第67話 一糸乱れぬわんちゃん
「お座り!」
シュタ!
「伏せ」
シュタ!
ブルハウンドたちが美羽の号令に一糸乱れぬ動きで従っている。
すっかり美羽をご主人様として認めていた。
『きんちゃん、きんちゃん』
『ハッ、美羽様? 念話ができるようになったのですか?』
『うん、昼間、大波に攫われる前に使ってくれたでしょ。できるかなって思ったらできちゃった』
『さすが美羽様です。習得の速さが尋常じゃありません』
『えへへ、そうかなぁ』
「?」
美羽ときんちゃんが無言で急に笑ったりしているのをみて、アミは不思議に思ってみていた。
『それでさあ、わんちゃんたちにも直接念話できるかな?』
『できるはずですが、犬に念話してどうするのですか?』
『これだけ数がいたら、口で特定のわんちゃんに命令を出すのは難しいと思うんだよね。
だから、念話で話したい子に話しかけるの』
『それは素晴らしいですね。それに念話だとイメージも送ることができるので、言葉では伝えられない動きもさせられるようになるはずですよ』
『へー、そうなんだ。じゃあ、イメージってこんな感じかな』
美羽はきんちゃんに母の美玲と妹の美奈のイメージを送ってみた。
美玲と美奈がこちらに向かって手を振っているシーンだ。
『そうです。……ああ、とても暖かいイメージです。美羽様の幸せが伝わってきます』
『うん! 私も暖かい気持ちになった。イメージを送る時って、それを明確にするから、はっきり思い出せていいね』
『そういう効果もありますね。これからも私に美羽様の幸せなイメージを送ってくださいね』
『えへへ、嬉しいな。そういうの一緒に見るの』
『クララとレーチェルとも共有するといいでしょう』
『あっ、それ嬉しいかも〜』
『彼女らもきっと喜びますよ』
『うん! あ、わんちゃんを忘れてた』
ブルハウンドたちが伏せをしながら、期待を込めた目でこちらをみている。
美羽は一頭のブルハウンドに向かって念話した。
『お座り』
シュタ!
『おお〜。それじゃあ、みんな整列』
今度は命令とともに整列のイメージを送ってみた。
ザザザ!
すると、まるで軍隊のように四列横隊に並んでお座りした。
『おお〜』
「え、え、な、何?」
「まあ、何かしら、急に」
美羽はその間全て念話で行っているので、シアとアミは迫力のあるブルハウンドの動きに驚いている。
美羽はというと、念話での指示が楽しくなってきて、二人のことは忘れている。
「伏せ」
1番目の犬から一頭飛ばしで伏せをさせる。
規則正しく一頭飛ばしで伏せをしている。
『よし! お座り、伏せ、お座り、伏せ、お座り、伏せ』
今度は、伏せをしている犬にはお座りを、お座りをしている犬には伏せを、交互に連続で指示する。
すると、まるでモグラ叩きのように、犬たちが動いた。
「うう〜、お座りしたわんちゃんの頭を叩きたい〜。誰かモグラ叩きのハンマー持ってきて〜」
ここで、ようやく美羽がしゃべったために、呆気に取られていたアミが美羽に詰め寄る。
「この犬たちの動きはなんなんですか? 怖いです」
それを聞いて、美羽はキョトンとした。ついで、思い出したかのように笑う。
「あはは、ごめんね、アミ。これは念話って言って、直接わんちゃんの頭の中に話しかけているの」
「あ、頭の中に直接ですか?」
「うん、こんなこともできるよ」
美羽が黙ったと思ったら、急に犬たちが走り出して、縦一列に並んでお座りした。
「ひゃっ」
アミは怖がっているが、美羽はニコニコしてアミに話しかける。
「シアちゃん、アミ。犬たちの正面に来て」
正面に行くと、犬が重なって一頭しか見えない。
「き、綺麗に重なっていますね」
「ミウちゃん、犬の扱いが上手ねえ」
「まあ、見てて」
美羽が黙ったと思うと、犬が左に動き出す。すると次の犬の顔が見えてきて、その犬も左に動き出す。
すると3頭目が見えてきてその犬も左に動き出す。それが続く……。
犬たちは滑らかに一つの生き物のように波打って回り始めた。
そう、美羽は○ュー○ュートレインをやりたかったのだ。
「わあ、犬たちが規則正しく動いてる」
「幻想的ねえ」
「だぁいせいこう!」
そう言いながら、美羽は犬たちの方に歩いて行くと、犬たちは散開、美羽を中心に囲った。
そして、美羽は歌い出した。
○ュー○ュートレインを。
20頭の犬たちは、その周りで一糸乱れぬ動きで、犬の体でできる最大限のダンスをする。
いつしか桜の花びらが舞い桜色の光が美羽たちを浮かびあがらせ、幻想さが増す。
シアとアミは美羽の美しい歌声と犬たちのパフォーマンス。桜の花びらと桜のライトアップの演出に酔いしれた。
1曲を歌い終えた時、美羽と犬たちは美羽を中心にポーズを決めた。
それを見たシアとアミは惜しみのない拍手を送った。
美羽はその拍手に笑顔で答えた。
「ありがとうー」
「感動したわミウちゃん」
「素晴らしかったです。ミウ様」
しかし、シアもアミも忘れていた……。
「なんの騒ぎだ! これはー!!」
……敵地のど真ん中だったということを。
まあ、美羽ときんちゃんは覚えていて、それでなおやっていたのだが……。




