就寝 〈紅side.〉
遅れてすみません!!(´;ω;`)
悠姉は優しい人だった。
~~~~~~
あたしと碧唯が5歳で、悠姉が7歳のとき。
春風が吹いて、タンポポが一面に咲き誇っていた公園からの帰り道。
悠姉は碧唯とだけ手をつないで前を歩いていた。
ゆーねぇ、いつも碧唯ばっかり。
あたしも手、つなぎたいな。
なんて考えながら、あたしは後ろから眺めるだけで、何もしなかった。
でもすぐそのあと、あたしの思いが届いたのかどうか、悠姉はふと足を止めて後ろを振り返ってあたしを見てきた。
『こう、す~っごくかわいいねぇ!』
そう言って悠姉は小さな手をあたしの頬に添えて、むにむにした。
悠姉の手はひんやりしている。
外にいてもいなくてもいつも冷たい。
『ゆぅおね~ちゃん、あおちゃんは?』
悠姉の隣から、そう背丈の変わらない碧唯が割り込んできた。
悠姉は碧唯の方を見て顔をにやけさせ、あたしの頬から手を離そうとした。
『もちろん!あおも・・・・・・』
私はそれをぎゅっと掴んで、離さなかった。
そんなあたしの行動に、碧唯の顔にはしわがよって、段々と顔色が赤くなってそれからとうとう泣き出した。
『あららら・・・・・・』
あたしは碧唯なんて気にせずに悠姉の顔を見ていた。
最初は驚いて、次に困った顔をしてごめんねと言いながらあたしの頬から手を離した。
手が抜けて、悠姉の手の冷たさがなくなって頬には春の風が当たった。
あたしは自分自身の手をぎゅっと握って下におろした。
碧唯は悠姉に抱きしめられていた。
~~~~~~
悠姉がお風呂に入っている間、リビングにはあたしと碧唯がいる。
楓夏姉さんと千冬姉さんは一階にある自室へと戻っていった。
二人とも勉強も部活も忙しいみたい。
お母さんは二階に行った。
テレビの音以外は何も聞こえない。
ただ、隣に碧唯がいるだけだ。
黙っていた碧唯がしゃべりだした。
「紅ちゃんてさ、悠お姉ちゃんのことどう思う?」
どう思うってどういう意味なんだろう・・・・・・。
引きこもってから悠姉の姿なんて見たこともなかった。
「引きこもり。オタク。ガリガリ。弱虫」
あたしは思いついた単語を挙げていった。
楓夏姉さんが悠姉の服を捲った時はさすがに驚いた。
今日の朝、出会ったときから、異様に足も手も細く見えてはいたけどあそこまでだなんて・・・・・・。
それに目の下のクマもひどいし、不健康そのものみたいな感じが悠姉の印象だった。
「それは、悪口だよ・・・・・・」
碧唯は苦笑いを浮かべてそう言ってから、真剣な表情になった。
碧唯はこちらに顔もむけずに言う。
「悠お姉ちゃんのことが好きかどうかだよ」
あたしは碧唯の方に瞬時に顔を向けた。
は?
好き?
こいつは頭でもおかしくなったのか?
いや、好きって、どういう意味のものだ・・・・・・。
「は?」
あたしの言葉を軽く流して、真剣な表情から、いつもの笑顔に戻して碧唯は別の話題を挙げた。
「いや、ううん。何でもないっ!それより今日は悠お姉ちゃんと寝てもいいかな?」
そして、後半の言葉にあたしは間髪入れずに答えた。
「ゆ、悠姉はあたしと寝るから!!」
ガチャッ
タイミングがいいのか悪いのか悠姉がリビングにやってきた。
「へ?」
何も知らない悠姉は情けない声を出して戸惑っている。
「って、約束したよね?悠姉?」
もちろん、そんな約束はしていない。
あたしも自分が言ったことに自分で驚いていた。
悠姉は困ったように目をきょろきょろさせている。
頭の中では否定しなきゃ、どうしよう、なんてグルグルしてるのに、気付けばあたしは悠姉にガンを飛ばしていた。
あたしの顔を見た悠姉は目を白黒させながら返事をした。
「は、はい!」
い、いいの!?
ガンまでつけておいて、ひどい言いようだが、悠姉、自分の意思をしっかり持って・・・・・・。
そんなことを考えていると隣にいる碧唯から抗議の声が届いた。
「は、は~ぁ!?い、いつそんな約束したの!!そういうのはよくないと思うんですけど!?」
してないよ!そんな約束!
悠姉も驚いてるよ!
