第29話 タダで済むと思ってるのか!
美羽と少女はひとしきり遊び(?)まわり、ようやく落ち着いた。
それまで人身売買の二人を尋問していた、モーガンがやってきた。
「ミウ様、尋問が終わりました。あとは衛兵にこのことを伝えればそれで良いでしょう。
その子は……ク、クララ皇女殿下? し、失礼いたしました。
モーガン・ルッツ伯爵です」
モーガンが跪くと一斉に兵たちも跪いた。
少女はモーガンたちに声をかける。
「ルッツ伯爵、ここは街中です。立ってください。私もお忍びでやってきております。
目立つことは避けたいのです」
「ハッ! それでは失礼させていただきます」
ルッツが立ち上がったのを見て、クララは質問を続ける。
「ルッツ伯爵、それでその子は何者なのかしら?」
(きっと私が皇女だと知ったから、もうさっきみたいに遊んでくれないんだろうな。さっきはすごく楽しかったのに)
「ハッ! 紹介させていただきます」
すると、モーガンは不思議そうに見ていた美羽の方へ向き尋ねた。
「ミウ様、あのことは話してもいいでしょうか?」
「あのこと? うん、別にいいよ」
「ありがとうございます」
そのやりとりを前にクララは少し不思議に思っていた。
(皇女の私を前に話していいものを選ぶなんて、皇族によっては不敬とみなされるわよね。
それに伯爵が上に見ている相手ってことなのね。何があるのかしら)
クララの疑問はすぐに解消された。
モーガンは振り返り話す。
「こちら、コザクラミウ様です。女神レスフィーナ様の御使い様です」
「み、御使い様? 本当に?」
「はい、その証拠として、この世界ではあり得ない、桜色の髪と瞳それと神気をしております」
「確かに女神レスフィーナ様の髪と瞳と神気が桜色だと聞いたことがあるわ」
「はい、クララ殿下がご存じで良かったです」
「まさか、御使い様だとは。でも、このネックレスを一瞬で魔道具にしてしまったのも頷けるわ。いえ、桜色の光で作ったということは……これは神具ね」
そう話しをしていると、美羽があからさまに不機嫌な顔をしている。
モーガンが慌てて美羽に尋ねる。
「どうされましたか、ミウ様?」
「ねえ、私とは自己紹介してくれないの?」
その言葉にクララがハッとする。
最初は伯爵に尋ねるのが筋だと思っていたが、相手が御使いとなると、いかに皇族でもこちらから挨拶をしなければ不敬だ。
「申し訳ありませんでした。御使い様。私はマーヴィカン帝国の第3皇女、クララ・マーヴィカンと申します。
以後お見知り置きを」
しかし、美羽はプイとそっぽをむいてしまった。頬もパンパンに含まらせている。
その姿にクララは
(可愛い)
と、思ってしまったが、慌てて頭を振る。それでは女神の御使いに対し不敬だ。
「申し訳ありません、御使い様。何かお気に召しませんでしたか?」
「それだよ」
「どれですか?」
「み・つ・か・い・さ・ま」
「御使い様ですか?」
「そう! なんで、そんな呼び方するの? さっきまで楽しく遊んだのに」
「しかし、御使い様にそのような」
「また、言った。クララ、私に御使い様っていうの禁止」
「そ、それは……分かりました」
すると、美羽はニコリと笑いながら言った。
「私の名前は小桜美羽だよ。よろしくねクララ」
「よろしくお願いいたします。ミウ様」
「敬語も様もいらない」
「そ、それでは」
「いらない。遊べないでしょ」
「う、うん。わかったわ。ミ、ミウさん」
「むー」
「ミ、ミウちゃん。だめ、これが限界」
「うん、わかったクララ」
美羽が嬉しそうに笑う。
(御使い様としての神々しさと人としての可愛さが合わさって、この世のものじゃないみたいね)
「ところでクララ、一人で何してたの?」
