◆第二十九章:春日原 誠 その三
小林君が倒れた!
あの手に手錠をつけた女の子になにかされたんだ!!
「委員長逃げろ!!」
三奈木さんが指示をだす。
静海さんは席をまわって後ろの廊下の方に駆け出す。
「静海!!先生を返せ!!」
そういって手錠の娘も素早く追いかける。なかなか足が早い。
「神谷!春日原!委員長を頼む!!小林は任せてくれ!!」
三奈木さんはこんなときでも三奈木さんだ。
神谷君もすぐに状況を理解し僕らは二人を追う。
「クソ!宇多田クンモマモラネバ。」
「筑波少年!風見少年ヲタノム!」
そういって後からヘルメットの男が追ってくる。
僕は走りながら考える。
見たところ車椅子の夏目さん、それにかけよって気絶した男、手錠の娘、ヘルメットの男は恐らく仲間、そして最低でももう一人仲間がいる。
ホールに残っていたのは三奈木さんと倒れた小林君、気絶した男、後わからない男が二人。
もし三奈木さんの言うとおりハンターがいるのだとしたら最低でも石田先輩のカードを含めて二枚持っているはずだ。
そうなってくると最初のあの人物、恐らく三奈木さんのいう謎の男の発言はヒントだ。
ここにいるのは十人、そして十枚のカード。
僕らは五人全員で合わせてカードを五枚もっている。
なら僕ら以外の五人で五枚カードをもっていることになるが一人は二枚以上もっていて最低でも一人はカードを持っていないことになる。
さっき小林君を襲った手錠の娘は僕が見る限りカードを使っていない。
三奈木さんとカードの使い方はいやというほど思案したんだ、使っているならすぐわかる。
明らかに静海さんに殺意を向けている手錠の娘はそれにも関わらずカードを使っていないことからカードを持っていない可能性が高い。
なら危険なのはホールに残った二人とヘルメットの男だ。三奈木さんから離れすぎる訳にはいかない!
僕らが廊下の中ほどにつく頃には静海さんと手錠の娘は外のデッキまで出ていた。
ヘルメットの男はまだ廊下の入り口だ。
「神谷君、静海さんはまかせたっす。」
「春日原?」
「あの手錠の娘より残りの人達の方がカードを複数枚持っている可能性が高いっす。」
「それって…。」
「僕はあのヘルメットを止めます!だから静海さんをお願いします!」
「…わかった!」
僕は立ち止まりヘルメットの男と対面する。
「ソコヲドイテクレ!!」
こちらに向かってくるヘルメットの男は手の甲から黄色い何かを取り出す。恐らくあそこにカードがあるのだろう。あの方法は三奈木さんと考えてある。
そしてそれを僕に向かって投げてくる。
…思い出すっすね、キャンプのことを。
「さっき当たらなければどうとでもなるといったがカードを持つものにはもう一つ対策がある。」
「なんやねん三奈木ちゃん?」
「私達はカードを使うとき対象を認識しなければならない。」
「そうなんかいな?」
「…さっきも言ってたろ小林。」
「せやったかいな?」
小林君の態度に咳払いをして三奈木さんが語りだす。
「とにかくだ小林、我々はカードを使う際何かしら対象をとっている。」
「不思議なことにそれはぼんやりとしたイメージでいいんだ。リンゴから種だけを残そうと思ったら中身の種がどんな形か詳しく把握してなくても残せる。」
そういって三奈木さんはカードでリンゴに触れる。その後種だけがその場に残る。
「…さっきの即死技やな。」
「…まぁそうだ、しかしこれを防ぐ手がある。」
「試しに小林、私の裸をイメージしてカードに入れてみろ、服だけ残るはずだ。」
「…ちょっとそれは堪忍やで。」
「…なんでだ?お前にしては大人しい反応だな?」
「悪い思い出があるんだ、代わりに俺がやるよ。」
そういって神谷君が三奈木さんの前にたつ。
「容赦なくこい神谷!」
「…いいんだな?」
神谷君がカードで三奈木さんに触れようとした時、三奈木さんはポケットからハンカチをだしカードを包む。
すると何も起こらない。
「…これは?」
神谷君が不思議そうにしている。恐らく彼は真剣にやったんだろう。
「カードに入れようとしたイメージをもってカードに触れる際、カードとその間に何かあるとイメージと対象が異なったことになりカードに入れれなくなるの。」
「要はバリアをはれればカードの取り込みは防げるの、正確にはバリアごと入れられたらしょうがないから一瞬だけだけどね。」
感心したようにみんなが三奈木さんを見つめる。
三奈木さんは嬉しそうだ。
「残念ながらこのテクニックはカードの上書き効果による範囲攻撃には効かないわ。」
「でもこのようにこのカードの働きには私達の意識が深く関わっているの。」
「それを考えるとカードの使用には大きな弱点があるの!」
相変わらず僕はカードを持っていない。
それでも問題ない。僕は三奈木さんと、みんなと一緒に沢山考えて沢山試してきた。
だからカードがなくてもどう対処すべきかわかる。
ヘルメットの男が投げたものを避けると地面にぐちゃりと落ちてつぶれる。
ペイントボールかな?考えることは一緒のようだ。
そのまま突っ込んでくるヘルメットの男は僕に近付くと両手の甲を叩きつけ叫ぶ。
「サイボーグノチカラハジョウジンノニバイ!!」
あれは知っている。衝撃をカードにこめたんだ。
振りかぶろうとするヘルメットの男に僕は隠していたそれを投げつける。
「サイボーグパンチ!!」
「…ごほっ。」
やっぱり三奈木さんのやつよりちょっと痛いや。
でもちょっとだけだ。
パチンと破裂音がする。
「ナ、ナンダ!?マエガミエナイ!?」
黒い液体が彼の頭を覆っている。
「…あなたがヘルメットでよかったっすよ、今投げたのは墨汁入りの水風船です。」
「去年の文化祭の時のあまりっすよ、水風船なんて作りもしないのに買っちゃったんで。」
三奈木さんだったらこう言うだろう。
「とりあえず目が見えなければカードに入れる対象を認識出来ない。」
「だからこれ以上続けるならあんたはまずヘルメットを脱がなきゃいけないっす。」
「ク、クソゥ…、ワタシハアイツラヲマモラネバナランノダ!!」
ヘルメットの男はヘルメットを捨てる。
「正義のヒーローが弱いものを守らなくちゃいけないんだ!!」
男は叫ぶ。
彼は本気だ。だから確信した。
この人は敵じゃない。
「手錠の娘は僕らに任せてくれないっすか?」
「…なんだと?」
「僕の考えが合ってたら神谷君が答えを持ってるっす。」




