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お代官様になろう!  作者: 元ガス屋
市井の人々編
25/26

第20話 プロジェクト・ミートナ~挑戦者たち!

そういえば、保護された民間人ってどうなった?

なんて思ってる方、ほとんどいなかったと思いますw


今回はそんな彼らにスポットを当ててみました!

原田さんと桑山君、実は適当に作ったキャラなんですけどねww


 ミートナ市包囲戦で保護した民間人は二名。うち一名は桑山拓海。旋盤加工の職人だった。そしてもう一人、原田和子はらだ かずこは四十六歳。典型的な「おばちゃん」キャラだ。


 「ほらほら! あんたたち、さっさと起きなさい!!」


 ミートナ市包囲戦後から数ヶ月、代官屋敷の朝は原田さんの大声で始まることが慣例となっている。主に住み込みの兵士たちへの声かけなのだが、俺と横峰もどうやら対象に含まれているようだ。

「相沢さん、トップが早起きしないと部下もついてこないよ! ほら、さっさと起きる!」

 戦後の気の緩みで完全に寝坊モードな生活サイクルになってしまった俺にとって、このおばちゃんの起きろコールはけっこう辛いものがある。前日もクーリエと遅くまで飲んでたしな……。

 しかし、クーリエは涼しい顔をしてダイニングルームで控えているから俺としては何も言えないんだけどね。


 「おはようございます、旦那様、横峰様。本日は原田様が朝食を是非にと言われるのでいつも以上に強引に起こさせていただきました」

 クーリエの言葉を聞きつつ、二日酔いの気配を出しまくりながらイスに座る俺と、飲んではいないが寝ぼけ眼の横峰。そんな俺たちの鼻腔に何やら懐かしい匂いが漂ってくる。

 そうだ。アレだ! あの匂いだ! 横峰もそれに気づいているのか俺の方を見ている。


 「お待たせ! やっと人様に食べさせられるものができたよ!」

 原田さんがお盆に乗せてきたものを見て俺も横峰も確信した。クーリエは珍しそうにそれを見ている。

「あああ!」

「こ、これは!」

 原田さんが俺たちの前に置いた食器は二つだけ。ひとつは普通のお皿。もうひとつはスープ皿みたいな深い器だ。

「ノルド亭さんから仕入れた大森林に住む獣の肉で作ってみたよ! この肉だとバッチリだね!」

 もう半分以上、彼女の言葉は耳に入らなかった。俺たちの目の前に置かれているのは、やや白っぽいスープに、肉と野菜が盛りだくさんの料理。つまり、「豚汁」だったのだ。

 もうひとつの食器には、三角に握られた白い塊、これは「おにぎり」だ。


 「「いただきます!」」

 俺と横峰は同時に言うと豚汁に手をつけた。原田さんお手製なのだろうか。無意識のうちに手に取った箸を使い豚汁を無心にすする。

 口に入れた瞬間に広がる味噌の味と煮込んだ野菜の深み。その余韻があるうちにおにぎりを口に放り込む。うっすらとした塩味と、噛めば噛むほど広がるコメの甘みが口中に満たされる。


 「う、うまい……」

 俺は一気に豚汁とおにぎりを食い尽くしてため息をついた。腹を満たされた懐かしい感覚を実感すると、自然と視界がうるんできた。

 横峰も同じようでエグエグ言いながら豚汁をほおばっている。

「相沢さん、どうだい? 人足寄せ場のコメとクーリエさんたちが見つけてきた大豆で作ってみたけど口に合ったかね?」

 原田さんの問いかけに俺はこみ上げてくるもので声にならず、ただうなずくだけだった。横峰も俺と同じ状況だ。それを見た原田さんは満足したのか、クーリエにもそれを勧めた。

 そういえば戦後すぐにハルフが大豆を入手したという情報をもらい、人足寄せ場で栽培を始めていた。魔法を駆使した促成栽培で大量に収穫した大豆を見て、原田さんがここ何ヶ月か、頻繁に寄せ場へ通っていたことを思い出した。


 日本では普通のおばちゃんだった原田和子。たちまち代官屋敷ではその味が評判となり、本人のキャラもあいまって「代官所のお母ちゃん」と呼ばれ始め、さらに数ヵ月後、ミートナ郡では「日本食の母」として伝説となる。




 原田さんの「朝の豚汁定食」が安定供給のめどをつけた頃、俺の部屋に桑山君がやってきた。彼はクーメ一派、ハルフ一派と共にエストライドへ経済戦争を仕掛ける片棒を担いでもらっている。しかし、彼の担当は焼印でエスティン硬貨を偽造するだけ。要するに手持ち無沙汰でしょうがないというのだ。