それは、この場のモーガン以下の者、全員思っていたことだった。
クララはバツの悪そうな顔で答える。
「お忍びで出てきていたんだけど、護衛を撒いてきちゃったの」
「あはは、そうなんだ。お転婆だね」
「だって、全然自由がないんだよ。お忍びとか言っても護衛があんなについていたら分かっちゃうよ」
「そうだね。でも、それで人攫いにあってるんだから、クララって面白い」
「もー、面白いじゃないわよ。怖かったんだから」
「そうだね。でもこれからはペンダントがあるから大丈夫だよ」
「そうね。これって、神気が封入されているんでしょ」
「うん、そうだよ」
「使っていると、無くなったりしないの?」
「なくなるけど、毎日フィーナちゃんにお祈りしていれば補充されるよ」
「フィーナちゃん?」
「女神レスフィーナちゃん」
「女神様のことを愛称でちゃん付なのね」
「フィーナちゃんがそうしてって」
「女神様に会ったことがあるの?」
「うん、私の神気がもっと強くなれば、遊びに行けるんだけど、まだ神気が弱くて、長く神界にいられないの」
「あまりにも次元の違う話しで、びっくりよ。でも分かった。女神様にお祈りしていればいいのね」
「じゃあ、お祈りしやすいように、フィーナちゃんの神像あげるね」
美羽は毎晩1体ずつ作っていた、女神像をクララに渡した。
「なんて、神々しい。……でも、お子様の姿なのね」
「フィーナちゃんは私と会う時は子供の姿なの。私に合わせて成長してくれるんだって。
だから、私はこの姿のフィーナちゃんにお祈りしてるの。私が成長すると、それに合わせて、この像も成長するよ」
「まあ、素晴らしいわ。これだって国宝ものよ。大切にするわね」
「うん、そうして」
すると、兵士とともに5人のクララの護衛らしきものたちがやってきた。
20歳ほどの立場のありそうな若い護衛がクララに声をかける。
「殿下! 探しました。お怪我はありませんか?」
「ええ、大丈夫よ」
「勝手にいなくなられては困ります。私は死を覚悟しました」
「だって、護衛なんて窮屈なんですもの」
「殿下には絶対に必要なものです」
「分かってるわ」
「さあ、殿下行きましょう」
クララは美羽に向いて言う。
「ミウちゃん、お礼をしたいから、今度お城に来てくれないかしら」
「いいよ」
美羽が、そう答えると護衛の顔が歪んだ。
クララは続ける。
「ルッツ伯爵家にいるのかしら?」
「うん、その予定だよ」
さらに護衛の顔が歪む。
「それでは、お城から書状がいくと思うから、待っててね。それじゃあね、ミウちゃん」
「うん、またね。クララ」
「貴様! さっきから黙って聞いていれば、殿下に向かってなんて口の聞き方だ!」
クララを呼び捨てにした美羽に、護衛が切り掛かった。
本気の抜き打ちだった。
美羽は思わず身を固くする。
キィーーーン
護衛の剣は折れて、地面に落ちた。
きんちゃんが剣と美羽の間に入って、体で剣を受けたのだ。
きんちゃんは自由に体を固くできるので、剣の方が折れたのだ。
次の瞬間、護衛たちの周りには剣や斧や槍がびっしりと浮かんだ。
「ぐっ、なんだこれは?」
護衛たちが驚愕した。
それ以上に美羽がびっくりしていた。
目を見開いて驚きを口にする。
「あーびっくりした。どう言うこと?」
クララも目を見開いて驚いていた。まさか、恩人の美羽に斬り掛かるとは思っていなかったのだ。
しかし、立ち直った斬り掛かってきた護衛が美羽に怒鳴る。
「貴様! こんなことをして、タダで済むと思っているのか!
国をあげて貴様を追い詰めるぞ」
美羽は護衛の怒り狂った顔を見て恐怖で固まってしまう。
クララはようやく事態を把握して、顔を青くする。
きんちゃんは護衛たちを串刺しにする体勢に入っていた。