あたしはしどろもどろに明後日の方向を向きながら何とか言葉を紡いだ。
「先約なので」
碧唯は訝しげな表情をしてあたしを見つめた。
「ふ~ん。そういうことしちゃうんだ。いいよ。じゃあ、明日はわたしと寝てね!」
とってもいい笑顔で、悠姉の方を向きながら明日の添い寝の約束を碧唯は取り付けた。
悠姉は何もわかっていないような顔で、とりあえず返事をした。
「へ、あの、ぇ・・・・・・。は、はい。」
そんな困った顔するなら、ちゃんと把握してから返事すればいいのに・・・・・・。
あたしは碧唯と悠姉のやり取りを聞いて、何かもやもやしたものを感じながら悠姉に伝える。
「シャワーで済ませるから!先に二階に行ってあたしの部屋にいてよ!」
あたしの言ったことに碧唯は口をとがらせて何か言ってきた。
「え~、なにそれ!紅ちゃん、悠お姉ちゃんのこと好きすぎじゃん・・・・・・。紅ちゃんが戻るまで碧唯と一緒にいたいよね?悠おね~ちゃん!」
悠姉は碧唯の媚売りにタジタジになっている。
あたしは悠姉に念を押した。
「歯磨きして、あたしの部屋にいてよ!!」
顔をこわばらせて悠姉は返事をした。
「は、はい。待ってます・・・・・・」
悠姉が二階に行くのをしっかりと見送ってからあたしはお風呂へと向かう。
そんなあたしを碧唯はニヤニヤと見ていた。
「何さ?」
若干声に力が入るあたしに碧唯はふふっと笑うだけだった。
小さいころから一緒にいるが、碧唯の考えはよく読めない。
優しいなんて、とんだ勘違いだ。
碧唯の行動はいつも計算されていて、そうして上手になんでもこなしてしまう。
あたしはシャワーをなるべく早く済ませた。
パジャマに着替えて、リビングに出る。
碧唯はリビングのソファに体育座りをしながら、テレビに夢中になっていた。
いや、そういう風にしてくれているだけなんだろう。
それを横目にあたしは自分の部屋に向かう。
階段を一段ずつ上がるたびに私の鼓動は大きく揺れ動いた。
ドアノブに手をかけ、ひねる。
心臓の音がやけに大きい。
ガチャリ
扉を開けると床に正座して待っている悠姉がいた。
いや、なんでよ
「いや、なんでよ」
心の声がそのまま口から出た。
「いぇあぁぁっ!!」
びくっと悠姉は体を揺らし、変な言葉とともに立ち上がった。
「さすがに部屋で正座で待っているとは思わなかった」
素直に思ったことをあたしは言った。
そんなあたしに委縮するように身を縮めて悠姉は謝ってきた。
「ご、ごめん」
こんな風にさせたいわけじゃないんだけど・・・・・・。
あたしが黙っていると悠姉は顔を覗き込んできた。
「こ、紅?」
「いや何でもないし」
顔を背けながらそう言って、あたしはベッドに向かっていく。
時間は10時半。
いつもこんなに早く寝たりはしないけれど私は自分のベッドに腰を掛けた。
そして、隣の空いた方をトントンと叩いて、悠姉を呼ぶ。
「わ、えと、お、お邪魔しま~す・・・・・・」
恐る恐るやってきた悠姉はベッドに腰を掛けてすぐに横になった。
そういうことは普通にできるんだ。
横になった悠姉に布団をかけてあたしも横になってからリモコンで、電気を消した。
真っ暗になって、目の前は何も見えなくなる。
「悠姉って誰のベッドでも寝られるの?」
あたしの問いに悠姉は興奮気味に語った。
「いや、私の部屋のベッドに比べれば、紬さんのベッドも紅のベッドも天国みたいなところだよ!」
「・・・・・・」
「こ、紅?私なんか変なこと言っちゃった?」
あたしの方に顔を向けて、悠姉が心配そうな声を出した。
あたしは体を悠姉に向けて、少し近づいた。
「わ、私もぎゅってしてほしい・・・・・・。楓夏姉さんにあんなに抱き着いちゃってさ。あ、碧唯なんて、今朝も悠姉に抱き着いてたし。お母さんとも一緒に寝たんでしょ?みんな、ずるいよ。私もしてほしい・・・・・・」
そう言って、悠姉に抱き着いた。
「え、え・・・・・・」
戸惑った声を上げる悠姉。
「明日は碧唯と寝るんでしょ?いっつも碧唯ばっかり。引きこもり。オタク。ガリガリ。弱虫。なんで引きこもったの?何も教えてくれないでっ」
段々と語気が強まるあたしの言葉に、悠姉は私を優しく抱きしめ返して止めてくれた。
「それは、また、凄い悪口だね?」
ほんの少し笑っているようにも聞こえる声色に、温かい温度も合わさって段々と眠気が襲ってきた。
あたしの頭を撫でながら悠姉は私を抱きしめた。
次は5月14日に投稿します!




