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犯罪捜査協力:情報共有①


 裁判官からの通知を受けて、中央地区ファルノーの出張に同行することになった。日時は指定されていないので、休み明けに行くのかと思ったら、「建国記念日に、一泊しようか」と所長の一言で日取りが決まってしまった。先方の都合は考えないのかと伝えても、問題ないと流される。幻霧郷の主が東方地区を出る準備は一日で出来るのか?よく解らないまま、研究所の浄化作業から帰宅して、旅支度をした。

 建国記念日の朝、友人のセロと並んで、自宅の台所に立っていた。テーブルに広げた風呂敷の上には、蓋を開けたままの重箱ふたつと箸がある。玄米を三角のおにぎりにしていたら、隣で海苔をちぎる音がする。着物のたもとをあげたセロの唇の先に、海苔がゆれていた。

「うまいな、これ」

「食べないでよ」

 学生時代の友人と義理の祖父と、建国記念日に遊山に行く約束していたのである。参加出来ない事は残念だが、予定通りに友人たちに三段重箱弁当をふたつ、料理上手なセロと朝から作っていた。キッチンの北窓も白んで明るくなっている。

 平皿におにぎりを置くと、セロは黒い海苔を巻き付けて平皿に戻す。握って、置いて、握って、置いて、を繰り返していたら、また海苔をちぎる音がした。

「だから」

「穴があるから、使えない」

「そんな贅沢なことしなくてよろしい」

 一般人の奮発したお弁当で、料亭のように気にする必要はない。準備したおかずの材料に、玄米も海苔も高いのを解っていっているのか。セロは「見た目が悪い」とつまみ食いをする。こいつは食べたいだけだな。ため息をつきながらも、おにぎりを作り終えた。手に着いたぬめりを洗い落として、最後の三角に海苔を巻いたセロに向き直る。

「それじゃあ、そろそろ迎えが来るから、出発前に詰めてね」

「任せろ」

 にっかりと笑うセロの前に、銀の平たい板に複数の凹みを彫った鍵をテーブルの上に置いた。

「あと、帰って来るまでの間、ここの鍵を預けるね。戸締りよろしく」

 私の家には、魔法の防犯機能をつけていない。元々取られて困るような物はないが、知らない人が入って来るのは気味が悪い。遠出をする時は、家族か友人に留守番を頼むか、戸締りをした後に鍵を任せていた。セロはテーブルの上の鍵をつまんで懐に入れる。

「師匠に渡しとこうか?」

「あー……うん。じい様に渡しておいて」

「わかった。ちゃんと雨戸も閉めておく」

 エプロンを畳んで台所を出る間際、机の上のおにぎりを見下ろすセロに声を掛けた。

「よろしく。味噌饅頭をみっつ買っておいたよ。戸棚にあるから、食べて」

「おー!ありがとう!」

 歓喜の声を聞いて自室に向かい、置いてあった肩掛け鞄と旅行鞄を確かめた。貴重品とスケッチブック、筆記用具と絵具類。着替えと軽食に、ヤエコさんの論文の一部が入っている。問題なし。白コートに袖を通し、眼鏡と手袋も付けて、鞄ふたつを手に玄関に出た。革靴の紐を結んでいると、廊下の奥から足音が近づいてくる。

「にしても、中央地区に行くの、今年は何回目だ?」

「七回目だね」

「変なもの、食べるなよ?」

「見た目がおかしいなら、食べないって」

 内容を話せないうえで、心配してくれているセロに微笑んでふり返った。

「留守を頼みます」

「おう、饅頭ありがとう」

 セロの手には空の皿があった。この一瞬で食べたのか。困惑のまま見上げると、外から「ごめんください」と低い声がきこえた。玄関の引き戸を開けると、長い深緑のケープを着こんだ男性がこちらを見下ろしていた。

 鴨居に顎がぶつかる身長に、ケープ越しでもあふれる筋骨の雄々しさ、彫りの深い顔立ちの左側に抉られた爪痕が険しさを引き立てている。加えて両の耳は裏側から押されているように膨らんでいた。肩幅も相まって、深緑の壁が目の前にあるよう。その壁が折れ曲がり、ケープの中から金属が擦れる音をさせて迫ってきた。

