↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/98

はじめてのついほう

「……会長?」

「それなんだが、済まないがサークルを辞めてはもらえないだろうか?」

「えっ? なんでです!」

「今回の件で俺たちは、どうすべきだったか、何が悪かったか何度も話し合った」

「誰もなにも悪くはないですよ。悪かったのは運だってさっきも言ったじゃないですか」

「確かに運が悪かった。だが、そもそもお前を連れて守護者のいるボス部屋なんかにいかなければ、最悪を引くことはなかった」


 守護者というのは十層ごとにいるボスのことだ。

 通常階の階層ボスより一段強いし、これを最初に倒した時点でより下層の階段が十層分出現する、かなめとなるボスでもある。

 僕たちが潜ったダンジョンは三十層まで開放されているから、守護者と言っても単なる強いボスでしか無いけど。


「あのボス部屋に行くのを僕も同意したんですから、どちらが悪いってことはないと思いますが」

「そうだな。どっちが悪いわけではない。どちらも悪かったんだろう。お前はお前の理由があってボス部屋に挑まざるを得なかった。俺達は俺達の理由があってそれを許容した」


 七年前世界中にダンジョンの入り口が【生えた】時、周辺にいた人々がそれに巻き込まれた。

 ダンジョンは基本的に人口密集地にできる。そして人口に比例してその入り口を【生やす】。

 後の研究でわかったことであった。

 人口十万人あたりおよそ一個。

 その為日本には約一二〇〇個あまりのダンジョン入口がある。

 そしてそのダンジョン入り口が【生える】際に近くにいた人を巻き込んだのだ。

 僕の母親や妹、そして母の妹である叔母がそれに巻き込まれた。

 僕の目の前で。

 僕はまだ当時一二歳。

 その衝撃はいまでも悪夢となって襲いかかってくる。


 しかも巻き込まれた人だけでなくその風景まで、巻き込まれた当時の姿のままで、幻影のようにそこに映し出されていた。

 ダンジョンの入口は、七年前のその時の光景をそのまま保存しているにもかかわらず、実体はなく誰も助け出せてはいない。

 助けようとある一定以上近寄るとそこはダンジョンの入口で、すぐに地下へと続く階段が有った。

 そのため単なる幻影と認定し、ダンジョン生成に巻き込まれた人は即時死亡扱いとできる法が定められた。

 僕の家も叔母の家も死亡届は出さず、行方不明者としての扱いにしているが。

 すぐそこに見えるのでなんとか助け出せるのではないかと希望を持つ家庭は少なくない。

 相続の問題があるところ以外は行方不明扱いとしたようだ。


 その後冒険者制度ができ一般人にもダンジョンが開放されると聞いた僕は、いても立ってもいられず、格闘技や剣術の道場に通い体を鍛えた。

 十八歳になると同時に冒険者資格を取り、ダンジョンに挑み、そこでレアというか世界でほぼ唯一と思われる効果も解放条件もわからない、現状糞でしか無い職業を得た。

 ちまたではこのような唯一の職業を【天職】なんて呼ぶらしいが、僕にとっては呪いでしかなかった。

 もちろんそんな使えない僕と潜ってくれる人などおらず、低層をウロウロしていたのだが、珍しい職業やスキルを研究しているゼミとその構成員を主として活動しているサークルがあると聞きつけ、僕はその大学に進学。

 目的のゼミとサークルにも所属できた。


 もちろん珍しいと言うか世界に唯一人だろうと言われる職業を得た僕は、ゼミやサークルの仲間に歓迎された。

 レア職やレアスキルの研究を専門とするゼミであったが、レアと言うだけ有りサンプルとなる人の確保は悲願と言ってもよかったらしく、皆全力で協力してくれた。

 僕もその期待に応える為様々な研究に参加。

 それも全て僕の母と妹、そして叔母を救い出すため。

 あの日から僕の全てとなったと言っていい。


「お前の職業は知られている限り未だお前一人しか発現していない非常にレアいや、おそらく唯一の【天職】だ。しかもモンスターを倒してもレベルが上がらず、スキルも覚えない。職業自体が珍しい上、何らかの制限付きだ。レアジョブというのはそれだけで強力であるし、制限付きは、制限をクリアしてしまえば、同じ職業を持つ人物と比べて強力な効果を発揮するものが多いとされている。

