地獄みたいな空気
楽しんでいってください!
「うっ、っ」
いつの間に眠ってしまっていたのかわからないが、目を覚ますとカーテンの隙間から光が漏れていた。
寝ぼけ眼を擦り伸びをして欠伸をする。
ふと隣に視線を向けるが、碧の姿は見当たらない。
ベッドから出て、洗面所に向かう。
鏡に映る自分は相変わらず死んだ目をしている。
自然と首元に手が伸びた。
「・・・・・・」
碧に絞められた部分は特に何の跡も残らなかった。
蛇口を捻って水を出す。
顔を洗いながら昨日のことを思い出す。
『碧、大好きだよ』
・・・・・・。
って言うしかないでしょ。
あんなに可愛い碧が闇属性だったなんて・・・・・・。
一向に眠気が訪れる気配はなく、碧も私の腕の中で身じろぎをしていたのは覚えている。
どのタイミングで寝たのか・・・・・・。
身支度を整えた私は一階に降りる。
階下からテレビの音と微かな人の声が聞こえてくる。
リビングと階段を隔てる扉を開け、挨拶をする。
「おはようございます・・・・・・」
「おはよう、悠ちゃん」
優しい声色で挨拶を返してくれたのは紬さんだ。
エプロンを身につけてキッチンで料理をしている。
「はよー」
気の抜けたような声は楓夏さんだ。
リビングのソファにもたれかかって私の方を見ている。
紅は、私を見ると少し顔を赤くしてそっぽを向いた。
千冬さんはタブレットをいじっている。
碧も目を合わせてくれない。
朝食は目玉焼き。
わあ、綺麗な黄色。
私の一番好きな半熟卵だぁ!
朝からみんなが揃っているのに静かすぎる食卓を前にして私は現実逃避をするしかなかった。
黙々と駆け込むという作業をこなしていく。
私が食べ終わる頃を見越して楓夏さんが話し出した。
「今日はあたしと悠で皿洗うからな!食べ終わったらどっか行って!」
「ご馳走様。よろしく」
そう言って千冬さんは早々に自分の部屋へと戻っていってしまった。
「「ごちそうさま」」
紅と碧はふたり同時にハモって挨拶をして二階へと向かう。
楓夏さんは紬さんに目をやる。
「ほら、母さんも!!」
「あら、私もどこか行かなくちゃなの〜?」
困り眉を作ったが、エプロンを外して椅子にかけてから紬さんも二階へと向かう。
「じゃあ、お願いねぇ」
紬さんの顔が少し名残惜しそうに見えたのは気のせいだろうか。
そんなことを考えていると突然パンッと音が後ろから聞こえた。
ビクッと体を震わせて振り返る。
そこには手を合わせて頭を少し下げる楓夏さんがいた。
「ごめんっ!千冬の機嫌直せなくて・・・・・・」
私は突然のことに慌てて手を振る。
「い、いや!全然!むしろありがとうございます」
楓夏さんと隣同士で並んで皿を洗う。
右耳に自然と目がいく。
何個も開けられたピアスがキラキラと銀色の光を放っている。
楓夏さんは急に私の方を振り向く。
「は、はい」
私はサッと目線を逸らす。
「・・・・・・ごめん。みられるの苦手、なのか?」
「す、少し・・・・・・だけ」
私の返事に楓夏さんは視線を皿を洗う手に向けた。
「そっか。気をつける。千冬のことはまぁ、一旦おいとくとして、んで、なんで碧唯とも話せなくなってるの?」
「うっ」
痛いところを突かれた。
何も返事をできずにいると楓夏さんは原因を口に出した。
「告白、のことか?」
「えっと、・・・・・・はい」
千冬さんから話を聞いたのかな。
この体は私のものではなくて返事も勝手にできないし。
みんなそれぞれに大切にしている思い出があるのに、私自身は何も思い出せないし。
考えを巡らせていると楓夏さんから質問をされる。
「どうして断らなかった?」
「どうしてって・・・・・・」
しばらくの沈黙が流れる。
「・・・・・・お前が悠じゃないからか?」
私は手にしていた皿を落とした。
キッチンのシンクでガタンッと大きな音が鳴る。
私と楓夏さんはお互いに視線を合わせる。
別に隠す必要はなかった。
なぜ打ち明けなかったのか。
私は悠じゃないんですなんてみんなの前で言ったら頭のおかしい子に思われるから?
思いの外、この家を居心地よく思っていたから?
「冗談だよ・・・・・・」
楓夏さんから視線を外して、再度皿洗いの作業に戻った。
私も落としてしまった皿をまた洗って、シンクに優しくおいた。
「大丈夫。悠は悠だから」
隣から小さなつぶやきが聞こえた。
私に言っているというよりは自分自身に語るようだった。
皿洗いを終えて手を拭きながら楓夏さんは私の方を向いた。
「まずは、この地獄みたいな空気をなんとかしなくちゃな!!」
ガッツポーズをとってニッと笑って見せた。
私も静かにコクリと頷いた。
問題を解決して、仲良くなって、自分の体に戻ろう!!
次は6月23日に投稿します。