「原田さんみたいに味噌汁でも作れればいいんですけどねえ……」

 サイラスが勧めた酒を飲みながらひとりごちるメガネの職人。

「しかし、普通の鉄だとNATO弾の再現は難しかったんだろ?」

 俺の問いに桑山君はうなずく。彼には当然だが、八九式小銃の銃弾生産を依頼した。しかし、内包薬の爆発に鉄の薬きょうは耐えられない。この世界の希少金属を使えば可能かもしれないが、コスト的に不可能な状況だ。

「このままじゃエストライド軍がパイク兵を真似してやってくるんですよね……」

「そうだな……」

 俺の答えに桑山君はしばらく、自分のグラスを眺めていた。数秒後、俺に視線を向けた。

「相沢さん、なんでそもそもパイクだったんですか?」


 なんでって言われても、当時の俺の知識じゃマスケット兵とかライフル歩兵を編成するだけの武器量産はできなかったからだ。

 歩兵戦術の進化はセオリーがある。投げ槍に剣を持つ重装歩兵の密集戦術。それが長槍になったテルシオ。弓兵や投石兵も織り交ぜたファランクス。重騎兵の時代を経て火器の登場で軽装になった戦場に再び現れたパイク兵、進化系であるマスケット兵、ライフル歩兵。

 俺の知識と技術ではパイク兵が精一杯だったんだ。


 ん? いるじゃん!!


 今、俺に愚痴を言いながら酒を飲むメガネの男。理系大学を卒業、つまり基礎的な化学は抑えてる。そして専門は旋盤加工。

 俺は自分の酒を飲み干し、クーリエから酒瓶を受け取ると桑山君に注いであげながら、彼にはっきりと言った。

「桑山君、ミニエー銃作ってよ?」

「へ??」

 俺の言葉に素っ頓狂な声で返す桑山君。彼に説明してやることにした。


 銃砲の歴史は案外奥深い。日本人が知っている火縄銃はもっとも原始的な銃器だ。銃口の先端から弾丸と「発射薬」を込める。それを棒で押さえてこぼれるのを防ぐ。この時点で押さえ方がまずくて火薬の量が均等でないと弾丸はまっすぐ飛ばない。

 さらに銃の引き金近くの「火蓋」に火薬を入れ、火のついた縄を挟んだ「激鉄」を起こす。火蓋と激鉄は銃の外部。装てんした弾薬と発射薬は銃の内部にある。

 引き金を引くと、激鉄が下りて、火蓋の火薬と接触する。発火した火花が銃内に飛んで、発射薬に引火。弾薬を発射する。

 これだと雨では火縄が消えて使えないとか、装てんに時間がかかってしまうとか、弾丸が丸いんでまっすぐ飛ばないとかいろいろ弊害がある。

 それらを克服しようとしたのが、ナポレオン時代のマスケットである。基本的な操作は変わらないが、画期的なのは激鉄につけるのを火縄から火打ち石にしたことである。またヨーロッパでは集団戦だったので、命中精度よりも横に列を組むことでとりあえず火力をアップさせる戦術が横行した。


 「あ、相沢さん。この世界でその精度を求めるのは……」

 桑山君は俺の要求を察して言いかけるが、俺は彼のグラスに酒を注いでやることで制す。

「やっちゃってよ、たぶん理論上はできると思うぜ。この世界の温暖でムシムシしない気候だと硝酸はできるはずだ」

 俺の言葉に桑山は黙り込む。硝酸は火薬の原料となる。日本の戦国時代。近畿地方では排泄物を使用して産出していたこともあるようだ。

「確かに、有機栽培の真似事を人足寄せ場でやっているので可能とは思いますが、弾丸はどうします?」

 俺は桑山君へさらに解説をしてあげる。


 ビー玉みたいな弾丸を飛ばすナポレオン時代のマスケット銃は要するに、狙ったものに当たらない代物だった。例えて言うなら、野球でピッチャーのストレートはボールに回転がかかっているからまっすぐ飛ぶ。まったく回転がないとボールは地球の引力とか風とかあらゆるものに影響されてしまう。

 ライフル銃もあるにはあったのだが、先込め式ではものすごく弾込めに苦労したため普及していなかった。銃身内部のライフリングというソフトクリームのように刻まれたねじ山みたいなのに弾を押し込めるのは一仕事だったためだ。

 