「おはようございます」

「おはようございます、ニシさん!わざわざありがとうございます」

 挨拶に笑顔で返せば、固い雰囲気の壁の表情に柔らかさが滲んだ。

 ニシさんは、所長が幻霧郷を出るときに使う転移門を管理している、側近のひとりだ。とても静かに目元で主張するお茶目な人である。普段は幻霧郷の異界門を護る門番として立っているが、わざわざ中央地区裁判所までの転移門を作りに来てくれた。

 心からの感謝をお辞儀で示す。顔をあげたら、ニシさんは私の後ろを見ていた。振り返るとセロがニシさんを細めた目で見ていた。

「どうも」

「どうも」

 さっきまで穏やかな挨拶と会話をしていたのに、ふたりの挨拶は硬く素っ気なかった。ふたりの間で視線をさ迷わせていると、セロが頭をかいてから私を見た。

「まあ、気を付けて行ってこい」

 セロが諦めた時の顔をしていた。けれど、口元は微笑んでいたので、笑って返した。

「いってきます」

 玄関を出てセロに手を振ると、隣のニシさんは地面に膝をつく。ケープの懐から金の鍵を取り出すと、鍵で砂地に横線を引いた。その線から薄い木の板がせり上がり、人ひとりが通れる木製の扉が現れたら、ニシさんは扉を押して開いてくれた。扉の先は、石畳の奥に高さの整った木々が見える。

「お気をつけて」

「ありがとうございます、いってきます」

 扉を開け続けるニシさんに、改めて感謝を告げて、扉の枠をまたいだ。


 石畳を両足で踏むと、扉は閉じる。振り返れば、木製の扉が砂のように崩れて姿を消した。右手を向けば、車が対向で走れる石畳の先に石造りの建物が立っている。目的地の中央地区裁判所だ。待ち合わせの入り口前に行こう。

 しかし、裁判所は祝日開廷をしていない。裁判所に来いと言われていても、祝日にきてどうするのか。

 入り口前の階段にたどり着き、旅行鞄を置いてひと息つく。木々をゆらして吹き抜ける風は東方地区より乾いていた。所長が来るまで論文の翻訳をして待つか。論文の束を漁ると、階段上から足音が聞こえた。音につられて目線を上げると、黒のローブに両目を黒の帯で隠した、黒髪を朝日になびかせる男性が立っていた。視線の方向は解からないが、顔と身体が私を見ていた。誰か見ていたら、白と黒の邂逅のように思うだろう。

「おはようございます」

「お、おはようございます」

 相手の挨拶に会釈を重ねると、黒の人は階段を下りてきた。黒の人は石畳に両足を降ろすと、旅行鞄の中を覗き込んでくる。論文を取り出して上半身をあげると、黒の人も傾けた体を真っすぐにした。

 ものすごく見られている。ここまでの凝視は久しぶりだ。「御用でしょうか」と恐る恐る声を掛ければ、背後から地面をこする音が聞こえた。

「おー、見事に白黒だねー」

 灰色の羽織に袴と草履、大粒の白い石が揺れる銀色の羽織紐を結んだ所長がいた。所長の周りには誰も居ないが、ヨツハさんが所長の服のどこかに擬態しているはずだ。変な失敗をしないように気を付けよう。所長にも挨拶すると、頭の白い布をなびかせて歩み寄ってくる。ちらりと見えた唇は朱が塗られていた。化粧しているなんて、珍しい。

「おはよう、レイ。中央は風が強いねー」

 所長は間延びした声のまま挨拶を返してきて、流れるように私の頭をなでた。不届きな手を捕まえると、所長は笑いながら言った。

「さてさてー、本物の盲目の賢者を見た感想は、いかがかな?」

 言葉の先には黒の人が居た。黒の人は顎に手をあてた。

「いや、感動と言うか、衝撃と言うか……とりあえず腰を抜かさずに済んで、安心した」

 そして何度も頷く黒の人に、所長は私の手から逃げて誇らしそうに腕を組んだ。

「そうだよねー!人体の奇跡が目の前に現れた感じだよね!」

「あまりに不思議過ぎて……目が離せない」

「自分たちとの違いは少ないのに、全然違う。そこが不思議だよねー!」

「あと、空気が柔らかくて、喉につまりがない」

「わかる!たぶん、魔素を分解して、吸収しやすい……」

 所長は黒の人に歩み寄って、談笑をはじめた。所長の知り合いなのか。会話に参加すべきか?困惑のままふたりに近寄れば、黒の人は一歩後ろに下がった。所長は黒の人の肩を叩く。

