はじめてのぼうけんしゃめんきょ
「見てみて! 千紗の免許だよ!」
「妾もお揃い」
二人共目の前に掲げて見せてくれる。
うん、見事なゴスロリ写真だ。
冒険者免許証というよりゴスロリの名刺かなんかに見える。
「これで立派な冒険者だな」
「うん! もうダンジョン行けるんだよね? すぐ行こう、今すぐ」
居ても立っても居られないようで、千紗が足踏みして催促してくる。
「ダメです。装備もないし。第一その格好で潜るのか? うっかりスライムの体液浴びたら勝負服がぼろぼろになるぞ」
「ううー、それは嫌だ……」
「同意する」
「じゃあじゃあ、次はいつ? 明日?」
「来週です」
「ええっ――――」
「連続して三時間以上ダンジョンにいないと職業が手に入らないからな。その後のレベル上げも装備がないと何もできずに帰ることになるぞ」
「そうだった……」
「来週末までは準備だ。もう着なくなったような動きやすい服を用意しないといけない。一応対策はして潜るがポンチョが破けたり、隙間から入り込んできたりする可能性があるからな。服は予備も含め二着な。下着も忘れるな。その他の装備は部室においてあるが、水筒やお弁当は自前だから用意しておかないとね。お弁当と水筒は親に言って準備してもらわないといけないし。細かい話は来週のクラブの時間にするから、もう帰るぞ」
「はーい」
「「命令受諾」」
「今日は免許を持ち帰って、ちゃんと親に報告するんだ。いいな」
「うん、わかったよ」
二人を納得させ、僕たちは免許センターを出る。
寄り道せずにまっすぐ家まで送っていった。
「あっ、そういや飯食ってないや」
二人を送り届けた後、昼飯を食いそびれていたことに思い立ったが、もう夕飯の時間なので、それまで我慢することになった。
とほほ。
次の必修クラブの時間。
まだ、千紗は落ち着いていなかった。
「えへへへへ。千紗の免許、はっじめてのめんきょ~」
調子外れの歌を歌うくらい落ち着いていない。
「こらこら。そんな頻繁に取り出しているとなくすぞ。無くしたらダンジョンには入れなくなるからな」
「ええっ、それは大変だ。ちゃんとしまっておかなきゃ」
千紗はようやく免許をパスケースに入れてその紐を首からかけ、パスケースを胸元から服の中に落とし込む。
全くどこにも引っかからずに紐が伸び切った。
うん、ぺったんこだねw
「その点リザは落ち着いているな」
「ええ、こんなもの妾なら十枚だろうが二十枚だろうが簡単に取れるわ」
一人一枚しか発行されません。
やはりちょっと浮かれているようだ。
どんなに簡単だろうとれっきとした国家資格だ。
小学生でも取れる国家資格なんてそうそうないだろうし。
今最も取りやすい国家資格なんじゃないかな?
まあそうでもしないと子供がダンジョンへは入れないからね。
大人だって普段仕事をしてたらそんな勉強している暇とかないだろうし。
一種だと泊りがけの実習とかもあるしな。
こんな試験で大丈夫かなとか思うけど、今は安全対策がしっかりしてきたし、元々職業とレベルをちょっとだけ得る程度のライト層をターゲットにしたものだからさほど問題ないとの判断なのだろうな。
問題があれば、講義内容や試験内容が見直されるだろうし。
とりあえずはこの浮かれポンチ二人を早くなんとかしないと。
こんなのじゃダンジョン入る前に怪我するぞ。
「お~い二人共。ちゃんとやらないとダンジョンには連れて行かないぞ」
「やるやる! 大丈夫!!」
「問題ありません」
やる気はあるようだ。浮かれているだけで。
「これまでも何度か言ったけど、ダンジョンじゃ何があるかわからない。気を引き締めていこう」
「はーい」
「命令受諾」
「さて今日は装備品の使い方について確認と練習をするぞ。まずはこの間買ってきた装備品をリュックに詰めるんだ。今日は着替えの分がないから、代わりとしてタオルをそうだな六枚分余計につめておいてくれ」
まずは特に説明しないで好きにつめさせる。
「おにいちゃん、これ入らないよ?」
「テントは大きいから最後にリュックの上にくくりつけるんだ。このベルトを使え」
「わかった!」
「導師よ、持ち上がらないのですが」
「水を入れすぎだ。君らならとりあえず二リットあればいいだろう」
体重が僕の半分くらいしか無いからね。たぶん。
当然一日に必要な量は少なくなる。
一リットルちょっともあれば一日くらいならなんとかなるだろう。
通常は数時間程度しか潜らせるつもりはないので一リットルもあれば十分足りるのだが、万が一遭難したりしたときのために、余裕を持たせている。
アミューズメント層で救助に一日かかるなんてことはまず無いが、用心するに越したことはない。
それを僕は身に染みて知っている。
もしモンスター溢れが有って、いっせいに救助要請が入ったりしたら、救助までにかなりの時間がかかることだってありえるのだ。
あとは手洗いとかスライムの粘液をかぶったときの洗浄用だ。
汚れたままにしておくと、広がって中に入り込まないとも限らないからね。