 そこで開発されたのが「ミニエー弾」である。フランス軍のミニエー大尉は銃身よりもちょっと小さい、ドングリ型の弾丸を開発した。その円底部分は少し突き出していてすり鉢を想像するとわかりやすい。

 ライフリングが刻まれた銃に火薬、ミニエー弾を詰め、発火させると弾丸はその爆発力で底部に突き出した部分が外側に広がる。すると銃身内部のライフリングと接触し回転しながら前進する。ジャイロ効果で弾丸はまっすぐ飛んでいくというわけだ。

 サスペンスドラマなんかで「線状痕が前の事件で使われた拳銃と一致しました」なんて言ってるが、それは弾丸に刻まれたライフリングの痕を分析しているからだ。


 わかりやすくいうと、「狙っても当たらない鉄砲」が「狙って当たる鉄砲」になったわけだ。実際、アメリカ南北戦争ではミニエー銃は大量に使用され、横一列に並んだ歩兵の戦列は大損害をこうむった。当たらない前提の鉄砲を使った戦術を、狙えば当たる鉄砲でやればこうなるわけだよね。

 さらに、南北戦争後、グラバー商会を経て薩摩長州に持ち込まれたミニエー銃は、ゲベール銃など旧式装備の幕府軍を圧倒し、明治維新の隠れた立役者となったわけだ。

 ミニエー弾はその後さらに進化し、金属薬きょうの出現により西部劇で有名なウィンチェスターライフルに代表されるレバーアクションライフル、モーゼルカービンに代表されるボルトアクションライフルの開発を促すことになる。

 つまり近代火器のさきがけとなるものだ。

 

 俺の長々とした説明を聞いて桑山は酒を飲む手を止めて黙っていた。その様子を見て俺は声をかける。

「やっぱ厳しいかな?」

 この言葉がどうも職人の心に火をつけたらしい。オドオドしたメガネの男は目をかっと見開くと手にしていたグラスの酒を飲み干して俺に向き直った。

「やりましょう! 相沢さん! ミニエー銃、作りましょう!」

 あまりの勢いに俺も思わず、

「は、はい!」

 って答えてしまう。

「クーメさんとハルフさんのメンバーから人選してプロジェクトチーム作ります。人足寄せ場でも硝酸の生産チーム編成しましょ、こちらの判断で選んで声かけしていいですよね? 相沢さん?」

 またしても俺は「あ、はい」としか答えられず、それを聞いて桑山君はまるで別人のように自分の頬を両手で叩いて気合を入れつつ、颯爽と部屋から出て行った。


 

 そんな桑山君と飲んでから一ヵ月後、俺と横峰、飯倉士長にサイラスは代官屋敷の中庭に呼び出された。その相手は他ならぬ桑山君だ。

「相沢さん、やりましたよ!」

 桑山君は興奮でかいた汗に滑ってずり落ちるメガネを上げながら俺に言う。

「じゃあ、お見せします」

 そう言って持っていた小銃みたいなものを、代官所の庭の片隅に置かれた的に向けた。次の瞬間、八九式とは違う感じの轟音が響き、気がついたら的は粉々になっていた。

「まあ、見ててください」

 桑山君はポケットから紙に包んだソーセージ大の物体を取り出し、その先端を口で噛み切って銃口に傾ける。入れ終わると銃に付属していた棒でそれを押し込み、作業服のポケットからマグネットくらいの物体を取り出して銃の引き金付近のハンマーに取り付けた。

「装てん完了です」

 そう言って先ほどと同じ動作を繰り返す桑山君。銃声が響いて、的が壊れた。

「相沢さん、どうっすか?」

 このメガネ男、雷管まで作っちゃったよ。火縄銃は雨で火縄を消してしまうと作動しない。マスケット銃は火打石の表面がツルツルになると作動しない。雷管は衝撃で発火する仕組みの発火装置だ。確かにミニエー銃は雷管式だったがまさかそこまで再現してしまうとは。職人さん、恐るべし……。

 

 桑山拓海。この世界では不可能と思われていた、誰でも扱える火器を発明した「ノルドライド神聖王国発明の父」と後に呼ばれることとなる男が誕生した瞬間だった。


 ミートナ市包囲戦の直前、普通に足手まといになると思われていた民間人はどちらもミートナ郡にとってなくてはならない存在になっていた。


原田さんはみんなのメンタルや食事面で、

桑山君は技術的な面で、非常に重要な位置づけになってしまいました


でも日本人って与えられたステージで最大限のパフォーマンスをするのって得意ですよね

そういうステレオタイプな日本人が活躍する話ってなかなかないんで、書いてみたくなりました!

普通で何が悪いんだって感じですね♪

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