあったショートボウを取り出し狼煙矢をてにとり火をつけて空へと2発撃ちあげる。
「すまない、あとは頼む」
そう呟き我ながら情けないなと思った。
せめてもう一太刀、いや、一匹は仕留める。
彼女は背中の痛みで呼吸が苦しくなりながら
剣に手をかけカウンターのタイミングを計る。
徐々に迫る魔獣の足音、息遣い。
馬は最速で駆けてくれ自分の知る限りで最高の仕事をしてくれている。お前だけは逃げ切ってくれ。そう祈りポンポンと背中をたたいた時だった。ほんの一瞬のスキを突き、後方の影が一瞬でシュレンを捉えた。
シュレンが少し振り返った時、そこはすでに魔獣の顎の中だった。
「あ」
差し迫る牙。
だめだ避けなければ。そう考えたが体が意識に追いつかない。
今にも閉じようとする牙の列を眺めながら
この食われ方なら馬はにげきれるか。などと悠長に考えている自分が面白かった。
ふと思い出す。
「今のあなたはたぶん魔獣に食べられて胃の中で暴れるのがやっとですよ」
そう言ってやった軟弱者ではなく自分がそうなることになりそうだな。と
そうだ、まだ奴の腹の中で暴れる仕事が残っているか。
ともう一度、笑った瞬間
力強く横から押しだされる。
勢いよく魔獣の顎から放りだされる。
え?なぜ?
押された方向を見ると
一瞬思い出した軟弱者が自分がいたであろう魔獣の攻撃を今まさに受けようとしていた。
眼を見開く。なんで?
そう思った矢先、
軟弱者は一瞬笑い
魔獣の牙に飲み込まれていった。
時間配分に失敗し申した。
たぶんちょっと辻褄が合わないかもしれません。
あまり気にしないでもらえると助かりますw
そこまで気にしてねーよって人は高評価、ブックマーク、良いぞ良いぞという感想を頂ければ幸いです。
5/6 前話との辻褄合わせのため加筆修正しました。