第1章「記憶の断片」8節:二人の姉
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
「巨大なダンボール箱に…。紙オムツ、粉ミルク、哺乳瓶…。あとは…。哺乳瓶消毒液セット、お尻ふき、お尻ふきウォーマー。赤ちゃん用の洋服から…。う…うん…?」
「店長、何か変な物でも入っていたんですか?」
"アオミ"と非常に落ち着いた声の"ミコト"という女性の会話…。
「変な物も何も…。沢山、色んなものは入っているけど…。赤ちゃん用品はどれも1個づつ位で服とかは全部サイズがバラバラ…。このサイズの服なんて、"稲穂"ちゃんと"亜都"ちゃんにピッタリ位のサイズじゃないのかな…。」
「ほ、ほ…本当ですね…。赤ちゃんを育てる為に必要な物にしては少ないような…。ただ、服や下着だけ小刻みに色んなサイズで沢山入っているみたいです…。大半の服は"稲穂"さんと"亜都"さんサイズ位みたいです。で、ですが…あの不思議な伝言では"これだけあれば、手はかからなくなると…"」
「なになに…見せて、見せて!」
"アオミ"と"ミコト"の会話の間に入り込むように"イナホ"という若い女の子の声が混じってくる…。
「い、"稲穂"さん、そんな珍しい物が入っている訳ではないですよ!」
"イナホ"を諭すように"ミコト"は彼女にそう語りかけていた。
「"亜都"ちゃんも見たいよね?」
「は、はい…。見たいと言えば見たい方です…。」
"イナホ"と"アト"の会話…。私が何度となく良く聞いていた声だ。ただ、今は以前と比べ鮮明に聞こえてくる。
「分かった、分かった!とりあえず、この巨大な段ボール箱を座敷まで動かそう…。」
ズズズズズズズズズ…という音が聞こえる。"ダンボールバコ"というものを私がいる"ザシキ"という所まで動かしている音なんだろうと思う…。
「よいしょっと…」
"アオミ"が力むような声をあげる。
「て、店長、お一人で大丈夫ですか?」
心配する"ミコト"の声。
「段ボール箱を座敷まで押してるだけだから何ともないよ!中身も重い物が入ってる訳でもないし…。」
アオミがいる方向から聞こえていたズズズズズズズズズ…という音がドンという音に変わった。そして、再び、ズズズズズズズズズ…という音に変わる…。私がいるザシキに近づいているようだ。
「それじゃあ、段ボール箱の中身を1つづつ取り出しますか!みんな良かったら、服とか下着とかはサイズ別に仕分けして並べてもらってていいかな!」
「はい!はい!店長了解!」
"アオミ"の声に答える"イノリ"と呼ばれる女性の声…
「い、祈里!」
"イノリ"のあとに、私を良く抱っこして、優しい声を掛けてくれる"カンナ"の声が続く…。
「わ、私もやります。」
更に続けて、"サキ"と呼ばれる女性の声…。
「沙希もするなら、私もするわよ!サッサと済ませましょう!」
どれくらいの時間だろう…私には分からないがゴソッ、ゴソッ、バサッ、バサッという音がと、"イノリ"、"カンナ"、"サキ"が何度かフ~ッと小さなため息を漏らす。その音の繰り返しが、しばらく続いた…。
「わああああああああ!凄いね!亜都ちゃん!」
「本当に面白いですね!お洋服とか、これ可愛いくないですか?」
"イナホ"と"アト"は何かをみて、とても喜んでいるような声をあげていた…。
「亜都ちゃんもそう思った!私も良い感じの可愛い服が揃ってるんだよね!」
「"シュカ"ちゃんは、赤ちゃんだし、ちょっとだけ借りてもいいかな…って。ハハッ♪」
