◆第十三章:三奈木 凛子 その二
二学期が始まって一週間、うちの学校は慌ただしくなる。
来週末に文化祭があるのだ。
去年のオカルト研究会は当時俺がはまりにはまったゲームの題材について調査し新聞形式でまとめた記事を展示した。
その際口論になって大歳が辞めてしまったのは苦い思い出ではあるがそれなりに楽しかった記憶がある。
けれど今年の文化祭は乗り気ではない。
三日間の口論の末、今年のオカルト研究会の出し物はたこ焼きの屋台になった。
これは小林の案だ。
悲しいことに俺と小林の戦いは小林に軍配が上がったのだ。
「三奈木さんのマジックバーって意見もなかなかよかったんっすけどね。」
「…春日原、お前本当はエスパーなんだろ?」
「…なんでっすか?」
「俺の心読んでんだろうが!!」
「顔にかいてあるんすよ。」
馬鹿にしやがって!!
「そもそもお前もあの時小林側についたろ!!」
「いやー、だってマジックの練習大変だと思うっすよ。」
投票結果から言えば俺と小林の票数は二対三だった。俺の味方は神谷だけだったのだ。
「なんでクラスの出し物でお好み焼きつくって部活でたこ焼きやかなきゃいけないんだ!!ここは関西か!!」
「それよりマジックバーでカード保有者をおびき寄せるって作戦はさすがに危なすぎるっす。」
「…折角のチャンスだというのに!!」
「…焦りすぎっすよ、三奈木さん。」
確かに春日原の言う通りだ。俺は最近焦っていた。
石田先輩が失踪してから早三ヶ月、俺達はカードを配る謎の男、及びカード保有者を狙うハンターの足取りを全く掴めずにいた。
勿論我々も全力で調査している、なんの情報も無いわけではない。
まずここのところ街で有名なホームレス「ダンボールおじさん」が姿をくらましたり、行方不明の老人、飼い猫、飼い犬の失踪が明らかに増えている。
残念ながら詳しい統計資料が出ているわけではないので数は把握してないが注意喚起のポスターが明らかに増えている。
数はわからないが確実に誰かが消していると考えられる。それなのになんの痕跡も残っていないのだ。
証拠がない以上警察も動けない。石田先輩の捜索もどうなっているかわかったものではない。
逆にこんな噂も流れている。九月の始めごろからフルフェイスのマスク、全身ピチピチのライダースーツを着た男が街のチンピラをのしているらしい。
そんなやつがいたら目立って仕方無いとは思うのだが圧倒的な強さで不良達を蹴散らすとあっという間に消えるのだそうだ。
目撃者の証言によると機械音声のような高い声でしゃべり正義のサイボーグを名乗っているらしい。
余りにも馬鹿馬鹿しい噂だがカードのことがある以上無関係ともいえまい。
それと学校の裏山にある溜め池で不思議な事件が起きている。魚の突然死だ。
朝近くをジョギングをしていた男性が見つけたらしく池中の魚、それも一種類、ブラックバスのみが死んで浮かんでいたらしい。これはニュースにも取り上げられており魚達の死因は窒息死らしい。
この池には他にも鯉や鮒などの魚が生息しており特定の一種類が死滅しているというのがどうにも不可解だ。
俺はこれの犯人を魚殺しと名付けた。
この様に様々な出来事があったが俺には一つの持論がある。
これらすべての出来事はカード保有者が起こしているのではないか?
