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はじめてのおみまい

 結局僕の親族以外で面会謝絶が取れるまでひと月あまりもかかった。

 父親は時々来てくれてはいたが、何もやることがないというのは、暇で暇でしょうがなかった。

 かといって体がろくに動かせなかったので、大好きなラノベさえ読めない。

 せいぜいテレビを垂れ流しにするくらいだが、病院の起床消灯時間内にやっているテレビなど、男子大学生が見て面白いものでもない。

 それでもなんとか体を自分で起こせる程度には回復し、面会謝絶が取れたその矢先。

 父親以外の初めてとなる見舞客が来た。


「よう、元気か、ってのも変か」

「会長!」

「ようやく面会できるって訊いて飛んできたぜ。どうせ退屈しているだろうと思ってお前の好きそうなラノベの新刊も持ってきた。『貴族の八男に生まれた僕はスキルが【ゼロ】だったため無能と罵られ、魔の森に捨てられました。スキル【ゼロ】はなしという意味じゃなくすべてのものをゼロにする能力で敵の攻撃力も防御力もゼロにして無双した結果、魔の森の支配者になりました。これから父の領地に攻め込みます』の一巻で出たばかりだからまだ読んでないよな?」

「退屈していたんで助かります、ってよく一息で言えましたねそのタイトル。タイトルというより完全にあらすじなんですが」

「俺も最初はあらすじかと思ったんだが、どこを探してもタイトルがないんで初めてタイトルだって気がついたよ。これが一息で読めるのはゼミでの研究発表のおかげだな。四年みっちりやればこの程度スラスラ読めるようになる」


 面会にやってきたのは僕が所属するダンジョン研究サークルの会長であった。

 僕と一緒にボス部屋に挑んだ人物でゼミの先輩でもある。

 僕は身を起こし、ベッドのボタンを操作して傾斜をつける。


「おいおい、無理に起き上がらなくてもいいぞ」

「大丈夫ですよこのくらい。でなければ面会謝絶が取れたりしませんよ」

「そ、そうか。おまえは気絶していたからわからなかったろうが、結構ひどい状態だったからな。モンスターを倒してあらためて状態を確認したときは絶対死んでると思った」


「そんなにですか?」

「そうだな。ああいうのを虫の息っていうんだろうな。ほとんど脈も呼吸も感じられなかった。とりあえず手持ちのポーションをぶっかけて、モンスターを倒した後、予備のポーション一本だけ残して全部ぶっかけたら、とりあえず呼吸もしっかりし始めたし、腕もなんとかくっついて途中でぽろりは無さそうだったんで、急いで救急呼んだ上に一刻も早く病院に連れていくため、代わる代わる担いで出口に向かったんだよ。まあ例の除き屋のお陰ですでに救急隊が向かってきてくれてたんで、途中で合流できた。来てくれた救急隊員がお前にさらに上級のポーションぶっかけてキャスター付きベッドに乗っけて、あっという間に運んでいってくれたよ。手術後出てきた先生が、後五分遅れたたらやばかったかもとか言ってたぜ」


 聞けば自分の状況が思ったほど悪かったのだと知れる。

 美少女の胸ぽろりは歓迎するが腕ぽろりは嬉しくない。


 七年前、この世界に現れたダンジョンはなんとも不思議な存在であった。

 内部空間はどう見ても、日本の国土面積をゆうに超え、フィールド型ダンジョンだと星や太陽があったりするので、一つの宇宙のようだ。

 そんな不思議空間ではあるが、なぜか携帯は繋がったりする。

 その為、各ダンジョンの入り口にはダンジョン救急隊が待機しているし、近くに他の冒険者がいれば救助要請が飛んだりして、連絡があれば即座に救助に行ける体制が作られていた。

 また、ダンジョンに入場する際にライブカメラが各個人に取り付けられ、その画像や音声はダンジョン管理局に送られ、AIが異常を検知すると警報を出し、オペレータが更に確認して、声掛けしたり、救助を要請したりするシステムが確立されていた。