"カワイイフク"…。"シュカ"ちゃんは"アカチャン"…。"カリル"…。微妙に分かるような言葉もあるし分からない言葉もある…。昔は全部知っていた言葉なんだと思う…。でも今は、最低限、生きる為に必要な言葉しか分からない…。ただ、"アミグルミ"と呼ばれていた時と違って、頭の中の全てが真っ白になっていく訳ではなく…少しづつ少しづつだが…必要な物だけが頭の中に入ってくるのが私自身でも分かる…。
「い、"稲穂"さん!」
「すいません。冗談ですよ美琴さん…。でも、店長が言ったようにサイズがバラバラ…。小さいなサイズ程、少ないですね…。」
「そうなのよね…。中身が不思議なんだけど…。」
"イナホ"に対しての"ミコト"の言葉…。"フシギ"という言葉も何となくだが分かってきた…。真っ白だった私の頭の中に次第に知識の渦が大きくなって入り込んでくる…。
「おぎゃあああ…おぎゃあああ…。」
先程までの真っ白だった私の頭の中を上書きするかのように違う人格が入り込んでいる…。この感覚は何だろうか…。ただ、今の私には泣くことでしか、それに抗う方法はなかった…。
「これはミルクかなオムツかな…それとも…。」
「おぎゃあああ…おぎゃあああ…。」
"アオミ"の声…。私が今、泣いている理由は"ミルク"でも"オムツ"でもない…。その意味さえもはっきりと分かるように…。違う人格が私の存在を消そうとしているのだ…。
「店長、慌てないでください。祈里さん、神那さん、まずはオムツのチェックからお願い!私は"粉ミルク"を作ってみるから…。」
「美琴さん…。妙に手際が良いいですね…。それに、祈里ちゃんも神那ちゃんも…。」
"イノリ"と"カンナ"により、私が着用しているであろう"オムツ"を外されている…。会話の通り、かなり手際は良いようだ。
「私達、"ウカノミタマ"様の眷属…特に女性たちは皆で、子供の世話をしてるのよ。だから、赤ちゃんの世話も最低限、出来るわよ!」
「な、成程…。」
「そこは成程じゃない…。店長はその、子育て道具をお店のどこにおくか考えないといけないんじゃないの?」
「そうだったわ。ハハハハ…」
"カンナ"と"アオミ"の会話…。"アオバ"は"カンナ"との会話を終わらせた後、ザーッザーッという音の後に、"ザシキ"から移動したようだった。
「おぎゃあああ…おぎゃあああ…。おぎゃあああ…おぎゃあああ…。」
泣くことしかできない…。こんな考えが浮かぶほどに、私は既に別の人格が以前の人格を染めてしまっている…。だが、少しでも今は以前の人格を残せるように、益々、頭の中に入ってくる別の人格の情報をどうにかしなければ…。
「"稲穂"ちゃん…。」
「"亜都"ちゃん、どうしたの?」
"イナホ"と"アト"の声が耳元で大きく聞こえる…。その声が今は雑音にしか聞こえない…。
「この赤ちゃん…シュカちゃんは今日から私達の妹だよ!八百八狸は私より年下の子は男の子ばかりだったから、"妹"ができて嬉しい♪」
「私もそう!なかなか、最近は"狐の嫁入り"の儀式する人がいないし、いても同じ位のこばかりだったから…。そうだね!このシュカちゃんは私達の"妹"だね♪」
「"稲穂"お姉ちゃん♪って呼んでくれたら嬉しいだろうな~♪」
「私も~♪"亜都"お姉ちゃんって呼んで欲しい~♪」
「妹~♪妹~♪妹~♪」
「私達、2人のお姉ちゃん達が、ちゃ~んと、シュカちゃんの面倒を見てあげるからね♪宜しくね~♪」
今は雑音にしか聞こえない"イナホ"と"アト"が私の名前を呼ぶ。2人の声は何か喜んでいるようにも聞こえた…。その音を無意識に遮断するかのように私の意識は再び急に深く深く沈みこんでいった…。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




