第20話 ここまでか
翌朝、手早く準備をして出発前に打ち合わせをする。
斥候が見てきた情報をスウリが分析して話し、指示をした。
ゴブリンたちの巣はここから30分ほど行ったところの洞窟にある。
入り口に見張が2匹。
行き来しているゴブリンが10匹。
あとは、洞窟の中にいる可能性が高い。
「見張がいると言う時点で統率が取れていると見るべきだろう。
おそらくは上位種のゴブリンがいる。キング、クイーンが出てきていたから、ホブゴブリンあたりだろうが、油断はできない」
そして、スウリが隊列を指示していく。
戦士5人が前衛で、斥候2人と魔法も剣も使えるオールラウンダーのスウリが中衛、魔法使い2人は後衛だ。
後方の警戒に1人戦士がつく。
ちなみに、ユミィは斥候でコニーが魔法使いだ。
このパーティーはスウリと美羽を除いて全員Dランクだ。
スウリはBランク、美羽はCランク。
通常なら、この戦力がいればゴブリン10匹程度なんということもないが、上位種がいる可能性を考えれば油断はできない。
「各自細心の注意を払ってくれ。美羽ちゃんは負傷したものの治癒を頼めるかな」
「攻撃はしなくていいの?」
「美羽ちゃんに手伝ってもらうことはないと思うけど、どうしてもダメだったら手伝ってね」
「うん、分かった! まっかせて」
美羽はグッと腕を曲げて力瘤を作ろうとする。
力瘤は出ないのに力を一生懸命入れた。
どんなに力を入れても出ないものは出ない。
顔が真剣なだけに笑いを誘う。
それを見て、ユミィとコニーとスウリがほっこりとする。
「「「美羽ちゃん可愛いー」」」
美羽にわからされたスキンヘッドの戦士は複雑な顔で見ている。
程なくして、一行は出発した。
道中、ウサギなどの魔物に出会ったが冒険者たちでなんなく対処できたので、美羽に出番はなかった。
予定通り30分ほどでゴブリンの巣である洞窟についた。
全員茂みに隠れて、洞窟の様子を伺ってみる。
報告の通り、入り口にゴブリンが2匹いる。
しかし、ボケーっとしたり、座り込んだり、明らかに集中を欠いていて、簡単に倒せそうだ。
ただ、こちらの魔法使いでは静かに倒すことができそうにない。
スウリは少し考えて美羽に聞く。
「美羽ちゃん、あいつらを音を立てずに倒す方法はある?」
「できるよ。きんちゃん」
「はい、美羽様」
きんちゃんの周りに氷の先端の尖った棒が出てくる。
2本が同時に飛んでいき、ゴブリンの頭に深々と刺さった。
ドサッ
ゴブリンは声も出さずに倒れた。
「やったね! きんちゃん」
「おお、さすがだ。ありがとう」
スウリは短くお礼を言い、冒険者の方に向き直った。
「それではいくぞ。前衛のものから進め」
前衛の冒険者たちは頷き、姿勢を低くして、洞窟の入り口に向かって走った。
少し遅れて、中衛と後衛の者たちも続く。
コニーが走りながら後ろを向くと、美羽が必死な顔をしてついてこようと頑張るが遅れていく。
なんとか洞窟の壁際まで辿り着き、「ふー」と、満足げな顔をして腕で額を拭っていた。
(そんな時じゃないのは分かってるけど……かわいい〜)
コニーが体をクネクネさせて悶えている。
もう1人の魔法使いと後方の警戒をしている戦士も自然に笑顔になっていた。
美羽はなぜ3人が笑顔になっているのかわからず首を傾げている。
そんな美羽にますますやられて、コニーは思わず美羽の頭を撫でた。
美羽は気持ちよさそうに笑顔で目を細める。
もう1人の男の魔法使いも美羽の頭を撫でようと手を出そうとするが、間に入ってきたきんちゃんの無機質な目で見つめられたので、気圧されて手を引っ込めた。
そんなことは知らないコニーは思う。
(ああ、もう。作戦中じゃなければ抱きしめるのに)
コニーは後ろ髪をひかれながら、先に進むことにした。
前衛が洞窟の中のゴブリンを倒していくが、その数が予想よりも多かった。
すでに12匹を倒している。まだ出てきそうだ。
一行が慎重に進んでいると、大広間に出た。
手前の通路で身を潜め、ユミィが前に出て覗く。
すると、青い顔をしてスウリに小声で報告した。
「ゴブリン30匹にホブゴブリン10匹、ゴブリンソルジャー5匹、ゴブリンメイジ2匹、ゴブリンジェネラル1匹います」
スウリは一度目を大きく見開くがすぐに戻る。
そして、何か決断したような顔をすると、全員に伝える。
「このままでは対処できない。一度体制を整えるために撤退する」
そう全員に伝えた。
全員が静かに後方に振り返った時、運の悪いことにゴブリンが通路にやってきた。
「グギャーーーー」
ゴブリンが敵襲を告げる声を上げる。
ユミィが短剣でゴブリンの喉を刺すが、すでに遅かった。
「ウガアアア」
ゴブリンジェネラルの咆哮が響いた。