 そのおかげで僕も生きていられたということであろう。


「気になっていたんですが、あのあとは誰も怪我をせずに倒せたんですか?」

「ああ、なんとかな。あのボス部屋に出るモンスターについては事前に情報も集めたし、連携の練習もしたろ? 流石にあの大きさと強さでデスマッチ部屋は想定外だったが、安全マージンを多少削れば対応できないこともなかった」

「すみません。僕がいなければもっと楽に倒せましたよね」

「おいおい、あの時はお前を連れて行くのが主目的だったんだから、いなければという前提は成り立たないぜ。どちらかといえば、研究のためにお前を巻き込んだといったほうが近いし。謝るのならオレたちのほうだろう。お前を守りきれなくてすまんかった」


 会長が頭を下げる。


「頭を上げてください。僕だって承知の上で行ったんですから」

「じゃあ、今回の件はお互い運が悪かったってことにしておくか」

「そうですね。まさか、あのタイミングで最強最大デスマッチ部屋条件のモンスターが出てくるとか、運が悪いにもほどがありますけど」

「マーフィーの法則ってやつだな。失敗する余地があるなら、失敗する。まあ典型的な例だ。俺たちは安易に最悪は来ないと思っちまったんだな」


 出現モンスターと強さに大きさ。

 どれか一つでも外れていればこんな事故は起こりえなかっただろう。

 そこへまさかの最悪。


「まあ、終わっちまったことはどうでもいい。で、どうなんだ体調は?」

「まあ、いいとはいえませんね。最初の状態からすれば奇跡の復活なんでしょうけど、強く動かさなければ痛み自体はないものの、左手は全く動きません。一応感覚はあるのでリハビリすればある程度は動くようになるといっているんですが。あとは骨や関節の一部が鉄骨やセラミックになったくらいですかね」

「……そうか」

「そんな顔をしないでくださいよ。先生によく生きてたねと言われたくらいなんですから。先輩たちがポーションをありったけ使ってくれて、救急が間に合わなければ、こうして喋ることさえできなかったでしょうし。持っていったポーションのほぼすべてを使ったのであれば、今回のボス戦はだいぶ足が出たんじゃないですか?」

「気にするな。ひと一人の命に比べれば大したことじゃない。それよりお前の方だって入院費とか結構かかっているんじゃないか?」

「それこそ気にしないでください。幸いなことにダンジョンでの怪我は一割負担で、高額医療補助制度もありますし。こうして個室にいられる程度には大丈夫です」

「ああ、そんな制度もあったな」


 日本ではダンジョンでの活動を推進するために様々な優遇措置や安全対策が取られていた。

 そこまでしても平和ボケした日本で命を賭けてまでダンジョンに挑もうとする人は少ないし、怪我で引退されるよりは、早く治して早く復帰してほしいという政府の考えが透けて見えるが、もらえるものはもらって、復帰するかどうかは後で考えればいいだろう。

 本来なら高レベルの冒険者を失うリスクに比べたら安いということで作られた制度のようなものなので、レベルゼロの僕が使うのは少し心苦しいが。


「でもまあ、こんな状態ですから、一年休学してリハビリに務めることにしました。もう足の方は問題なく動くんですがほぼひと月寝たきりだったんで、リハビリしないと普通には歩けなくなっていましたし、左手が全く動かないとかなり不便なんで、多少は動く程度にはしたいんで。大学に復帰は来年の春ですね」


 今は、まだ三月だが、今月いっぱいは入院が決まっている。

 状態によっては四月まで食い込むかもしれない。

 その後はリハビリが週二回から三回を予定している。

 大学に通う体力が付くかわからなかったし、しばらくは生活するにも補助が必要そうなので、早々に休学願いを提出していた。

 うっかり提出が遅れると一年分の授業料がただ取りされてしまうからね。


「そんな状況なんで、とりあえずある程度動けるようになったらゼミはともかく、サークルだけは参加しようかと思っているんですが……」


「うむ……」


 会長は黙り込んだ。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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script?guid=on異世界のジョブズに、僕はなる ~定年SEの異世界転生業務報告書~
もよろしくお願い致します。こちらは異世界ファンタジーになります。
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