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お代官様になろう!  作者: 元ガス屋
国境紛争編
13/26

第11話 リベンジ!

前のお話から三ヵ月後、相沢が珍しく、

そして執念深く虎視眈々と狙っていたリベンジ劇が始まる。


異世界の人々にサラリーマンの執念を思い知らせる時が訪れたのだ!

 屈辱の模擬戦から三ヵ月後。ミートナ郡代官所中庭に精鋭たちが集まった。

 俺はいつものスーツ姿で。横峰はいつもの自衛隊迷彩で、隊長のサイラスはいつもの銀色の甲冑姿で兵士たちの前に立った。


 「第一パイク中隊、お代官様に敬礼!」

 サイラスの号令以下、おおよそ百名の長槍部隊が俺に敬礼する。ちなみに敬礼は横峰仕込みの自衛隊式だ。

 以下、第二、第三パイク中隊も敬礼を捧げてくれた。


 

 パイク兵=長槍兵は十六世紀から十七世紀のヨーロッパで多用された歩兵戦術だ。有名なスイス傭兵の多くはパイク兵だったとも言われている。

 日本の戦国時代でも織田信長の時代前後から多用されている。鉄砲がマスケット銃として一定の信頼度を確立するのと、銃剣の普及まではこのパイクを使った戦列歩兵が戦場の主役となる。



 俺の軍制改革は単純だった。

 元々代官所にいた兵士を幹部候補にして、冒険者崩れを常備軍扱いでパイク兵として雇うのだ。これで兵力は数倍になる。兵士と指揮官は寝食を共にして連帯感を深め、集団戦闘を徹底的に叩き込む。これは横峰の得意分野だ。


 パイクを使った戦闘では騎士相手でも冒険者崩れ相手でも負けなしなことは模擬戦で確認済みだ。大森林みたいな大兵力を展開しにくいところでは弱いが、平原での戦闘ではまず負けないだろう。


 「旦那様、魔法使い部隊が参りました」

 クーリエの声に俺は振り返る。

「第一魔道中隊、お代官様に敬礼!」

 百五十名の耳長族が自衛隊よろしく行進している。攻撃特化小隊と防御特化小隊に区分された精鋭だ。彼らの任務は隊列を組むパイク中隊の支援だ。


 「第一騎兵中隊、お代官様に敬礼!」

 サイラスが選抜した代官所の精鋭五十名からなる騎兵部隊だ。決戦兵力として戦局の最後まで温存される。勝利の際には追撃兵力として、敗北の際には撤退支援兵力として活躍してもらう部隊だ。

「旦那様、このような部隊編成、思いつきもしませんでした」

 部隊編成に尽力してくれたサイラスが俺に頭を下げる。

「いいよ、サイラスも俺の言うことに納得できないところもあっただろうしさ、ここまでやってくれてありがたいと思うよ」


 俺にはひそかな野望があった。王立騎士団との模擬戦、リベンジ戦だ。すでにクーリエに頼んで王立騎士団に模擬戦闘の依頼を送らせてある。

 真面目なサイラスや治安維持に尽力する兵士たちに弱兵との汚名を着せたまま放置するわけにはいかない。

「ふふふ、王立騎士団よ、目にもの見せてやるぜ!」

 俺は横峰と相談してさらなる秘密兵器も準備していた。



 模擬戦当日。王立騎士団駐屯地に我が精鋭が集結した。今回は百名限定ではない。全力投入だ。

 演習場には両軍合わせて千名近い兵士がいる。

「では、相沢殿。始めますよ」

 王立騎士団の連中は俺たちを完全に見下している。態度で見え見えだ。


 俺は傍らのクーリエに合図した。筆頭執事はホイッスルを吹いて演習場の各部隊に演習開始を知らせた。先日発見した装甲車から回収した警笛が役に立ってるわけだ。

 王立騎士団の四百名が前回と同じ、騎乗したまま魔法使いを適当に隊列に組み込んで前進を開始した。対する代官所側も四百名。サシの勝負だぜ!

 俺はこっそり仕込んだ特小無線で横峰に呼びかける。



 特小無線機とは、日本ではハムやその他の免許がいらない、誰でも使える無線機だ。工事現場の警備員さんや、大規模量販店や飲食店のスタッフさんが使っているのを見たことある人も多かろう。



 これこそ俺が考える最強の秘密兵器だ。戦場では騒音や喚声で指示命令がうまく伝わらない。集団戦では致命的だ。


 「CP、こちらGHQ。マルタイは先日と同じ、動き出した、送れ」

「GHQ、CP状況確認、こちらも目視した。これより行動に移る、オーバー」

 横峰のそっけない無線。あいつやる気だな。

「各隊へ。GHQ、以後の戦闘管制はCPへ送れ」

 俺も彼女のやる気に答え、指揮を彼女に任せることにした。


 「CP、こちら第一パイク中隊。待機中!」

「CP、こちら第一魔道中隊。待機中!」

「CP、こちら第一騎兵中隊。待機中!」

 各部署から打ち合わせ通りの無線連絡が入る。先日回収した装甲車で充電した無線機が機能的に活かされている。


 「CP、第三パイク中隊、敵と接触!」

 見ると、突出させていた第三中隊が王立騎士団と接触を始めている。だが、連携の取れた我が代官所部隊の防戦で動きの取れないことは、負け知らずな王立騎士団にとって精神的なダメージになるはずだ。


