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うわさのしょくぎょう

 僕は千紗の呼びかけに応え、テントへと向かう。

 出していたおやつなどは片付けられ、引き継ぎの準備は万端だった。


「じゃあ、引き継ぎするよ。今日はスライムがたくさん集まってきているから注意するように。すでに九体見つけた。一体がぴんくだったのですでに処分している。純華ちゃんのレベルアップに使うから、ぴんく以外は倒さずに旗を立てておいてね。旗が倒れるようだったら、もう一回立て直しておくように。あまり多くなるようだったら処分しちゃってもいいけど。そうだな二十体を超えたら千紗たちで処分しちゃって。純華ちゃんは陣地から出ちゃだめだよ。陣地の中から見える範囲で監視するか、旗が倒れないか見るだけにするんだよ」

「らじゃー」

命令受諾(オーダー アクセプト)

「わ、わかりました」


 三人がうなずいたので、僕はテント前に敷かれたビニールシートに座って、とりあえず水分補給。


「これまで天候に恵まれたから良かったけど、雨が降ったらどうするかな」


 本当なら、雨が降ったときの対応も教えたいのだが、雨の日は視界も悪くなるし、草原フィールドだと水スラなんかも湧き始めるし、危険度は大きく増す。

 土砂降りの雨の日は水スラの水魔法も威力が上がりけっこう危険だ。

 怪我するほどではないとは言え、総合STRが低いとろくに近づけない。

 普段が水道ホースの勢いだとしたら、雨の日は消防ホースの水だ。

 安物ポンチョだと穴が空くときもある。

 そこへぴんくがコラボしたらけっこうやばいことになるからね。

 逆に火スラの火は雨で消されてほぼ無力になるのだが。


 荒野フィールドは比較的雨が少ないがそれでも降らないわけではない。

 フィールドが隣接しているからね。

 荒野フィールドは雨が降らないから荒野になっているわけじゃなくて、地盤が固く雨が染み込まないからといわれている。

 まあ、生えているのは普通の植物ではないので、あえてそう作られているだけかもしれないが。


「雨を避けるのであれば東京中央エリアとか他の近隣エリアに行ってもいいんだけど、中央エリアはともかく北と南はあんまり行ったことがないからなぁ」


 仙川ダンジョンは避けていたし、高校も大学も中央エリアのほうが近かったから、そっちは馴染みがある。

 東京中央エリアは近距離にいくつもダンジョンの入口があって、よりどりみどりだったから、他に行く必要性がなかったんだよね。

 僕のスキル条件検証のために数度他のエリアに行ったくらいだ。


 経験の少ない場所に未経験者を連れて行くのはけっこうリスキーだ。

 出てくるモンスターは同じでも地形が違うとその分、気を回す必要があるし、マップの確認も頻繁になるだろうから、そちらにも注意がそれる。

 それくらいなら雨の中でも慣れた方のダンジョンがいいかもしれない。


「いや、事前にいくつか当たりをつけておいたほうがいいな」


 雨だとどうしても見逃すやつが出てくるからね。

 僕なら全裸露出の変態仮面で済むけど、女の子たちをそんな目には合わせられない。

 ぴんくの出ない二層なら、雨の日でも問題は少ないだろう。


「今の人数ならともかく百人クラスで雨になるとちょっとシャレにならないかもな」


 テントは基本的にトイレ用だから、今は狭い一人用を使っている。

 女の子たちは小さいから四~五人は詰め込めるかもしれないが、あまり詰め込みすぎるのも気が滅入るだろう。

 かといって、タープだけじゃ雨も風も吹き込んでくるだろうし、ろくに休めたもんじゃない。

 あれは休憩じゃない。

 単なる雨宿りだ。

 土砂降りなんかになったらまず移動は不可能だ。

 百人余り抱えて立ち往生とか勘弁してほしい。


「とはいえ、ダンジョン用の天気予報なんて出てないからな」


 何しろエリアが他とつながっていないから気圧の変化とか観測しても後の祭り。

 すぐに雨が降り出してしまう。

 雨雲の動きを見ていたほうがまだ確実だ。

 エリアの端から先へはいけないが景色は見えるからね。

 雲の動きから天気を予想するのが一番確実だったりする。


 あと参考になるのは冒険者が書き込む天気情報かな。

 天気はエリア全部で一斉に変わるわけじゃない。

 基本的には風の流れで西から東へ変わることが多い。

 なので、気の利いた冒険者ならお天気サイトに雨情報を書き込んでくれる。

 ただ、これも二種免許持ちはやってくれるかなぁ。

 一種免許持ちならダンジョン内での体験合宿なんて講習もあるから、情報共有の重要さは身に染みているはず。

 なかには合宿中に雨に降られたやつもいただろう。

 そんな思いをしていれば、相互扶助の精神も育ってると思うんだが、二種免許はそういうの一切ないようだった。

 千紗たちから聞いた講習の様子でも、そういった説明はなかったらしいし。


 天気は西東京と東京中央でも違うし、一層と二層でも違いその中でも場所によって変わってくるため、その階層に大勢の冒険者がいないと情報の確度や早さも当てにならなくなっていく。


「うん、雨の日は中止が良さそうだ。にわか雨程度で済むならともかく、土砂降りは危険すぎる。一滴でも降るか、雨雲が見えたら中止だ。そうしよう」


 一日無駄になるが仕方がない。

 雨の中、百人からの人間を僕一人で引き連れていくなんて絶対に無理だ。

 この子達だって、土砂降りじゃけっこう危ないし。

 主に全裸という意味でだが!


