第17話 レスフィーナ像
教会に来た美羽。
中に入っていくと高い天井に長椅子が並んでいて、その奥、中央に女神像らしきものがある。
いかつい顔をしている女性の像だ。
「きんちゃん、あれがフィーナちゃんかなぁ」
「そうだと思います」
美羽はあまり似ていないレスフィーナ像に顔を顰める。
「……フィーナちゃんはもっと可愛いよ」
「女神様を見ている人は滅多にいないですからね。想像で作っているのでしょう」
きんちゃんと話していると、声をかけられた。
「お嬢ちゃんは教会になんの御用かしら?」
振り返るとシスターがいた。
シスターはにこやかな顔をしている。
「フィーナちゃんにお祈りに来たの」
「フィーナちゃん?」
「うん、レスフィーナちゃん」
「女神レスフィーナ様のことかな? 女神様のことをそんな呼び方してはいけませんよ」
「でも、いいって言われたよ」
「そうなのね」
シスターは、フィーナちゃんと言ったことを嗜めたが、首をかしげる美羽に、子供のことだからとそれ以上強くは言わなかった。
これが大きな街の教会だったら、問題になったかもしれない。
「じゃあ、お祈りするね」
「ええ、いいわよ」
「えと、どうやってお祈りすればいいの?」
「知らないのね。私の真似をすればいいわ」
「うん、ありがとう」
シスターが跪き、両手を合わせて目を瞑った。
美羽もそれを真似する。
祈り始めると、美羽の神気が発動して淡い桜色に輝き、花びらが散り始めた。
しばらくして、いつもと違う様子にシスターが目を開けると桜色に輝いている幻想的な光景に目を奪われる。
「あぁ、綺麗……。これはどう言うことでしょう。
女神様の神気は桜色って聞いたことがあるけど……」
美羽の意識はすぐに深いところまで落ちた。
「……羽ちゃん」
「美羽ちゃん」
「フィーナちゃん?」
「うん! そうだよ美羽ちゃん」
「やったぁ。フィーナちゃんとお話しできてる……あれ、でもフィーナちゃん見えないよ」
「うん、まだ美羽ちゃんの神気が足りないから、声だけしか聞こえないの」
「そうなんだ。残念だなぁ。でも、声だけでも嬉しい」
「私も嬉しいよ」
「フィーナちゃん、昨日ね、色々あったんだよ」
「そうなの? 聞かせてくれる?」
「もちろんだよ。あ、そういえば、フィーナちゃん。なんで転移先がゴブリンに襲われてる街だったの?
また、天然入っちゃったんでしょ」
「あ、ひどーい。美羽ちゃん、そんなこと言うなんて」
「ごめんね。えへへ」
「早めに戦闘に慣れてもらいたかったの。簡単だったでしょ」
「えー、そうなの? でも、ゴブリンキングがいて、ママのお守りがなかったら危なかったよ」
「ええ! ゴブリンキング!? 大丈夫だったの?」
「うん、なんとか倒せたよ。それよりフィーナちゃん? その様子だと、ゴブリンキングとゴブリンクイーンのことは考えてなかったとか?」
「あ、はい。いるとは思わなかったです」
「もう、フィーナちゃん! 気をつけてよね」
「ごめーん、美羽ちゃん」
「だめ! 罰として今度会えたらいい子いい子してね」
「そんなぁ……って、私のご褒美じゃない、それ。」
「いいの。今度絶対やってね」
「うん! 絶対やる。早く神気強くしてね」
「うん」
それから、美羽は昨日あったことをつぶさに話した。
神界にいた時間はどのくらいかわからないとはいえ、知り合ったばかりのフィーナとはずっと前から仲良しのように話が進んだ。
「もうそろそろ、時間だよ。美羽ちゃん」
「うん。もう終わりなのね」
「美羽ちゃん、しばらくは話すことができないと思う」
「ええ〜。なんでなの?」
「神気をそれだけ多く使うの。治癒とかには十分なくらい残ってるけど、それとは別なの」
「そうなんだ……ねえ、フィーナちゃん」
「何、美羽ちゃん?」
「えっと、ね。私たちお友達だけど、それよりもっと仲良いよね」
「うん、すごく仲良いよね。私たち」
「うん、だからね、親友って思って……いいかな」
「本当!? 嬉しい。私たち、もう親友だね」
「いいの?」
「うん!」
「やったぁ。フィーナちゃんと親友だ」