倒せば消えるんだが、手間取らんとも限らないし。
取り出したばかりのスライムの核はヌルヌルまみれだから、ペンチではさみそこねて、どっかに飛んでいく時が稀によくある。
「よしできた!」
「状況終了」
「よし、じゃあ確認するぞ」
僕は二人が詰めたリュックの中身を確認していく。
「千紗、水のように重いものは上に入れるんだ。できるだけ首の上で支えるような感じで体に密着するように詰める。リザも同じだね。そうすると重心位置が体の中心線上になるから重さを感じにくくなるんだ」
「ほうほう、なるほど」
「それに水は頻繁に取り出すからね。上の方が取り出しやすいだろ?」
「うん、そうだね!」
「同じ理由で、トイレ用の袋とか椅子、緊急用の医療品なんかは取り出しやすいように上の方かサイドのポケットに入れておく。逆に着替えとか予備のポンチョに予備の手袋。こういった予備として持っていくのは下でいい。これを踏まえてつめ直してみて」
「わかった!」
「命令受諾」
僕の注意を受け、リュックに詰め直す二人。
今度は問題無さそうだ。
「いいか。今入れた配置を覚えとけ。荷物はいつも同じように詰めるんだ。配置を頻繁に変えると何をどこにしまったかとっさにはわからなくなるからな。特に救急用品とトイレ用品だな。後は多少まごまごしても間に合うがこの二つは間に合わないと大変なことになる」
特にトイレ用品の取り出しが間に合わないと女の子には大惨事だ。
「じゃあ、そのリュックを担いで中庭に出るぞ。リュックの重さを覚えるとともに、重いとかバランスが悪いと思ったらリュックの中身や配置を変える必要がある」
「はーい」
「命令受諾」
二人はいそいそとリュックを背中に背負う。
「どうだ重くないか」
「だいじょうぶ!」
「問題ありません」
「今は平気でも長時間歩くと辛くなってくるからな。ちょっと軽いかな程度にまとめるのがコツだ。まあ、少し歩いてみればわかるだろう」
僕は二人を伴って中庭に出る。
「どんな感じだ?」
「うーん、ちょっと重く感じてきたかも」
「同意」
「それはリュックの紐がちゃんと調整されていないからだな」
「紐?」
「そう、さっき重い水は背中に密着させるように詰めるとか言っただろ。なのに紐がゆるいから背中かから離れてしまっている。もっと紐を締めて荷物を背中に密着させるんだ」
「うん、やってみる」
「命令受諾」
二人はリュックの紐を締め直し再びそれを背負う。
「じゃあ、ちょっと歩いてみようか」
僕たちは中庭をとりあえず数周する。
「どうだ?」
「うん、さっきより軽く感じる」
「同意する」
「こんな感じで荷物一つ持つのにもノウハウってのがある。自分の行動が間違っていないか、もっといい方法がないか常に考えたり情報を仕入れたりする必要があるんだ」
「わかった」
「委細承知」
「じゃあ、次はテントの設置と収納。トイレ用品のセットとか練習するぞ」
テントを中庭の芝生の上に展開させたり、トイレ椅子の組み立てと袋の設置などを教えていく。
テントは袋から出して放り投げペグで固定するだけだし、トイレも穴のところに袋を突っ込むだけだが、焦っているとこれがうまくいかないことがある。
テントが袋に引っかかって取り出せなかったり風で煽られたりとか、処理袋がうまく穴にはめられなかったりとかね。
できれば目を閉じたまますべての準備ができるようにまで習熟するとベストだ。
遭難した時、暗くなって明かりさえ使えないというケースもありえないわけじゃないからね。
見えていればそれなりにできることでも手探りじゃ途端に難しくなったりする。
二人が慣れ始めた頃目隠してやらせてみる。
なんかJS二人を目隠させていると犯罪者になった気分になるけど。
「どうだなかなか難しいだろ?」
僕は苦戦している二人に声をかける。
「うみゅう。触っただけだとどれがどれだかわかんないよ。あとどこに置いたか分かんなくなるし」
「妾がこれほど苦戦するとか。やはり時知らずの間での修行が必要でしょうか? それとも心眼を開く必要が? 妾の邪眼は目を閉じていると使えないのです」
確かに。
邪眼を閉じたまま使うやつはいないよね。
「ダンジョンは場合によっては真っ暗で何も見えなくなるからな。特に月のない日で曇ってたりすると本当に真っ暗だぞ。アミューズメント層ならまあ、明かりをつけても問題ないんだが、その下の階層にいくと明かりに寄ってくるモンスターもいるから、下手に明かりをつけられないんだ。本当なら手探りだけで何でもできるようにしたほうがいいんだが、今の段階なら明かりがないと大変だということを知っておくだけでいいだろう。もし三層以下にいくことになれば必要となるから、危険がないようにして練習しておくといい。じゃあ、そろそろ時間だから部室に戻るぞ」
「はーい」
「命令受諾」
僕は二人を伴って部室に戻った。
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