ここはどこ?私はだれ?な展開
目が覚めると目の前を何かが遮っていた。
触ってみると、鼻の先まで伸びた前髪だった。
「うっ・・・・・・」
普通に起き上がろうとしたらものすごい眩暈がした。
ゆっくりと時間をかけて起き上がる。
はて?ここは?
右手で前髪をかき上げる。
視界に入るのは全く知らない部屋だ。
周りを見渡すと、そこかしこに漫画が積み上がり、足の踏み場のない床が目に入る。
壁はイケメンアイドルのポスターで埋め尽くされていた。
「は?」
!?
自分から発せられた声なのに、自分の声とは全く違って聞こえた。
しかも掠れた声になってる。
すんすん。
異臭が漂ってきた。
・・・・・・。
すんすん、す・・・・・・ごふぁっっ!!
くっっさ!?
くさ、え?なにこれ超臭い!?
お風呂に数日入ってない人の匂いでした。
ていうか、数日ってレベルじゃない!!
ほ、他に体の変化は・・・・・・。
風邪ではないのだが、頭痛がするし体がだるい。
あと、目をつぶったら秒で寝れる感じがする。
寝不足以外に、特に変わった感じはしない・・・・・・いや、おなかがすいている気がする。
体をペタペタと触ってみる。
一応、女の子ではある。
しかしながら、私の体ではない。
なぜこうなった?
ふと頭に浮かんだのは『レッツ!身体交換!!』の文字だった。
――『これから質問をしていきます!!質問に全て答えると身体交換を行います!!その際には、あなたの体は消え去り、存在は忘れ去られます。準備が出来次第、同意をタップしてください!!』
私はすぐさま枕元にあったスマホを拝借した。
幸い、ロックはかかっておらず、楽にホーム画面に行くことができた。
アプリショップを開き、身体交換と検索する。
関係ないアプリばかりで、私の求めるアプリを見つけることはできなかった。
「な、なくなってる・・・・・・?」
体は消え、存在は忘れ去られる・・・・・・。
そんな夢物語みたいなこと、あるわけがないだろう。
私は自身の、いや誰かもわからない体の頬をあらん限りの力でつねった。
「ぃったぁ・・・・・・」
当たり前のように痛みを感じ、頬をつねったところで何も変わらないということが分かった。
嘘ではない。
夢でも、ない・・・・・・。
いや、体はピチピチになったし、これはこれで・・・・・・。
良い訳がない!!
何この体、頭痛、眠気、空腹、匂い、挙げたらきりがないがいいところなくないか!?
今日が金曜日の平日で朝9時だということだけはわかった。
会社は遅刻だなぁ。
いや、無断欠勤か?
自分の体のことや仕事についての不安は尽きず、かと言って何かできることもないため、部屋を出ることにした。
というよりも匂いが酷すぎてただでさえ痛い頭が、ガンガンと鈍い痛みになってきている。
早々にお風呂に入らなければ死ぬ。
見知らぬ他人の部屋に何がどこにあるかなどわかるはずがないので、とりあえず物色をしようと試みる。
まずは立ち上がる・・・・・・ことがつらすぎる。
「うえぇ~」
眩暈と戦い、足の踏み場のない床の物と物との間を縫ってまずはカーテンを開けた。
輝く太陽に目を細める、なんてことはない。
長い前髪のおかげで光が遮られている。
空気の入れ替えをしよう。
この部屋全体が臭い、ような気がする。
一番臭いのは私、いやこの体だけど。
窓を開けると新鮮な空気が入り込んできた。
窓から見える景色には川が見える。
この部屋は一軒家の一階にあるようだ。
少しだけ頭痛が収まったような気がする。
明るくなった部屋の中は先ほどより何が置いてあるのか見やすくなった。
床には漫画もあるがおやつの袋、空のペットボトルに脱ぎ散らかした服。
うわぁ、これはなかなかひどい。
というか絶対虫いるよね?この部屋。
嫌な考えが頭をよぎるが、まずはこの匂いを何とかするのが先決だ。
服とかは・・・・・・。
クローゼットかな?
