心からの謝罪を
遅れましたすみません…。
「まずは紅からだな。あいつが変になってる原因は簡単だし」
そう言って楓夏さんは2階を指差す。
多分、行ってこいって意味だ。
でも、なんて言えばいいのかわからない。
「大変誠に申し訳ございませんでしたって謝罪すれば許してもらえますか?」
私の言葉に楓夏さんは顔を思いっきりしかめた。
「はぁ?仕事じゃないんだから、フツーでいいんだよ。フツーで。ほら行った行った!」
しっしっと手を振られ未だに整理ができていない頭で階段を上がる。
一度立ち止まり後ろを振り返る。
「原因は簡単って、楓夏さんわかるんですか?」
「わかってても教えないっ!てか、いいから早く行ってこい!」
そう言ってまた手をしっしっと振って見せた。
生まれて28年、喧嘩というものをしたことがない私には謝罪といえば事務的な言葉しか浮かんでこない。
家族との喧嘩なんて尚更、何を言えばいいかわからない。
何が原因か知ってるなら教えて欲しい。
謝罪の仕方なら知ってる。
謝罪時のポイントは、相手に対して自分の行動の問題点を認識し、謝罪を行う。
謝罪後も相手の気持ちを考えながら改善するための努力を・・・・・・。
そもそも何が問題だったのか・・・・・・。
紅は、私に抱きしめられるのが嫌だった?
でもあの日は紅から抱きしめるように言われたし・・・・・・。
つまり、今後は抱きしめないようにすることが正解?
これで、仲直りできる?
モヤモヤとしたままに紅の部屋の扉をノックする。
しばらく待つと、近づいてくる足音とともに扉がほんの少し開いた。
「あの〜、少し話せるかなって思いまして」
私の言葉に扉が人一人分入れるくらいの隙間が開けられる。
入っていいと言う意味かな?
「お邪魔します・・・・・・」
紅の部屋は一緒に寝た日と変わらず、しっかりと整頓されている。
部屋に見惚れていると紅から話しかけてきた。
「で、何のようなの?」
紅の冷たい言葉は心臓をギュッと締め付ける。
「謝罪をしにきました・・・・・・。」
紅は私の方に顔を向けてはくれない。
続けて私は言う。
「のですが、自分の何が原因で紅が不機嫌になっているのかわからないので、教えていただきたいのですが・・・・・・」
紅は呆気に取られた顔で私の顔を見た。
それから難しそうな顔をする。
「その事務的な感じなんなの?なんか会社で働いてる人みたいなセリフ。あと、敬語やめて」
図星で少し嫌な汗が出る。
ほ、本当に働いてたんですけど・・・・・・。
「えと、喧嘩みたいなのをしたことがないから・・・・・・。紅が不機嫌になった原因は私に抱きしめられるのが嫌だったからなのかなぁって、寝る時は抱きしめてって言われたけど、起きた時はそうじゃなかったし」
下げていた視線を上にすると紅の顔は真っ赤になっている。
「〜〜〜!!」
「何が悪かったのか理解せずに謝罪してもダメだと思うから、教えて欲しいで、す。じゃなくて教えて、ほしい・・・・・・」
私の言葉を聞いて、言葉を出そうと何度か口を開けては閉じてを繰り返す紅を見つめる。
意を決したように紅から出た言葉は、とてもでかい声だった。
「〜〜〜っ!恥ずかしかったのっっ!!」
あまりの大きな声にびっくりした私は反応が遅くなる。
「は、はずかしかった?」
紅はキッと私を睨みつけてくる。
「みんなが見てる前で抱きしめられたのが、恥ずかしかっただけ・・・・・・」
最初は勢いのあった言葉もだんだんと尻すぼみになっていく。
「じゃ、じゃあもう怒ってない?」
私は嬉しくて声のトーンが上がる。
「最初っから怒ってないしっ、うわっ!」
私は思わず紅に抱きついた。
「ちょっ、悠姉っ!」
私に抱きしめられた紅は驚きの声を上げる。
対する私は安心のあまり安堵の声が出る。
「はあああぁぁ、よかったぁぁ!」
驚いていた紅も落ち着いたのか私の背中に手を回してきた。
それも束の間だった。
「ふぅ〜ん。みんなの前じゃなかったらよしと」
扉の方から声が聞こえてきた。
「楓夏姉さんっ!」
扉の方を向いていた紅はすぐさま誰の声か分かったようだ。
それと同時に腹部に重い一撃が加えられた。
「う”っっ、なん、で・・・・・・」
私は紅によって容赦なく突き飛ばされた。
その衝撃に耐えられず尻餅をつく。
「うわっ、悠姉っ、ごめんっ!」
紅は私の方に駆け寄って背中に手を回してくれる。
「うわぁ、紅、それは流石に・・・・・・」
紅を驚かした元凶は静かに引いていた。
「誰のせいだと思ってんのっっ!?」
紅は感情が顔に出やすい。
ものすごく怒っている。
「ぉおちついて、くだ、さい。わたしは、だいじょうぶ・・・・・・」
お尻をさすりながらよろよろと立ち上がる。
そんな私を見て、楓夏さんと紅が一緒になって支えてくれた。
楓夏さんは私の右腕を引っ張り、左の腰に手をやっている。
反対に紅は私の左腕を掴んで、右の腰に手をやっている。
そのままの体制で楓夏さんは言い訳を始めた。
「な、なんだよ。そんなに睨むなよ。悠に仲直りするように助言したのは私なんだし、気にして当然だろ?」
キレながら紅も楓夏さんに詰め寄る。
「だからって覗くことないでしょ?どっから聞いてたの?」
な、なんか、この状況一回経験してる・・・・・・よね。
私のことなどお構いなしに頭上で言い合いを始める。
「楓夏姉さんはいっつもそう!間の悪い時に現れるよねっ!」
紅の言葉に楓夏さんも少し残念な感じの言葉を返す。
「んなっ!そんなことないよっ!そもそも変なところで恥ずかしがったりしないで、悠のことも避けなければいい話だろっ?」
「は?そこから聞いてたの?」
紅の声色がより冷たくなる。
それを察知した私は止めに入る。
「ふ、ふふふたりとも!!ちょっと落ち着いてくださいっ!!」
2人の返答は正反対だった。
「悠姉は黙っててっ!」
「そうだな落ち着こうっ!」
楓夏さんも紅の言葉を聞いて声色を固くする。
「つまらないことでヘソを曲げるなよ!」
ちょっと、待って、もうほんとうに・・・・・・。
喧嘩するなら!他所でやって!!
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