 【天職】+制限付きだとどれほどの能力を持つか想像もつかん。もしこの謎を解明して職業の効果を最大限に発揮できるようできれば、研究者としても研究チームとしても箔がつく」

「僕だって僕の職業に秘められた謎を解明し、ダンジョンを攻略――そんな事ができるかわからないけど――して家族を開放することが目的。ウィンウィンでいいじゃないですか」

「……だがその思いが俺たちを暴走させた。万全の体制を組んで安全に検証しているつもりだった。だがそれはあくまで『つもり』だっただけなんだよ。いつしか俺たちは目的のためなら手段を選ばない様になっていた。職業のせいでスキルも覚えられない、レベルもゼロ。そんなやつを十層のボス部屋に連れて行く? ゴブリンに一発殴られただけでHP全損するようなやつだぜ?

 うっかりすれば一層のスライムにさえ負けかねん。

 考えるまでもなく気が狂ってるだろ?

 おそらくたまたまお前が左腕を犠牲にしてうまく衝撃を殺したせいと、可能な限り揃えた装備にポーション。アーマードベアの体勢が崩れていたのも良かったし、救急隊が駆けつけるのも早く、運良く生き残れただけで、常にリスクを負っていたのはお前だけだったんだ。ウィンウィン? そうじゃなかったんだよ。俺たちはお前を見捨てればどうにでもなる。だがお前はそうじゃない。お前が前のめりなことを利用して、研究者としての名誉や名声を取った。取っちまった……」


 会長はまるで懺悔するかのように吐き出す。


「……」

「お前と俺たちが揃えば、おそらくまた暴走する。研究者なんてものは世界の謎が解けるなら悪魔に魂を売ってもいいなんて連中がそこら中にゴロゴロしている。お前の存在は悪魔の囁きだ。そしてそうでなければ研究者としては大成できないかもしれないが」


 ノーベルだってアインシュタインだってこんなことになると本当に考えていなかったのだろうか。

 爆発的なエネルギーを取り出せるのであればそれを利用しようとする輩が出てくると少しも思わなかったのだろうか?

 そしてそれに気がついたら研究を発表しなかっただろうか?

 今となっては知る由もないが、科学の発展は必ずしも平和的な利用になるとは限らないことは科学者なら誰でも知っているはずだ。それがどんな小さな事でも。

 頭のいい彼らがそんな事を考えられなかったとは思えない。


「だからすまない。サークルから抜けてくれないか。お前が抜けてくれなければ俺たちがぬける。今回は一番可能性の高いお前が犠牲になった。だが次もそうか? 状況によっては別のやつが巻き込まれんとは言えん。俺は仲間を殺したくないんだ。そしてお前にも殺しの原因となってほしくない。今ならまだ俺たちもお前も踏みとどまれる。悪魔に魂を売らなくて済むんだ!

 それに家族を助けるためにダンジョンに挑んでいるお前が死んだら、誰が家族を助けるんだ? 家族を助けるために自分や仲間たちを犠牲にして、それでお前の家族は喜ぶのか? そうじゃないだろ」


 そう言って会長は沈黙した。


「……確かに自分も仲間も犠牲にして助けたって母も妹も喜ばないでしょうね。しかし僕にはもう手段がないんです。スキルゼロレベルもゼロ、職業補正もゼロ。この小説みたいに【ゼロ】という壊れスキルなら良かったんですが、本当にゼロ、なんにも無しですからね。こんな僕とダンジョンに潜ってくれる人なんかいませんよ。それにダンジョンのフィールドワークなんかすれば多かれ少なかれリスクを負います」

「この研究を続けていく以上リスクがないとは言わん。だがお前は別だ。他の奴らなら、最悪でもワンパンは耐えられる。仲間がいれば立て直す余裕がある。だがお前はゴブリンの一撃でも死にかねん。あまりにもリスクが高いと思わんか? 俺だってこの間まではみんなでカバーすればなんとかなる、そう思っていたがそんな自信など何の根拠もなかったと思い知ったよ。フォーナインどころか一度の失敗も許されない。そんな危険な探索が、何度も続けられるわけがない」


