第13話 ミートナ市包囲戦@序章
ついに始まってしまう、エストライド公国軍との戦闘。
果たして、相沢、横峰、サイラスが鍛えたミートナ郡大隊は実戦に耐えることができるのか??
互いの戦列が揃い、いつ戦闘が始まってもおかしくない状況になって数十分。俺は今更だが、サイラスに聞いてみた。
「この世界の実戦ってどういう感じで始まるんだ?」
「はい、どちらかの魔法攻撃で始まります。恐らく数で圧倒するエストライド軍が先制攻撃を仕掛けてくるでしょう。我らは部隊構成上、待ち構えていれば負けることはありませぬ」
彼の言うとおり、エストライド軍の戦列から火の魔法が飛んで来始めた。だがこの攻撃は予想通り、魔道中隊の防御特化小隊によって俺たちの戦列の前で中和されて四散する。
この原理は魔法を使えないし、魔法を知らない俺たちにはイマイチわからない。
俺は自分の知識を総動員させて考える。
大学では歴史学科で歴史を勉強した俺だが、専門は「戦術の世界史」である。
重装歩兵のファランクスからパイク、マスケット、軽騎兵、槍騎兵、セーカー砲からアームストロング砲、ミニエー銃にマキシム水冷式機関銃まで。有名な戦闘では、カンネーの戦いからクルスク戦まで戦史の研究が俺の専門だったのだ。
まさかこの知識が役に立つ日が来るなんて思いもしなかったけどね。
「GHQ、横峰、来るわ!」
パイク中隊と一緒にいる横峰から無線連絡。
騎乗したままのエストライド兵が徒歩の魔法使いに支援されながら前進を開始した。
「攻撃特化小隊、GHQ、突撃阻止放火を開始しろ」
この世界の幹部にも無線を持たせてあるが訓練どおり使えているようだ。
「GHQ、こちら攻撃特化小隊、攻撃開始」
訓練どおり、魔法使いたちは土魔法でドングリ状の弾丸を作りエストライド軍の戦列に向けて攻撃を開始した。
「GHQ、こちら騎兵中隊。敵戦列は味方戦列を半包囲しつつ接近中、送れ」
どうやら敵はパイク中隊を前面に出す俺たちに対して数に物を言わせて半円形の戦列で包囲するように迫っているようだ。偵察に騎兵を出動させておいて正解だ。
「敵陣が浮ついているようですな……」
双眼鏡をのぞくサイラスが静かに言う。魔道中隊の攻守分担に対し、敵は魔法使いの気まぐれで攻撃魔法と中和を繰り返している。局地的に中和を突破したこちらの弾丸が敵の戦列に届いているようだ。
「GHQ、第一パイク中隊。前面の敵、進行停止! 進行停止!」
攻撃魔法だけで敵の左翼は戦意喪失、前進をやめた。
「第一パイク中隊。GHQ、状況確認。現状にて待機せよ」
「第一パイク中隊、了!」
歩兵部隊を安易に動かすのはリスキーだ。まだ中央と右翼の敵は活発なのだ。歩兵突撃と騎兵の追撃はまだ後でいい。
中央を担当する第二パイク中隊に敵戦列が近づいた。中隊は訓練どおり長い長いパイクを敵に向けた。ミートナ郡大隊にとって白兵戦は初めてだ。
敵味方の距離が目測百メートルを切ったあたりで、エストライド軍は騎乗突撃に入る。
「「うおおおお!!」」
鬨の声が俺のいる後方まで聞こえてきた。
第二パイク中隊は見事だった。ギャロップを始めた敵に分散配置した攻撃特化小隊が一撃を食らわせた直後、構えたパイクを完璧に敵に向けて防御体制をとったのだ。
二割近い兵士が魔法攻撃で落伍した敵はパイクに向けて剣を振り回しながら突進してくる。が、馬が本能的にパイクを嫌い、勢いは直前で削がれる。そこを後列のパイク兵が槍を叩きおろす。
槍を嫌った馬が引き返そうとするのと、後列が突進を続けようとする混乱でエストライド軍の突進は止まった。そこへ攻撃特化小隊が更なる魔法攻撃を加える。
「GHQ、第二パイク中隊。敵戦列は崩壊! 送れ」
第三中隊の戦区でも同じような結果だ。全面に渡ってエストライド軍は攻撃を止めて混乱している。潮時だな。
「横峰、GHQ。行動開始」
俺は横峰に反撃を指示した。ホイッスルの音が混乱と喧騒の戦場に響き渡る。
「GHQ、第一騎兵中隊。これより突撃を敢行する!」
敵が描く半円の陣形のさらに外側に、二手に別かれ展開して偵察していた騎兵中隊が行動を開始した。俺たちを包囲する気満々だったエストライド軍にとっては背後を取られた格好だ。
「うわ、すっげ……」
俺は双眼鏡を見ながら声に出してしまう。
こちらの騎兵が、敵の混乱したり乱れた戦列の背後から徹底的に蹂躙している。正面からの思いもよらない反撃に距離を置きたい意図があった敵は、まさかの背後からの攻撃で算を乱して敗走を始めた。
つまり、完勝だ。そして同時に、俺の勧めてきた軍制改革が実戦でも通用すると証明された瞬間でもあった。
「旦那様、おめでとうございます!」
感慨ひとしおといった感じでサイラスが俺に声をかける。
「サイラス、やったな!」
俺もついつい感情がこもってしまい彼の手を握りながら答える。だって、一仕事やり終えた感って同じ状況の人とすっげー共有したくなるじゃん?