「ちょっと!」

「いや、すぐには慣れないというか……」

 ふたりのやり取りに、外していたコートのフードを被って会釈した。

 友人曰く、私の姿は周囲の景色から浮いて見えるらしい。色鮮やかな風景に穴が開いていて、色が薄く暗い世界の中にひとり立っている、とか。鏡で見るとパサついた白髪と茶色の眉と虹彩なのに、個人によって見える色が違うし、コートを着ていても、瞬きするたびに変わることもある。学校で似顔絵を描き合う授業の時に、髪と眼に肌も淡い虹色に塗られたのは良い思い出だ。あれは会心の出来だったな。

 しかし、目を離した瞬間に人の色が変わるなんて、想像だけでも気味が悪いと思う。最近は体質を知っている人しか会っていなかったから忘れていた。所長の肘に脇腹をいじめられている黒の人に、名刺を差しだした。

「このような格好で申し訳ありません。初めまして、レイ・グランドと申します。異能魔術研究所の研究員をしています。本日は所長の付き添いで参りました。宜しくお願い致します」

 お辞儀を終えると、黒の人は居直って左の人差し指で宙に弧を描く。その弧に黒の人が指を入れると小さな紙が現れ、お辞儀と共に私の名刺の隣に差し出してきた。

「大変、失礼いたしました。特殊裁定裁判官のテオドール・エル・ビオス・タルディート・テト・オゼルギオン・バンデルと申します。招集に応じていただき、誠にありがとうございます」

 この人が所長を呼び出した人なのか。受け取った名刺をみると、役職名と彼が口にしたより長い名前が連なっていた。名刺にバランスよく収まっているが、名前で三行もある人は初めて会った。最後にあるバンデルが西方地区の貴族の苗字だから、苗字で呼べば良いのか、それとも最も格の高い名を呼ぶべきなのか、悩ましい。

「長いので、テトとお呼びください」

 困惑に気付いてくれたのか、黒の人は呼び方を指定してくれた。「わかりました。テト様とお呼びしますね」と頷けば、所長がテトを小突く。

「こいつは功績を立てたのに物理的な褒賞を拒んだ結果、名前が長くなっちゃった馬鹿だよー」

「活躍されている方なのですね。不勉強で、申し訳ありません」

 王都がある西方地区では、物は多ければ良いし、名前も多いほどに敬意を払われる。そんな文化を色濃く残す王国でここまで名前が多い人は、王国に多くの貢献をした人だろう。まったく知らなかったし、裁定者と言うだけで嫌厭して、知ろうともしなかった。正直に白状すると、テトの口元が気まずそうに歪んだ。

「周囲に恵まれた結果ですから」

「そうそう、こいつの功績の半分は僕のおかげ。コレはホント」

 所長はテトの肩に肘をおいて、自身の白い布を指さす。テトは「そうだな」と頷いた。ふたりは旧知の仲なのか。曖昧に相槌をうつと、テトが所長の方を向いた。

「では、情報共有をしましょうか」

「裁判所ではしないでしょ?宿とったし、そこに行く?」

「……付き添いの私も、ご一緒してよろしいのでしょうか?」

 テトは所長を呼び出しているのだから、聞かれたくないこともあるだろう。情報共有に参加してもいいのかと言外に訊ねると、テトは口を穏やかな弧にして頷いた。

「むしろ、幻霧郷の主と対面で密会することが宜しくないので、ご一緒いただけるとありがたいです」

「えー?僕、わるい異界人じゃないよー?こわくないよー?」

「どの口が言う。ゼロと一緒にいたら、私が殺されかける」

 おどけてみせる所長の白い布を、テトは叩いた。幻霧郷は旧体制の王国と戦争をしたし、一時は幻霧郷が優勢で、地図から王国の名前が消えかけたこともある。西の人々からすれば、未だ戦時の長が健在で、戦意ありと見られても不思議じゃない。国の大切な機能を担う裁判官と密会すれば、怪しまれるのはテトの方だろう。