 わかってたさ。

 タイトロープ。文字通り細いロープの上を命綱なしで渡ってたなんて。

 もしものときは僕が死ぬだけと思っていたがそれは間違いだった。

 様々な人に、負担をかけていたのだと悟る。

 だが、これまで七年間。

 ダンジョンだけに人生を捧げてきたのだ。

 いきなり割り切れるものではない。


「……わかりました。これ以上は無理を言いません。ただ一つだけお願いがあります。ラノベの追放物のように無能はいらんと追い出してください。このままだと未練が残りそうなので」

「お前もなかなか変なやつだな。だがこれは会長としておまえにしてやれることの最後になるのであれば、その願い叶えよう」


 会長は素早くテンプレのセリフをいくつかブツブツ呟きながら、状況に合わせて改変していっているようだ。


「この無能力者が! スキルはない、レベルは上がらない。唯一なにかあるかと思った職業も使えん屑だ! そんな無能はこのサークルにはいらん! お前をダンジョン研究サークルから除名する!!」


「……ありがとうございました」


 僕は自由にならない体を起こし頭を下げる。


「……『ダンジョンにおける職業に関する考察』という、まあ論文と言うか論説と言うか単なるインターネット上の書き込みなんだが、『職業、いわゆるジョブは、自身の性質や性格、心、経験などを反映したもの』ではないかという推測が述べられていた。同じような意見は探せばいくらでもあるし、言われずともある程度納得できる推測だ。だが証明されたわけではないし、いくらでも反証が出てくるだろう。事実職業とその人間の性格がぴったりだと思うものもあれば、意外に思うことだってある。いわば血液型占いや星占いと同じように、ある程度誰にも当てはまるから、当たっていると思うだけなのかもしれない」

「何が言いたいんですか会長、いえ先輩」


 僕はもうサークルの一員ではない。

 けじめはつけるべきだろう。


「俺が言いたいのは意外に当たってるんじゃないかってことさ。俺たちはお前の外で様々な条件を試してきたが、一つたりとも条件を満たさなかった。ソロ討伐からメンバーの組み換え、装備の有無装備の違い、入るダンジョンの違いなどなど。今回のボス討伐だって他はもう思いつかなかったから、強敵と戦えば、ピンチになれば開放されるのではないかとの目論見だった。そこにお前の負うリスクなど勘定に入っていなかっただけで。だが外の条件をこれだけ整えてもだめなら、お前の内なる条件が整っていないと考えるのはそれほどおかしなことだろうか?」

「内なる条件? 例えば?」

「そうだな、恋をするとかどうだ? 女と寝るとか? 試したことはあるか?」

「ありませんよそんなの。ダンジョン一筋でしたから」

「つまり童貞か! なら一回捨ててみるのも手かもしれんぞ」

「やめてくださいよ」

「はっはっはは。冗談はこれくらいにしておくか。ともかくお前自身の何かが欠けているから条件に合致しない可能性が無いとはいえない。闇雲にダンジョンに潜るんじゃなくて、自分の内なる欲求に向き合ってみてもいいんじゃないか? どうせしばらく激しい運動は無理だろうし」


 内なるなにかってなんか分からないけど、サークルを追い出され、ろくに動けない僕ができることなど無いに等しい。


「……はい。他にやれることもないですし少し考えてみます」

「ステータスに表示される職業って、単なる傾向や基礎能力を表すものじゃなくて、本当にやりたい仕事を表すもんじゃないかって俺は思うね」

「そういう先輩はやりたい職業が表示されているんですか?」

「そうだな。今思うとそうかもしれない」

「これを聞くのはルール違反かもしれませんが、先輩の職業を訊いていいですか?」


 職業がわかればスキルやそれによる補正効果もある程度予想がつく。

 その為職業を問うのはあまり良いこととはされていない。

 僕のようにレア中のレアで情報が少なく、他の協力が必要だったとかでもない限り。

 いや、僕だってサークルメンバーの一部の人以外には秘密にしているし。


「恥ずかしいからみんなには言うなよ。俺は……」


 ――導師。


 本当に恥ずかしいのか、普段とは違うささやく様な声だった。


「こういうのはざまぁがテンプレなんだろ。職業の謎を解き明かしてトップ冒険者になり、サークルから追い出した俺達にざまぁしてくれ」


 そう言って先輩は病室を立ち去った。

 僕はその背中にあらためて深くお辞儀するのであった。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価等していただければ励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on異世界のジョブズに、僕はなる ~定年SEの異世界転生業務報告書~
もよろしくお願い致します。こちらは異世界ファンタジーになります。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。