「よろしくね。親友の美羽ちゃん」
「よろしく。親友のフィーナちゃん」
「うふふ」
「えへへ」
「あ、もう切れちゃう。じゃあね、美羽ちゃ」
そこで、美羽の意識は唐突に覚醒された。
あの、いかついフィーナ像の前に跪いている。
「はっ、フィーナちゃん……ああ、もう戻ったのかぁ」
そこで、こちらをキラキラしている目で見ているシスターに気がついた。
シスターは何か言いたくて仕方ない顔をしている。
仕方ないので美羽から声をかけてみる。
「どうしたの?」
「あの、あなた様はもしかして、女神レスフィーナ様の御使い様ですか?」
「うん、そうだよ。フィーナちゃんは私の親友なの」
「し、親友……すごいです。」
「今もフィーナちゃんと話してたけど、私の神気が弱いみたいで、長く話すことはできなかったの」
「えっ、今話していたのですか?」
「うん。そうだよ。それじゃあ、行くね。」
あっさりと、立ち去ろうとする美羽をシスターは慌てて引き止める。
「あ、お待ちください」
「なぁに?」
「レスフィーナ様はどんなお姿なんでしょうか? あの像のような感じですか?」
「ううん、フィーナちゃんはもっと綺麗だし、可愛いよ」
「そうなんですか……。私もお姿を拝見したいです」
「そっか。見たいんだぁ。うーん、あ、そうだ。ちょっと待って」
(私の神気の練習にもなるしね)
そう言って、美羽は胸の前の手でボールを持つような格好になって、集中した。
すると、桜色の光が溢れ出す。
それは、シスターが今まで見たことがないような神々しさだった。
やがて光は手の間に収束して行く。
光が消えると、そこには綺麗な女性の像があった。
その像は色もついていて、髪の毛と目の色は桜色で、肌は白く、纏っている衣装も白いものを纏っていた。
シスターは驚いた。何もない空間から、現れたのだ。今作ったと考えて良いだろう。
「はい、これ」
そう言って美羽が渡してきた。
シスターが受け取ると、美羽がにっこりと笑う。
シスターはその笑顔に見惚れてしまった。
「あ、あの、これなんですか?」
「フィーナちゃんの姿だよ。私に見せる姿は子供だけど、みんなに見せる姿は大人だから、大人のフィーナちゃんにしたの。」
「これがレスフィーナ様。なんと神々しくお美しいのでしょう」
「それ、あげるからね」
「え? まさか、いただけません」
「あげるよ。私が神気で作ったんだよ。また簡単に……ちょっと大変だけど作れるんだから」
「神気で作るなんて。ああ、なんという奇跡なんでしょう……。それでは、ありがたく頂戴します」
「うん。フィーナちゃんも喜ぶから、毎日お祈りしてあげてね。
それじゃあね」
渡すだけ渡したら、美羽は去ろうとした。
「あ、お待ちください」
「ごめんね、ちょっと急いでるから」
「それでは、お名前だけでも」
「私は小桜美羽」
「私は、クレアと申します」
「クレア、よろしくね」
「はい、ミウ様。道中お気をつけください」
クレアの言葉を背中に聞きながら、美羽は走り去っていった。
後年、美羽はさまざまな教会にレスフィーナ像を置いてくることになる。
ただし、これ以降は物質を元に神気を注入して仕上げたもので、神気のみで具現化したものは、教会ではこの1体のみになる。
御使い美羽が有名になると、レスフィーナ像が置いてある教会は新しい巡礼先として人気になった。
この教会は、神気のみで作られた貴重な神像が置いてある教会であることから、1番目の巡礼先として有名になる。
クレアには、さまざまな貴族や大富豪や教会本部の幹部クラスがレスフィーナ像を譲ってくれと尋ねてきたのだが、そのたびに断っていた。
その、毅然とした態度によりシスタークレアは有名になった。
後日、なぜ譲らないのか聞かれた時にこう答えている。
「御使いミウ様が私に下賜していただいたものなのだから、神像は私が守り抜くわ。
あの神像は祈れば祈るほど私に力をくださるの。
お金の問題ではないわ」
美羽が作ってまわったレスフィーナ像の横には、美羽によく似た美しい少女の像が置かれるようになったが、この教会だけは美しい幼女の像が置かれていた。