騎兵中隊に追い散らされて、パイク中隊が前進を始めて、エストライド軍は逃げる者、こちらに降伏する者、散発的に抵抗を試みるが魔道中隊に殲滅される者……。ひどい有様だった。
「死して屍拾う者なし、ね……」
横峰の言葉に俺も完全に同意だ。彼女も実戦は初めてだ。指揮官たちの複雑な思いはよそに、兵士たちは完全勝利に沸き立っている。
「GHQ、こちら第一パイク中隊。確認した敵死体、百。捕虜二百。二個小隊を森林入り口まで前進させて掃討中。我が方の損害、負傷十二、死者なし!」
「GHQ、こちら第二パイク中隊。確認した敵死体、五百。捕虜七百。我が方の損害、負傷五十三、死者なし!」
「GHQ、こちら第三パイク中隊。確認した敵死体、二百。捕虜百。我が方の損害、負傷七名。死者なし!」
敵勢力二千名で死者八百、捕虜千名ってすごすぎる。
「GHQ、騎兵中隊。我が方の損害、死者六名。これより帰還する」
幅広い活動をしてくれた騎兵中隊には残念ながら死者が出てしまった。それでも俺たちの大勝利には変わりない。
王立騎士団の模擬演習から実戦で勝利を得たミートナ郡大隊の兵士は歓喜に満ち溢れている。
そこへ、ひとりのドワーフ族が走ってきて俺の目の前で立膝を突いた。
「お代官様へ申し上げます!」
「あんたは?」
見慣れない男に俺は思わず問い返す。
「地獄耳のハルフの使いの者です! クーメ殿より申し付かった情報をお持ちいたしました!」
その言葉に彼との契約を思い出す。地獄耳のハルフ、確かに信頼できる男のようだ。
「わかった、聞こう!」
俺の返答に、使いの男は衝撃的な事実を告げた。
「現在、大森林を通って大規模なエストライド軍がミートナ市に向けて侵攻中! その数およそ六万! ミートナ市まで二日の距離まで迫っております!」
ハルフの伝令の言葉に、俺は顔面を殴られたような衝撃を受けた。所詮、俺たちの挙げた戦果は局地的なものにすぎなかったのだ。エストライド公国は本格的にノルドライド神聖王国に対して軍事行動を起こしている。
千名に満たない我々では、後続の敵には到底かなわない。いくら戦術的に数世紀先を行っていても、圧倒的数の力で押されれば勝ち目はない。
「旦那様、七百対六万。野戦では勝ち目はありません……」
サイラスの言葉に俺は返す言葉もない。当たり前だ。かといって単純に篭城しても勝てる見込みはない。敵はミートナ市の人口に匹敵する軍団だ。
俺はふと、思い出してスーツの内ポケットを探った。くしゃくしゃだが吸えそうなタバコがある。いざという時のために残していたのだ。百円ライターで火をつけて一服二服…
これだ!
「クーリエ!!」
俺は筆頭執事の名を大声で呼ぶ。
「はい、旦那様」
さっきまではどこにいたのかわからないくらい存在感のなかったクーリエが素早く俺の側にやって来る。
「クーリエ、冒険者ギルドに最高報酬で依頼だ」
俺は彼に依頼内容を告げる。彼も無言でうなずいて状況を把握してくれたようだ。クーリエ送迎のために先ほど合流した飯倉が乗る軽装甲機動車を使うことにした。
「サイラス、横峰!」
俺は次に軍事部門のキーパーソンを呼ぶ。
「全部隊はミートナ市外周まで撤収。だが、単純に撤退はしない!」
「どうするんです?」
横峰の言葉に俺はやっと軽口を叩くことができるようになった。
「高っけえ通行料払わせてやろうじゃん!!」
ミートナ郡大隊にとって長い長い一日の、さらにきつい後半戦が始まろうとしていた。
戦術的勝利は大戦略の前には局地的な勝利でしかない。
集団戦で最も難しい「秩序ある撤収」を果たしてミートナ郡大隊は行うことができるのか?
そして反撃の糸口をつかむことができるのか?
相沢、正念場です
文章評価、ストーリー評価もいただけたら幸いです!




