第155話 黒髪少女の正体
その少女は黒髪で年齢は7歳くらい。とても綺麗な顔立ちをしていた。
「美羽様?」
きんちゃんは、気配があまりにも似ていたので、思わず美羽の名前を口にした。
ただ、少女は美人だが美羽には似ていなかった。
しかし、少女はきんちゃんのその言葉を聞いて、勢いよく顔をあげて、檻にしがみつき、何かを訴えてきた。
「うーん、何を言っているかわからないことには、状況も把握できません。
とりあえず、この男どもを全員無力化してから、言葉を覚えたのちに話を聞いてみますか。
男どもは……国に認められた正式な奴隷商人って可能性もありますが、その場合私は強盗ってことになりますね。
でも、まあ私には関係ありませんね」
きんちゃんは一人呟くと、少女に言った。
「言ってることはわからないと思いますが……す・こ・し・まっ・て・く・だ・さ・い」
少女は一度首を傾げたが、すぐに首を縦に振った。
多分通じたのだろうときんちゃんは、そこを離れた。
男たちのところに行くと、浮かせた剣をジリジリと男たちに近づけ、武器や防具全ての持ち物を捨てろと言っているとわからせる。
分からせ方は簡単だ。分かるまで剣でチクチクと刺しながら意思表示するだけ。これがきんちゃんの肉体言語だった。
適当である。
男たちが全員、武器を外し、鎧も外し、道具も外させる。チクチクとされて、男たちは傷だらけである。
そして、全員を一箇所に誘導した。
11人の男たちはまとまって、座らされる。
すると、男たちの座っている地面が突然へこみ、4メートルほどの深さまで下がった。
きんちゃんが土魔法で沈めたのだが、男たちは突然のことに悲鳴をあげて騒がしい。
『だまれ』
きんちゃんが言葉に魔力を乗せた、魔言を放つ。
すると、男たちは凍りついたように静かになった。
その後、きんちゃんが土魔法で作った格子を穴の蓋にする。
それから、きんちゃんは奴隷にされている10人の女性たちの方に行く。
「さて、皆さん。これから、みなさんの首輪を外しますね」
言葉は通じないが、そう言って、きんちゃんは黒髪少女の方に行く。
きんちゃんが魔力で首輪を調べてみるが、以前シアとアミの首についていたものと同じような作りで、無理に外すと爆発して首輪をしている本人が死んでしまう仕掛けになっているようだ。
「まあ、なんというか、悪趣味な首輪ですよね。これくらいなら、神気を使えば難なく開けられますが」
そういうと、きんちゃんは黒髪少女の首輪に桜色の神気を伸ばしていく。
神気で首輪を包み込むようにする。
少女は緊張して、目をギュッと瞑った。
神気で完全に包み込んだら、神気の力で左右に引っ張り、壊すだけだ。
パキン。
まるで、クッキーを割るようにあっけなく首輪は壊れた。
それをみた女性たちは驚いているようだった。
その後、順番に女性たちの首輪を外していった。
全員外し終わったところで、きんちゃんは女性たちに言う。
「さて、全員首輪を外し終わったので、あなたたちはもう自由です。
しかし、自由にしてそれで終わりというのはあまりにも無責任なので、あなたたちをご希望のところに連れていってあげましょう。
ただ、言葉がわからないので、言葉を教えてください。そうすれば、その後のこともスムーズですので。
何はともあれ、ご飯にしましょう。一緒に作りながら、言葉も教えてください」
きんちゃんは収納魔法から、テーブルを出して肉や野菜、果物、調理用の道具一式を出した。
それだけで、女性たちは何を言いたいのか分かったようで、それぞれが分担して料理を作り出した。
最初は得体の知れないきんちゃんに、緊張していた女性たちは、きんちゃんが悪意を持っていないと感じると、緊張を解いて楽しげに料理をしていた。
女性がこれだけいて、みんなで料理をしていれば、賑やかになる。
きんちゃんは、そんな女性たちの会話を聞きながら、急速に言葉を学習していった。
やがて、料理ができて、きんちゃんの収納から出した大きなテーブルセットにみんなで腰掛けて食べ始めた。
みんな久しぶりの満足いく食事なのか、顔を綻ばせている。
そこで、きんちゃんが口を開いた。
「みんな、食べながら聞いてください。私の名前はきんちゃん。みんなを助けたいと思っています。
ただ、助けるのに、言葉が必要です。だから、みんなどんどんいろんなことを喋ってください。それを聞いて言葉を覚えます」
きんちゃんが今までの会話を聞いて覚えた言葉を使って伝えた。
すると、元気そうな女性が言った。
「それなら大丈夫です。話すのは得意だから。ずっとしゃべってられますよ」
すると、みんなが笑い出した。
解放されたような明るい笑い声だった。
和やかな雰囲気で食事が進んだ。
食事も終わり、片付けをしてからみんなでくつろいで談笑をする。
すると、先ほどの元気の良い女性が代表してきんちゃんにお礼を言ってきた。
「きんちゃん様、助けていただき、ありがとうございました。こんなふうに食事をして談笑ができるなんて、もうないかと思っていたから、私……」
女性が少し涙ぐむ。
他の女性たちも涙を流している。
「助けたのはたまたまなので気にしないでください。私にも目的があったのです。それについては、私がもう少し、言葉を覚えてから、誤解がないように話をしたいと思っています」
そう言って、きんちゃんはチラリと黒髪の少女を見た。
黒髪の少女もきんちゃんの意図を察したようで、こくりと頷く。
「今日はここで野営しましょう。テントなら、私の主人が仕事で使っていた大きなものがあるので、そこに入って寝られるでしょう。
今日はそこで休んで、明日これからのことを話しましょう。それまでは、またおしゃべりをして、私に言葉を覚えさせてください」
そういうと、みんながまた話し始めた。
開放感もあるのだろうが、よく話すことがあるものだときんちゃんが感心するほど、女性たちは話し続けた。
きんちゃんは、皆がそろそろ寝るという頃になるまでには、日常会話の範囲なら、ほぼ把握していた。
だから、黒髪の少女に話しかけた。
「少し、話をできませんか?」
少女はにこりと美しい笑顔で笑った。
「ええ、もちろん」
きんちゃんは、少女を火の前に座らせると、少女に話し始めた。
「改めまして、私はきんちゃん。私の主人により、神気という神に属する力と、魔力によって作り上げられた魔法生物で、金魚ちょうちんをモチーフにされています」
「金魚ちょうちん……。懐かしいわ」
少女が遠い思い出を思い浮かべて、目を細める。
「実はあなたの気配が、私の主人にそっくりなのです」
「あなたの主人のお名前は」
「私の主人の名前は小桜美羽です。日本というところから来ました」
そういうと、少女は目からボロボロと涙を流した。
「ああ、美羽ちゃん。本当に美羽ちゃんがいるのね」
少女は泣き咽せてしばらく話せなくなった。
きんちゃんは少女が泣き止むまで待った。
(やはり、この少女は美羽様に関係がある方なのだ。でも、この年齢の姉はいなかったはず)
少女がやがて顔を上げた。
少女はまだ泣いているが、それでも涙声で話し始めた。
「私の名前はミレーよ」
「ミレー……?」
(私には、ミレーという名に1つ思い当たるものがある。しかし、まさか……)
「ええ、私の名前はミレーだけど、前世があるの」
「前世?」
「ええ、前世の名前は小桜美玲っていうの。美羽ちゃんの母親よ」
きんちゃんは驚きのあまり固まってしまった。