「ちっ! 全員迎撃体制! 迎えうつぞ」
「「「「「「「「「「オウッ!」」」」」」」」」」
スウリが叫び、全員がそれに応え、迎撃体制をとる。
ゴブリン共が通路の入り口に殺到する。
幸い多勢に無勢のこの状況では一度に相手をするのは数匹なので、都合のいい形になった。
「このままゴブリンを削るぞ」
スウリの声に応えて、前衛が気勢をあげる。
近づいてきたゴブリンにスキンヘッドの戦士が大剣を横凪に払う。
ゴブリンの手足がちぎれ飛んでいく。
「グゲー」
「ウギャウギャ」
しかし、他のゴブリンは怯まないで一斉に突っ込んでくる。
スキンヘッドの戦士の大剣では狭い洞内で細かい動きがしにくい。
Dランクで経験も少ないので、あっという間に押されてなすすべが無くなる。
スキンヘッドの戦士は口と見た目ばかりで、それほど役に立たなかった。
しかし、大剣持ちのスキンヘッドが一番前にいるから、他の前衛も前に出ることができない。
下手に前に出ると仲間に切られてしまう。
最前衛を入れ替えようにも、ゴブリンの猛攻が激しくて、入れ替わることができない。
対して、ゴブリンは体が小さいので、狭い洞内でも数匹並んで襲いかかってくることができる。
こちらに有利な状況かと思ったら、いつの間にか一人ずつ葬られる可能性のある死地になっていた。
スウリが決断する。
「力任せに前に出て大広間にでろ。そこで陣形を作って敵を迎え撃つ」
広い空間では、少数の方が囲まれて、不利になりやすいが、今の状況よりは全員で戦えるためマシだろう。
「うおおおおおおお」
スキンヘッド戦士が、むちゃくちゃに大剣を振り回して、前進して大広間に出た。
そこで、ゴブリンに短剣で足を刺されて、もんどり打ってしまう。
しかし、通路に出る空間ができたため、冒険者たちは一気に大広間に出て陣形を固めた。
その間にもゴブリンの猛攻は続き、前衛は盾で防いでいる。
コニーたち魔法使い2人が後ろから炎の魔法を放つ。
ゴブリン数匹が焼けてのたうち回っている。
スウリがスキンヘッド戦士を引きずってきた。
「美羽ちゃん、治癒を頼む」
「うん、分かった」
美羽はスキンヘッド戦士に手をかざすと桜色に光り、傷があっという間に塞がる。
その間に、ゴブリンメイジが炎の魔法を前衛に向けて撃ってきた。
「うわああ」
3人は盾で防いだが、1人の盾は小さかったこともあり、炎に巻かれてしまった。
「ウォーター」
スウリが水魔法で水をかけ鎮火させる。
「グゲッ」
ゴブリンの集団が左右に分かれ、ゴブリンソルジャー5匹とホブゴブリン10匹が迫ってきた。
「ゴブリンソルジャーだ」
前衛が叫ぶ。
それと同時にゴブリンソルジャー5匹が走り込んできて、大剣を振り上げて、一斉に前衛に振り下ろした。
「ぐああ」
残った4人の前衛のうち1人が耐えられなくて後方に吹き飛んだ。
ゴブリンソルジャー5匹が前衛の残り3人を滅多うちにする。
前衛たちはなんとか盾で防いでいるが、ジリ貧になっている。
中衛のスウリ、後衛の魔法使い2人はゴブリンソルジャーと前衛の距離が近すぎて、魔法での援護ができないでいる。
治癒の終わったスキンヘッドの戦士が戦線の右端に戻る。
それと同時にホブゴブリンが5匹ずつ左右に分かれる。
それぞれ前衛の右側左側に迫る。
「ユミィ、右側のサポートをしてくれ。私は左側のサポートをする」
「はい!」
左側ではホブゴブリンの攻撃をスウリが捌き、反撃をする。
ホブゴブリンの左腕を切断した。
それで、左側のホブゴブリンの勢いを削ぐことに成功した。
右側は、ユミィがホブゴブリンの攻撃を必死で裁く一方で、スキンヘッドの男がホブゴブリンのショートソードによって、袈裟斬りをされた。
「グハッ」
血飛沫が舞う。
スキンヘッドの戦士が倒れることで動揺した前衛右側がゴブリンソルジャーの一撃で倒れた。
右側前衛を崩したゴブリンソルジャーはそのままの勢いで前衛中央の戦士に横から剣を振るう。
「グアァァァ」
中央の戦士は無防備な体の右側を切られ、倒れる。
そして、最後の一人になってしまった、前衛左側は5匹のゴブリンソルジャーになすすべもなく切られた。
残りは中衛スウリとユミィ、後衛コニーと魔法使い 後方警戒の前衛それに美羽しか残っていない。
冒険者たちはゴブリンソルジャー、ホブゴブリン、ゴブリンたちに半円状に包囲されてしまった。
「グギャグギャ」
「ゲゲゲ」
「ウギャウギャ」
ゴブリンたちは勝利を確信して、醜い顔を嬉しそうに歪ませて、騒々しく何か言葉のようなものを口にする。
戦線はすでに崩壊していた。
スウリが悔しそうに呟く。
「ここまでか」
ゴブリン共がジリジリと包囲を狭めてきた。




