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お代官様になろう!  作者: 元ガス屋
OJT編
2/26

第1話 出会い

転職希望のリーマン相沢と女性自衛官横峰。

見たこともない世界にいることを自覚した彼らは移動を開始するが、

突如襲ってくる男…

 い、今起こったことをありのままに話すぜ。

 富士山や諸々の噴火で壊滅状態になった首都圏から脱出しようと自衛隊のトラックに乗り込んでひたちなか市を目指してた。途中で事故にあって道路わきの斜面に転落した。

 気がついたら生き残ったのは俺と小柄な自衛隊の姉ちゃん。上の道路に登ったつもりだったのに目の前には見たこともない世界と、中世ヨーロッパみたいな城壁に囲まれた街しか見えない。

 普通に考えて、おかしい。絶対おかしい。だが、遭難した俺たちに選択肢はない。


 「行こっか……」

 どちらからともなくそう言って俺たちは歩き始めた。歩きながらせっかくなのでお互いの身の上を話す。


 俺、相沢弘樹は二十五歳。文系大学卒業後、KIコーポレーションに入社。いわゆるしがないサラリーマン三年目。三年目の浮気ではないがひそかに転職活動中。文系大学出身なので歴史学は得意だが当分このスキルは活用できそうにない。


 自衛官の横峰真菜は二十三歳。三等陸曹。短大卒業後、一般曹候補試験に合格。晴れて三曹になった途端にこの災害で出動を命じられたそうだ。

 小柄だがきりっとした目。桜色の頬。そしてさっき抱えた時の感触。まあ、合コンにいればロックオンしておくべき人材だね。


「ぶっちゃけ、全然接点ないよね、俺たち」

「そうですね……」

 お互いの自己紹介がひとしきり終わって俺たちは言葉を交わす。そりゃそうだ。被災者と助ける側だ。

 そう言いながら街、と思しき集落に向かって歩く俺たちの眼前に道が現れた。

 「道」って言っても、さっきまでトラックで走っていたアスファルトで舗装された道路ではない。っていうか、これあぜ道っていうのかな。そんな粗末な道路だ。


「これ、舗装されてないよね?」

「どう見てもそうですね」

 道は街へ続いているようだが、およそ車両が通れる代物ではない。せいぜい徒歩、あるいはリヤカーあたりが通れる程度のあぜ道だ。



 俺は走っていた県道とは反対の斜面に出てしまったのではないか、という推測を口に出そうとしたがやめた。くぼ地に落ちて県道側の反対には未舗装の道、電線も走ってない街があるなんて、いくらなんでも考えられないからだ。

 茨城県をよくネタにする首都圏住民だが、そこまで茨城県をディスるつもりもない。

 ともあれ、自然と俺たちの足は道を通りながら街に向かうことになる。

 スーツ姿で自衛隊迷彩のバックパックを背負う男に、完全武装で周囲を警戒しながら歩く女性自衛官。

この世界に不審者ランキングがあるとすれば今週の第一位に輝く自信はあるぞ。


 「相沢さん、誰かいます!」

 不意に横峰が声を出す。彼女は俺よりも数メートル先行して歩いてくれている。

 ひょっとして逃げ遅れた避難者だろうか? 軽く左カーブを描く道で、彼女の後方にいる俺の位置から、彼女の言う誰かはまだよく見えない。


「連れて行けそうなら連れて行こうぜ!」

 俺は前方の横峰に声をかけながら彼女に近づく。

 とその時、


 カキン!


 鈍い金属音がして横峰が一、二歩下がった。彼女の手には八九式小銃。それを両手で横にして何かを防いだようだ。

 見ると、左前方。俺の死角から一人の男が横峰に飛び掛っていた。金髪の男。手には細長い金属片が握られている。先ほどの「カキン」という音は男の一撃を横峰が小銃で受けた音だったようだ。

 

 要するに、横峰は襲われている。

 頭で理解できても俺はどうすることもできない。

 未曾有の災害で治安が崩壊した首都圏に対して自衛隊の治安出動が出たくらいだ。ヤケクソの暴漢が自衛隊を襲っても不思議ではない。とはいえ、彼女の持つ銃器が奪われたら次に襲われるのって…… 俺じゃね??

 混乱する頭でどうにかそこまでは理解できたが、具体的に俺がどうすべきかってのは浮かばないままだ。


 「こんのっ!」

 最初の一撃を小銃で受け止めた横峰は、暴漢の振り下ろした棒を小銃ごと横に放り投げた。暴漢が武器を失ったことに戸惑いを感じたのか、動きの止まった一瞬。彼女の拳が暴漢のアゴを捕らえていた。男がその衝撃で膝から地面に崩れ落ちる。

 それを見た横峰は容赦なく足を振り上げ、慣性の法則を利用してコンバットブーツのかかと部分を男の後頭部に振り下ろした。つまり、かかと落とし……


 「らっくしょう!」

 若干テンションがアップしている横峰を尻目に、俺はノックダウンされた男を調べる。金髪の髪だ。在日外国人だろうか?