 仲が良くても、周りはよしとしない。すこし寂しさを覚えると、テトは裁判所の方を指さした。

「裏に車を止めてありますので、街をまわりながら話しましょう」

 テトの申し出に所長は了承して、車の中で件の話をすることになった。


 天蓋島の移動手段は、多くの人が乗り込める魔導列車か、運転を自動と有人操作に切り替えられる車だ。運転免許は、探索者資格取得よりも難度が高く、自分で購入した自動運転ボタンを押して目的地に向かうことが普通だ。

 所長と後部座席に乗り込み、安全帯を締める。運転席に座るテトが車の前方にある黒い板を、所長の指示通りに数度押すと、車は動き始めた。街は建国記念日を祝う装飾で彩られている。テトは運転席をくるりと回して所長と向かい、ひじ掛けに両手を置いて、背もたれへ深く体を預けた。

「それじゃあ、予知の話をする前に……魔素を停滞させる魔素についての共有を」

 テトが語った内容は、未承認薬は他の人のポーションに混ざっても、違和感がない魔素の形態ということ。特殊性は、他の魔素にくっつきやすい構造が増えていること。紙に印刷されたポーションの分析結果を確かめると、テトのいったこと以外に特徴はない。魔素構造が特殊な異能というより、人の魔素構成の比率が崩れているように見えた。テトは書類を眺めつつ続ける。

「問題は、時間経過で分解する魔素を固定するだけでなく、分裂し難くなった魔素同士が更にくっつくという点です」

「接着剤と言うより、雪玉みたいに大きくなっていく、って感じかな」

「摂取量が多いほど魔素操作が困難になり、魔術や魔法でも魔素の供給過多で暴発することも確認しています。加えて、他者に伝播する可能性も示唆されています」

 小さな雪玉なら扱いやすいが、大きくなれば転がせない。魔法を使う時には、大きくなった雪玉を小さく削ろうとして雪玉が大破する。誰でも使えそうに見える自然の驚異か。所長の例えは壮大で、私の推測とは少し違った。続いて、テトの予言の話が始まった。

「そして、この魔素を含んだポーションを流通させること自体は、本来の目的ではありません」

 彼の予言は、周囲の人の思考をまとめて知覚し、集団の行動を予想したもの。膨大な数の人の行動を知覚し整理するという事を、無意識に行っているらしい。ふと湧いてきた予知を確認して、裁定者の権限で調査と犯罪の未然防止に活用しているのだとか。高度過ぎる魔術に唖然としていると、テトは組んだ指の上に額を乗せた。

「薬と称して病人や孤児に処方し、人体の魔素を停滞させ、保持させ続ける。魔素暴走するような量になっても、薬を飲ませれば保持され続け、本人は身体も動かせなくなっていきます。そんな状態でボタンを押すだけで使える魔法具を握れば」

「制御出来ずに魔素暴走を確実に引き起こすね」

「使う魔法によっては、人体も破裂したり、発火したりする。人そのものが爆弾になるわけです。伝播することで救助行為も出来ないのかどうか、検証の為に販売している。決行日は、国王誕生日周辺に予想が寄っています」

 唇を噛むテトは、まるで現場を見てきたかのように言った。大きな犯罪のための小さな犯罪が横行しているとしても、対処が難しい。魔素量が多い警備隊や高位の探索者による捕縛は、二次災害を引き起こすだろう。

 でも、これは本当に異能なのか。どうにも疑わしいが、推測は邪魔になるかもしれない。分析結果を眺めていると、所長が肩をつついてきた。

「どう思う?」

「どう、といっても……推測ぐらいしか、出来ませんよ」

「僕たちも似たようなものでしょー。教えてほしいなー」

 居心地の悪さに気付いてくれたらしい。スケッチブックを出して、昨日寝る前にまとめた見解を伝えることにした。

「そうですね……検出結果をみても、魔素光から判断できる特異性はないと思います。検出内容からも、特筆すべき魔素形態は皆無。製作手順も一般的な魔素回復ポーションと変わらないでしょう」

