第1章「記憶の断片」9節:災禍の余波
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
「お、お姉ちゃん…。こ、怖い…。」
私の脳裏に壮絶な情景が浮かぶ…。空を覆い尽くし空が暗黒に染まる程の大軍…。ブブオオオオオオオオオオオオオオン…という激しい羽音を轟かせ、海の底からは海底を埋め尽くす程の大軍で行軍する沢山の触手を畝らせる者達…。
そんな化け物の大軍の前に、宙に浮かび立つ数人の人影の姿が見える…
「どうしたのかな?"シュカ"ちゃん…何が怖いの?この"稲穂"お姉ちゃんがついてるよ!」
「"亜都"お姉ちゃんも、ついてるからね!」
"稲穂"お姉ちゃんと"亜都"おねえちゃんが、私の声に反応して、心配の言葉をかけてくれる…。ただ、2人のお姉ちゃん達には私の脳裏に浮かぶ恐ろしい光景は見えていない…。
今、私は「前線カフェ」と呼ばれている場所に、この"稲穂"お姉ちゃんと"亜都"おねえちゃん、そして、祈里さん、神那さん、美琴さん、沙希さんの4人の大きなお姉さん達と住んでいるらしい…。何故、らしい…なのは、私自身がほんの3日程前の事さえも余り覚えていないからだ…。この場所「前線カフェ」には1か月以上前から私は住んでいたと言われているにも関わらず、本当にその記憶がないのだ…。
ほかにも店長と呼ばれている"蒼羽"さんという、男の人もいるが、この場所に住んでいる訳ではないそうで、夜になると自分の家へ帰って、朝になると「前線カフェ」にやってくる…。私以外に、主にこの場所にいるのは、この7人だ…。私を含めると8人…。
「お姉ちゃんね…。どうみても、お姉ちゃん側の方が妹にしかみえないんだけど…。」
「か、"神那"さん!」
「あ、すいません。"美琴"さん…。ただ、本当に驚きで…。」
"美琴"さんと"神那"さんの声が聞こえる…。私と"稲穂"お姉ちゃんと"亜都"お姉ちゃんは「前線カフェ」のガラス製の正面扉越しから、人の流れもまばらな門前商店街の様子を見つめていた…。そこから数メートルほど離れた、いつもは"|稲穂"お姉ちゃんと"亜都"お姉ちゃんが良く座っているテーブルセットには、常連の2人ではなく、4人の大きなお姉さんが椅子に座り、"碧海店長"は、その傍らに立ったまま、で私達と同じ、人の流れがまばらの商店街の方向を眺めていた…。
「そ、そうね…。赤ちゃんが1週間で、可愛い女の子まで成長しちゃったから…。」
「神様とかの世界では、こんなのは普通じゃないんですか?」
「て、店長…。シュカちゃんに関しては…神様の世界から考えても、少し普通ではないかもしれないです。」
「赤ちゃんが1週間で女の子に成長」、「神様の世界」…。この"美琴"さんと"碧海店長"の会話が非日常的であることは私も分かる…。だが、意味は全く分からない…。ただ、今、私の視界にある商店街のまばらな人の流れの中に、断続的に私の脳裏に何度もフラッシュバックしてみえてくる、あの恐ろしい光景…。浮かんでは消え、浮かんでは消えているこの現象…。この現象も"碧海店長"と"美琴"さんやみんなが話す"いつもの非日常的な会話"も含めて、これは全て、私が見ているただの白昼夢なのかもしれないと思う時がある…。
「どういう事です。来た時は"編みぐるみ"でやってきて、人間の赤ちゃんになったかと思えば、僅か1週間で、身体だけいえば"稲穂"ちゃんや"亜都"ちゃんの成長を超えてしまいました。」
"碧海店長"が店内に響き渡る程大きな声で4人の大きなお姉さん達に向かって話している。
「歳の頃としては"稲穂"ちゃん達が10歳って言ってたから、見た目だけなら中学生くらいですね!」
「店長!人間の世界だと中学生くらいの歳頃なんですか?今のシュカちゃんは?」
「祈里ちゃん、シュカちゃんは、そう…もう小学生ではないな…でも高校生ともいえない…。だからそれ位だと思って…。」
"碧海店長"と"祈里"さんの会話の内容…。会話の端々に私の名前があるので、私の事なんだと思う…。
「そ、それなら私達とほとんど見た目も変わらないってことですか?」
「流石に、"沙希"ちゃんも"祈里"ちゃんも、"神那"ちゃんも、"シュカ"ちゃんよりは歳上に見えるよ…。高校生か少し上位…にしか人間の目には映らない…。実際は…ウウウンだけど…。」
"沙希"さんが"碧海店長"に私の年齢の事や見た目の事を尋ねているみたいだった…。はて
…私は今、何歳なんだろう…。それさえも忘れてしまっている。ただ、アカデミーを卒業する姉がいるので、そんなに幼くはないとは…自分では思う…。
「店長、相変わらず、失礼ね!」
「いやいや、"神那"ちゃん、年齢は…実際は俺より上なんだし…。」
「ま、まあ…そうね…。でも"シュカ"ちゃんは違う…。彼女は生まれて1週間なんだからね!」
「それも、ちゃんと分かってます。」
"碧海店長"と神那さんの会話。そして、"碧海店長"は続けざまに美琴さんと、同じような不思議な内容の会話を続けている…