「って、こいつ何者?」

 まず驚いたのは男の着ているものだ。いわゆる鎧ってヤツ? 鉄製と思しきプレートが彼の胴体を取り巻いている。そして腰には鞘。俺が鉄パイプだと思っていたのは剣のようだ。ってことは、横峰は真剣を持った相手に格闘で勝ったってことか?

 俺はおそらく考えていることが顔に出たたんだろう、彼女を振り返るとすぐに答えが返ってくる。


「あ、わたし格闘徽章持ってるんで!」

 テヘペロって感じで横峰が笑う。自衛隊の格闘徽章がどんだけすごいかわからんが、とりあえず俺は勝てない。絶対に勝てない。それだけは理解した。


「ほっほお~。まさかカークをのしてしまうとはのう……」

 勝ち誇るように仁王立ちする横峰。倒れた男を調べている俺にかけられる声。

 新たに現れた男は、白い髪に頭にはバンダナみたいな頭巾。顔には髪の毛と同じ色のあごひげ、地味な色の作努衣みたいな服を着て長い杖をついた、いかにも人のよさそうな爺さんだった。その背後には倒れた男と同じような銀色の鎧をまとい、腰に剣を刺した黒髪のイケメン。俺と同じくらいの年齢だろうか。

 唖然とする俺と横峰に爺さんは言った。


「いや、すまんかった。ここに伸びているカークはわしのことを思って怪しい風体のあんたらからわしを守るために襲いかかったんじゃ」

「いや、あんたらの方が十分怪しいよ……」

 俺が思わずつぶやいた言葉に爺さんは目を細める。


「ふむ……、現地の住民に合わせたつもりだったんじゃがのう……。まあ、よい! まもなく日も暮れる。スーケ、その辺で野営のしたくじゃ! あんたらも付き合え!」

 爺さんは後ろに控える男に声をかけた。



 俺たちが連中と遭遇した道から少し外れた木立。そこにスーケと呼ばれた男は慣れた手つきで焚き火を準備し、野営の準備まで終わらせた。いまだテンションの高い横峰を座らせ、俺も焚き火の近くに腰を下ろした。


「わしはミーツ。エーチゴ国の商家の隠居じゃ。焚き火を準備したのがスーケ。あんたの連れにぶん殴られたのがカークじゃ」

「エーチゴ? 越後…ああ、新潟ですか? 日本海側の状況はどうですか? 火山灰はひどいですか? 治安は大丈夫ですか?」

 爺さんの自己紹介を聞いて俺は矢継ぎ早に質問した。だが爺さんは俺が期待する答えを持ち合わせていなかった。

「エーチゴはお前の言うニイガタとやらではない。ふむ? お前たち、もしかして……」

 今度は爺さんが俺たちに質問する番だった。


 

 俺の頭の中で、うすうすだが感じていたことを爺さんの話は次々と指摘していった。

 つまり、何かの拍子にトラックごと異世界に転移したということだ。火山灰だらけだった空気が変わったこと。県道に出たつもりがおよそ街道とはいえないあぜ道に出たこと。

 そして、カークみたいな現代ではありえない装備で自衛官の横峰に襲い掛かる事案が発生すること。

 さらに言えば、俺たちが目指している街には電線もなければ自動車が走れる道もないし、日本ではありえない城壁に囲まれているって点だ。

 もっと言うと、俺のスーツ姿も横峰の自衛隊装備も、爺さんの感覚で言うと「おかしな格好」なのだそうだ。

 これらがわかった時点で「普通じゃない」ってのはわかる。それを裏付ける話をこのミーツ爺さんは話してくれた。


「つい最近までこの世界は平和に満ちていた。と同時に戦争で使われるマナ(魔力)が空気に満ちていた。それが一週間ほど前から消え失せていた。おかしいとは思っていたが、まさか異世界の火山を刺激するとはのお……」

 なんとなく理解できてきた。この世界にたまった何らかのフラストレーションが俺たちの世界に影響を及ぼし、俺たちはこの世界に飛ばされた、ってことか?

 ということは、この世界に日本人の生存者がいる可能性も否定できない。戦争とか人災ではない天災だ。逃げる人々もまだ無事な街に逃げたがるだろう。


「いっしょに行くかえ?」

 爺さんはあっさりと提案してくれた。俺はテンションマックスな横峰を無視して彼らと同行することを申し出た。


若干というかなかりご都合主義的な感じになってます

深い世界観をご希望の方、申し訳ありません!

ライトな世界観をご希望の方、お待たせしましたw

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