 今後はともかく今は情報があてにならない以上、他のエリアでも同様の状態になっていないとはいえない。

 行って徒労に終わるより、そこで解散するなり座学でもしたほうが有意義であろう。


 とか考えていたら結構時間が経っていたので急いでゼリー状飲料を飲み干し、トイレを済ます。

 どうでもいいけどこのゼリー状飲料って、スライム食ってるみたいで微妙な気持ちになるよね!


 汚物は適当に旗の立っているスライムに食わせ、千紗たちに声をかける。


「ずいぶん旗が増えたな!」

「うん、これでも十体は始末したんだよ! リザちゃんが!!」

「妾の魔導のちからがあればこの程度なんでもありません」

「お疲れ様二人共。純華ちゃんはどうだった?」

「うん、三匹も見つけてくれたよ!」

「たまたまです」


 女の子がタマタマ言うなし!


「陣地付近からだけとは言えよくそれだけ見つけたね。偉いぞ」

「……ありがとうございます」


 うん、嬉しそうにはにかむ純華ちゃん可愛いよね。


「こりゃあ、まだまだ出そうだね」


 僕の指定した二十体の他、更に十体も倒したとなると周辺に三十体もいたことになる。


「ちょっと間引きするか? このままだと旗が足りなくなりそうだし」


 基本的に旗はおトイレ用だからね。そんなに数は用意していない。

 誰かがお腹を下しても大丈夫な程度は持ってきているけど、そうなれば普通すぐに帰るしね。

 帰れなかったときのために多めには用意してあるけどそれでも限界はある。


「とりあえず旗が倒れたやつはこれ以上マークしないで倒していっちゃって。ご新規さんも同様にね。魔石は取らなくてもいいから。もしレアなやつがあったら拾う程度で。アイテムは魔石より大抵は大きいから見つけやすいはずだ」

「わかったー」

命令受諾(オーダー アクセプト)

「純華ちゃんはこれまで通り陣地の周りの監視。何度も言うけど、陣地に侵入されたら負けと思って、注意深く探すように。陣地の中に突然湧いて出る可能性もあるから、陣地の外だけでなく中も確認してね。時々はテントの中もだ」

「……わかりました」


 純華ちゃんも真剣な眼差しでうなずく。

 まあ、テントの中に湧くって話は聞いたことがないけどね!

 ただ昨日まで起こらなかったからといって今日も起こらないとは限らないのだ。

 スライムがどうやって発生しているのか、七年たった今でもわかっていない。

 分裂して増えるというやつもいれば、空中から湧いて出る、何処か別世界にいる人間が転生してくるw とか様々だ。


 湧いて出てくるのであれば突如ぱんつの中に湧いて出てきてもおかしくないのだ。

 なにしろどこだろうが確率は同じだろうからね。

 なにか恣意的な操作をしていない限りは。


 しばらく、リザの厨二病セリフとともに、光の柱が立ち上るようになった。

 彼女たちはすでにレベル五。

 もうこの一層では限界レベルにあるから、流石にもうレベルアップはないか。

 ないよね?


 そして光の柱が二十本を超えた頃。


「あっ、なんか出ました」

「僕の言ったこと覚えていると思うけど、読み上げたりしないでね」

「あっはい、……大丈夫、覚えています」

「純華ちゃん、おめでとー」

「純華ちゃん、おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「君もこれでようやく冒険者としての第一歩を踏み出したことになる。じゃあみんな、いったんカメラの音声切ってね。純華ちゃんも」

「「「はい」」


 三人は一斉にうなずきカメラの音声を切る。

 僕も二台のカメラを操作。

 念のため、ちゃんと切れているかみんなで確認する。


「切ったのは音声だけだから警告は出ないと思うけど、不審な行動をするとチェックされるから気をつけるように」

「「「はい」」」

「さて、君は僕たちの職業とか知っているから、みんなにも教えてもらうことになるけどいいね?」

「はい、大丈夫です……けど?」

「けど何?」

「これ本当に表示あってますよね?」

「いや、表示が間違っていたという話は聞いたことがないね。文字化けでもしてた?」


 なんかそんなネット小説見たことがある気がする。


「いえ、ちゃんと読めます。でもこれ、わたしなんかが得ていい職業なんでしょうか?」

「いいか悪いかで言えば、自分次第だね。職業はダンジョン様が与えてくれるもので、僕たちが選んでいるわけじゃない。僕はその人にふさわしいものが出ていると考えているがそれだって、証明されたわけじゃない。どんな職業だろうと自分がふさわしいと思えばそうだしふさわしくないと思えばその通りになる。他人がどうこう評価することじゃないよ」

「そう、ですよね。わたしの職業は……」


 ――せいじょです。


 彼女は総言葉を紡いだ。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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script?guid=on異世界のジョブズに、僕はなる ~定年SEの異世界転生業務報告書~
もよろしくお願い致します。こちらは異世界ファンタジーになります。
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