122話 暴挙
光の魔力は一直線に暗い牢獄を照らしながら進んでいく。その先にはとある牢屋があった。牢屋の檻に光が当たると何事もなかったかのように消えた。
「なにやって……」
ヴヴヴゥゥゥゥゥ!
私は突然暴れだしたれいくんに事情を聞こうとすると、振動と共にサイレンが牢獄に鳴り響いた。れいくんはこれらを気にせずにゆっくりと牢屋へ向かっていった。
「何かマズイよ。れいくん……ねぇれいくん!」
振り返らず止まらず進むれいくんの腕を掴んで止めようとするが、れいくんは一向に止まらない。そんなれいくんの顔は今まで見たこともないほど、怖い顔をしていた。少し進んでようやくれいくんが口を開いた。
「こんなところに居たんだね。とっくに追放されてるかと思ってたけど……やっぱり天界の連中は甘過ぎる」
れいくんは牢屋の前まで着くと勢いよく音を立てて檻を掴んだ。
「ほんっっっと……ムカつくんだよね……」
そして最後に吐き捨てた。
私も続いて牢屋の中を見る。れいくんほどの人が一体誰に怒っているのか。
居たのは二人の天使だった。一人は、せっかく綺麗な髪だろうに、とても長い間牢屋に閉じ込められて酷く傷んだ緑髪の女性天使。もう一人は、暗い牢屋の中に溶け込むような紫色のボサボサとした髪の男性天使だった。
二人からまるで生きる気力は感じられず、天使の象徴である羽はボロボロで地面にぐったりと着けている。
(痛々しい……)
最初に私はそう思った。でもれいくんがこんなに怒るのだから何か相当な理由があるのだろう。
すると緑髪の天使がこちらに顔を向け話してきた。
「こんなところに来るなんて……誰……?」
そうは言うが目の焦点が合っておらず、はっきりと確認しようとしていない。今度は紫髪の天使がこちらは見ずに口を開いた。
「誰だっていいよ……それよりうるさいから静かにしてほしい……」
それを聞いた緑髪の天使は顔を元の方向へ戻して目を閉じて言う。
「そうね……誰だとしても関係ないね………」
私は口を閉じるのを忘れるくらい戸惑っていた。なにもかも捨て、ただ永遠とも感じられるくらいの時間をここで過ごしているのがよく感じとれる。
これは私が首を突っ込んでもいい領域なのであろうか……
「居たぞ! こっちだ!」
視界は暗く、サイレンの音で耳鳴りがする中、私たちに光を当て大勢の天使達がやって来た。
(やっぱりこうなるよね……)
私とれいくんは捕まれてどこかへ連れて行かれた。
◆◆◆◆◆
「どういうことか説明いただけないでしょうか?」
「あ……えっと……それは……」
連れて行かれた先はペラシュエルの所だった。私たちの周りを先ほど捕らえられた天使達が見張っている。当然というか、来たかった所だから丁度良いというか……
「僕がやりました。うららちゃんは関係ないですよ」
私の隣で同じように正座させられているれいくんが白状した。れいくん、無理してないかな?
「あなたは……なるほど、報告にあった闇のゲートを使える天使ですか……」
ペラシュエルはれいくんを一瞬で見抜いた。れいくんは平常を装い普通にしようとする。
「それを知っていて僕をどうするつもりだい?」
「それとこれとは関係ありません。今はなぜ暴挙に出たのかということに答えていただければと」
ペラシュエルは話題をすぐに戻す。
「ただの気の迷いさ。僕もあんなことで取り乱すなんてね」
れいくんはそう言うがそれは本心なのだろうか。ペラシュエルは珍しくため息をついた。
「つまり天界を混乱に陥れるような事はしない、ということですか?」
「僕の取り乱す事が限界に達しなければね」
なんでちょっと上から目線で言うの?
れいくんの挑発じみた言葉に周りの天使達が「貴様!」などとれいくんを取り押さえようとした。しかし、ペラシュエルが無言で手を上げ、それに従うように天使達は元に戻った。
ペラシュエルはれいくんに仕返しするように威圧感強めの声で言った。
「あなたがどうしようと私達に勝てることはありません。そのような小さな復讐心など取るに足りませんので」
「っ…っ……!」
その時れいくんの顔が崩れ鬼の形相のようになった。だがすぐにいつもの顔に戻した。
「もう僕帰って良いかい?」
れいくんは負けを認めた。
◆◆◆◆◆
その後、私たちは解放されてれいくんは先に外に出ていった。私はペラシュエルに話があるので残ると「ちょうど私もお話したかったところです」とペラシュエルと共に神殿の中にある休憩スペース的な所へやって来た。(神殿なのに休憩スペース?)
「先ほどは本当にごめんなさい……でした」
私はまず謝った。ペラシュエルは微笑み近くの椅子に座った。
「構いませんよ。始祖光がそんな事する天使ではないことは分かっています。さ、お掛けになって」
本当に申し訳ないと思っているが、ペラシュエルは優しかった。「失礼します」と私は机を挟んで向かいに座る。
「あの子は、正直に言うと危険です」
「れいくんですか?」
ペラシュエルは頷き机に置いてあった花の花瓶を手に取る。
「実のところあの子の事情は私には全く知りません。しかし、だいたいの憶測は可能でした。あの二人の前での暴挙、そこでピンと来て先ほどは復讐心などと当てずっぽうで言いましたが見事に的中しました」
花瓶を手でスリスリしながらペラシュエルは話を続ける。
「二人の、緑色の髪と紫色の髪をした天使を始祖光は見たのですよね?」
私は頷く。
「まずはあの二人の話をしましょう。あの二人は……裏切り者です」
「裏切り…者……」
「名を緑髪はカーティス、紫髪はゼナイド。二人とも今の私達と同じ、現七大天使です」
私すぐさまに思い出す。アスタロトの救出前に行われた現七大天使の集会にてソランジュが「例の二人は居ない」と言っていたことを。まさかその二人が裏切り者だったなんて……
「私達現七大天使が元の七大天使から力を継承した数百年の間は平和でした。しかしある時、普段は温厚だった二人が、天界の約半分を破壊して回るという暴挙に出たのです」
「……!」
ガシャァァァン!!
ペラシュエルはわざと花瓶を地面に落とした。割れた花瓶の破片と水が散らばる。ペラシュエルは椅子から降りて手で散らばった物を集めながら続きを話す。
「なんとか彼らを捕らえそのあと尋問をしたのですが……彼らはどんな拷問を受けても何も話してはくれなかったのです」
ペラシュエルの手元が光だした。
「何も話さないまま彼らの体はボロボロになりこのままだと死んでしまうと判断し、今の牢獄に入れたのです。今では天界もほとんど元通りです」
光が止むとペラシュエルは立ち上がりその手には花瓶が元通りになっており、机の上に戻した。
「そこであの子の話に戻りますが、言いたいことは分かりますよね?」
私はまた頷き話を理解した。れいくんはきっとその時の被害者でカーティスとゼナイドをとても憎んでいるんだ。