「魔素光色から魔素特性ではないと判断するのは、早計では?」

「探索者協会のポーション注文では、かなり複雑な魔素でも合成できます。けれど、複雑な構造の魔素ほど工程が増えて量産が難しく、接種時の拒絶反応が顕著に出ます。毒耐性を筆頭に、免疫機能が高い人しか分解……利用できないものだと、薬として提供できません」

 魔素光の色は、魔法発動時の追加付与される効果を推測する材料になる。赤は効果の補強弱体、青は魔法効果の拡張、黄色は持続時間の増減、白は操作制御の安定、黒は発動時間の短縮、とされている。その傾向は魔素そのものにも反映されることが通説だ。

 混入していた魔素の色は、黄緑が最有力。次点で緑、もしくは薄い青だ。傾向から考えるに、魔素形態の保持に傾いている可能性が高い。しかし、他者の魔素に影響を与え続けると言うのは、持続と言うより制御に近い。魔素光色と乖離していることになる。

 加えて自分の魔素を制御されそうになれば、身体は拒否反応を示すはずだ。最悪の場合、魔素暴走を起こす。免疫機能が高い人なら分解や排出を容易にできるが、未承認薬を飲んだ人が全て耐性を持っている訳がない。むしろ誰でも持っている魔素構造に注目すべきだろう。

「なので、必須の魔素構造にある、魔素を体内に留める魔素構造が大量に生産されているのではないかと想定しました。人体の疾患で例えるなら、血小板過多の人ではないかという事です」

 誰の身体にもある魔素なら作りやすく、人体に残っても証拠として判別しにくい。他の魔素も巻き込んで留めるという点で、膝をすりむいた時にできる――かさぶたと似ている。血小板には血液型があるが、問題の魔素構造の拒否反応は少ないはずだ。書面から視線をあげて、テトの眼帯をみて伝えた。

「この想定の場合、未承認薬の大元となった魔素の持ち主は、幼少期もしくは胎児のときから魔素の流出が激しい体質か疾患がある。もしくは魔素吸引を日常的に行われている可能性が高いと予想します」

 魔素の流出が多すぎるため、身体は必死に留めようとしているともいえる。そこから考えられるのは、生活のそばに隠れている、気分の良くない妄想だった。

「……治療が困難なほど困窮しているか、魔素を搾取されている人かもしれない、と言いたいのですね」

 言いにくかった答えを、テトが言ってくれた。爆発も止めたいが、この推測が有力なら、この魔素の持ち主も助けてあげたい。頷けば、所長が足を組み直して天井を見上げた。

「そんな魔素を悪用する犯罪者たちは、何処にいるー?」

 明るい様子の声色に、絞まっていた喉が楽になった。テトは深く息を吐いて答える。

「幻霧郷ばかりを示している」

「僕が捕まえても平気そうかな?」

「ゼロがいけば魔素暴走おこして、……西は大喜びするかな」

「へえ、幻霧郷の半壊で済まないな」

 幻霧郷に件の首謀者が居ることは確定事項らしい。どうやって捕まえるのか、と視線で言えば、テトが私の方を向いて姿勢を正した。

「ゼロに声をかけたのは、対抗策となるあなたとの縁を持つためでした」

 大きく頷くテトに、首をかしげる。そして嫌な予感を口にした。

「私に捕まえてほしいって事ですか……?!」

「他の高位浄化技能がある方々にも声をかけていますが、レイさん以上に対抗できる人はいないと確信しています。引き受けていただけませんか」

 初めて会ったはずの人から、絶大な信頼を向けられているのだが。頭を下げるテトを見て、思わず身震いをした。

 犯罪者を追うなんて、したくない!魔法発動は防げてもナイフひとつで死ぬし、足も遅いのに!嫌ですと拒否しようとしたら、隣の席から肩を掴まれた。ぎこちなくそちらを見れば、見通せないはずの布から満面の笑みが透けていた。

「レイ・グランド研究員」

 逃げようにも、動く車の扉は施錠されていて開かない。首を振って拒否してみるが、所長の笑った雰囲気は消えない。

「あと、四回はお願いをきいてもらえるはずだよねー?」

 追加業務は所長のお願いをきくことじゃない!反論する前に、所長のもう片方の手にも肩を捕まえられた。

「協力してね?」

 その一言で頷くと共に、項垂れた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

次話は制作中です。2026.6.8

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