クローゼットまでのごみと本を避けて、クローゼットへとたどり着く。
クローゼットを開くとタンスがあった。
「うわ・・・・・・」
タンスを開けてみて、驚いた。
服がたたまれていない状態でぐちゃぐちゃにぶち込まれている。
服をタンスから引っ張り出す。
見つけるのに数分かかったがやっとのことで真っ白なシャツと、グレーのショートパンツに下着を手にした。
クローゼットの戸を閉めてから部屋を後にして、部屋を出ていくとリビングが見えた。
アンティーク調の家具が置かれており、きれいに整頓された空間だ。
いいにおいもする。
対照的に自分は臭い。
・・・・・・。
早くお風呂に入ろう。
ここの家は洗面台と脱衣所がセットになっているようだ。
白い洗面台に、汚れひとつない鏡は隅々まで奇麗にされている。
感心しながら脱衣所で服を脱いでいく。
「っっ!?」
鳥肌が立った。
不健康な体だとは思っていたが、ここまでひどいとは思ってもいなかった。
病的な白さに細さ。
肋骨が浮き出ている。
どうしたらこんな体になるんだろうっていう、体つきをしていた。
普通に考えて食事とか睡眠とか色々おざなりにした結果なのだろうけれど、こんな体は見たことがなかった。
温度を熱めに設定して、シャワーをだす。
二度洗いじゃ泡立たない頭をごしごし洗い、体なんかは特に力をいれて、きっちり洗った。
獣臭さは消え、人間に近づいたと思う。
あまり自信はないけれど。
お風呂から出る前に、お風呂場にあった鏡で自分の姿を改めて認識した。
鼻先まで伸びた前髪を上げると、釣り目がちで可愛げのない、目の下に濃い隈のできた無表情の少女がいた。
目に光がやどっていない。
試しに、ニィッと笑ってみた。
はっきり言ってホラー以外の何物でもなかった。
とりあえず、表情筋が死んでいたので顔面マッサージと変顔をしておいた。
体を洗い終えた私は服を着て、髪を乾かす。
「っ、なっに、これっ!」
腰まで伸びる後ろ髪を櫛で整えるもののボサボサになる髪に、苛立ちながら根気よく櫛を通し続け、サラサラまではいかないがいい具合まで頑張った。
洗面台の下にあるキャビネットの戸を開けると来客用の歯ブラシや、洗剤といったものが入っていた。
そこから歯ブラシとはさみと中にあった袋を取り出した。
ホテルみたいにすごくきれいだな・・・・・・。
今一度、この家の奇麗さに感動しながら、歯を磨き、終わるとはさみで前髪をカットした。
髪は袋の中に収めた。
これである程度人に見られてもいい感じになったな。
満足して、リビングへと向かおうとする。
ス―ッ・・・・・・
脱衣所の戸を横にあけていくと見知らぬ女性が立っていた。
長いストレートの奇麗な黒髪を後ろで結んでいる。
肌は色白で右目の下に泣き黒子があってたれ目で、私よりも身長が高く、優しい雰囲気がにじみ出ている人だった。
優しい雰囲気はあっても突然の知らない人に私は驚く。
「っ!?」
女の人も驚いた表情をしていた。
「!?」
お互い驚いた顔で見つめあう。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
しばらく見つめあってから私はそ~っと引き戸を静かに閉めようとした。
「ゆ、悠ちゃん?」
小声で戸惑ったように呼ばれた。
ど、どう対応するべきだ?
この綺麗な女性は誰だ?
とりあえず、返事はしなければ・・・・・・。
「は、はぃ・・・・・・」
私は自身に対して違和感を感じた。うまく喋れないのだ。
引き戸を少し開ける。
「ご、ごめんなさいね。誰がお風呂に入っているのか、気になっちゃって・・・・・・」
「い、いえ。お、おふ、ろ・・・・・・き、きもち、よかった」
ええ!?
めっちゃ喋りにくい!!
片言すぎる!!
どもってる!!
なんか、ヤバイ。
汗出てきたし、目を見て話せない!!
「ご、ごご、ごめ、ん、なさっ」
あれっ?なんでこんなに息しづらいのかな?私どうしちゃったんだろ・・・。
足元もおぼつかないし・・・。
グラッと視界が揺れた。
「悠ちゃん!!」
ふらついた体を、女性が支えてくれた。
そしてぎゅっと、体がつつまれた。
女性が私を抱きしめた。
「っ、ひゅー、ひゅー」
「悠ちゃん、深呼吸しよう?落ち着いて。だいじょうぶだから・・・」
「ひゅー・・・ひゅ、ひゅー」
涙が出てきた。
なんだこれ、落ち着かなきゃ。
止めなきゃ。
「悠ちゃん・・・・・」
ふわっと体が宙に浮く感覚。
お姫様抱っこをされたようだ。
「あっ・・・・・・すぃませ」
「大丈夫だからね」
女性は優しく声をかけてくれる。
私をリビングのソファまで連れていき、横にしてタオルケットを掛けてくれた。
そのまま、私の頭がある方に腰を掛けた。
なぜだか眠くなってきた。
この体はよく眠れていなかったからだろう。
「悠ちゃん。寝てもいいよ。ここにいるからね。」
「ありが・・・と・・・ござ・・・・・・」
お礼を言い終わる前に、私は眠りについた。