 「第三中隊、こちらCP、予定通りゆっくりと後進せよ、命令確認、送れ」

「第三中隊、了!」

 ゆっくりと後退する第三中隊。両翼の第一、第二パイク中隊が虎視眈々と王立騎士団を狙っている。俺と同じ観覧席にいる騎士団の幹部は青ざめているが、現場の人間にはこの状況がわかるすべがない。


 敵を両翼に伸びる翼のように取り囲む、鶴翼の陣形が完成した。俺よりも早く、部隊と共にいる横峰が状況を察知して各隊に指示を出す。


 「魔道中隊、CP。支援攻撃を開始! 第一、第二中隊は側面攻撃を開始!」

 囮の第三中隊に食いついた王立騎士団は三方からの攻撃で算を乱して敗走を始めている。

 粘り強く防戦していた敵が退がりだしたので、調子に乗って追撃に入ったら手ひどい反撃を食らった形だ。各個人は距離を取って態勢を立て直すつもりなのだろうが、集団戦になるとそれは通用しない。


 「退がるな! 踏みとどまれ!」

 王立騎士団の指揮官が叫ぶ声むなしく、隊列は算を乱して退がり始めた。これは頃合だろうな。横峰もわかっているようで指示のタイミングは的確だ。

「騎兵中隊、CP。行動開始!」

 それを見て、待機していた騎兵が行動を始める。完全な意趣返しが成功した瞬間だった。



 その夜、代官所の酒保は兵士たちに開放された。中庭で大宴会だ。

「お代官様! お見事な采配でございました!」

 酔った兵士が俺を見かけると口々に声をかける。俺自身も気分がいい。王立騎士団の連中の悔しそうな顔。何が起こったのか理解できていない感じだった。


 「旦那様、この度は本当におめでとうございます!」

 サイラスが泣きながら言う。この隊長の熱くて、純粋なところは非常に気に入っている。俺の指示も内心納得してないところはあっただろう。だが、隊長はそれを飲み込んで俺の作戦に付き合ってくれた。


 「サイラス、今日から君には正式にミートナ郡大隊の大隊長をお願いしようと思う。美咲のためにも、受けてくれるかい?」

 百名定員のパイク中隊が三つ。魔道中隊に騎兵中隊。各種後方部隊を含めると総勢七百名を超える大所帯だ。そういえば代官が勝手に兵力を増やしても問題ないのかな? クーリエは何も言わなかったんで良しとしよう。

 悪代官だって勝手に浪人者を先生ってことで雇ったりするしな、ただし時代劇の中でだけど。


 「はっ! このサイラス、命に代えても職務を遂行いたします!」

 酒の入ったグラスを放り出しながら跪くサイラス大隊長。彼なら古参の兵士も新規雇用の兵士も束ねていくことができるだろう。そして何よりも俺や横峰の話をちゃんと聞いてくれる。カルチャーショックで拒否反応を起こすかと心配したが、そうでもないようだ。

「まあよろしく頼むよ」

 いずれ俺たちが作った部隊が南北戦争の英雄であるメイン州連隊みたいになったらうれしいな。


 「旦那様、横峰様は飲みすぎでいささか気分が悪いそうなので先にお休みになられました」

 クーリエが傍らに寄ってきてそっと耳打ちする。

「よっしゃ! お前ら! 今日は飲むぞ!」

 厳しいお目付け役がいないんだ。兵士たちに散々飲ませてもバチは当たるまい。俺は自慢できる兵士たちの歓声を聞きながら最高の気分で一日を終えた。



 

 はずだった……。

「相沢さん! 相沢さん! 起きて!」

 ん? この声は? アメ横から一本、御徒町方面に入った通りにある居酒屋のお姉ちゃんの声か?

「相沢さん!」

 いやJR秋葉原駅のガード下にある焼鳥屋さんの看板娘の声じゃないか?

「相沢さん! 起きてってば!」

 いやいや、もしかしたら五反田の……


「ふごっ!!」


 腹にかかった衝撃で俺は今度こそ目が覚める。そして目の前には横峰三等陸曹。

「相沢さん! 五反田がどうしたんですか? 早く起きてください!」

 ベッドから引きずり出される。肉食系女子にしても、もうちょっとムードというものがあるだろうにね……

「旦那様、緊急事態です。エストライド公国の実戦部隊が国境を越え、王立騎士団の駐屯地を攻撃中です」

 よく見るとベッド脇にクーリエも控えていた。そして彼の口から発せられた言葉に正直、絶句した。もしかしてガチの戦争になっちゃうの?


文中補足


自衛隊の無線作法では、呼びたい相手を先に、自分を後に呼びます

「第一パイク中隊、CP、送れ」は

「こちらCPコマンドポスト、第一パイク中隊、応答しろ」という意味になります


GHQ=総司令部

CP=コマンドポスト=戦闘指揮官、あるいは戦闘指揮所を意味します


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