「見た目は"中学生"位に見える女の子…。会話もたどたどしくて幼いですが、生まれて1週間と考えれば、最低限の会話が出来ていることが異常というか…本当に奇跡です。」
「そ、そうですよね…。何も教えてる訳でもないのに、食事も1人でできるようになったし、会話も受け答えだけならできる。意味も分かってるみたいですし…。私達の名前もちゃんと分かっている…。」
「店長、覚えていらっしゃいますか?」
「何をですか?」
「あの言葉です…。」
「ああ…。嫌な事を思い出しました。あれですね…"これだけあれば、あとは手はかからなくなるから、宜しくね♪"…。うわあああああああ…、この言葉、どうしても、うちの社長の言葉にしか聞こえなくなってる…。俺っておかしいんですかね?」
「確かに…あの社長さんなら言いそうな言葉に聞こえますけど…店長の考えすぎだと…。」
「そうですよね!で、でも、その言葉通り、"本当に1週間"で手がかからなくなった…。しかも、ちゃんとあの巨大な段ボール箱の中身も、服以外は無駄なく…。」
「あの段ボール箱を受け取った時の我を忘れてしまう程の凄まじい神気といい…"シュカ"ちゃんが偉大なる風の御神様の手より、こちらへ来た経緯もありますので…。何もかも既に決まっていた事だったのではと…。」
「"美琴"さんは、そう思われているんですね…。もう神の奇跡としか言えないのが…。ついこの前まで無神論者って言ってた自分自身にですね…憤りみたいなものを感じます。
断続的に浮かんでいた私の脳裏に浮かんでいたフラッシュバックの内容も徐々にエスカレートしていく…。空中を覆い不快な羽音をたてる怪物達と海底を行軍する巨大な容姿で触手を畝らせる者達…。それが次第に宙に浮かんだ者達の手により、まるで手品のように霧のように消されていく光景…。ただ、消しても消しても一向に数が減る様子はなかった…。
「は…はじまった…。こ、怖い…。」
わたしは再び、また口に出してしまった…。怖い…本当に怖い…どうか夢であって欲しいと願う程に、宙に浮かんだ者達と不快な羽音をたてる怪物達と海底を行軍する怪物たちの戦いが熾烈を増しているのだ…。ただ、一方的に宙に浮かんだ者達が怪物たちを霧にしていく光景なのだが、それがいつまで続くのか分からない…。もしかしたら宙に浮かんだ者達が怪物たちに倒されるかもしれない…。私の中でその怪物との戦いに既視感を感じざる得ない…。
「どうしたんだ?」
「"シュカ"ちゃんが、ずっと怖い怖いって…」
"碧海店長"が、ずっと私の傍らで心配している"|稲穂"お姉ちゃんと"亜都"お姉ちゃんに私の様子を尋ねた。
「何が怖いんだ…。」
「わ、分かりません…。ただ、"シュカ"ちゃんには私達では分からない何かが見えてるのかも…ウウウウウウッ…。」
"美琴"さんも"碧海店長"に、そこまで話した後、私の脳裏にフラッシュバックする光景の何かを感じ始めたみたいだった…。
「み、"美琴"さん…。どうされたんですか?」
「遥か…遥か…本当に遠方なんですが…この世界全体が…お、おとぎの世界全体さえも包み込むほどの…恐ろしいチカラが…チカラが解放されています…ウウウウウウッ…。」
"碧海店長"が"美琴"さんを気遣う言葉…。私には分かる…。そう、宙に浮かんだ者の1人が、この終わりの見えない怪物の大軍を全て一瞬にして消滅させようとしている…。"美琴"さんの言う「恐ろしいチカラ」。私の身体の中にある記憶のようなものも、同じようにそのチカラの凄まじさを感じ取っていた…。
「だ、大丈夫ですか?み…みんな身体が震えている…。だ、大丈夫か?」
「て、店長…。"シュカ"ちゃんの言う通り…何かが、想像もつかない何かが…始まったのかも知れません…。みんなも無意識の内に恐怖を感じている…。」
「"美琴"さん!」
「す、すいません…店長…。」
「み、みんなまで…。」
"稲穂"お姉ちゃんと"亜都"お姉ちゃん、そして、大きなお姉さん達4人も皆、小刻みに震えている。その姿をみて"碧海店長"も不安そうな表情を隠しきれていない…。私の脳裏に見えている光景では今、正に一瞬でも気を抜こうものなら失神してしまいそうな程の「恐ろしいチカラ」が解放されようとしているのだ!そう、宙に浮かんだ1人によって…。怪物達に対して兎に角、凄く怒っているのが分かった…。
「お、怒っている…。」
「誰が誰に何を怒ってるんだ?」
私はそう言葉にして口を開いた。不安げな声で私に問いかける"碧海店長"…。だが、怪物の正体も宙に浮かんで「恐ろしいチカラ」が解放しようとしている怒りを顕わにしている1人の正体も私には分からない…。ただ、この瞬間、「恐ろしいチカラ」は解放され、そして、私の脳裏に断続的に浮かんでは消える光景も眩く光り輝くものに変わった事だけだ…。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




