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【完結済】おとぎ前線外伝 - シュカ - Secrets of SAGA  作者: 久遠 魂録


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最終章「SAGASAGA」5節:アバターの真実

この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。

「哲人ちゃん、少し顔色が悪いわ。……詰め込みすぎじゃないかしら?」

夜更けのSカンパニー。開発者用のコンソールに向かっていた哲人の肩に、憂がそっとブランケットを掛けた。


40歳。体力的な衰えは知性で補えると自負していた哲人だったが、さすがに全人類の「魂の解像度」を決定するアルゴリズムの構築は、彼の精神を削り取っていた。


「……憂さん。アバターの仕様について、最後の壁に突き当たっているんだ」

哲人は眼鏡を外し、目頭を押さえた。モニターには、幾何学的なワイヤーフレームが、見る者の意識に合わせて絶え間なく形状を変化させる「流動的アバター」の試作モデルが映し出されている。


「経済学において、アイデンティティは『一貫性のある選好』として定義される。だが、工学的な仮想空間では、人は何にでもなれるし、どんな姿も選べる。……しかし、その自由こそが、逆に自我の喪失を招くのではないかと懸念しているんだ」

哲人の言葉は重い。かつてKOVID-666が肉体の定義を無理やり書き換えた恐怖を、彼は忘れていない。


「自由すぎれば、人は自分が何者であるかを忘れてしまう。かといって、現実の肉体に縛り付ければ、それは救いにならない。……25歳で君と出会った頃の僕が、今の僕と『同じ自分だ』と確信できるのはなぜだと思う?」

哲人は、暗いモニターに映る自分を見つめた。


「それは、君という観測者がいたからだ。憂さん、君が僕を『哲ちゃん』と呼び続けてくれたから、僕のアイデンティティは15年間、崩壊せずに済んだ」

憂は、夫の隣の椅子に静かに腰掛けた。


「そうね。でも、アバターって『着ぐるみ』じゃないと思うの」


「……着ぐるみ、ではない?」


「ええ。なりたい自分になることも大切だけど、本当に大切なのは『魂が一番リラックスしている時の形』を表現することじゃないかしら。鏡を見た時に、自分が自分であることを愛せるような、そんな形」

憂の言葉に、哲人の思考が火花を散らす。

工学的な「再現度」でも、経済学的な「記号」でもない。大神様としての憂が見つめているのは、存在の本質だった。


「魂の最適解……。そうか、固定された形状ではなく、内なる意志の『揺らぎ』をそのまま出力すればいいのか」

哲人は再びキーボードに向かった。


「アバターを『静的なオブジェクト』としてではなく、『確率論的な波動』として定義し直す。ユーザーの感情、記憶、そして愛する者との距離感によって、その姿が微細に、しかし本質的に変化する動的アルゴリズムだ」

それは、哲人が15年の結婚生活で感じてきた「憂さんの変化」をコードに変換する作業でもあった。


朝の光の中の彼女。夜の静寂の中の彼女。怒った時、笑った時。姿は同じ「憂」でありながら、その内側から溢れる質感は刻一刻と変わる。その「変化の調和」こそが、存在の真実なのだ。


「……できた。これは、かつてのナイが求めていた『強制的な融合』とは対極にある。個の意志を尊重し、かつ他者との関係性の中で形を成すアバター・エンジン……その名は『ユイ』」


「あら、私の名前が入っているのね」

憂が少し照れたように微笑む。

哲人は、完成したコードの末尾に、自分たち夫婦の結婚記念日を暗号化したキーを埋め込んだ。


「25歳の未熟な僕が、40歳の今の僕を肯定できるのは、君という『不変の愛』が僕の変化を許容してくれたからだ。SAGA SAGAに住む人々にも、その体験を与えたい」

アバターは、ただの画像データではない。

それは、哲人が導き出し、憂が認めた「魂の等身大」の証明書となった。


SAGASAGAの住人たちは、この世界で初めて「自分を愛するための姿」を手に入れることになる。

この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。

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