俺は去年からオカルト研究会を立ち上げ情報収集をしてきたが、俺達がカードを得てからこの手の噂が多発している。それまでは全くといっていいほどなかったのにだ。
しかし残念ながら俺の仮説を証明する証拠が手に入らない。
逆に全く証拠がないことこそカードが原因であるともいえるがカード保有者に繋がる情報を手にいれることが出来ずにいるのだ。
ただ俺の焦りはそれが原因ではない、謎は謎として楽しむのが俺なのだがそれ以上に頭を悩ませていることがある。
「三奈木ちゃん!戻ったでー!」
「材料も買ったしこれで看板作れるね。」
買い出しを済ませた三人が帰ってくる。
「よく戻ったなお前ら、ならこれから装飾品の作成にかかろう。」
俺は皆に指示を出す。
「小林と委員長と春日原は看板を作っていてくれ、俺と神谷でビラの印刷に行ってくる。」
「了解っす三奈木さん。」
「任せてや!」
「頑張ります!」
たこ焼き組は楽しそうだ。
「そうゆう訳だから神谷、付いてきてくれ。」
「…あぁ。」
俺が目配せすると神谷も察してかついてくる。
ビラの印刷の為には本来職員室横の資料室にいく必要がある。
しかし俺達はそことは真逆の部室棟非常階段にいた。
「印刷はどうしたんだ三奈木?」
神谷が聞いてくる。
「ちょっと話を聞いてくれないか神谷」
俺は神谷のことを高く評価している。
彼は冷静だ。
親が死んだって平常心でいれる男だ。
内情は知らないが実際その冷静な判断力には一泡吹かされている。
「キャンプは楽しかったよな…。」
「…そうだな。」
「今度いくなら海がいいなぁ…。」
「もう次の計画か?」
神谷は笑っている。
…。
「…委員長の件なんだが。」
「…どうかしたのか?」
神谷の表情が変わる。
「俺はこのカードを手に入れてよぉ…、すげぇ興奮したんだ…、本当に自分達の知らない未知の力があるんだってな。」
「…確かに俺もそうだった。」
「それでよぉ…、沢山実験したんだよ。」
「俺もそうだった。」
「春日原とよぉ…、沢山準備してさ、お前らに見せる予定だった炎とかなかなか手がこっていたろ…。」
「…。」
「それでよぉ、色々と試しているうちにさ、気付いちまったんだよ…。」
「…。」
神谷は無言だった。
「カードは魔法の力のようでちゃんと規則性がある。」
「その効力を度外視した働き方はしない。」
「…このカードは奪うことは出来るけど直すことは出来ないんだ。」
「…何が言いたいんだ?」
…。
「…アミュレットはまず助からない。」
神谷が俺の胸ぐらを掴んでくる。
…俺の見込み違いだったか、そう思うとなんだか嬉しかった。
「…わかっているんだろ、お前も。」
俺は冷たく神谷に言う。
答えは聞くまでもないだろう。
「…キャンプで委員長の話をきいて色んな方法を試してみたさ。」
俺は構わず喋る。
「最初は粘土と割り箸で猫に見立てて模型を作った。」
「…何回試したかは覚えてねぇけどよぉ、ありゃぁ駄目だ。」
「…何度元に戻そうとしても出来ないんだよ。」
「…それ以上言うな。」
「委員長にアミュレットの骨も見せてもらって医学書も漁った。」
「…それ以上言うな。」
「確かに優秀な名医がいたら治せるかも知れねぇなぁ!!」
「神経や血管とも綺麗に離れていても繋げられれば助かるかも知れねぇよなぁ!!」
「あの衰弱した体で、手術に耐えられるだけの元気があれば助かるかも知れねぇよな!!」
「それ以上言うな!!」
俺は泣いていた。
「…なぁ神谷、手品は好きか?」
「…マジックみたいに布で包んだら元気な猫に早変わりって出来ねぇのかな?」
…俺はあいつになんて言えばいいんだ?
神谷は答えてくれる。
「それはきっと委員長が一番わかってる。」
「わかった上で答えを探してるんだ。」
「…なんでお前がそんなこと言えるんだよ?」
神谷は答えてくれる。
「俺も探しているからだ。」
「…なら俺も探し続けねぇとな。」
今になって神谷の手を振りほどく。
「ほらっ印刷いくぞ!ついてこい神谷!」
「…あぁ。」
…また借りが出来ちまった。




